あるある109 「恋バナを好物にしがち」
太陽が傾き西の空を茜色に染める頃、東の空からは夕闇がやって来る。
通りを行く人達は喧噪の中、足早に建物の中へと姿を消して行く。
王都デギオンが帳に落ちれば、そこは大人達の街へと姿を変える。
大通りに連なる露店からはいい匂いが立ち込めて来て道行く人達を誘う。
匂いに釣られてフラフラ吸い寄せられているエレンの首根っこを掴みあげ目的の酒場へ入った。
この時間になると酒場もだいぶ盛況になる。
冒険を終えた冒険者をはじめ、他の街から来た商人、仕事終わりの衛兵、馴染の街の男達が席を埋めている。
俺達は木製の丸テーブルが幾つも並べられてある酒場の隅のテーブルに着く。
カウンターに目を向ければ馴染の客なのかご機嫌で酒場のマスターをおしゃべりをしていた。
「よし、好きなだけ頼んでいいぞ」
「じゃあまずはビールで乾杯だな。おーい、店員さん。こっちの席にビールを8つ頼む!」
「はーい。ただいま!」
店内を駆け回っているウエイトレスの女性達は忙しそうに酒を運んでいる。
お店の制服なのかマスターの趣味なのかはわからないが、ウエイトレスの女性は紺色のメイド服のような服を着ている。
スカートの丈が短いので真っ白なおみ足が歩く度にチラチラと見える。
それを酒のつまみにして酔っ払いのオヤジ達がスケベそうな顔を浮かべていた。
「ああいう大人にはなりたくないな」
「変態のカイトに言われたんじゃ、お終いね」
「誰が変態だ」
スケベおやじ達を蔑むような冷ややかな見ているとアンナが暴言を吐く。
すかさずツッコミを入れるとみんなの視線が俺に集まった。
さも何か言いたげな様子で口を手で覆い隠す。
「何だよ、その顔は。俺が変態だって言いたいのか?」
「あったり前だろう。カイト以上の変態はこの世界にはいないからな」
「そうね。エレンの言う通りだわ。私もセリーヌみたいに襲われちゃうかも」
エレンとアンナは水を得た魚のようにはしゃぎながら俺をからかいはじめる。
普段は仲が悪いくせにこういう時だけ仲良くなるのは、まさにおばさんの特権と言えよう。
俺はエレンとアンナの頭を小突いて黙らせてからお酒を再オーダーした。
「お姉さん。こっちの席にビールを8つ。それとおつまみの枝豆を2皿、お願いします!」
「はい。ビール8つと枝豆2皿ですね」
ウエイトレスのお姉さんの復唱に頷いて応えるとウエイトレスのお姉さんは大きな声を出しながら厨房へ駆けて行って注文を叫んだ。
「ビール8つと枝豆2皿入りました!」
「生8つとマメ2つー!」
それに応えるように厨房の男達は独特の略称を叫びながら注文を確認し合う。
こういう風にみんなで叫ぶことで意思統一を図っているらしい。
その方がミスをする機会も少なくなるそうだ。
「で、それはいくらぐらいになりそうなの?」
「そうだな。ドラゴンオーブの時が金貨100枚だったから同じぐらいにはなるだろう」
「ドラゴンオーブですって!あなた達、今までいったい何をして来たのよ」
テーブルの上に乗せてあるブルー・アイを入れている袋を見ながら品定めをしていたアンナだったが、ドラゴンオーブと言う言葉を口にするとすぐさま食いついて来る。
さながら俺の胸ぐらを掴んでいる姿は集っている野郎どもを思わせるようだ。
俺はアンナの手を振り解いて落ち着かせると話の続きを伝えた。
「ゴルドランド王国の南東にあるマビジョガ島ってところでドラゴンオーブを見つけたんだ」
「それで。それで」
アンナは目を輝かせながら俺の話に食いついて来る。
「ただ、それはただのレプリカで一文にもならなかったんだ」
「何よ、期待させといて。偽物なんかに用はないわ」
急に興味を失ったのか、アンナは片手を振りながら追い払う動作をして素面に戻った。
「だけど本物のドラゴンオーブは見つけた」
「どうせそれも偽物なんでしょう?」
「それは本物に間違いない。ちゃんとこの目で確認したからな」
「なら、そのドラゴンオーブはどこにあるのよ?」
「それはだな……」
話の続きを教えようとした時にウエイトレスのお姉さんがビールと枝豆を持ってやって来た。
