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わがままを封印した規格外少年の、時空を巡る送り人伝 —Departures—  作者: megane-san
第3章 聖エリス国

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37. 教皇の危機

「ルーピン、こちらで得た情報を報告してくれ」


応接室のソファにみんなが腰を下ろすと、数人のメイドがお茶を持って入ってきた。


(んっ、クリスさん、メイドの1人をじっと見てる……)

 

「報告いたします。こちらで屋敷を購入してから、数人の神官が屋敷の周囲を探っております。その報告は、聖堂の教皇補佐室へ流れております」


「聖堂内に潜らせている者からの報告はどうだ?」


「現在は、特に目立った動きはありませんが、次期教皇を選出するため、各派閥が動き出しています」


「教皇の具合は?」


(えっ!教皇は病気なの?)


「1ヶ月前に倒れてからは、意識が無い状態のようです。毒の可能性もあるので、侍医と教皇補佐たちとの繋がりを探っています」


「毒の可能性は高いな……。聖女は治療に当たっていないのか?」


「聖女は、教皇の治療には一切関わっておりません。部屋を訪れてもいないようです」

 

「そうか……、よし、こちらで教皇を治癒する。犯人が確定するまでは、仮病のふりでもしておいてもらう」


じいちゃんは、クリスさんと目を合わせると、うなずいた。


「かしこまりました。今晩、治療してまいります」



話し合いが終わり、部屋を出ようとした時だった。


クリスさんが、メイドに話しかけようとしたのを、ギルさんが止めていた。


(んっ?どうしたんだろ?)


「クリス」

 

「あっ、お父様……すみません……。氷魔法を持つ彼女が気になって……。今度、訓練にお誘いしようかと……」


「クリス……」


「無理にお誘いするのはやめます……」


(えぇ〜!今晩、教皇の治療に潜入するのに、この人、訓練のことしか考えてないよ……)


 

 

じいちゃんは、何かを思い出して、部屋を出ていこうとした2人を呼び止めた。


「男爵、クリス嬢、渡しておきたいものがある」


じいちゃんは、ネックレス型の魔道具を、上着の内ポケットから取り出し、男爵に手渡した。

 

(あっ、そうか!あったほうがいいね)

 

「どんな結界でも入り込める魔道具だ。これをお貸ししよう」

 

「どんな結界でも、ですか……?」

 

「あぁ、孫が作った。今晩、聖堂に入り込むのに必要になるはずだ」


グリモード男爵とクリスさん、そして離れたところにいたギルさんも、目を光らせて、勢いよく俺に振り返った。

 

(やめて、その目、怖い)

 

「こんな凄いもの、お借りしてもいいのでしょうか?」

 

じいちゃんは、俺に振り返った。

 

「ルキリア、これはいくつか予備があったな?」

 

「えっ、あっ、はい。予備にあと3個作りました」

 

「そうか、それなら、これは男爵に差し上げよう」

 

「「「えぇ~!」」」

 

「辺境伯様、こんな国宝級の魔道具をいただくことはできません」

 

ばあちゃんは、笑いながら男爵に声をかけた。

 

「男爵、その魔道具作成にほとんど費用はかかっておらんのじゃ。遠慮なく受け取ってくれていいぞえ」

 

3人は、また揃って俺を見た。

 

「……はい。材料も領地にあるもので作ってあるので、ほぼタダです」

 

3人は顔を見合わせると、じいちゃんに深々と頭を下げてお礼を言った。

 

「ありがとうございます。私ども、このお礼をどうお返ししたらいいか……」

 

「あっ、男爵、それではうちの孫と従業員たちを、たまに訓練に参加させていただきたい。みんなも、いい刺激になるだろう」

 

その場にいた従業員たちの手が一瞬止まった。

 

(じいちゃん、『刺激』通り越すから……やめて……)



♢*♢*♢*♢*♢



「クリス、準備は出来たか?」


ギルバートは、クリスティーナの部屋に入ると、ドサっとソファに腰を下ろした。


「えぇ、完璧よ。教皇補佐の部屋に盗聴の魔道具も仕掛けてくるわ」


「しかし、あの子……凄いな。俺の作る魔道具も結構イケてると思ったけど……」


「あの子の魔道具は、潜入や諜報向け。お兄様のは、農地を改革して人を豊かにするためのもの。ベクトルが違うんだから、比べる必要なんてないわ」


「そうだな……。よし、気合いを入れて出発するぞ。俺は聖堂のそばにある店舗で待機する。何かあったら、すぐに指輪に魔力を通せ」


 


