あるある111 「レンタルされがち」
俺達は馬車で5日かけてゴートスの街へ戻って来た。
その道中、モンスターと出くわしたがアンナ達が加わったので簡単に倒すことが出来た。
やはりパーティー構成は戦闘において非常に重要だと改めて実感したのだった。
ゴートスの街の周りは砂漠化が進んでいて、見渡すかぎり赤茶けた砂漠が広がっている。
そのため砂漠化から街を守るために外壁の周りに堀が設けられていて水が循環するようになっているのが特徴だ。
外壁の内側には緑が植樹されていて砂漠から吹いて来る東風を遮っている。
そのおかげかゴートスの街は砂漠化の浸食から逃れていた。
久しぶりに戻って来たゴートスの街は相変わらずの賑わいだった。
港が併設されている街だけあって旅商人達が多く見られる。
市場に持ち込まれた輸入品の多くは異国の調度品で珍しい品ばかり。
仲買人達に高く買ってもらうためにギリギリまで値を釣り上げて競っていた。
「ようやく戻って来たな、ゴートスの街に」
「旅立ってから2週間は経っているからな」
「でも、海が見えると安心しますね」
「そうだな。ほとんどサラハル砂漠にいたからな」
俺達は港から見える大海原を眺めながら大きく深呼吸をする。
僅かばかりの潮の香りが鼻を抜けて舌を刺激する。
しょっぱいと言うのが本当だがどこかに甘さも感じる潮風だ。
「それじゃあブルー・アイを売りに行こうぜ」
「そうだな。あのおっさんは酒場にいるだろうから酒場へ行こう」
「どれぐらいで売れるか楽しみですね」
「金貨100枚で売れることは確定してるけどな」
もっと欲を言えば金貨150枚まで値を釣り上げたい。
あのおっさんもブルー・アイを欲しがっていそうだったから交渉次第では狙えない線でもない。
ただ、あのおっさんがそれだけの金を持っているかが一番の問題だ。
強力な後ろ盾がいるって話だが、その後ろ盾が金を出さなければ交渉は不成立になってしまう。
まずは相手の手の内を見てから交渉を進めて行くのがいいだろう。
酒場の前には昼間だと言うのに酔っ払い達が屯っている。
蔑むような目つきで通りを行く人達を呼び止めては酒を催促している。
酒が回ってすっかりご機嫌になっていて冷静な判断が出来ないようだ。
俺達は屯している酔っ払い達を押しのけて酒場の中へ入った。
店の中を見渡すと思っていたよりも客が少ない。
さすがに昼間から酒を飲めるほど金をたんまりと稼いでいる裕福な者はいないようだ。
まあ、裕福であったらわざわざ酒場に足を運ばなくても酒を取り寄せればいいのだから酒場にいなくてもおかしくない。
それよりもお目当てのおっさんはいつものテーブルでチビチビと酒を飲んでいた。
「おい、おっさん。目的のモノは持って来たぞ」
「何じゃ?酒じゃないのか」
俺はブルー・アイが入った袋をおっさんの目の前に置く。
するとおっさんは残念そうな顔を浮かべてブルー・アイが入った袋と押し返した。
「こいつをおっさんに買ってもらいたい」
「ワシは酒以外には興味ないんじゃ。用があるなら酒を持って来い」
おっさんはブルー・アイに全く興味を示さずに酒の催促をして来る。
と言うよりもこの袋の中にブルー・アイが入っているとは思っていないのだろう。
俺は袋を開いてブルー・アイをチラ見せした。
「どうだ。本物だぞ」
「はっ。何を言っとる。そんなもの偽物に決まっておる」
「まだ信じないのか。だったら見せてやるよ」
ブルー・アイを袋から取り出しておっさんの目の前に置くとおっさんの目が急に変わった。
光に翳してブルー・アイの輝きを確かめたり、撫でまわしてその形状を確かめたりして吟味している。
さすがに本物のブルー・アイを見るのははじめてだろうから驚きと興奮が入り混じった顔をしていた。
「お主、これをどこで手に入れた?」
「シンポス地下神殿の隠しダンジョンでだ」
「ふん。やっぱり情報通りじゃったな」
情報通りって言うことはこのおっさんも誰かから情報を得ていたのだろうか。
恐らくおっさんの後ろに構えている強力な後ろ盾の存在であることは間違いないはずだ。
すると、アンナが話に割り込んで来ておっさんに吹っ掛けた。
「これを金貨300枚で買い取ってちょうだい」
「勝手に話を進めるな。交渉は俺がしているんだぞ」
