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おばさんクエスト~あるあるだらけの冒険記~  作者: ぱんちゅう
第四章 再開するおばさん編
109/361

あるある108 「損得で物事を考えがち」

ハーベイ王国の北東に位置する王都デギオンはレアース山脈を背に麓に広がるなだらかな盆地の中にある。

王都を取り囲むように山の峰が走り、自然の防壁を築いている。

この地形のためか王都を襲撃して来るモンスターも蛮族も少なく王都の警備体制は比較的緩い。


王都はゴートスの街の3倍ぐらいの大きさで中央後方にデギオン城が聳え立っている。

デギオン城を迎えるように立ち並ぶ建物は全て石造りで歴史を感じさせる雰囲気を漂わせている。

世界的に見れば王都デギオンの歴史は500年と浅いが王都の貫禄は備えていた。


防壁は王都を取り囲むように築かれていて門は正門のひとつのみ。

そこには武装を施した警備兵が常駐しており、王都へ入る者達の検閲をしている。

そのためか王都の入口には検閲待ちをしている商人達の行列が出来ていた。


「随分盛況だな。何か祭でもあるのか?」

「いつものことさ。入口がひとつしかないから仕方ないんだよ」


ゴウは馬車の御者台に座りながら手綱を引いて行列の最後尾に並ぶ。

その隣で俺は手を額に当てて覗き込むように行列の最前列を眺めていた。


「王都デギオンってどんな所なんだ?」

「多宗教の自由な都さ。過去の反省に立ち返り誰がどんな宗教を信仰してても咎めないことになっているんだ。だから、多様性が浸透して様々な民族も集まるようになった。世界的に見ても王都デギオンほど多民族が住んでいる都はないな」