片手でビールジョッキを3つ持ちながら、もう片方の手にはお盆に乗せられた枝豆が2皿。
手慣れたようにテーブルの上に並べると残りのビールを取りに戻って行く。
アンナはビールを端に寄せると俺の胸ぐらを掴みあげ質問の続きをした。
「で、ドラゴンオーブはどこにあるわけ?」
「ドラゴンオーブはハーベイ王国の南西の沖合にいるマーメイドが持っている」
「マーメイトですって!」
俺の話を聞いて一瞬目を丸くするアンナだったがすぐに冷静さを取り戻す。
すると、隣で話を聞いていたミゼルが興味あり気に尋ねて来た。
「マーメイトって幻獣のマーメイドか?」
「そうだ」
「よりによってマーメイドが持っているなんて」
アンナが腕を組んで難しい顔をしているところにセリーヌが戻って来て話に加わる。
「私達も一戦交えましたけれどカイトさん達が魅了されてしまって大変でした」
「それに相手は海の上だ。近接戦の私達では戦いようがなかったぞ」
「エレンがいてそれならドラゴンオーブを獲れなかったのも頷けるわ」
はじめから俺は戦力外かよ。
確かにマーメイドの幻惑にかかって地獄に引きずり込まれそうになったが、それは俺だけじゃない。
シーボルトだってマシューだって同じだったんだ。
それにマーメイドの幻惑は男性に効果的なようだから幻惑にかかったのも仕方ないと言えよう。
「幻獣マーメイド。相手にとって不足はないが海上戦ともなると話は違って来るな。間接攻撃の私とアンナがいるから後方支援は十分だが、近接戦闘のエレンが使えないとなると一番の問題だ」
「私の氷の魔法で海面を凍らせればエレンも役に立つわよ」
「しかし、マーメイドは感覚に鋭い。氷の魔法を唱える前に海にでも逃げられてしまえば元もこうもないぞ」
「そうなったら海ごと凍らせてあげるわ」
アンナの魔力がどれほどなのかわからないが、海ごと凍らせるなんてことが出来る訳ない。
海は普通の水と違って塩分濃度が高いから凍らせるには温度を極限まで下げる必要がある。
酒の席だからテンションが上がって世迷言を吐いているのかもしれない。
乾杯はまだだったがすでにアンナ達はビールに口をつけていた。
「お前らな。いつからドラゴンオーブを取りに行くことが決まったんだ。俺達はドラゴンオーブよりもエジピア王国へ行くことの方が先なんだぞ」
「別に急ぐ旅じゃないんでしょ。なら、ちょっとぐらいいいじゃない」
「俺達は狙われているんだぞ。そんな悠長なことはしていられないんだ」
「誰に狙われているのよ?」
アンナは何が言いたいのと言わんばかりの顔をするが身を乗り出して質問をして来た。
その答えはもちろんレオナルドだ。
まだアンナ達には話していなかったからわからないのも無理はない。
俺はアンナ達にセレスティア王国でのことをはじめから話して聞かせた。
「へー。セリーヌに許嫁がいたなんてね」
「許嫁ではありませんわ。それはレオナルドが勝手に決めたことですから」
「カイトも気が気じゃなかったろう」
「何で俺を持ち出すんだ」
ミゼルはあえて俺に振って話を盛りあげようとする。
それを冷たくあしらうとミゼルは肩を竦めて小さくなった。
「まあ、カイトが焦っていたのは事実だ。レオナルドのことを忘れようとあの手この手を下していたからな」
「勝手に話を盛るんじゃない。ややこしくなるだろう」
まあ、おばさんってのはこう言う恋バナが大好物だ。
自分達が満足するためにありもしない話を盛り込みたがる。
そんなおばさん達の被害に合って来た若者は露知らず。
百害あって一利なしのおばさんには恋バナを与えてはならない。
「で、そのレオナルドってのがセリーヌを追い駆けるわけね」
「早い話がそう言うことだ。セリーヌが手に入らないのならば命をとる覚悟でいるようだ」
「セリーヌもとんだ奴に好かれたものだな」
「愛情が凶器に変わることはよくある話よ」
アンナがこれまでにどんな恋愛経験を積んで来たのかわからないが、自分が吐いた言葉を噛み締めるようにビールを煽った。
ひとり黙って話を聞いていたセリーヌは俯き加減でチビチビとビールを口に運ぶ。
