38. 教皇第3補佐 モリス
「あれ?この人……、どこかで……?」
クリスティーナが、ヒーローチョコの『魔王』カードを見て、小さくつぶやいた後、じいちゃんは俺をチラッと見た。
「ルキリア、ここからは、お前たちに任せる」
(じいちゃんは、博士や俺たちの情報を、どこまで男爵たちに話すかを、俺たちに委ねてる……)
俺がどうしたらいいか考えていると、モーリーが俺にうなずいた。
「男爵、ギルさん、クリスさん、これから話すことは、内密にしていただきたいのですが、聞いていただけますか」
男爵がモーリーの目を見て、口を開いた。
「それは、私たちがガーラ国王から依頼された、貴方たちの『監視』に必要な情報ですか?そうでなければ、話さない方がいい」
モーリーが、男爵にうなずいた。
「必要だと思います。俺たちの動きを邪魔されるのは困るので」
「わかりました。ここで聞いた情報は外には出さないと、私たちに制約をかけます。あっ、国王は、その内容はご存知ですか?」
(モーリーの『ループ』の件は先生に話したけど……、博士の件は……)
「王弟殿下には、お話ししました。国王にも報告が上がっていると思います」
「わかりました……。お話をお聞きします」
モーリーは、自分が何度も同じ時間を繰り返していることや、その記憶の最後の部分だけを保持していること、そして聖女がその中心にいることを説明した。
「ループ、ですか……」
「5回、繰り返している……」
「時間干渉……。そんな魔法理論、聞いたことない……」
男爵たちは、それぞれにつぶやいた。
「俺たちは、地底族が聖女たちに襲撃される未来を変えるために、この国に来ました」
「未来を変える……」
「そして……、クリスさんが見た黒髪の男性は、ガーラ国王立魔法薬研究所の、シャーロット博士だと思われます。博士は、その謎を解明しようと、俺たちを手伝ってくれています」
モーリーがそう説明すると、クリスティーナはポンと手を叩いた。
「シャーロット博士! あぁ、すっきりしたわ。さっきの『魔王』カードの顔、どこかで見たことあると思ったのよね」
(モーリー、流石!シャーロット博士の情報を上手く隠した!)
「シャーロット博士をご存知なんですか?」
「あっ……」
クリスティーナは、男爵に目線を送ると、男爵はうなずいてから口を開いた。
「娘は、シャーロット博士に治療をしていただいたことがあるんです」
(えっ、博士に治療してもらったってことは……)
「あっ、俺も博士に治療してもらったことがあるんです!博士は腕利きですからね〜!」
(あっ、モーリーも気がついたね……。博士が治療を施すのは、魔族だけだからね……)
モーリーはそう言うと、じいちゃんに目線を送った。
「男爵、この子たちが、この国に来たのはそういう理由だ。迷惑をかけるかもしれんが、よろしく頼む」
「かしこまりました。ギル、クリス、わかったな」
「はい。私は、取り急ぎ、教皇に毒を盛った者を突き止めます」
「俺は、教皇補佐と派閥の動きを調べます」
「儂とセイは、毒の分析をするために、すぐに領地へ戻る。孫たちを、よろしく頼む」
「かしこまりました。全力でお守りいたします」
♢*♢*♢*♢*♢
グリモード男爵たちが帰った後、じいちゃんとばあちゃんも、俺たちに一言だけ残して、慌ただしく領地へ戻って行った。
『絶対に無茶はするな。危なくなったら、すぐ帰って来い』
俺たちは、静かになった屋敷の談話室のソファに寝転がって、それぞれにこれからのことをぼーっと考えていた。
「ルキリア……、俺たち、来週からこの国の魔術高等学院に潜入(入学)するけど、無事に『楽しい』学院生活送れると思うか……?」
「ん〜、どうかなぁ……。絶対、聖堂から、俺たちを探る誰かが学院に来るだろうしね……」
「先回りして、何か出来ることがあればな……。情報が無いからな……」
「情報……。あっ、モーリー!図書館に行こう!」
「あっ、そうか!それだな!」
「あっ、ちょっと待って……。ルイさん、そこにいらっしゃいますか?」
どこからかはわからないが、ルイがサッとルキリアの前に姿を現した。
「お呼びですか?」
「ルイさん、屋敷の周囲に、怪しい人はいますか?」
「はい。今は1人だけですが」
(やっぱり、いるか……。転移で移動した方がいいな……)
「ルイさん、この街の図書館の場所はわかりますか?」
「はい」
「俺たち、図書館の場所がわからないから、一緒に魔道具で転移してもらえますか?俺の魔力を使えば、3人一緒に転移出来るから」
この屋敷には、蓄魔力機を備えた転移室が無いので、携帯用の魔道具を使わないと数人一緒には転移できないのであった。
「じいちゃんみたいに、みんなを連れて転移出来るように、転移魔法覚えなきゃな……」
「俺もだわ……。1人で転移するのは簡単なんだけどな」
「うん……。一緒に転移した人の『腕だけ置いてきちゃった』……って、ことになったら……って考えるとね……」
「これって、魔道具に頼りすぎの弊害か……」
「……そうだね。俺たち……、グリモード家の訓練、参加した方がいいかもね」
「そうだな……。腕、千切れても、クリスさんがくっ付けてくれるしな」
「クリスさんって……」
((ヤバいよな……))
俺たちは、ルイさんと一緒に国立図書館の前に転移してきた。
「ルキリア様、何かありましたら、すぐにお呼びください」
「うん、いつもありがとう、ルイさん」
ルイさんの顔は、目の部分しか見えないけど、目元を和ませて、すぐに姿を消した。
「さて、行くか!」
モーリーが、図書館のドアを開けようとした時、内側からサッとドアが開いた。
「えっ……」
「ガーラ国からの留学生の方ですね。ようこそいらっしゃいました」
((誰だ?))