「へー。なら過去の宗教戦争はあってよかったってことか」

「結果的に見ればだけどな。戦争なんてロクなもんじゃないさ」


2つの宗教がなくなるほどの悲惨な戦争だったのだ。

結果的にとは言え当時の信者達にとっては皮肉なものだろう。

多様性を認められず互いにいがみ合って戦争を起した。

背景にジパール教の存在はあったが戦争を起したのはサーメット教とハウベル教なのだ。

もしかしたらジパール教は両者の消滅を望んでいたのかもしれない。

当時のジパール教はセレスティア王国に留まらずゴルドランド王国へも勢力を広げていた。

勢力拡大のために宗教戦争へと誘導してハーベイ王国まで拡大することを目指していたのだろう。

そう考えればジパール教がサーメット教と繋がりを持ったことも頷ける。

まあ、いずれにせよ無宗教でいる方が生きやすいのかもしれないな。


「おい、カイト。まだか?」

「後、30分ぐらい待つかもしれない」

「そんなにか!待ちくたびれて疲れたよ」


エレンは狭い荷台に横になって足を伸ばす。

アンナとミゼルが加わったことで馬車の荷台も幾分か狭くなったように感じる。

後に追いやられているルミウス三世とマークニットは身を竦めながら小さく丸まっていた。


「ちょっとエレン。こんな所で横にならないでよ。邪魔だわ」

「気にするな。私は疲れているんだ」

「疲れているのは私達だって同じよ。自分だけズルいわ」

「なら、お前も横になればいいじゃないか」

「私はエレンのように神経が図太くないからね。みんなの迷惑を考えるのよ」


アンナは邪魔なエレンの足を押しやりながら自分のスペースを確保する。

負けじとエレンも足を伸ばしてアンナのスペースに侵入する。

そのしょうもないおばさんの喧嘩を横目に見ながらミゼルは本を広げて読書をしている。

セリーヌはと言うとトイプーを膝の上に乗せてあやしていた。


「おい、アンナ。エレン。喧嘩をするな。俺達は仲間なんだぞ」

「先に仕掛けて来たのはエレンじゃない。私に言わないでよ」

「お前の方が先だろう。嘘を言うな」


エレンとアンナはお互いの足で押しやりながら責任のなすりつけ合いをはじめる。

それを見かねて俺は2人に厳しい判決を下した。


「お前らは歩きだ。馬車から降りろ!」

「ちょっと冗談言わないでよ。この炎天下で歩かせるつもり?」

「お前らが喧嘩ばかりするからいけないんだ。さっさと降りろ」


アンナはひとりふて腐れていたが仕方なく馬車から降りて御者台の横に並ぶ。


「おい、エレン。お前もだ!」

「ふん。とんだとばっちりを受けたものだ。アンナといるとロクなことが起こらない」


エレンはブーブー文句を垂れていたが仕方なく馬車から降りた。

おかげで馬車の荷台はスペースが広がってルミウス三世とマークニットもようやく足が伸ばせるようになった。

すると、ゴウが呆れ顔で愚痴をこぼす。


「お前らってほんと騒がしい連中だよな。俺達、ソウル・ベルからは想像できない騒がしさだ」

「騒がしいのはおばさんの特権だからな。仕方ないのさ」


これが若い女性メンバーで構成されていたらこんなことはなかったかもしれない。

おばさんほど汚れていないし羞恥心もあるし学習能力も高いのだから。

これもそれも俺が『おばさんを惹きつける』特殊能力を開花させたのがツキだ。

一生この能力に悩まされるのだろう。

先のことを考えると気力も湧いて来ない。


「カイトぐらいだな。こんな風にエレン達をまとめられるのは。俺だったらすぐに白旗を挙げていたよ」

「俺だって好きでこうなった訳じゃない。仕方なくなんだ。そこを理解してくれよな」