もっとテンションが駄々下がりだったのはゴウ達、ソウル・べルの一面だった。
せっかくブルー・アイを手に入れて乾杯を楽しみにしていたところをこの話題になったのだ。
ビールには口をつけずに、ただひたすらと枝豆をつまんでいた。
「だから、わかったろう。俺達は一刻も早くエジピア王国へ行く必要があるんだ」
「だったらレオナルドの刺客を捕まえればいいんじゃない?どうせセリーヌを殺そうとしているんでしょ?なら、捕まえてレオナルドに突き返したら?」
「そんなことをしてレオナルドが手を引くとでも思っているのか?」
「引くんじゃなくて引かせるのよ」
アンナはビールをゴクリと一口飲んで思わせ振りな笑みを浮かべる。
アンナの頭の中にどんなプランがあるのかはわからないが思いもしないことを考えていることだけはわかる。
周りにいた俺達の顔をひとりひとり見つめると身を乗り出してプランを話して聞かせた。
「普通に捕まえて突き返しても意味がないわ。だから、頭だけ切り落として頭を突き返すの。頭がダメなら体の一部でもいいわ。そうすればレオナルドだって身の危険を感じるはずよ」
「そんな死神みたいなことが出来る訳ないだろう!」
「出来る訳ないじゃなくてやるのよ。カイトだってセリーヌを助けたいんでしょう」
「それは……」
アンナのプランは常軌を逸している。
普通の人間が考えることじゃない。
ただ、レオナルドにインパクトを与えることが出来るのも事実だ。
レオナルドの中ではセリーヌは少女のような小娘だから衝撃を与えられることは間違いない。
麗しいセリーヌが邪教に走ったかと勘違いすればセリーヌを捕まえることも諦める可能性がある。
しかし、今の俺達にそんな非道なことが出来るかが問題だ。
「アンナのプランは非道ではあるが、効果的であるのも間違いない。自身の身の危険を感じさせることが出来れば手を引かせることも簡単だ」
「だが、誰がやるかってことが問題だな」
俺達は沈黙の中それぞれの顔を見渡して確認し合う。
誰も頷くことはせずに俯いたまま沈黙で答えを返して来た。
それは当然の反応だ。
誰が好き好んで人の道を踏み外したがるものか。
人殺しをなんとも思っていない冷酷な人間でないと出来ないことなのだから。
すると、黙って話を聞いてたゴウが挙手をして口を開いた。
「俺達、ソウル・ベルには難しくてわからない話だが、人の道を踏み外すことはしない方がいいと思うぞ。いったん外れてしまうと留まることが出来ずにずるずると落ちてしまう。人間は楽な道を選ぶ生き物だからな。それに俺達はあくまで冒険者なのだから冒険者に相応しい行動をとるべきだ。カイトは勇者を目指しているのだろう?なら、わかるはずだ」
「俺は勇者を……」
「そうだ」
「忘れていたよ。ありがとうな、ゴウ」
ゴウの言葉で俺の中にあった迷いがすっきりと晴れ渡った。
俺達は冒険者なんだ。
人に脅しをかけるような悪党ではない。
レオナルドのことは問題ではあるけれどエジピア王国まで逃れれば大丈夫なはずだ。
「納得しているところ悪いけど、エジピア王国まで逃げればレオナルドが諦めるとでも思っている訳?許嫁を殺そうとしている奴よ。そんな簡単に諦めるとも思えないけど」
「それはそうですけれど、エジピア王国まで遠ざかればレオナルドだって迂闊に手を出せなくなります。エジピア王国とセレスティア王国は交易はありますけれど国交を結んでいませんから」
エジピア王国とセレスティア王国に歴史的に見ても繋がりはない。
物理的距離が離れているからと言うこともあるがエジピア王国は無宗教であることが大きい。
もともと魔導で発展して来たエジピア王国は飢饉や天災に見舞われても魔導の力で乗り越えて来た。
他の国のように神に縋ることなく自分達の力で問題を解決してきた実績があるから余計に宗教への傾倒はないのだ。
だから様々な民族達が集まる多民族国家を築いている。
ただ、魔導に関する者達が集まりやすく、王都デギオン程、多様化は進んでいない。
「セリーヌは一刻も早くエジピア王国まで逃れたいようだな」
