第19話 王都への出発
俺たちは、王都に引越しする日を迎えた。
「おばあさま、泣かないでよ……。週末、帰ってくるから……」
俺がばあちゃんを慰めていると、後ろから族長の声が聞こえてきた。
「モーリー、実は私も、ちょっと旅に出ることにしました」
「えぇ〜!じいちゃん!なんで今、爆弾発言なの!」
「モーリーとルキリア君が、地上で暮らすために、たくさんの魔道具を作ってくれましたからね。私もそれを使って、この世界を見て回りたくなりました」
族長補佐が、後ろから顔を出した。
「モーリー君、大丈夫ですよ。私も族長に同行しますから」
「族長の仕事はどうするの?」
「あぁ、昨日、息子に仕事を譲ってしまいました」
「えぇぇぇぇぇ〜!」
モーリーの祖父である族長は、「ドッキリ成功ですね!」と、ニコニコしながら族長補佐と顔を合わせていた。
「それじゃ、いってきます~」
「族長補佐さん、じいちゃんを頼むよ!」
俺たちは、辺境伯城の転移室から、大量の荷物と一緒に王都のタウンハウスへ転移した。
「ルキリア様、モーリー様、お待ちしておりました」
「オウルさん!」
タウンハウスで働いている人たちが、みんな玄関ホールに整列して俺たちを待っていてくれた。
モーリーもすでに何度かタウンハウスを訪れていたので、みんなとはすでに顔見知りだ。
「みなさん、今日からお世話になります!」
「俺も、みんなと一緒にルキリアの世話係するから、よろしく~」
みんなは、俺たちを拍手で迎えてくれた。
「モーリー様、お部屋の準備は済んでおりますので、ご案内いたします」
俺は、モーリーの部屋がどんな風になっているのか気になって、後ろからついて行った。
モーリーの部屋は、タウンハウスの地下に用意されていた。
「こちらの方が落ち着くと思い、地下にお部屋を準備いたしました」
ドアを開けて部屋に入ると、真っ暗な光の無い空間になっていた。
「おぉ~!最高!オウルさん、ありがとう!これは、落ち着くわ〜」
モーリーのために、タウンハウスの中は全ての窓に光を遮る分厚いカーテンが引かれていて、最低限の明かりのみになっている。
「あっ……、オウルさん、俺のために館内は真っ暗にしてるけど、みんなの仕事は大丈夫なの?」
「問題ありません。お2人が学院に行っている間に、カーテンを開けて掃除等の仕事は全て終わらせるように、全員のスケジュールを組みなおしました。それに、ルキリア様から全員分の赤外線メガネをいただきましたので、光が無くとも、仕事に支障はございません」
「オウルさん、ありがとう。俺もみんなの手伝いするから、何でも言ってね」
「ありがとうございます。その際は……、お力をお借りいたします」
荷物を部屋に運び入れてから遅い昼食をとっていると、オウルが慌てて食堂に入ってきた。
「ルキリア様、王弟殿下がいらっしゃいました」
「えっ!王弟殿下!」
俺たちは、『肉汁たっぷりダブルチーズバーガー』を慌てて飲み込むと、王弟殿下の待っている応接室に走った。
「王弟殿下、お待たせして申し訳ありません!」
「いや、先触れも出さずに、突然訪れて悪かったね。明日の入学式の前に、君たちに伝えておきたいことがあってね……」
実は、王弟殿下は、地下都市に何度か訪れていて、すでにモーリーとは面識があった。
「お、で……、王弟殿下、……いや、もう、『先生』って呼んでいいですか!」
モーリーは、かしこまるのが難しかったらしく、王弟殿下に遠慮なく聞いた。
「ふふっ……、あぁ、先生と呼んでいいぞ」
(あっ、俺も、先生って呼ぼう……)
「俺たちに、話しておきたいことって何ですか?」
「実は、ノクタリア国からの留学生のことだ。彼は、ノクタリア国の筆頭公爵家の三男なのだが、ノクタリア国王太子の思想にかなり傾倒しているという情報を得ている。この国に来るにあたり、あの王太子から、何らかの指示を受けていると見て間違いない。4人しかいないクラスだから関わるなとは言えないが、……気をつけてくれ」
「ノクタリア国王太子の思想?」
「今のノクタリア国は、すべての労働と配分を国が管理し、個人の自由が死んでいる国だ。彼は、それを壊して、新たな体制を作ろうとしている。……魔王を象徴に掲げてね」
(……それって、前世の社会主義みたいなものか?)
