第23話 魔の森での初授業 / アルジェントの苦悩
俺たちは、魔の森の入口から1時間ほど歩いて、森の奥にある滝の前にやってきた。
(魔の森に入ってから、ずっと誰かに見られてる気がする……)
「ここは『竜人の滝』といって、大昔に竜人が住んでいた場所だ」
まわりを見回していたアルジェントが口を開いた。
「俺たちを見てる視線を感じる……」
先生は、ふふっと笑うと、視線の理由を俺たちに教えてくれた。
「この森には、未だ外界に出ずに、ここで暮らしている魔族たちがいる。ブラックウルフ族、ドワーフ族、エルフ族、他にもいるかもしれないが、彼らはここで暮らしている」
「先生、俺たち、勝手にこの森に入っていいんですか?」
まわりを見回していたモーリーが、先生に振り返った。
「すでに彼らには、竜人族長を経て了承を得ている。たぶん彼らは、昔に一緒に住んでいた魔族の子孫たちを興味深く見に来ているんだろう」
(竜人族長……、ガイの曾祖父にあたる人か……)
「先生、ガーラ国は竜人族が建国したんですよね?竜人族はこの森にも住んでるんですか?」
「いや、ほとんどの竜人族は、この滝の向こうにある異空間に移住した」
(異空間!)
「ガーラ国は、番が人族であった竜人族の末裔が建国したんだ。竜人と人族が共存できる国を目指してね……」
そういいながら、先生は、滝の向こう側を睨みつけているガイの姿を見た。
「この森に住んでいる魔族たちは、君たちに敵意はない。ただ、興味があるだけだ。……それじゃぁ、授業を始めるぞ!」
先生の一言で、みんなの表情が引き締まった。
「まずは、今日はみんなに、魔法を使う前の魔力の練り上げ方を見せてもらう。練り上げた魔力の密度で、発する魔法の威力が変わるからな」
(魔力錬成!みんな、どんなふうにやってるんだろう……?)
「じゃぁ、モーリーから、魔力を練り上げて、魔法を発する前で止めて」
モーリーは、小さく深呼吸すると、手のひらで皿を作るように、腕を胸の前に伸ばした。そして手のひらの上にブワッと魔力が集まったかと思うと、一瞬にして、その魔力が強靭な糸を巻き付けた糸玉のように、密度の高い魔力玉になった。
「ほぉー、モーリーは魔力を糸のように紡いで、さらに密度高く巻き付けるのか。このやり方は初めて見たよ。……興味深いな」
(モーリーの魔力玉、すごく密度が高い!)
「よし、次はアルジェント」
アルジェントは、左手を前に出した。そして体のまわりに纏っていた黒い霧のような魔力をギュッと圧縮して、魔力を凝縮した球体を作った。
「なるほど……。アルジェントは魔力を一気に圧縮するのか。これも独特な錬成方法だな」
(魔力の圧縮!)
「ガイは、火の魔力を練ってみろ」
「はい……」
ガイは、胸のところで手を組むと、赤い魔力が円を描くようにガイの回りにうずまき、それが密度を増してガイの体に巻き付いた。
「ガイは、全身に練った魔力を巻き付けるか……」
(おぉ~!このやり方、俺の魔力錬成に似てる!)
「最後は、ルキリア、やってみろ」
「はい」
(アルの視線を強く感じる……)
俺は、暗黒魔力を引き出さないように、慎重に通常使っている闇の魔力だけをまとった。そしてそれが俺のまわりに巻き付き、魔力をどんどん凝縮させながら渦を巻いて上昇していき、高く上げた手のひらの上で高密度の魔力玉になった。そして、「キュィィィィンッ!!」と音を発しながら超高速で回転すると、周囲の空気が震え、魔力玉が更にギュッと圧縮されて――音が、消えた。
「ルキリア!もう充分だ!止めろ!」
先生が、焦った表情で俺の魔力錬成にストップをかけた。
(えっ、もういいの?最後まで練り上げてないけど……)
俺が魔力を霧散させて、ふとみんなの顔を見回すと、なぜかみんな、驚いた表情をしていた。
「先生、あの、俺、魔力を練り上げてる途中だったんですけど……、ダメでした?」
「えっ、あれ、まだ途中だったのか!……マジか……」
モーリーは、「最終形態の魔力玉の密度は……」と、腕を組みながら考え始め、アルジェントは、口に手を当てて目を見開いたまま動かなかった。そしてガイは、顔を青くして固まっていた。
「ルキリア、あれが錬成途中ということは、最終形態はどうなるんだ?」
「魔力玉が3センチぐらいになるまで、圧縮します……」
「3センチ……」
(えっ、じいちゃんは、2センチまで圧縮してたから、俺はまだまだなんだけど……)
俺の魔力錬成について話をしていると、滝壺の上に、赤い髪に金色の目を持った背の高い老人が現れた。
「オッホッホッ!面白いのぉ!」
「竜人族長!」
「レイ、この子たちは将来有望だな。すでに魔力の練り方が出来上がっておる」
(この老人が、竜人族長!)
竜人族長は、曾孫を見る優しい目でガイに視線を向けた。
ガイは、その視線に気がつくと、顔を背けて俺の陰に隠れた。
「ガイ……」俺が振り返ると、ガイは拳を震わせながらうつむいていた。
「ガイ、初めて会うな……。儂は、お前の曾祖父じゃ」
竜人族長がガイに声をかけると、ガイのまわりに魔力がブワッと溢れ出した。
(魔力暴走!)