「カイトに任せていたら安値で買い叩かれるのがオチだから私に任せておきなさい」
アンナはおっさんの手からブルー・アイをはぎ取ると鷲掴みにしてテーブルの上に乗せた。
「金貨300枚とは随分大きく出たな」
「ブルー・アイにはそれだけの価値があるからね」
「じゃが、取引には応じられんな」
おっさんは難しい顔をしながら首を横に振って応える。
それはそうだ。
予定ではブルー・アイは金貨150枚で買い取ってもらおうかと考えていたから倍の金貨300枚なんて破格な値段で応じる訳がない。
やっぱりアンナに任せておくのは間違いだ。
交渉が不成立になってしまう。
俺はアンナを押しのけておっさんに交渉をした。
「なら、金貨150枚ってのはどうだ?」
「カイト。本気で言っているの?金貨150枚なんて安値じゃ損をするわよ」
「リーダーは俺なんだ。交渉は俺が進める」
「ダメよ。カイトは素人なんだから下がっていて」
アンナは食い下がる俺を押しのけておっさんの前に立つ。
「今のはなしよ。最初からはじめるわ。金貨300枚で買い取ってちょうだい」
「いいや」
「なら、金貨250枚に負けてあげるわ。これなら文句ないでしょう」
「話にならんな」
おっさんは顔色ひとつ変えずに首を横に振って応える。
そして酒をチビチビ飲みながらイライラしているアンナを見てほくそ笑む。
「もう仕方ないわね。金貨200枚でどう。これ以上は負けないわよ」
「顔を洗って出直して来い」
全くとりつく島もなくおっさんはアンナの提示した金額を却下する。
交渉慣れしているのはおっさんの方でアンナはおっさんのペースに巻き込まれていた。
それはアンナ自身自覚していたようで余計に苛立ちながら強引に交渉を進める。
「あなた、本当にブルー・アイの価値をわかっているわけ。これはそんじょそこらのモノとは違うのよ!世界にひとつしかない宝玉なんだから!」
「そんなのワシが一番わかっとる。じゃが、予算がそんなにもないもんでね」
「ああ、イラつく。なら、いいわよ。金貨150枚にしてあげるわよ。これ以上は値切らないからね」
アンナは青筋を立てながらテーブルを激しく叩いて威嚇した。
しかし、仏頂面のおっさんは動揺することもなく冷静に状況を見極める。
周りにいた俺達の顔色を読んで取引価格を決定した。
「金貨100枚でなら取引してやる」
「金貨100枚!馬鹿言わないでよ。私達がどれだけ苦労して手に入れたと思っているのよ。そんな安値じゃ売れないわ!」
すると、おっさんは残念そうな顔をしながらブルー・アイを押し戻した。
「それじゃあ交渉は不成立じゃ」
「ちょっと待ってくれ。金貨100枚で取引をする」
「ちょっとカイト。勝手なことを言わないでよ。そんな安値で取引出来る訳ないでしょ。考え直しなさい」
「お前は引っ込んでいろ。リーダーは俺なんだ」
俺とアンナがもめている姿を肴にしながらおっさんは酒をチビチビと煽る。
そして余裕気な態度で踏ん反り返りながらテーブルの上のブルー・アイを眺めていた。
おっさんだってブルー・アイが欲しくて欲しくてたまらないはずだ。
それは目を見れば一目で判断できる。
ただ、持ち合わせの金がないから金貨100枚って提示して来たんだ。
恐らく後ろ盾がそれだけの金しか提供しなかったのだろう。
「さあ、どうするんじゃ?」
「もちろん金貨100枚で」
「ダメよ。ブルー・アイはそんな安くはないわ。金貨150枚よ!」
俺の提示した価格に納得出来ないアンナは必死に食い下がって来る。
金の亡者であるアンナには一枚でも金貨を積み上げることの方が大切なのだろう。
確かに金貨150枚で取引した方が美味しいのは間違いないが、おっさんの持ち合わせがないのなら仕方がない。
ここは値を釣り上げるよりも交渉を成立した方が身のためだ。
「どっちにするんじゃ?」
「金貨100枚でお願いするよ」
「交渉成立じゃ」
おっさんは満面の笑みを浮かべながら持っていた金貨100枚入った袋をテーブルの上に乗せる。
その袋の中を覗いて本物の金貨であるかを確認するとおっさんがブルー・アイの入った袋を引き寄せた。
「そのお金は本物なの?」
「大丈夫だ。本物の金貨だ」
「どこにそんな大金を隠し持っていたんだ」