「なるほど……。でもさ、俺らと同じ年頃のヤツが、国の体制とか……考えるかな?」
「留学の申請書には、13歳と書かれていたが……、たぶん実年齢はもっと上だろう。容姿は子供でも……ヴァンパイア族の平均寿命は300歳といわれているからな……」
「あっ、俺もそうだった。魔族の成人は、人間より遅いからな……」
(あれ?モーリーって、今いくつだっけ?)
「先生、わかりました……。彼のことは、注意して見ておきます」
(みんなと仲良くしたかったけど、難しそうだな……)
「先生、陛下の甥は、どんな感じなんですか?」
「ん〜……、こっちも……ややこしいヤツなんだよなぁ」
(あぁ……、やっぱり、普通の学校生活は無理そうだなぁ……)
♢*♢*♢*♢*♢
翌朝、ルキリアとモーリーは王立学院で行われる入学式に、馬車で向かっていた。
「馬車……揺れて気持ち悪い……。何度乗っても、慣れない……」
「王都の馬車道は、整備が必要だね。あっ、フルーラ辺境伯領の道が整い過ぎてるのか」
「フルーラ辺境伯領から王都に来たら、すごい不便に感じるよ……」
モーリーは、ルキリアが窓の外を見て浮かない表情をしているのに気がついた。
「どうした?」
「……やっぱり、ノクタリアの留学生に会うのは、少し緊張するな」
「気にし過ぎだよ。来るもんは来るし、来たら受けて立てばいいだけだ。あのさ、……ルキリア、お前、もういい加減『いい子ちゃん』やめろ」
「……いい子ちゃん?」
「お前、いつも誰かの役に立って、喜んでもらうことしか考えてないだろ。……まあ、いいんだけどさ、……でも、もっとわがままになっていいんだぜ」
「わがまま……」
「まわりなんか気にしないで、お前が本当に言いたいこと、言ってみろよ。たまに、いい子ちゃん過ぎて、見てらんない時があるよ……。学院に入るのを機に、いい子ちゃんの仮面、外してみろよ……。少しずつな……」
「……俺……」
(……だって、わがまま言ったら……)
「ルキリア……?」
ルキリアの足元から、黒い霧のような魔力がじわりと滲み出た。
「俺……、わがまま言って……両親を殺した……前世で……。いい子でいたら、今の居場所に、ずっと、いられる……」
ルキリアの黒い魔力が溢れ出てきているのに気がついたモーリーは、ルキリアの背中を「バシッ!」と、思いっきり叩いた。
そして、ルキリアの顔を両手で包み込んで、しっかりと目線を合わせた。
「……ふざけんなよ。どんなお前だって、お前のまわりはみんな受け止めるよ!前世で、わがまま言って親殺した?子供が親にわがまま言うのは普通だし、当たり前だし、子供の義務だよ!」
「わがままって、義務なの?」
「なんで、そこだけ切り取ってんだよ!」
(俺は、じいちゃんもばあちゃんも、信じてたつもりで……実は信じきれてなかったのか……。怖かったんだ、信じて、甘えてしまったら……、また無くしてしまうかもしれないと思って……)
「……トラウマだな。よし、ここにいる間に、ルキリアのトラウマを解消するぞ!お前がわがまま言える場所、俺が作ってやるから、俺を信じろ!」
♢*♢*♢*♢*♢
その頃……
「族長、南の島は美しい女性が多いですね〜」
「ん〜、私の好みではないですね。あっ、『旅本』に載ってた、パイナップルジュースが売ってますよ!早く、飲んでみましょう!」
「あっ、族長、置いてかないで〜」