「ハハハ。そうだったな」


冗談を言って悪いと思ったのかゴウは俺の肩に手を回して慰めて来た。

男同士だからわかる友情が俺とゴウの中に生まれた瞬間だった。


そんな押し問答をしている間に30分経ち俺達の順番が回って来た。

警備兵達はひとりひとりの身分証を確かめると荷台を検める。

そして2、3質問をして来た。


「お前達は冒険者か?それとも商人か?」

「そんなの見ればわかるだろう。冒険者だよ」

「ゴホン。これは形式的な質問だ」


俺のツッコミに警備兵はわかりやすく咳払いをして不機嫌になる。

まあ、警備兵達も仕事でやっているのだから仕方ないのもわかる。

ただ、しょうもない質問で時間を取られるのも気分が良くない。


「王都デギオンへ来た目的は何だ?」

「それはジパール教のだな……」


エレンがそこまで口走ったところでエレンを制して俺が答えを返した。


「歴史文化保存図書館へ用があるんだ」

「どんな用があるんだ?」

「歴史的に価値があると思われる品を寄贈するんだ」

「見せてみろ」


警備兵は俺の言葉に疑問を抱いたらしく鋭くツッコん出来た。

ここでジパール教の絵画を公にしたものならばそれはそれで問題だ。

まだ、俺達以外の者はこの事実を知らないのだから。

すると、すぐさまゴウが間に入って俺をフォローする。


「それは出来ないな。なんて言ったってまだ世間の目に触れてはいないものだからな」

「見せられないと言うのか?」

「ああ。こう言うのは秘匿しておく必要があるんだ」

「フン。まあいいだろう」


ゴウのおかげで何とかピンチは逃れられた。

余計な問題を抱えないためにも検閲では正直に話すのは止めておいた方がいいようだ。

警備兵達にジパール教の絵画を見せたところで理解しないとは思うのだが念のためだ。


「最後の質問だ。滞在期間は何日の予定だ?」

「一泊したら帰るつもりだ」

「随分と忙しいスケジュールだな。それじゃあ王都が楽しめないぞ」

「観光で来た訳じゃないからな。用がすんだら帰るよ」


警備兵は入場許可証にサインを押して俺に渡して来る。


「これは王都を出る時に必要になるからなくすなよ。なくしたら罰金をとるから注意するように」

「わかったよ」

「それじゃあ王都デギオンを満喫してくれ」


俺達は頑強に出来ている正門をくぐり抜け王都デギオンの中へ入る。

王都デギオンの中は喧噪で包まれていて人を縫うように街人が行き交っている。

そのほとんどは商人のようで馬車を引きながら市場へと足を運んでいた。


どの街でもそうだが交易の中心となる街にはたいてい大きな市場がある。

商人達はそこへ商品を持ち込んで売買をしている。

商品を買い付けるのは市場の仲買人で競りを行って値を決めている。

買い付けられた商品は仲買人を通して馴染の商店に運ばれる仕組みだ。


俺達は市場に用はないのですみやかに歴史保存図書館へと向かう。

途中、酒場が目に入るとエレンが一杯と迫って来たがすぐに却下した。

昼間から酒を飲むのはロクでもない人間のすることなのだから。

まあ、用がすんだら酒場に寄って乾杯をしようかとは思っている。

まだアンナ達との再会の祝杯はあげていないし、クエストクリアの祝杯もあげていないからな。


「あれが歴史文化保存図書館か?」

「そうだ。デカいだろう」


歴史文化保存図書館はデギオン城に次ぐ大きさを誇る建物だ。

3階建てと高さはないが横に広がっていて敷地ギリギリまで建物がある。

建物はシンメトリーになっていて中央に円柱状の図書館が広がっている。

その書庫には世界中の歴史文化に関する書籍がぎっしりと収まっていた。


