6.叙爵
20間に及ぶ祝典の最初は、エメリヒ王の戴冠式だった。
これには王国全土から諸侯が集まった。これからの叙爵で貴族になる者達も集まる為に、式典の場はいろいろな身分の者達が集まっており、混沌とした様相だった。
戴冠式の間は、自分とボウデン近衛騎士団・総団長が両脇に控え続けた。
すこし緊張したが、ボウデン騎士爵と共に叩き込んだ動き方はしっかりと体に染みついている。エメリヒ王は、大聖堂にてオレンジ派のトップである枢機卿から戴冠され、大喝采に包まれてオロール国の王を正式に名乗った。
頭の上に質素だが金色に輝く王冠と王家の宝剣を佩き、背中にオロール王国旗でありオロール王家の旗をはためかせる。その姿に大ホールに集まった諸侯は見惚れ、喜んだ。だが本来諸侯の中で一番上座に座り、代表する立場の筈の東方大公は居らず、その代わりにモーラ辺境伯が座っていた。
戴冠式を終えた後は、通常よりも20日短いが10日に及ぶ王の戴冠の祝宴と、王都を歩く民衆へのお披露目が我々の護衛で行われた。
次に始まったのは王国の内乱とそれに続く他国の侵攻に対して功績を挙げた者の叙勲式典だ。
これも丸2日かけてまずは叙勲が行われた。
最初は今は亡き東方大公に対する賛辞から始まり、代替わりした息子のラルスが代わりに褒美を受け取った。内容は南方大公が管轄していた領地の内、東側3分の1程の新たな所領と、南方大公の東側全域の貴族の指揮権だ。大きな領地を手に入れたわけだが、まだ若く経験がないラルス・バーガンディー公爵は運営で手一杯になるだろう。
次に味方したカーマイン辺境伯が侯爵位へと昇爵し、旧南方大公領の西半分へと所領替えとなった。これによって王国の南西側はカーマイン辺境伯の管轄となる。カーマイン辺境伯領と呼ばれていた北の辺境は、子爵から辺境伯へと一足飛びの昇爵を果たしたレイデル・ベゴニア辺境伯が統治する。
エメリヒ王に最も近いモーラ辺境伯が今回の一番の出世頭だった。
王はモーラ辺境伯の長女であるレイラ嬢との婚約を発表し、北方大公の領地を全て手に入れた上に公爵位への昇爵を果たし、将来的な北方大公の後継を約束した。
王国の盾たるカタラーニ侯は北方へと所領替えしモーラ大公の麾下へ、王国の矛たるヴィアネッロ侯は所領替えこそ無いものの所領の増加は無く、カーマイン侯の麾下となった。
順当に上の爵位の者からひとりひとり、王の前で褒美を言い渡されるのを繰り返す。
これは相当な時間のかかる式典であり、自分の順番は翌日の朝となった。
エメリヒ王の玉座の前に跪くと、モーラ辺境伯領でエメリヒ第三王子にあった所から、航海と東方大公領への旅路の話、東軍と北軍の戦いの話を経て、南軍との決着までを朗々と、ひとつひとつの功績を讃えられた。
今思い返すと長い旅路であった。モーラ辺境伯領に到達するまでも、北方樹海の中を抜けたりといい思い出とは言えない経験がある。
「……以上の功績により、リデル・ホワイト男爵にルカロン周辺地域一帯の所領を与える。また、近衛騎士団副団長並びに第一騎士団長に任じ、王国伯爵に叙する」
王国の近衛騎士団は一代騎士の騎士爵以外に領地が与えられる。前の近衛騎士団などは200名ほどが男爵以上の者達であったが、その者達は王国中央部の王家直轄領を分け与えられていた。
領主といえど、戦争時において自身は近衛として働き、領民は王家直属の王国中央軍として働くことになる為に、代官としての役割が大きい。
……が、それでも自分の領地を持ち、自分の領民を持つ貴族には変わりないのだ。それも2年前までは雲の上と言っても過言ではない程の伯爵位まで昇っている。
そこに達成感はない……自分の中ではどうにもならない流れに乗って、自分可愛さで断らずに来たらここまで流れて来たと言って良いだろう。勿論、自らの周りを支え続けてくれている、カーマイン辺境伯領で出会った仲間たち、最近私的な部分も支え合う間柄となったルーシーのお陰でもある事は間違いない。
「リデル男爵前へ」
司会進行役を任されている少し枯れた声のモーラ辺境伯に呼び出された。
書状にて既に王国の貴族の仲間入りを許可された自分には、新貴族のような誓いの儀を行う必要は無い……が、褒美がある。
王座の前に立っていたエメリヒ王は1段下となる位置に跪く自分の前に歩み寄って来ると、近衛騎士が差し出した褒美となる剣を自分に差し出す。それを頭上で受け取り、その姿勢を維持する。
「本当によく働いてくれた」
「勿体なきお言葉」
「これからは王国貴族として王国を”共に”守護していこう」
「王の名の下に!」
「うむ、期待する」
普段と比べて随分と仰々しい口調になっているエメリヒ王の元を離れた所で、拍手や歓声の祝福が巻き起こる。平民から貴族、それもつい最近まで騎士爵だった男がいきなり伯爵だ。不満に思うものもいるだろう。だが、彼らにとっても王の近衛騎士として王との窓口になる自分に対して、不服の態度を見せる訳にはいかないのだろう。
貼り付けたようにも思う笑顔で皆こちらを見ていた。それを見て貴族の世界というのが少しわかった気がした。
はじめまして。都津 稜太郎と申します!
再訪の方々、また来てくださり感謝です!
今後とも拙著を、どうぞよろしくお願い致します。




