あるある110 「酒が回るとずっと眠っていがち」
結局、酒代は予算である銀貨5枚を軽々と越えてしまった。
酒代の他に店の物を破壊した弁償代も含めて請求される始末。
差額分はゴウにお願いして肩代わりしてもらった。
俺とゴウは酔っ払ったエレンを担ぎながらセリーヌがとった宿屋へと足早に進む。
すでに時間は深夜を回っていて宿屋に着いた時には他の客は寝静まっていた。
セリーヌがとった部屋は2部屋。
話し合いの結果、男と女で半々に別れることにした。
俺達の部屋は2階の向かって西側の奥の部屋でセリーヌ達はその隣の部屋だ。
窓からは夜の王都デギオンの街並みが見渡せて100万ドルの夜景が広がっていた。
夜になれば灯かりは落とすものだが繁華街だけは朝まで煌々と灯かりが着いている。
それだけ客が途絶えないからなのだけれど、王都デギオンの名物にもなっているから灯かりを消さないのだ。
繁華街はデギオン城に走るように伸びているから、その光景はまるで光の橋がデギオン城にかかったような幻想的な景色を創り出しているのだ。
「久しぶりにおばさんから解放されたぜ」
「何だよ、カイト。エレン達といっしょに泊まっていたのか?」
「そうだ。2部屋もとるなんて贅沢は出来ないからな」
「羨ましい奴だぜ。俺達ソウル・ベルなんて女っ気がないからな」
ゴウは羨ましそうに俺を見てから視線をルミウス三世達に向けて大きなため息を吐いた。
すると、ルミウス三世達も同じ反応を示して羨ましそうに俺を見つめていた。
「だから、次に仲間にする人は女性に決めているんです」
「できれば間接攻撃タイプの弓使いや魔法使いがいいですけどね」
俺はゴウ達をマジマジと見つめてから、大きく肩を落として見せた。
期待を裏切ることは悪いと思うがソウル・ベルに入ってくれる女性はいないだろう。
なんて言ったって戦闘系のチームでないし、そもそもイケメンでもないゴウ達しかいないのだから。
金を積まれたら話は別だが、好き好んでソウル・ベルを選ぶとも思えない。
腕に確かな自信のある戦士であればなおのことだ。
ゴウ達のお守りなんて出来ないだろうからな。
「その前に強くなった方がいいんじゃないか?」
「それを言うなって。俺達が一番気にしていることなんだからな」
「そうです。僕もマークニットも戦闘系の特殊能力でないですから……」
それを言うなら俺だってそうだ。
『おばさんを惹きつける』と言う訳の分からない特殊能力を開花させたのだから。
それでも俺は俺なりに剣士として戦って頑張って来たんだ。
なら、ゴウ達にだってそれくらい出来るはず。
「ルミウス三世もマークニットも戦闘スキルを覚えたらどうだ?ルミウス三世は魔法使いの格好をしているんだから魔法を。マークニットは剣士の必殺技を習得するのがいいんじゃないか?」
「そんな急に言われても魔法なんて習得できませんよ。魔法はどちらかと言うと潜在能力が必要ですから、ある程度、魔力のある人じゃないと習得は難しいんです」
「それは剣士だってそうさ。剣士はセンスが必要になるからすぐに必殺技なんて身に着けられないよ」
俺の提案にすぐさま反応を返す、ルミウス三世とマークニット。
もっともらしいことを言っているが、それはいい訳に過ぎない。
どんな強者だってはじめは何も出来なかったんだ。
確かにセンスや潜在能力の有無は関係するが、それだけではないのだ。
日々の努力。
これに尽きる。
「俺だって戦闘系の特殊能力ではないけれど戦闘経験を積んで来たんだ。それは勇者になると言う明確な目的があるからだ。ルミウス三世達も何か目標を立てればいいんじゃないか?」
「僕は自分の特殊能力を生かしてダンジョン攻略のスキルを磨きたいです」
「それはいいじゃないか。ルミウス三世にしか出来ないことだ」
ゴウに褒められて気をよくしたルミウス三世は得意気に胸を張る。