歴史文化保存図書館の前に警備兵はおらず誰でも自由に入れるようになってる。

だから、学習目的で来る若者や子供、お年寄りで溢れかえっていた。


俺達は中央にある正面玄関から中に入り、階段を上り2階を目指す。

向かって左の建物が歴史に関する研究者たちの研究室になっていて、向かって右側が文化に関する研究者たちの研究室となっている。

その一階は資料室になっていて二階は研究室、そして三階が保管庫になっている。

ジパール教の絵画は歴史に関する品なので左側の建物を目指した。


「それにしても豪勢な造りだな」

「歴史文化図書館の名に恥じないように国も力を入れているんだよ」


床にはレッドカーペットが敷かれて廊下の所々にガラスケースに入った調度品が並べられている。

そのどれもにみごとな彫刻が施されていて歴史の長さを思わせる雰囲気を漂わせている。

ここに並べられているのはすべてハーベイ王国で産出された品だとのことだ。


「ここにあるモノを売っても大した金になりそうにもないね」

「不届きなことを言うな。こう言うものにはお金に替えられない価値があるものなんだ。お前にはわからないかもしれないけどな」

「わからないわよ。お金にならないものを集めるなんて私には出来そうにもないわ」


アンナは興味なさそうに調度品から離れるとさっさと目的の研究室へと足を進める。

俺達が目指しているのは歴史文化保存図書館の一番優秀な考古学博士の部屋。

ちょうど左側の建物の二階の中央の大部屋が博士の部屋になっている。

博士の部屋の前まで来ると両開きの大きな扉が俺達を待ち構えていた。


「ゴルナット博士はおりますか!」

「……」

「博士!博士に用があって来ました!」

「……」


両開きの扉をノックしながらゴウが呼びかけてみるが全く返事がない。

ただ、カチャカチャと言う物音だけが微かに聞えて来る。

何をしているかまではわからないが部屋の中に誰かがいることは間違いない。

俺は恐る恐る扉のノブに手を掛けて静かに扉を開けてみた。


「お邪魔しまーす」


部屋の中を埋め尽くすほどの大量の本が積み上げられて小さな要塞を作っている。

本には埃が被っていて長い間、そこだけ時間が止まったかのような雰囲気を作っていた。

丸くくり取られた要塞の中から灯かりが漏れていて背景の本の山に大きな影を映し出している。

さながらその光景は森の奥に住む魔女が秘薬を作っているかのようだ。


「ゴルナット博士、いますか?」

「むぅ。誰じゃワシの名を呼ぶのは……」


小さな要塞の中から出て来たゴルナット博士は無精髭を伸ばし放題伸ばしてだらしのない格好をしている。

ボサボサに伸びきった白髪は脂ぎっていて何日も風呂に入っていないことが伺えた。


「誰じゃお主らは?」

「俺達はゴルナット博士に見てもらいたいものがあって来ました」

「ワシは研究で忙しいのじゃ。くだらんことで呼び出すんじゃない」


取りつく島もなくゴルナット博士は邪魔な俺達を追い返そうとする。

研究に没頭したいと言う気持ちはわからないでもないが、これが客に対する態度と言うならばいただけない。

それに俺達が持って来たジパール教の絵画は歴史を覆すほどの価値があるものなのだから。

ゴウは荷物袋からジパール教の絵画を取り出してゴルナット博士に差し出した。


「何じゃ、ジパール教の絵画じゃないか。こんなものどこにでもある」

「これはシンポス地下神殿で見つけたものです」

「ふん。こんなものどこにでもある贋作だ。それにシンポス地下神殿はサーメット教の神殿じゃぞ。そんなところにジパール教の絵画があるものか。嘘をつくならもっとマシな嘘をつけ」