日付も変わり、聖堂の者たちも寝静まった頃、クリスティーナは気配を消したまま、教皇が眠る寝台のそばに立っていた。


(側仕えも、誰もいない……。あっ、この部屋に結界が張られてるのか……)


クリスティーナは、治癒魔法をかける前に教皇の体内にあるであろう毒物を、闇魔法を使って教皇の指先から少しだけ抽出した。


(やっぱり、毒ね……)


抽出した毒を小さな小瓶に入れると、クリスティーナは、教皇の心臓の上に手を当て、体に回った毒物を光魔法で一気に浄化した。


すると、教皇がゆっくりと目を開けた。

 

「女神か……?」


教皇は、焦点の定まらない目で、クリスティーナを見上げた


「……教皇様、女神ではありません。フルーラ辺境伯様から依頼を受けて、教皇様の治療に参りました」


「フルーラ辺境伯……」


「教皇様は、今から1ヶ月ほど前に毒を盛られて昏睡状態にありました」


「毒……誰が……」


「時間が限られているので、手短にお話しいたします」


「せっかちな女神じゃ……」


クリスティーナは、聖堂内の状況を教皇に簡潔に伝えた。


「……そんなことになっていたとは……。わかった、儂は犯人の目星がつくまで、ここで寝ておけばいいんじゃな」


クリスティーナは、光の魔力を込めた魔石を手渡した。


「生命維持用の魔石です。これを握っていれば、しばらくは空腹も排泄も必要ありません」


「ほう、これは……。しかし、フルーラ辺境伯は、なぜ儂を……?」


「理由は聞いておりません。今度お会いした時にお尋ねください。あっ、そろそろ……行かなくてはなりませんので失礼いたします」


「お嬢さん、ありがとう……。貴方に加護を……」


転移する瞬間、クリスティーナの頭上で、淡い光がキラリと瞬いた。



(教皇補佐室は、ここね……)


クリスティーナが、目に光魔力を集中させてドアの向こうを透視すると、黒いマントを羽織った男性が部屋にいるのが見えた。


(黒髪?聖堂の者ではなさそうね……)


その男は、まるで、ドア越しにこちらが見えているかのように彼女に微笑むと、その場から姿を消した。


(えっ……、私に気づいた?)


クリスティーナは、黒いマントの男が姿を消した後、すぐに部屋の中に転移して魔力を追うとしたが、魔力の痕跡は全く残されていなかった。


(プロだわ……。同業?)


クリスティーナは、部屋に盗聴の魔道具を仕掛けると、すぐにルキリアの魔道具に魔力を込めて聖堂を出た。


 


翌朝早くに、グリモード家の3人が辺境伯の屋敷を訪れた。


「辺境伯夫妻、みなさん、朝早くに申し訳ありません」


「いや、大丈夫だ。クリス嬢、昨夜はご苦労だった」


「いただいた魔道具のおかげで、スムーズに入り込むことができました。教皇の治癒も完治して、当分の間、寝たふりをしていただくように、大まかな状況を説明いたしました」


クリスティーナは、教皇から抽出した毒の入った小瓶をテーブルの上においた。

 

「これが教皇の体から取り出した毒です」


ばあちゃんが、目を細めて小瓶を光にかざした。


「すぐに分析するぞえ」


「それと……、もうひとつご報告があります」


「何かあったか?」


「教皇補佐室のドアの前で、部屋の中を透視した時に、中に不審な者がおりました。私の透視に気がついて……ドア越しに私を見て微笑んだ後、その場から姿を消しました」


「どんな容姿だったかは、見えたか?」


「はい。黒いマントを羽織った背の高い黒髪の男性でした」


(黒髪で背が高い……。この大陸に黒髪は少ないはず……。あっ……!)


「モーリー、ヒーローチョコカードの『魔王』カード持ってる?」


「あっ、そうか!ここに、あるぜ!」


モーリーは、マジックポケットから、ヒーローチョコカード帳を取り出して、魔王カードをクリスティーナに見せた。


「クリスさん、この人に似てませんでしたか?」


「あっ……!この人、そっくり……」


(やっぱり、シャーロット博士だ!)


そして、クリスティーナが、首を傾げて小さくつぶやいた。

 

「あれ?この人……、どこかで……?」






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