いろいろと疑問に思うことはあったがとりあえず取引は成功した。
俺達は金貨100枚を手に入れておっさんんはブルー・アイを手に入れた。
おっさんがこの後でブルー・アイをどうするのか気になったが俺達は酒場を後にした。
大通りに面したカフェテラスで一息つくことにした俺達。
金貨を一枚一枚数えてゴウ達の取り分である金貨50枚を別の袋に詰める。
「これがゴウ達の取り分だ」
「助かるよ。ありがとうな、カイト」
「これで僕達も大金持ちですね」
「しばらく遊んで暮らせるぞ」
喜びを分かち合っているゴウ達に鋭い視線を向けて来るアンナの目は冷たい。
まるで雪原に囲まれた洞窟で旅人を凍らせている雪女のような凍てつく視線だ。
まあ、金の亡者であるアンナからしてみればチームで山分けなんて受け入れられない現実なのだから仕方ない。
ただ、これは既に決定事項なのだから変えられないのだ。
「それでゴウ達はこの後どうするつもりだ?」
「俺達は俺達にあった強さを身につけるつもりでいる。つまるところダンジョン調査のスキルを磨くつもりだ」
「それはいいな。ルミウス三世の力もマークニットの力も活かせるしな」
ゴウは誇らしげに今後の予定を告げながらルミウス三世とマークニットに視線を送る。
ルミウス三世とマークニットも同じ考えだったようで嬉しそうな顔を浮かべていた。
こんな風に自分達の強みを活かして目標を立てられるなんて羨ましいことだ。
俺達カイト軍団と来たら目標もなければ作戦もないのだ。
ただその場しのぎの旅を続けているだけでチームとして強くなっていない。
これはカイト軍団としては忌々しき事態に他ならない。
エジピア王国まで辿り着いたら今後の目標を立てなければ。
「カイト達はエジピア王国を目指すのか?」
「ああ。セリーヌが狙われているからな」
「そうか」
ゴウはコーヒーを一口飲んで喉を潤すと俺の耳元でささやいて来た。
「それでカイト。王都デギオンでの話は覚えているか?」
「何のことだ?」
「エレン達のことだよ。俺達がエレン達を仲間にしてもいいかって話だ」
「ああ、それか。いいよ」
「マジか!」
「マジもマジ。ゴウの好きなようにしてくれて構わないよ」
俺の返事にすっかり気をよくしてゴウはガッツポーズをして喜ぶ。
まあ、エレン達を2、3日貸し出せばゴウも諦めがつくだろう。
セリーヌは狙われているから貸し出さないとして護衛のミゼルも置いておこう。
エレンとアンナならばいなくても問題ないから、この2人にしよう。
それにおばさんとしては1番の2人だからな。
ゴウ達も俺の苦労がわかるってものだ。
「おい、エレン。アンナ。しばらくゴウ達と行動を共にしてくれ」
「何だ、藪から棒に」
「ゴウ達がお前らを気に入っているんだ。だからいっしょに冒険でもして来い」
「嫌よ。そんなの」
エレンもアンナも不機嫌な顔をしながら俺の提案を拒む。
こいつらを釣るにはやはりあの手しかないようだ。
俺は金貨2枚を取り出してエレン達の前に置いた。
「ゴウ達といっしょに行けばこの金貨をやる」
「本当に!」
「酒も飲み放題だぞ」
「よし、引き受けた!」
エレンとアンナはすぐにOKサインを出す。
目をキラキラと輝かせながらテーブルに置かれていた金貨をはぎ取る。
馬鹿とハサミは使いようではないがエレン達を釣るにはこれが一番だ。
これでゴウ達との約束も果たせるし、ゴウ達に俺の苦労をわかってもらえる機会にもなる。
「それじゃあ、ゴウ。エレンとアンナを頼んだぞ」
「任せておけ」
「これからウホウホな毎日がはじまるんですね」
「ワクワクする」
そう言っていられるのも今のうちだ。
エレンとアンナの本性を知ったらすぐに根を上げるはずだ。
まあ、せいぜい気張ってくれ。
俺達はゴウと別れて借金の返済とシーボルトの船を買い戻しに港へ向かった。
ゴートスの街の銀行は質素な造りをしている。
1階建てのこじんまりとした建物と併設するように石造りの建物が並んでいる。
石造りの建物の方は銀行の金庫を兼ねているので外に扉も窓もない。
金庫の中に入るには銀行のカウンターの奥にある鉄格子を開ける必要がある。
警備体制はそれだけでなく銀行の入口の脇には警備兵が常駐している。
街一番のお金の集まりやすい場所だから警備体制も強化しているのだ。
