第18話 元魔王 ジルバ
ルキリアが、3人をやり直しの世界に送った時、わずかにそれを感じ取った者たちがいた。
「んっ?何か……、この世界が揺れた……」
執務室にいたノクスは、何かが揺れたのを感じて、目の前の書類から顔を上げた。
そして自分の頭から何かが消えていったような、不思議な感覚に囚われた。
「殿下、失礼します」
ドアをノックして、マルコとサムが入ってきた。
「……」
「んっ?殿下どうされました?」
「あっ……、どうでした?あの少年は?」
「あの少年の力は、覚醒しました。俺と団長で……?」
「マルコ殿、サム殿、あの少年の力はどんなものでした?」
「……真っ黒い魔力で、城を包むほどの膨大な魔力でした。私も攻撃されましたが、新しく得た力で、何とか押しとどめることが出来ました……。彼は黒い膨大な魔力で城を覆った後に、気を失いました」
「そうでしたか……、わかりました。次の指示までは、離宮でゆっくり休んでください」
マルコとサムは執務室を出て、離宮にある自分たちの部屋に向かった。
ドアを開けて入ると、広い部屋に、ベッドが2つだけ並んでいた。
「あれ?この部屋、こんなに広かったっけ?」
(……誰と、ここで話していた?……いや、気のせいか)
マルコは、ふと壁際に置いてあった水差しとそのコップの数に違和感を感じた。
(予備のコップが、3つ……)
そして、もう1人――
ガーラ国の王立魔法薬研究所で、ジルバは研究チームのリーダーとして、隣国から依頼された『獣化を押さえる薬』の研究に取り組んでいた。
「んっ?時空が揺れた……」
「部長、どうしました?」
「いや、何でもない。それよりエビータ国が今までに検証した分の研究報告書は届いたか?」
「あっ、まだなんで、ちょっと受付に届いているか確認してきます」
部下が部屋を出て行くと、ジルバは窓から曇った空を見上げた。
「……懐かしい波動だな。あの子は、あの力を覚醒したか……」
ジルバは、自分と同じ黒髪に紅目の少年を思い浮かべながら、小さくため息をついた。
「アイツらの子孫も、それぞれに国を作ったようだが……、色々と大変そうだな……」
♢*♢*♢*♢*♢
ルキリアが、暗黒魔力を使って、彼らをやり直しの世界に送ってから数ヶ月が経った。
「ルキリア、お前の今後のことで話がある。朝食が終わったら、儂の執務室に来てくれ」
「今後のこと?」
「あぁ、お前も来年11歳になるからな。この国の貴族は、11歳になったら王都の学院に入ることになっておる」
「学院?俺、学校に通うの?」
「まぁ、ルキリアには必要ないかもしれんがな。それで、どうするかお前の気持ちを聞きたいと思ってな」
「行かなくてもいいの?」
「陛下からは、ルキリアには必要ないだろうから、試験だけ受けて卒業資格をくれると言われておる。王弟殿下からは、学院の見学に来ないかと誘いの手紙も届いておるが……。どうやらレイノルド殿下は、ルキリアを王都に呼びたいらしいな」
「学院の見学……」
「執務室に王立学院の資料が届いているから、後で取りにこい」
「おじいさま、わかりました。少し考えさせてください……」
俺は、前世でほとんど学校に通わなかったから、学院と聞いて、少し興味が湧いたが、通うとなったら、この領地から数年間は離れることになる……。
俺は、じいちゃんから王立学院の資料を受け取ると、そのままブルーマウンテンの山中に転移した。
「モーリー!」
「ルキリア!相談って、どうしたんだ?」
「あのさぁ、俺、来年から王都の学校に通うかどうか迷ってるんだ……」
「学校?」
「うん。11歳になったら、この国の貴族は王都の学院に通うらしいんだけど、俺は行っても行かなくてもいいって言われてるんだ。……けど、……」
モーリーは、王立学院の資料を見ると、広場の草の上にドカッと座った。
「俺に相談しに来てるってことはさぁ、お前、行ってみたいんだろう?俺に、背中押してもらいに、ここにきたんじゃないのか?」
「あっ……、そうかも……」
モーリーは腕を組むと、じっと空を見上げた。そして『うん!』と、大きく頷いた。
「よし!俺も行く!」
「えっ、どこに?」
「王立学院だよ!俺もルキリアと一緒に通うよ」
「モーリー!陽の光に当たったら、やけどするんじゃないの?」
モーリーは、ふふん~っと言いながら、首に下げていたチェーンを引っ張り出して、付いていた魔道具を俺の手にのせた。