ゴルナット博士はチラッと絵画を見ただけでゴウに突き返して来た。

不機嫌そうに頭を掻きむしりながら、すぐに要塞に引っ込んでしまう。

これが歴史文化保存図書館一の考古学者の態度かとため息が零れるがゴウは諦めずにゴルナット博士に食いつく。


「博士。このサインを見てください。これは当時のセレスティア国王のサインですよね?」

「何じゃ。ワシは忙しいんじゃ……」


ゴウがゴルナット博士の前に絵画を差し出すと博士の視線がサインへ集中する。

そして目をこすりながら絵画に記されていたセレスティア国王のサインを見つめる。

すると、何か思いついたのか要塞の中からセレスティア王国の文献を持って来て本に記されているサインと絵画のサイン見比べはじめた。


「これは間違いない。当時のセレスティア国王のサインじゃ。お前達、これをいったいどこで?」

「だから言ったろう。シンポス地下神殿だって」


呆れて答えるエレンの顔とジパール教の絵画を交互に見つめながら信じられないような顔を浮かべる。

そしてゴウからジパール教の絵画をはぎ取ると興奮ながら質問をして来た。


「これは歴史的大発見だ!ジパール教がサーメット教と繋がりがあったなんて!他に何かなかったか?」

「ジパール教の模様が描かれているレッドカーペットがあった」

「そうか!そうか!まだまだシンポス地下神殿にはお宝がありそうだ!さっそく調査に出掛けなければ」


ゴルナット博士はすっかりご機嫌になって満面の笑みを浮かべている。

この部屋に俺達がいることなんて目に入らずにひとり興奮をしている。

要塞の中から小汚いリュックを取り出すとランプや地図やらツッコんで旅立ちの準備をはじめた。

その様子を後ろで見ていたアンナはぺろりと舌なめずりをしてゴルナット博士に吹っ掛ける。


「その絵画を渡したんだから見返りに報酬をちょうだい」

「報酬か。報酬ならいくらでもやる。ただし、その前に調査の方が先じゃ」

「私達には時間がないの。今すぐちょうだい」


アンナは掌を差し出してゴルナット博士にお金をせびる。

見かねた俺はアンナの頭を小突いてその手を引かせた。


「ちょっと、カイト。邪魔しないでよ」

「俺達はこの絵画を寄贈することに決めただろう。だから報酬はもらわない」

「何を勿体ないことを言っているのよ。博士だっていくらでも報酬は払うって言っているのよ。なら、もらったほうが得じゃない」

「損とか得とか言う話じゃない。これは俺達のプライドの問題なんだ。俺達はトレジャーハンターとは違うんだ。だから諦めろ」


俺の説得にも応じずにアンナは一歩も引こうとはしない。

とかくおばさんと言う生き物は損得でも物事を考えがちだから困る。

損になることは一切しないが、得になると言うだけで腹を空かせた野良犬のように飛びかかる。

それがたとえ小さな得であっても一歩も引かないのだ。

徳を重ねれば天国に行けると言われている宗教もあるが、この得は徳とは違うのだ。

積み重ねても無駄に肥えるだけだ。

まるでおばさんのお腹のように。


「タダでもらうのは悪い。代わりにこれと交換するのではどうじゃ?」


ゴルナット博士が差し出したのは固い表皮で覆われた何かの種。

揺すってみるとコロコロと中の実が転がって小さな音を立てる。

見た目はドングリのようで重さもそれほどない。


「何ですか、これ?」

「ケシュナットの種じゃ。それを育てればケシュナットの花が咲く。花からは万能薬に使われるミキュアと言う成分が採れる代物じゃ。繁殖性が高いからすぐに農園を開けるまでになるぞ」