それに引き換え浮かない顔をしていたマークニットは肩を竦めて小さくなっていた。
「俺は『真美眼』の特殊能力だし、ルミウス三世と違ってダンジョン攻略のスキルなんて磨けない」
「何を言っているんだ、マークニット。お前の『真美眼』は偽物と本物を見分けられるだろう。ダンジョンにはトラップの宝箱が多いものだ。それをお前の力で見極められるんだぞ。役に立たない訳がない」
「リーダー……」
マークニットは目を潤ませながら褒めて来たゴウを見つめる。
こんな風に自分をフォローしてくれるのはゴウしかいないから余計に嬉しいのだ。
ゴウはゴウで仲間を思いやる心を持っているからソウル・ベルは分裂せずにここまで来たのだ。
結成してから日が浅いが鍛え上げればこの上のないチームとなるだろう。
そんなゴウ達が羨ましく見えた。
「ゴウ達はいい仲間を持ったな。羨ましいよ」
「カイトにだってエレン達がいるじゃないか?」
「あいつらは仲間と言うよりもただのお荷物だからな。自分勝手だし、言うことは聞かないし、仲間を思いやる気持ちすら持っていない。あいつらが仲良さそうにしているのは裏があるからなんだ。エレンは酒、アンナは金、ミゼルとセリーヌはまだわからないけど」
「何だかんだ言ってカイトが一番分かっているじゃないか。エレン達のこと」
わかりたくてわかったんじゃない。
おばさん達が自分勝手に振る舞うから嫌でも目にして来ただけだ。
俺だって本当はゴウ達みたいな仲間といっしょに冒険がしたかった。
その方が冒険を満喫できただろうし、レベルアップも望めただろうからな。
だけど、今はおばさん達の足手まといとして認識されてしまっている。
カイト軍団のリーダーとは豪語しているが実際は違うのだ。
「あーあ。いっそうことブルー・アイを売った金を手に入れたら新しい仲間でも探そうかな。おばさん達のお守りは嫌だし、勇者になりたいし。その方がいいかもな」
「本気で言っているのか?」
「本気よ。本気。新しい仲間を手に入れたら苦労からも解放されるしな」
だけど一番の不安は特殊能力の存在だ。
エレン達が惹きつけられて来たように他のおばさんが集まって来るかもしれない。
そうなったら俺は永遠におばさんから離れられない体になってしまう。
そんなの嫌だ!
俺は俺らしく生きる自由があるんだ!
おばさん達に惑わされるものか!
「なら、エレン達をソウル・ベルに入れても問題ないよな?」
「本気で言っているのか、ゴウ?」
「本気も本気。エレン達はそれなりに年は食っているけれど腕は確かだしな。それにあのエロスはたまらない。俺達、ソウル・ベルには女っ気がないからエレン達が欲しいんだ」
ゴウはスケベそうな顔を浮かべながら手をこすり合わせてゴマを擦る。
ゴウがそんな目でエレン達を見ていたことは前々から知っていたが寄りにもよっておばさん達とは。
ゴウは知らないのだ。
おばさんの扱いが難しいことを。
仲間になってもすぐに根をあげるだろう。
「エレン達は止めておいた方がいいぞ」
「カイト。ここに来てエレン達を手放すことが惜しくなったのか?」
「そんなんじゃない。ゴウ達を心配しているだけだ」
「へーぇ、そうか」
ゴウは半目を開き何か言いたそうな眼差を向ける。
俺の言うことを全く信じていないような態度だ。
「そんなにエレン達が欲しいならくれてやる。その代り後で吠え面書いても知らないからな」
「よーし、交渉成立だ。約束は守れよ」
満面の笑みを浮かべながら握手を迫る、ゴウ。
強引に俺の手を掴むと固い握手をして来た。
エレン達にもこんな所に需要があるなんて思ってもみなかった。
まあ、決めるのはエレン達だから何も問題はないだろう。
それにもしかしたらおばさん達と縁が切れるかもしれないのだから俺にとっても好都合だ。
今度こそ若くて可愛い女子を見つけてハーレムを作るぞ。
おー!