「俺さぁ、ルキリアと色んな所に行ってみたいって考えてた。だから、作ったよ。この暗幕結界を参考にして、携帯用の光を遮る結界魔道具」
「えっ、俺、モーリーと学校に通えるの……」
「あぁ、俺も、この山の中だけじゃなくて、もっと広い世界が見たいんだ。族長には、少しずつ交渉してきたから、あとひと押しで了解もらえると思う」
「モーリー……。俺、ゔ・れ・じ・い~~~」
「ルキリア、お前……、泣くなよ!」
「あっ、でもこの回路だと魔力の消耗が激しいから、俺が『無限動力』の術式を書き加えてもいい?」
「お前……、いきなり魔道具オタクに切り替わるなよ!」
俺たちは、来年から一緒に王立学院に入ることに決めた。
そして、族長の交渉と、地底族が王立学院に入学することの許可や、諸々の準備を少しずつ整えていくことにした。
ガーラ国王のアーチーが、レイノルドの執務室のドアをバンッ!と開けて駆け込んできた。
「レイノルド!ハンの孫が、来年から王立学院に来るぞ!」
「兄上……、ノックは、していただけますか……」
レイノルドは、部屋にいた側近たちを下がらせた。
レイノルドが自らお茶を入れてカップを置くと、息を整えたアーチーがお茶に口を付けた。
「お前の淹れるお茶は、やっぱり美味いな」
「ところで兄さん、ルキリア君が王都に来るんですか?」
「あぁ、それも地底族の友人と一緒に入学する。辺境伯の親戚の子として入学するがな」
「……たしかに、その方が他の生徒にも馴染みやすいでしょう」
「それでだな……、ハンからレイノルドに依頼があった。特級魔術師としてのお前にな」
「私に依頼ですか……」
「あぁ、これはお前にしか依頼できないことだ。……ハンの孫に、全属性の魔術訓練をしてほしい」
「全属性……本気ですか?」
「彼は、半年前に暗黒魔力を覚醒した。その魔力は、全属性を使うことが出来るらしい」
「ルキリア君の暗黒魔力と全属性……。わかりました、準備します……」
辺境伯城では、俺たちの王都への引っ越し準備が、着々と進んでいた。
「ルキ!我の手製の梅干しは、1年分準備したぞえ!」
「おばあさま……、俺、毎週末はここに帰ってくるから……」
「モーリーと、ルーピンと、他の者たちの分もあるからのぉ。梅干しは毎日食べなさい」
「わかったよ……」
「王都のタウンハウスから、学院に通うことになるからのぉ。あっ、そうじゃ、我が毎晩、みなの体調管理に行けば……」
じいちゃんは、ばあちゃんの様子を見て、呆れた顔でため息をついた。
「セイ、孫離れせんか!寂しいのはわかるがな……」
じいちゃんは、俺に目で合図をすると、執務室に向かっていった。
俺が執務室に入ると、じいちゃんは陛下からの魔信便を俺に手渡した。
「王立学院で、お前とモーリーは、特別クラスに入ることになった」
「特別クラス?」
「お前ら2人は、レベルが高すぎた……。学院で、王弟殿下が直々にお前たちに魔法を教える」
「えぇ~、クラスに2人だけなの?」
「いや、4人だ……」
「4人……?」
「お前とモーリー。そして、陛下の甥と、ノクタリア国からの留学生がくる」
「陛下の甥と、ノクタリア……。それって……」
「留学生を断ることは出来なかったようだ。奴らが何かを仕掛けてくるかもしれん。慎重にな……」
あの3人のことは、俺とじいちゃんの記憶にしか残っていない。
ばあちゃんも、あの場にいた他の者たちも、あの3人の一切の記憶が消えていた。
「わかった。気を付けるよ」
「それと、王弟殿下は、この国の特級魔術師だ。お前の全属性魔法の訓練をしてくれるように頼んである」
「特級魔術師って何?」
「特級魔術師とは、その者が持つ魔力の特性を最上位で使える者たちだ。独自の魔法を開発して認められた者が、その資格を得る。この国の王族は、竜人の血を引く者たちだ。持っている魔力量も膨大だ。しっかりと指導を受けてこい」
「……うん。俺、頑張って、この力をコントロール出来るようになってくる。……あっ、陛下の甥って……?」
じいちゃんは、難しい顔をして、大きくため息をついた。
「事情は詳しくは言えんが、この国の北にある魔の森を挟んだ東の国、ダリオン国から来る……」
(陛下の甥が、ダリオン国から……?俺と、地底人と、ヴァンパイア人、そして竜人?どんなクラスになるんだよ……)