受付に借用書を差し出すとすぐに受け付けがすんだ。
金色のサラサラの長い髪をお団子にして後ろでまとめた艶やかな肌をした20代ぐらいの受付嬢が爽やかな笑顔を向ける。
差し出された借用書の名前を確認して奥の棚から書類を取り出して来た。
「セリーヌ・クリスタ様で間違いないですね」
「はい」
受付嬢は書類とセリーヌの顔を見ながら本人であるのかを確認する。
セリーヌの身元を確認してもさほど驚かないところをみると、ここがセレスティア王国でないことが一番の要因だろうか。
セレスティア王国にいたらクリスタ家の令嬢だって騒ぎになっていたはずだ。
銀行にお金を借りに来る人間は何も貧しい人間に限ったことでない。
と言うよりも、ある程度、身分の高い人の方がよく借りに来る。
身分がはっきりしていれば信用が高いので銀行もお金を貸しやすい。
だから身分の高い人間達は銀行から融資を受けて事業を拡大させたり不動産投資をしたりして資産を増やしているのだ。
「お借入れ金額は金貨42枚でございます。本日はいかほど返済なさいますか?」
「全額で」
俺が金貨の入った袋を差し出すと付嬢が一瞬驚きの顔を浮かべる。
そしてすぐに向き直ると金貨の入った袋を受け取って中身を確かめはじめた。
一般的な返済方法は定期的に少額ずつ返済して行くのが普通だ。
その方が無理がないし、生活に支障を来すこともない。
俺達みたいに一度に返済しようとする人は大金を掴んだ人や身分の高い人に限られるのだ。
受付嬢は金貨42枚分数えるとニコリと笑みを浮かべて残りの金貨を戻して来た。
「確かに金貨42枚受け取りました。これでセリーヌ様のお借入れはありません」
「これでようやく借金地獄からおさらばだ!」
俺は嬉しさを堪えきれずに小躍りしながら喜んでいると受付嬢はクスクスと小さく笑った。
「それにしてもよくもまあ、これだけ積み上げたものだな。セリーヌがついていながらどういう事だ?」
「それは……」
「これもそれもエレンのせいだ。エレンがコロセウムで優勝しなかったから借金が増えたんだ」
「カイトの様子から察するにしょうもないギャンブルでもしたのだろう」
ミゼルは呆れ顔を浮かべながら蔑むような冷たい視線を向ける。
まあ、ギャンブルをしていたのは俺なのだけれど今は黙っておこう。
そもそも宿屋のミトの婆さんが吹っ掛けて来たところはかはじまっているのだ。
あれで半分の金貨25枚を借金することになったのだから。
後はもろもろ旅費が重なって雪だるま式に増えて行ったのだ。
借金は人を変えるとも言うがそれは本当だ。
俺達もこの借金地獄にどれだけ悩まされたことか。
しかし、これで借金とはおさらば出来たのだから万々歳と言うものだ。
「しかし、もう金貨が6枚しかありませんわ。シーボルトさんの船を買い戻すのに金貨3枚かかりますから残りは金貨3枚になってしまいますわよ」
「それを言うなって。ようやく地獄から這いだせたんだ。もうしばらくこの喜びに浸らせてくれ」
俺は耳を塞いで現実を突きつけて来たセリーヌの言葉を追いやりながら悦に浸る。
そんな俺を憐れむかのような視線を向けて来るセリーヌとミゼルは大きなため息を吐く。
ミゼルは腕を組み向き直るとセリーヌと話を進める。
「カイトは船を持っているのか?」
「はい。シーボルトさんの船をチャーターしています」
「船があるなら助かるな。私とアンナは商船を乗り継いで来たから足がないんだ」
「シーボルトさんの船はそれほど大きくありませんがアンナさんとミゼルさんぐらいなら同乗しても問題ないですわ」
足はあっても問題はシーボルトが落ち込んでいることだけだろう。
イエローキャットを買い戻せば元に戻るとは思うが、落ち込みようからしたら元に戻るかもわからない。
いっそうのこと新しい船を買い与えてやりたいところだがそんな余裕もない。
何とか金貨3枚でエジピア王国まで辿り着かなければならないのだ。
「で、船はどこにあるんだ?」
「港に停泊しているかと思います。ハーベイ王国に入国する時に担保としてとられてしまいましたから」
「とことん金と縁がない奴だな、カイトは。普通は入国する前に入国料ぐらい持ち合わせておくべきだろう」
「みんなエレンのせいだ。俺のせいじゃない」