「本当にいいんですか、カイトさん?」
「別に構わないよ」
「カイトさんもそう言っているんだから素直に喜べよ」
「そう言うことだ、ルミウス三世。これから俺達の新たな冒険が幕を開けるんだ」
ゴウとマークニットはすっかり気をよくして寝酒を早いペースで進める。
酒場ではほとんどエレンの腹に消えてしまったようだから飲み足りないようだ。
俺はゴウ達をおいてひとりで宿屋の浴場へ足を向けた。
この宿は安宿のためか温泉施設は充実していない。
一階に設けられてある風呂も小さな風呂でお湯を沸かして入るタイプだった。
隣に女湯が併設されていたが今は誰もいなくて静まり返っていた。
「ふー。やっぱり風呂に入ると安心するな。汗も流せるし疲れもとれるし。これで温泉だったら文句はないのだけどな」
「旦那。湯加減はどうでやすか?」
「もうちょっと熱くてもいいよ」
「わかりやした」
風呂焚きをしているのはこの宿屋の番頭ヨービス。
頭が禿げ上がった小柄なおじさんだ。
人の良さそうな顔をしていてこの宿の名物おじさんでもある。
この時間は風呂焚きの仕事はしなくてもいいのだが、人が良いためか頼まれると断れないタイプのようだ。
俺が風呂に入りたいと申し出るとすぐに風呂の用意をしてくれた。
「旦那はどこから来たんでやすか?」
「俺はラビトリス王国からだ」
「ラビトリス王国でやすか。随分遠くから来やしたね」
「ラビトリス王国を知っているのか?」
「もちろんでやす。こう見えてもあっしは旅商人をしていやしたからね」
今の姿からは想像が出来ないほどイメージとかけ離れている。
長旅なんて出来そうにもないくらい痩せこけているし、何よりも小柄だ。
モンスターと鉢合せしたら真っ先ににやられてしまいそうな雑魚感が漂っているけど。
「それは意外だな」
「みんなからそう言われやす」
ヨービスは照れくさそうに頭を掻きながら窯に薪をくべる。
その手に炭が着いていたので禿げ上がった頭が黒くなっていた。
「旅商人をやっていたってことは世界中を回ったのか?」
「ホワイトヘル地方を除いてすべての大陸を回りましたよ」
「それは凄いな。何か珍しい品を取引したことはあるか?」
「それはないでやす。あっしが扱っていたのは回復薬をはじめとする薬がメインでしたから。旅を続けているとけっこう役に立つんですよ」
ヨービスは薪をくべる手を止めて目を細めて遠くを見やる。
少し誇らしげな様子から察するに昔の自分の雄姿を思い出しているのだろう。
まあ、世界中を巡る旅をしていたのだから自慢していてもおかしくない。
「回復薬か。うちにはセリーヌがいるから持ってないな」
「プリ―ストさんがいるんでやすね。でも、回復薬があった方が何かと役立ちやすよ」
「回復薬と言えば歴史文化保存図書館のゴルナット博士からケシュナットの実をもらったんだけどいるか?」
「あっしにくれるでやんすか?」
「俺達は冒険者だからな。畑なんか作ってケシュナットを栽培出来ないからな」
どうせ持っていても何の役に立たないものだったのだから誰かにあげた方がいい。
ヨービスはかつては薬を扱っていた旅商人だったし、ちょうどいいだろう。
すると、ヨービスは申し訳なさそうに平謝りしながら断りを入れて来た。
「旦那からいただけやせん。あっしは既に旅商人を辞めていやすし、今は番頭として働いてやすから」
「そうか。なら、仕方ないな」
「でも、これだけは言えやす。ケシュナットの実は育てた方がいいでやすよ。繁殖力が高い植物でやすからすぐに畑になりやす。ケシュナットの花を収穫すれば大量の万能薬が作れやすよ」