「それはそうですわ。早くレオナルドの悪夢から逃れたいのです。それに私といっしょにいれば皆さんにも迷惑がかかりますから」
ミゼルの言葉を受けてセリーヌは訴えかけるように叫んでから、みんなの顔を見つめて俯いた。
責任感の強いセリーヌのことだからレオナルドのことがきっかけでみんなに迷惑をかけていることが申し訳ないと思っているのだろう。
俺達は仲間なんだからセリーヌの問題はみんなの問題だ。
カイト軍団が一致団結してレオナルド問題に対処するべきなのだ。
「それじゃあこの際、別行動をとりましょう。セリーヌはカイトとエジピア王国を目指して。私達はドラゴンオーブを回収してからエジピア王国を目指すわ」
「何を勝手なことを言っているんだ。俺達はチームなんだぞ。いっしょに行動しないでどうする」
「幻獣マーメイドを相手にするならば男であるカイトは邪魔になるわ。女である私達で行動した方が都合がいいのよ。それにセリーヌと二人っきりになれるチャンスじゃない。悪い話じゃないでしょう?」
「そう言うことを言っているんじゃない。お前達だけにドラゴンオーブの回収を任せるなんて出来ないんだ」
アンナはもっともらしい言葉を連ねて俺を説得して来るが素直には首を縦に振れない。
アンナ達の実力を信じていない訳ではないが、チームがバラバラになることは避けたいのが本音。
セリーヌと二人っきりになってしまった時にレオナルドの刺客から襲撃されたら俺の実力ではセリーヌを守り切れる自信はないからだ。
リーダーとしては情けないことだが自分の非力を認めることも大事なのだ。
「カイトはセリーヌを守り切れる自信がないんだろう?」
「……」
「自分が弱いことを認めることは大事なことだ。自惚れる奴にかぎって自分の力を過信し過ぎる奴が多いからな。カイトは素直に認めただけでも冷静なリーダーだと言える。自信を持っていいいぞ」
ここに来てのミゼルの言葉に救われる。
自分の実力の低さは日頃から痛感していただけにグッとくるような言葉だ。
ミゼルはチームの中でも一番の博識だから人の扱い方がうまいのだろう。
「それなら仕方ないわね。リーダーとしては頼りないけれど人としては正しいわ。ドラゴンオーブの回収はまた今度にお預けね」
アンナは大きな溜息を吐いてからビールを一煽りする。
そして枝豆をひと房取ると豆を押し出して口に運んだ。
アンナの性格から考えてドラゴンオーブをすんなり諦めたことは信じられないが本人がそう言っているなら信じるしかない。
まあ、ドラゴンオーブのありかは俺達しか知らないから他の奴に取られることもないだろう。
すると、それまで話しに加わっていなかったエレンがおかわりしたビールを片手に乾杯を催促して来た。
「ようやく話がまとまったか。それじゃあ乾杯しようぜ」
「ああ、そうだったな。話が激論してしまってつい忘れていたよ。ルミウス三世達も悪かったな」
「僕達のことは気にしないでください。皆さんの議論が聞けただけでもありがたいことですから」
「そうだな。俺達、ソウル・ベルはそこまで成熟していないからな。いつも俺が方針を決めればお前達ははすんなりと首を縦に振るしな」
「反論した方がいいですか?」
「たまにはな」
俺はどちらかと言うとそっちの方が楽でいい。
おばさんはとかく自分を押し出して来るから話がまとまらないのだ。
自分を中心に世界を回そうと考えているからお互いにぶつかり合う。
ぶつかってお互いに潰れてくれればまだいいのだが、這い上がって来るから余計に達が悪い。
おばさんをまとめると言うことは、この世で一番難しいことなのかもしれない。
そんなことを考えながら俺はビールを手に取り乾杯の音頭をとる。
「俺達の再会に。そしてブルー・アイの回収の成功に。乾杯!」
「「乾杯!」」
俺達は隣通しグラスを合わせて喜びを分かち合いながら乾杯をした。
さすがに乾杯をする前からビールを飲んでいたのですでにほろ酔い気分になっているが。
エレンはビールを一息で飲み干すとウエイトレスにおかわりを注文していた。
まあ、いずれにせよカイト軍団が全員揃ったことは嬉しいことだ。