ミゼルは呆れたように両手を広げながら大きなため息を吐く。
リーダーである俺のことを嗜めようと言葉を掛けて来るが、俺はその言葉を跳ね除けた。
これもそれもみんなエレンのせいなのだ。
エレンがコロセウムで優勝していれば借金などしなくてよかったのだ。
もし優勝していたら今頃優雅な旅を送れていたはず。
それを毎日酔いつぶれるほど飲んで無駄遣いをして。
みんなエレンが悪いのだ。
「まあ、そう言うことにしておいてやる」
「俺のせいじゃないからな」
「はいはい」
全責任をエレンに押しつけようとしている俺の言葉も軽く流す、ミゼル。
両手を組んで頭の後ろに回して天を仰ぎながら銀行を後にする。
全てを見通しているミゼルに何を言っても無駄のようだ。
カイト軍団一の頭のキレる奴だからことの顛末がわかっているのだろう。
後から着いて来るセリーヌも若干引き気味で俺を蔑むような目で見ていた。
ゴートスの街の酒場から僅かばかり離れた裏路地でギルシュドはある男を待っていた。
人通りもなくノラ猫すら歩いていない静寂に包まれている裏路地は日当たりが悪く湿っぽい。
しかし、ハーベイ王国、特有のギラギラと照りつける太陽の日差しが体感温度を上げていた。
ギルシュドは滴る汗を拭いながらブルー・アイが入っている袋を握りしめる。
やっとのことで手に入れたモノだけに、ブルー・アイに対する思いも強い。
だけどそれは破格の値がつく試金石でしかない。
ギルシュドにとっては金こそ全てで金になることならば何でもする男なのだ。
「例のモノは手に入ったのか?」
「はっ!」
考え事をしていたところをいきなり背後から声をかけられたので飛び上がるように驚く、ギルシュド。
心臓が縮こまるような感覚を覚えた後、声をかけて来た男の顔を見るなりほっと胸を撫で下ろした。
声をかけて来た男は高身長でがっちりとした体形をしている40代ぐらいの大男。
恵まれた体躯から発せられるオーラはただ者ではないことを伺わせる。
目深に被った外套と布で顔を隠しているところから見るに素性がばれることを恐れているのだろう。
「驚かさないでくれ。心臓が縮こまるかと思ったわい」
「その反応から察するに例のモノは手に入ったようだな」
「これがブルー・アイじゃ」
ギルシュドはブルー・アイの入った袋を掲げて男に見せる。
すると、男が右手を差し出して手を折り曲げて渡せと合図をして来る。
「まずは金が先じゃ」
「ふん。現金な奴だ」
大柄の男は腰に下げていた金貨の袋を3つを外すとギルシュドの掌の上に乗せる。
その重さに腰が砕けそうになるが足を踏ん張って堪えるとさっそく中身を確かめる、ギルシュド。
袋の中の金貨を鷲掴みにして掌の上で転がして見せる。
重さと手触りと見た目のどれを見ても本物の金貨であることがわかった。
「確かに本物に間違いはないようだ」
「なら、ブルー・アイを渡してもらおうか」
「受け取れ」
ギルシュドはブルー・アイの入った袋を大柄の男へ向かって放り投げる。
大柄の男は袋を開いてブルー・アイを取り出すと光に翳して輝きを確かめた。
ブルー・アイは太陽光を透過させると中心の核に当たり光を乱反射させる。
その光は四方八方に広がり周囲を青色の輝きで染め上げた。
「確かに本物のようだ。さすがは情報屋のギルシュドだ」
「褒めても何もあげんぞ」
ギルシュドは大事そうに金貨の袋を抱えながら大男を遠ざけるように吐き捨てる。
そして仕事を受けた当初から思っていた疑問を大男に投げかけた。
「ブルー・アイを手に入れて何をするつもりじゃ?」
「お前が知るところではない」
「ブルー・アイはただの宝玉ではない。その石には底知れぬ魔力が秘められている代物じゃ。ブルー・アイひとつで一個小隊を消滅させるほどの力がある。もしかして戦争に使うつもりか?」
ギルシュドのツッコんだ質問に無言で応える、大柄の男。
右手の親指を立てて首の前で横に移動させると冷たい視線でギルシュドを睨んだ。
その視線を見るなりギルシュドの背中に悪寒が走り、小動物のように一瞬で命の危険を感じとる。
これ以上ツッコんだ質問をすることは自分の命を危うくさせる愚かな行為だと悟ったのだ。
そして大柄の男は何も告げぬまま、その場を後にした。