「ゴルナット博士もそんなことを言っていたな」
まあ、機会を見つけて育ててみるのも悪くはないかもな。
「そうだ。旦那はエジピア王国へ行でやんすか?」
「これから向かおうとは思っているけど」
「それでしたらひとつ情報がありやす」
ヨービスは風呂の窓に顔を近づけて小声で話して来る。
「実はエジピア王国には魔王城へ通じる門があると言われてやすよ。誰も見たことはありやせんが、あっしは一度だけ見たことがあるでやす」
「魔王城へ通じる門?」
「魔王はゲートを通って世界の各地へ移動しているらしいでやんすよ」
「魔王か。存在は知っていたけどそんな方法で移動していたとは」
魔王はこの世界を裏から支配しようとしている悪魔だ。
およそ300年前に突然現れてモンスターを創り出して行った。
今、世界中にいるモンスターの半分は魔王が創り出したモンスターだ。
魔王が創り出したモンスターには共通として魔石が埋め込まれている。
魔石の魔力を使えば飛躍的にモンスターの力は増すからだ。
そのため魔石を破壊すればモンスターも消滅するのだ。
「魔王がそんなに近くにいるなんて驚きだな」
「これはあっししか知らない情報ですから他の人には話さないでくだせえ。街が混乱しても困りやすから」
「わかったよ。貴重な情報をありがとうな」
これでエジピア王国へ目指す目的がまたひとつ増えたことになる。
今の俺達では到底魔王に対抗できないけれどいずれ戦うことになるのだ。
ならば少しでも魔王に関する情報は得ておきたいところだ。
俺は風呂から上がると考え事をしながら部屋へ戻った。
部屋に戻るとゴウ達はすっかり夢の中だった。
蒸し暑い夜なので窓は開けっぱなしで夜風を入れている。
テーブルに乗っていた酒瓶には3分1だけ酒が残っていてグラスが転がっていた。
おそらく飲んでいる最中に眠気が襲って来てそのままベッドに着いたのだろう。
俺は新しいグラスに酒を注いで席に着いた。
「ぷー。風呂上がりの一杯は染みるな。ゴウ達の奴、風呂に入らなかったけれど大丈夫なのか」
ベッドに視線を向けるとゴウ達の寝息がリズムよく聞こえて来る。
楽しい夢でも見ているのかブツブツ寝言を呟きながら頬を丸くさせていた。
「こうやって気が抜けるのも久しぶりだな。いつもならおばさん達に気を使っているから」
窓から外を見やると王都デギオンの夜景が目に飛び込んで来る。
デギオン城にはポツリポツリと灯かりが灯りその荘厳な姿を夜の闇に映し出していた。
デギオン城の両側に立ち並ぶ2つの塔は天まで届きそうなくらい高く聳え立つ。
中央の建物の前には広大な庭が広がっていて幾何学模様に象られている。
ところどころに見える灯かりは衛兵達がデギオン城の警備をしている姿だ。
「もう少し時間があったらデギオン城でも観光したかったな」
このところ早足で旅を続けていたため観光らしいことはして来なかった。
ブルー・アイを売ったらその金でのんびり観光をするのも悪くはない。
まあ、それはエジピア王国まで行ってからの話になるが。
「シーボルト達は元気にしているだろうか」
イエローキャットを担保にとられて気を落としていたから心配だ。
マシューに幾分かの金を掴ませて来たが足りたのだろうか。
ハーベイ王国もそれなりに物価が高いから一文無しになっているかもしれない。
ブルー・アイを売った金が入ればイエローキャットも取り戻せるし借金も返済できる。
まずは、ブルー・アイを確実に金に替えることを優先させよう。