「何で俺たちが、ガーラ国からの留学生ってわかったんですか?」
「貴方が、いらっしゃるのが見えていたので」
「「見えてた?」」
「はい、予知しておりました」
((予知!))
「貴方は、この図書館の方ですか?」
「いいえ、貴方がたにお会いするために、ここで待っておりました。少し、お話をさせていただきたいと思い……お時間をいただけますでしょうか」
俺とモーリーは、顔を見合わせてうなずいた。
「お名前を教えていただけますか?」
「あっ、大変失礼いたしました。聖エリス国教皇補佐のモリスと申します」
((教皇補佐!))
「あっ、もうすぐ、来てしまう……。図書館の奥の個室へ!急いでください!」
(誰かが、俺たちを追ってきたのか?)
「行くか……」
「うん、行こう」
俺たちは、教皇補佐だというモリスさんの後ろをついて、図書館奥の個室に入った。
そして、モリスさんはすぐに防音防視結界を張った。
「はぁ、これで大丈夫です……」
「誰かが、追って来るのが見えたんですか?」
「はい。筆頭教皇補佐の部下が貴方たちを探っています。今も図書館前で貴方がたを見つけた者が、部下に報告したようです」
「モリスさんの姿も見られているんじゃ……」
「私は大丈夫です。私の姿は他からは見えないように消しておりましたので」
((消せるのか!))
「あっ、モリスさん、俺たちに話って、なんですか?」
「実は、筆頭教皇補佐が、貴方たちを自分の派閥に引き入れようと動いております」
(屋敷を探ってたのは、そいつらか……)
「なんで学生の俺たちを?」
「……わかりません。しかし、教皇を救ってくださった貴方たちに、どうしてもこのことをお知らせしたいと、ここで貴方がたをお待ちしておりました」
「教皇を治癒したことを、何で知ってるんですか!」
「あっ、見えたので……」
((あっ、そうか……))
「じゃあ、他の人たちにはまだバレていないんですね?」
「はい、教皇が『寝たふり』をしているのを知っているのは、私だけです。私が、予知魔法が使えることを知っているのは、教皇だけなので……。今回はお救い出来ませんでしたが……」
「俺たちを、そいつらが狙っていることはわかりました。貴方は、教皇の味方なんですか?」
「はい……。私は幼い頃、教皇に拾っていただきました……。それからは、私の能力を秘密にして守ってくださっています……」
(親代わり……)
「教皇補佐は3人おります。筆頭のケジャール、第2補佐のムルドゥ、そして第3補佐の私です。私は、現教皇が率いる穏健派ですが、ケジャールが率いる派閥は、過激な者が多く、聖女信仰を広めるために他国への侵攻を計画しているようです」
「第2補佐のムルドゥさんは?」
「彼は中立派です。彼らは信仰心が薄いというか……、信徒……、あっ国民のことですが、信徒の生活を守るために、宗教と政治は分けた方がいいという考え方を持つ者たちで……」
「……で、モリスさんは、俺たちに何をさせたいの?」
「私の予知がハッキリみえるのは、およそ1日先までです。そこから先は、断片的にしか見えません……」
(モリスさん、俺たちの先の『何か』が見えたんだね……)
モリスさんは、真剣な目で俺たちを見た。
「私に見えたのは……、地底族の貴方は聖女に消されます。……そしてルキリアさんは――悪魔の憑代になります」
(悪魔の憑代……!)
「だから、貴方たちは早くこの国から逃げてください!」
((逃げてって……。悪魔から、逃げれるのか……?))