近接攻撃がメインの俺とエレンだけでは戦闘の幅も狭くなるから苦労していたところだし。
間接攻撃がメインのアンナとミゼルが加わってくれたことで戦いの幅も広がるだろう。
これからの旅は楽になるかもしれない。
「それでカイト。ブルー・アイは誰に売り渡すつもりでいるんだ?」
「そうだな。ブルー・アイの価値がわかる奴がいいんだけどな」
「伝説の宝玉だし、その存在を知っている奴は少ないぞ」
ゴルナット博士に引き取ってもらうのもアリだが金にはならないだろう
ゴルナット博士は大金を持っているってタイプじゃなかったし研究の方が大事そうだったからな。
ブルー・アイを渡しても研究に没頭させるだけで終わりそうだ。
やっぱり高値で買い取ってくれる奴に売り渡した方が無難だ。
「いっそうのことゴートスの酒場にいた酔っ払いに売りたわしてみるか?情報をくれたのもあいつだし、ブルー・アイの価値をわかっているだろう」
「だけどな。見るからに金持ちそうではなかったぞ。俺達にくれた情報もどこからか盗んで来た話かもしれないしな」
俺の提案にゴウは眉をひそめて難しい顔を浮かべ、そしてビールを一煽りすると俺に視線を戻した。
確かにゴウの言う通り胡散臭い奴だったことは覚えている。
ボサボサの白髪交じりの髪を掻きむしりながら安い酒を煽っていた。
着ている服も着尽くした感があって裾もほつれていたのを覚えている。
見るからにどこにでもいるただの酔っ払いのおっさんにしか見えなかった。
俺達に話したこともすべて作り話だったのかもしれない。
シンポス地下神殿にはモンスターがいなかったし亡骸すらなかったのだから。
「やっぱり他をあたった方がいいかもな」
「だけどあてがないぞ」
俺とゴウの議論は膠着してしまう。
ブルー・アイを売り渡すならば市場やギルドへ持ち込む方法もある。
ただ、その場合はいい値で買い取られてしまうことがほとんどだ。
ブルー・アイの正当な価値をわかる者でなければ大金は得られることはないだろう。
すると、ほろ酔い気分のアンナが話に割り込んで来た。
「そんなの私に任せておきなさいよ。ブルー・アイを高額で買ってくれる奴を知っているから」
「本当か!」
「本当も何も私達もそいつに頼まれてブルー・アイを探しに来たんだら。ブルー・アイを持って来たら金貨100枚で買ってやるってね」
「マジかよ。金貨100枚だって。しばらく遊んで暮らせるじゃないか」
アンナの告げた金額にさすがのゴウも目を丸くして驚いている。
カイト軍団とソウル・ベルで分け合っても金貨50枚も手に入るのだ。
金貨50枚を稼ぐのにどれだけのクエストをこなせばいいのかを考えたら途方もない金額だ。
ルミウス三世達は指を折ながら金貨50枚を数えて興奮していた。
「だけど、そいつの身元は確かなんだろうな?」
「もちろんよ。聞いた話では強力な後ろ盾がいるって話だから問題ないわよ」
「後ろ盾ね……。貴族とかなんかなのか?」
「そこまではわからないけれど信用しても悪くはない話よ」
アンナは自信ありげに胸を張って言葉を並べる。
酒が回って気分がいいのかいつもよりも饒舌だ。
アンナの話が本当だとするとそいつにブルー・アイを渡すのが妥当だろう。
金貨100枚と言う正当な価格を提示しているし、後ろ盾もいるようだから信用しても悪くない。
「それでそいつはどこにいるんだ?」
「ゴートスの酒場よ」
「ゴートスの酒場?もしかしてあのおっさんじゃないだろうな」
俺は半目を開きアンナの顔をマジマジと見つめる。
ゴートスの酒場にいてブルー・アイの話をする奴なんてあのおっさんしかない。
アンナの言う人物がおっさんと同一人物であるのかわからないが嫌な予感が背中を走った。
「おい、アンナ。そいつはどんな身なりをしていたんだ?」
「どんなって。白髪交じりのボサボサの髪をした如何にも不潔そうな男よ。酒を飲んで酔っ払っていたけど話は本当だったわ」
「やっぱり」
俺の予感は的中した。
アンナに取引を持ちかけて来た男も俺達に情報を流したおっさんだった。
ただ、俺達が尋ねた時は後ろ盾の話はしなかったが何か理由でもあるのだろうか。
「カイトも知っているの?」