俺はグラスに残っていた酒をひと煽りするとグラスを置いてベッドに潜り込んだ。
酒が回っていたためか、すぐに眠りに落ちた。
王都デギオンの闇夜を2つの影が駆け抜ける。
夜の静寂に染み込むように物音を立てずに宿屋を目指す。
夜の闇に溶けるような全身黒ずくめの服を纏い、布で顔を覆い目だけを覗かせながら。
その腰には鋭利なタガーが2つ下げられ、背には長いマントをなびかせていた。
宿屋の前まで辿り着くとお互いの顔を見合わせてサインを送る。
そして目的の部屋の窓を目にとめると屋根の上まで高く飛び上がる。
その身軽さは人間の身体能力越えていてまるで野良猫のよう。
中にいる人間に気づかれないように背を壁につけながら窓から中の様子を伺った。
ひとりの刺客が指でサインを送った後、物音を立てずに部屋の中に入る。
続くようにもうひとりの刺客も速やかに部屋の中へ入って行った。
ベッドで大きないびきをかいてだらしのない格好をしているエレンには目もくれず、静かに寝息を立てていたセリーヌの所までやって来る。
セリーヌの姿を目にとめてから眠っていることを確認すると、腰に下げていたタガーに手を伸ばした。
セリーヌは2人の刺客の存在に気づくことなく小さな寝息を立てて夢の中にいる。
それはアンナ達も同じだったようで気持ちよさそうな顔でスヤスヤと眠っていた。
2人の刺客は目配せをしてサインを送り合うと鋭利なタガーを高く掲げる。
そして勢いのままセリーヌに目がけてタガーを振り下ろそうとした時、エレンががばっと起きて寝言を呟いた。
「まだ、私は飲めるぞ。もっと持って来い」
不意をつかれた2人の刺客はすぐさま屈んでベッドに身を隠す。
そして状況を静観しながら事態の収拾を見守った。
エレンは寝言を呟くなりバタリとベッドに横になって寝息を立てはじめる。
それを確認するなり、2人の刺客は再びセリーヌに向けて鋭利なタガーを高く掲げた。
今度こそ確実に仕留めるとお互いに視線を合わすと勢いよくタガーを振り下ろす。
と同時に掛け布団が2人の刺客を覆い隠して視界を奪った。
「ふん。寝込みを襲うなんて随分と手の込んだ歓迎ぶりじゃないか」
そう言い放ちながら目の前に立ちはだかったのは弓を構えたミゼルだった。
その物音で目を覚ましたセリーヌは2人の刺客を見るなり悲鳴を上げる。
「キャァァァァァ!」
「セリーヌ、落ち着け。ベッドから起きて後ろに下がれ」
セリーヌは言われるままベッドから抜け出るとミゼルの後方に隠れる。
2人の刺客は掛け布団を振り落とすとタガーを構えてミゼルと相対した。
「お前らはレオナルドの刺客か?」
「……」
2人の刺客はお互いに視線を合わせてからミゼルに向き直る。
ミゼルの質問に沈黙で応えたことから察するにそれはYESと言うことなのだろう。
「まあ、そんなことはどうでもいいがな。私達を襲ったことを後悔させてやる」
ミゼルは弓を深く引いて右に立っていた刺客に狙いを定める。
この距離ならば確実に仕留められるが、もうひとりを撃ち外してしまう。
隙を突かれて回り込まれればセリーヌの身が危ない。
すると、眠っていたアンナが只ならぬ気配に気づいて目を覚ました。
「何よ。私を置いて楽しもうっての?ミゼル、ズルいわよ」
「アンナか。アンナはそっちの左の奴をやってくれ。私は右の奴をやる」
「いいわよ。人と戦うのなんて久しぶりだわ」
アンナは右手を広げて前に突き出し魔法を放つ構えをとる。
それを受けて2人の刺客達が驚いたような顔で目を泳がせた。
まさか、こんな狭い空間で魔法を使うことは予想していなかったのだろう。