ドカッ!ドガガガーン!ドッガガガガガーン!
俺とガイのまわりに、幾つもの火柱が地面から立ち昇った。
「ガイ!俺の目を見ろ!」
俺はガイの顔を両手で掴んで、ガイの目を俺に向けた。
「あっ……」
竜人族長がサッと手をガイに向けると、ガイから溢れ出した魔力が吸い込まれていった。
「ガイ、辛い思いをさせた……。助けが必要な時は、いつでも儂を呼べ」
竜人族長は、そう言うと先生に目配せしてスッと姿を消した。
「ガイ……」
崩れ落ちそうになっているガイの身体を支えると、ガイは小さく呟いた。
「……やっぱり、俺は、闇の魔力を封印する……」
(ガイ……)
先生がガイに声をかけようとしたが、モーリーが先に口を開いた。
「ガイ、そんなもったいないことするなよ」
「俺の力だ……。お前にどうこう言われる筋合いはない」
「あぁ、そうだけどな。でもさっき、お前は魔力暴走しかけてた。あのまま魔力暴走したら、お前も俺たちも、この森も、被害を受けていただろうな」
「あっ……」
「ガイ、お前さ、魔力はただの道具だぜ。道具を上手く使えなかったらケガをする。どんなに毛嫌いしてる魔力でも、コントロールぐらいできた方がいい……」
「道具……」
(俺はガイの気持ちが、すごく分かる……。だからこそ……)
「ガイ、俺、魔力のコントロールが出来なくて、大切な人をケガさせたことがある。だから、捨ててしまいたい魔力だけど、舵取り出来るように訓練してる……。あっ、ガイに見せたいものがあるんだ……」
俺はみんなから少し離れて、右手に闇、左手に火の魔力玉を作った。そしてその魔力玉を両手を合わせて複合させた。
「モーリー、土魔法で俺を攻撃してみて!」
モーリーは、俺の意図を察したようにうなずいた。
「いくぞ!ロックボール乱射!」
「ドガガガガガッ!」モーリーから放たれる岩玉が、俺が張った障壁にぶつかると、一瞬で燃え上がり、パッと消えていった。
ガイ、先生、そしてアルジェントも目を見開いて、俺の張った複合魔力障壁を見た。
「ガイ、この障壁、闇と火の魔力の複合魔法で作ったものだよ。単独魔法の障壁より、複合魔法の方が耐久力が上がる。俺、大事な人たちを守るために、俺の中にある、捨てたい魔力も『道具』として利用することに決めたんだ。……ガイもできるよ、これ」
「魔力は、ただの道具か……」
「そうだぜ。お前の闇魔力は、お前の事情とは関係のない別物として割り切れよ。その方が楽だぜ。これから生きてくのにな……」
「……モーリー、お前、何歳だ?……ルキリア、ありがとう。……まだ、俺の中の思いがぐちゃぐちゃで、整理出来てないけど、前向きに考えてみるよ……」
♢*♢*♢*♢*♢
「アルジェント様、お帰りなさいませ。ノクス様より、学院から帰宅次第、連絡を入れるようにとのことでございます」
青白い顔をした背の高い若い執事が、ノクスからの言伝を告げると扉を閉めた。
「……わかった」
アルジェントは、自室に入ると大きくため息をついて、ソファにカバンを放り投げると、壁に掛けてある鏡の前に立ち、魔力を込めた。
「アルジェントです。今ほど、学院から帰宅しました」
「アルジェント、久しぶりですね。学院生活はどうですか?報告が無いので心配していましたよ」
「あっ……、申し訳ありません」
「あの少年は、どうですか?ノクタリア国に連れて来れそうですか?」
「まだ、それほど交流が無いので……。今日、彼の魔力錬成を見ました。ものすごく密度の高い魔力玉を作っていました……」
「あぁ、それで貴方の表情が暗いのですね。……貴方は自分と彼の技量を比べて落ち込んでいる。彼は、魔王の力を持ち、ノクタリア国の象徴として立たれる方です。一般の子どもとは違います。貴方は、彼と仲良くなり、彼の力を探りなさい」
アルジェントは、ノクスが讃える特別な魔力を持つ彼に、嫉妬のような感情を感じて、少し悲しげな目をした。
「……はい。あの……、ノクス様。なぜ護衛の2人に精神干渉魔法の指輪を与えたのですか……?私が裏切った時に使用させるおつもりですか……?」
ノクスは、鏡の向こう側で、フフッと笑った。
「私は貴方を信じていますよ。貴方なら、あんな魔道具の力など跳ね返せるでしょうしね……。2人にあの指輪を渡したのは念のためですよ」
「分かりました……。彼の力がどんなものなのか、探ります……」
「期待していますよ、アルジェント……」
鏡での通信を切ったノクスは、窓の外の暗い景色に視線を移した。
「まあ、私の魔力を込めた魔道具の力を、跳ね返せる者は、この世界にはいないでしょうがね……。それに……、あの指輪は、アルジェント、貴方のためですよ……。私が貴方に掛けた魅了が切れないようにするためのね……」