「知っているも何もそいつから隠しダンジョンの情報をもらったんだ」
「へぇー、偶然って恐ろしいわね」
恐らくそれは偶然ではないだろう。
あのおっさんはブルー・アイを手に入れたくていろんな冒険者に情報を与えていたはずだから。
俺達のその一人だったと言うだけのこと。
しかし、一番の問題はあのおっさんがブルー・アイを手に入れようとしていることの方だ。
ブルー・アイは高価な宝玉だからおっさんの後ろ盾の奴が入手しようとしているのはわかる。
ただ、その目的がわからない。
コレクションとして飾っておくことが目的なのか、他に売買することが目的なのか。
いずれにせりょ憶測はとりとめもないほど広がってしまう。
俺は何気にアンナに尋ねてみた。
「その後ろ盾がブルー・アイを手に入れようとしている目的は何だ?」
「そんなのわかる訳ないじゃない。きっと安く仕入れて高く売るつもりでいるのよ」
アンナらしい答えと言えるけれど、それはあながち的を射ていない訳でもない。
ブルー・アイの価値がわかる者に売れば金貨100枚を超える価格で売れることだろう。
差額分を稼ぐためにアンナに金貨100枚を提示したのだ。
もしかしたらその後ろ盾にとっては金貨100枚なんて小銭でしかないのかもしれない。
そうだとするならばその後ろ盾は相当な身分の人物だと予想が立つ。
王族に匹敵するかそれぐらいに高尚な貴族なのだろう。
「あのおっさんは只者ではなかったんだな」
「あのおっさんと言うより後ろ盾の方だけどな」
「まあ、私達は金貨100枚を手に出来れば十分なんだから問題ないじゃない」
「それもそうだな」
難しいことを考えるのはよそう。
俺達はあくまでブルー・アイと金貨100枚を交換することが目的だから、変な憶測はしない方がいい。
余計な干渉をしたばかりに取引が不成立になってしまえば元もこうもないからな。
それにブルー・アイを持っていたら後ろ盾から命を狙われるかもしれない。
冒険者達に情報を流してブルー・アイを手に入れようとしているのだから当然のことだ。
後ろ盾にとってはブルー・アイはよほど貴重なものなのだろう。
俺とゴウ、アンナが話に夢中になっている間にエレンはすっかり出来上がっていた。
ビールに飽き足らずワインやウイスキーにまで手を出してちゃんぽんしたようだ。
おかげですっかり悪酔いをして隣のテーブルの上に立ちながら酔っ払い達と飲みくらべをしていた。
「おい、誰だよ。エレンにあんなに飲ませた奴は」
「エレンさんが勝手に飲んだのですわ」
「私達は止めたんだぞ」
これだからおばさんに酒を飲ませるのは嫌なんだ。
周りの迷惑を考えず自分さえ楽しければいいなんて思っているから好き勝手する。
エレンの場合は拍車をかけるように手が付けられなくなるから心配していたんだ。
俺は隣のテーブルの上からエレンを引きずり下ろして注意をする。
「おい、エレン。ここは遊技場じゃないんだ。周りの迷惑を考えろ」
「何をいってるぅ。あいつらぁだって楽しんれるじゃらいか」
「そうだそうだ。まだ決着はついていないんだ。邪魔をするな!」
酔っ払い達は興奮しながら俺を制するように激しい言葉を投げつけて抑え込もうとする。
それに気をよくしたエレンはテーブルの上に乗っかって酒瓶を掲げた。
「おまえらぁ、しょうぶらぁ」
「そうこなくっちゃ」
「今度は俺が相手だ」
筋肉隆々の大柄の男が酒瓶を手にとってテーブルの上に立ち上がる。
そしてエレンと睨みあいながら酒瓶の酒を半分も飲み干してエレンを牽制する。
対抗するようにエレンも酒瓶の酒を3分の2を一気に飲み干して反撃した。
すると、飲み比べを見物していた酔っ払い達から歓声が湧き起る。
すっかり酒場はエレンと酔っ払い達の独壇場になっていて酒場は一体化していた。
「はぁ~。この後が思いやられる」
「カイトさん。いつものことですから」
セリーヌは俺を慰めるようにそっと肩に手を置いた。
この後、介抱するのは俺達の役割なんだから酔っ払うのもほどほどにしてもらいたい。
それに支払いが恐ろしい金額になりそうな予感がしていた。