それにセリーヌを仕留め損ねたと言う焦りで頭がいっぱいだったようだ。
2人の刺客はタガーを構えたまま後ずさりしながら距離をとって行く。
そして窓のところまで近づくとお互いに目を合わせて合図を送り、隙を伺って窓から外に飛び出した。
「逃がすかよ!」
ミゼルは窓から飛び出して逃げて行く2人の刺客に狙いを定める。
そして弓を深く引くと同時に手を離して鋭い一撃を放った。
ミゼルの矢は夜の闇を裂くような一閃の光となって逃げている刺客の頭を捉える。
すると、刺客の頭が捥げて地面に転がり落ちた。
それを見るなりもうひとりの刺客は逃げる足を速める。
「お前も逃がさん!」
ミゼルは再び弓を構えるともうひとりの刺客に狙いを定める。
しかし、すでに遠くまで逃げられていて射程圏内から外れていた。
「私がやろうか?」
「アンナの手を借りるまでもない」
ミゼルが弓を引きながら精神を集中させて行くと鏃にキラキラとした粒子が集まって来る。
その粒子は鏃を包み込むように集まり、矢の殺傷力を高めて行く。
「落ちろ!」
ミゼルが弓を引いていた手を離すと矢は光り輝く軌跡を描きながら飛んで行く。
そして走り逃げていた刺客の右足を射抜いて刺客の足を止めさせた。
刺客は苦しそうなうめき声をあげながら地面に転がりもがいている。
それを目にとめるなりミゼルはアンナを連れて外に飛び出して行った。
俺達がセリーヌの部屋に向かった時には既にミゼル達が出て行った後でセリーヌがひとり立ち尽くしていた。
「セリーヌ。何があった?」
「レオナルドの刺客が襲って来たんです。刺客はミゼルさん達が追いかけていますわ」
「そうか。まさか、寝込みを襲って来るなんて迂闊だったよ」
これまで何にも音沙汰がなかったから警戒を緩めていたが、もっと警備を強化する必要があるな。
俺でなくセリーヌを狙って来たのだからセリーヌの命をとることが目的だったはずだ。
レオナルドもセリーヌが手に入らないと判断したから抹殺に舵を切ったのだろう。
それにしても番犬のトイプーは何をしていたんだ。
こう言う時に役立つものだろう。
不意にエレンのベッドを見やるとトイプーがエレンに抱かれて捕まっていた。
「そう言うことか。馬鹿犬め」
主の身も守れない犬なんて馬鹿犬からダメ犬に降格だ。
ただ飯を食っているのだからもっと役立ってもらわないといけない。
トイプーにはもっと厳しい訓練が必要なようだ。
そこへ刺客を追い駆けて行ったミゼル達が戻って来た。
「刺客は捕まえたか?」
「ダメだ。捕まるとわかるなり首を切って自害した」
「そうか」
「でも首は持って来たわよ」
そう言ってアンナは生血の滴る刺客の頭をテーブルの上に乗せた。
「わぁっ!そんなもの持って来るんじゃない!」
「これをレオナルドに送って手を引かせるのよ」
「そんな非情なことが出来るか」
「出来る出来ないじゃないわ。やるのよ。カイトだってセリーヌを守りたいんでしょう?」
「それはそうだが……」
ゴウ達もギョッとしていたがおばさん達は平然として刺客の首を袋の詰めた。
おばさんクラスになると人間の生首すら平気で扱えるようになるものなのか、アンナ達が常識から外れているのかわからないが。
結局、アンナの提案通り刺客の生首はレオナルド宛てにセレスティア王国へ送り返したのだった。
俺達はその足で王都デギオンを出立してゴートスの街へ急いだ。
次の刺客が襲撃してくるかもしれないから一刻も早くエジピア王国へ渡ることを最優先にしたからだ。