「そんなものいらないわよ。それよりお金をちょうだい」


アンナはあくまでゴルナット博士にお金を払わせたいようだ。

今も借金の取り立て屋のような振る舞いでゴルナット博士に迫っている。

俺はアンナの髪を引っ張ってゴルナット博士から引き剥がした。


「お前が入ると話がややこしくなる。下がっていろ」

「カイト。後で後悔するわよ」

「お前とは違うんだ。後悔なんてするかよ」


俺はゴルナット博士からケシュナットの実を受け取ると丁重にお礼を述べる。


「これはありがたくいただいておきます。博士も調査を頑張ってください。これはシンポス地下神殿の地図です」

「これで調査もだいぶ捗りそうじゃ。ワシの手で歴史を覆す論文を書いてみせる」


ゴルナット博士はガッツポーズをして気合を入れると意気揚々と研究室を後にした。





俺達はその足でギルドへ報告をすませに向かう。

ギルドは大通りから左に曲がった通りの先にある。

外観はこれと言った特徴はなくどこにでもありそうな店構えだ。

酒場も併設されていないので純粋に冒険者達が集まるようになっている。

扉を開けて中に入ると大きな荷物を抱えた冒険者で溢れていた。

ギルドには似つかわしくない荷物の量だけれどこれから旅行にでも行くのだろうか。

俺がそんな疑問を抱いているとゴウが説明してきた。


「あいつらはみんなシンポス地下神殿に向かう連中だ。俺達と同じでブルー・アイの話を聞きつけたのだろう」

「今頃行っても遅いけどな」


ニタリと笑みを浮かべて袋に入っているブルー・アイを両手でつかむ。

ここであいつらに俺達が先に見つけたことを宣言してもいいが止めておこう。

ブルー・アイに目が眩んで奪い合いになるかもしれないからな。

ブルー・アイを金に替えるまでは慎重に物事を運んだ方が無難だ。

俺達は冒険者達を掻き分けてギルドの受付へ向かった。


「はい。いらっしゃいませ。今日はどんな御用入りでしょう」


明るい栗色の長い髪を肩で切りそろえ、毛先をくるっと外にカールさせている今どきのヘアスタイルをしているギルドの受付嬢はニコリと笑顔を浮かべてくる。

物腰が柔らかく年齢は20代前半だろうか。

茶色の澄んだ瞳は余計に純真さを感じさせる小動物のような可愛らしい目をしていた。


「シンポス地下神殿の調査報告をすませたい」

「シンポス地下神殿の調査のクエストですね。少しお待ちください」


そう言ってギルド嬢は山積みにされた書類を捲りながらクエストの進捗状況を確かめる。

クエストは基本、いつでも誰でも受領できる仕組みになっているから早く受領した冒険者に先を越されていることもある。

特にダンジョン調査のクエストは顕著で早い者勝ちになることが多い。

そのためクエストをクリアした情報は速やかに他の街のギルドへ報告される仕組みをとっているのだ。

ギルド嬢はクエストの進捗状況が記された書類に目を通して告げた。


「まだクエストをクリアした冒険者はいませんからクエストは有効です」

「ルミウス三世、あれを」

「これですね」


ルミウス三世が書いたシンポス地下神殿の構造図を求めるとルミウス三世はリュックから構造図を取り出してギルド嬢へ差し出した。

ギルド嬢は構造図が書かれた用紙を広げると目を通して確認する。

そして受付の奥の大きな机についているギルドマスターの所へ持って行って確認をお願いした。


ギルドマスターは大柄の大男で豊かな髭を蓄えた40代ぐらいの男性。

ツナギのような服をを纏い袖を捲り上げて隆々とした筋肉をさらけ出している。

その腕には何かの模様の描かれた入れ墨が手首から腕の付け根まで入っていた。

見るからにして大物であることは、その風貌からしてわかった。


ルミウス三世の書いたシンポス地下神殿の構造図と歴史書に書かれてある構造図を見比べて吟味している。

歴史書に書かれてあるシンポス地下神殿の構造図はこれまで発見された文献から復元したものだ。

だから、実際に近い形で忠実に復元されている。

シンポス地下神殿は歴史上、サーメット教の信者達の手によって建造されていることがわかっているから、こう言う検証方法がとられている。

しかし、他のダンジョンの場合は別で他の検証方法がとられているのだ。


ギルドマスターはしばらく吟味した後、クエストの書類にギルドマスターの実印を押印をした。


「お待たせしました。確認がとれました。シンポス地下神殿の調査のクエストはこれで完了です。報酬の銀貨5枚です」

「銀貨5枚!随分とシケているじゃない」

「このクエストはこの報酬でやらせてもらってますから」


少ない報酬に不機嫌になるアンナを見てギルド嬢は困惑しながらたじろぐ。

アンナの場合はどんな報酬を受け取ったところで文句ばかり言うのだ。

そうやって不機嫌になって相手を責めて値を釣り上げようとする強かな作戦をとっているのだ。

俺はアンナを後ろに追いやってギルド嬢から報酬を受け取る。


「ありがとう。助かったよ」

「またのご利用をお待ちしてます」


丁寧に頭を下げて来るギルド嬢に見送られながらギルドを後にした。


「報酬も頂いたことだし、次は酒場だよな」

「そう焦るな。酒場は逃げやしないよ」


エレンは目の色を変えながら腹を空かせている野良犬のような顔で酒をねだる。

それを押しやって俺はゴウに報酬の取り分について確認をとった。


「ゴウ。報酬の取り分のことなんだけど……」

「俺達は今、共同戦線を張っているんだ。取り分のことは後でいいよ」

「そうか。銀貨5枚じゃ割り切れないし、どうしようかと思っていたんだ」

「なら、酒場でいっぱいやろうぜ」


エレンは俺とゴウの肩に腕を回して酒場の方向へ足を向ける。


「わかったよ。エレンの言う通り酒場でいっぱいやるぞ」

「そうこなくっちゃ!」


急にご機嫌になったエレンはひとり小躍りしながら酒場へ歩いて行く。

その姿を見送りながら呆れ顔で俺は大きな溜息を吐いた。


「それでは私が宿屋の手配をして来ますわ」

「いいのか?セリーヌ」

「こう言うことが出来るのは私ぐらいですからね」

「それじゃあ頼むよ。安い宿でいいからな」


セリーヌは俺達と別れてひとり宿探しに向かう。

すると、やり取りを見ていたアンナが冷やかして来た。


「カイトもいっしょに行ったら。二人きりになれるチャンスよ」

「俺はリーダーだからそんなことはしない。それよりお前が行けよ」

「私?私はそんな柄じゃないわ。ああいうのは気の利くセリーヌの仕事よ」

「お前は面倒くさいだけだろう」


それは俺も同じだが今は黙っておこう。

それよりも酒場に美味い酒があるのかの方が大事だ。

エレンじゃないけれど一杯やるなら美味い方がいいからな。

俺達は大通りに面しているとりわけ大きい酒場に足を向けた。


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