あるある107 「白熱な議論をしがち」
まず議題に上がったのがブルー・アイをどうするかと言うこと。
一番最初に見つけたのはルミウス三世だが獲ったのはセリーヌだ。
順当に考えるならばルミウス三世に7割、セリーヌに3割と言う配分になる。
ただ、俺達はひとつのチームなのだから山分けにするべきだろう。
「ブルー・アイを売った金の取り分は山分けにすることに決定します」
「もちろん私達にも取り分はあるのよね?」
「そこ!ルールはちゃんと守ってください」
アンナはバツが悪そうな顔をしながら仕方なく挙手をする。
「はい。アンナ君」
「私達も貢献したんだからもちろん取り分はあるのよね?」
それが一番の問題だ。
カイト軍団3人とソウル・ベル3人を合わせて6人。
そこにアンナとミゼルまで加わったら8人になってしまう。
山分けにすれば当然ひとりあたりの取り分が少なくなる。
もし、仮にブルー・アイが金貨100枚で売れたとしたら、ひとりあたり金貨12枚と銀貨5枚だ。
それでも取り分としては十分だと思えるが、6人で割ったとしたら金貨16枚と銀貨6枚だ。
その差は金貨4枚と銀貨1枚。
金貨4枚と銀貨1枚を稼ぐのにどれだけのクエストをこなせばいいのか考えると惜しい。
これはもっと効率的な代替案を考えた方が良さそうだ。
すると、今度はゴウが挙手をして発言権を得た。
「はい。ゴウ君」
「俺達はチームで行動しているから分け前はチームでもらいたい」
その手があったか。
チームで取り分を分ければ半分も頂けることになる。
ひとチームあたり金貨50枚だ。
どうせおばさん達に分け前を渡しても無駄遣いをするだけだから、この際チームでお金を管理した方がいい。
俺はゴウの提案を速やかに受け入れて判決を下した。
「では、カイト軍団とソウル・ベルとで取り分を分けることに決定です!」
「ちょっと。それじゃあ私達の取り分の割合が少ないじゃない!」
「そこ!ルールは守ってください」
俺の判決にすぐさま反応したアンナはルールを破って発言をして来る。
それをすぐさま断罪してアンナの発言を取り消した。
すると、不服そうな顔を浮かべながら文句たらたらと挙手をする、アンナ。
「はい。アンナ君」
「カイトの決断だと私達の取り分の割合の方が少ないじゃない。そこはどう考えているのよ」
「それはこの際伏せておきます。どうせあなた方にお金を渡しても無駄遣いをされるだけですから、私がお金を管理をします」
図星をつかれてバツが悪いのかアンナは顔を伏せて観念した。
次いでミゼルがルールにのっとって挙手をして発言権を得る。
「はい。ミゼル君」
「取り分の配分はわかったがブルー・アイは売る方向で決まりなのか?」
「私達がブルー・アイを持っていても仕方ないですからね。売ってお金に替えた方が為になります」
はじめからそのつもりで冒険をして来たのだから何も問題はない。
それはもちろんミゼル達だって同じだっただろうからな。
それにブルー・アイの使い道がわからないから持っていても仕方がないのだ。
「それでは判決です。ブルー・アイを売って取り分はカイト軍団とソウル・ベルで分けることに決まりです。意義のある者は挙手をしてください」
俺が判決を下すと一同は沈黙を保って静かに頷いた。
もちろんこの判決に不服を唱える者などいない。
若干アンナが不満そうな顔をしていたが挙手はしなかった。
それもそうだろう。
こんな見事な判決に不服を唱えることこそ罪なのだ。
「書記のセリーヌさん。ちゃんと議事録は残しておいてくださいね」
「わかりました。裁判長」
いつ書記になったのかはわからないがあたり前のように仕事をこなす、セリーヌ。
文句をひとつ垂れることもなく議事録を詳細にとって行く。
真面目なセリーヌには一番合っている仕事のようだ。
「では、次の議題に移ります」
次の議題はシンポス地下神殿の宝物庫で入手したジパール教の絵画をどうするかだ。
ハーベイ王国の王都にある歴史文化保存図書館に持ち込むことが一番いいのだろうが、売ると言う手もある。
それに歴史が大きく変わることだけに世の中に明らかにするべきかも課題だ。
そのまま何もせずに俺達の中だけに留めておく方法もある。
この議題は慎重に話を進めなければならない。
「シンポス地下神殿の宝物庫で手に入れたジパール教の絵画をどうするか決めましょう」
「裁判長!」
その議題にすぐさま反応をしたのはゴウ。
すみやかに挙手をして発言権を求めて来た。
「はい。ゴウ君」
「俺は歴史文化保存図書館に持ち込むべきだと思う。今、世の中に知られている事実は真実ではない。歴史は間違って伝わっていることが多い。だから真実を知った俺達の手によって明らかにするべきだと思う」
自信をもって主張するゴウには一切迷いがない。
真っすぐに裁判長である俺を見つめて堂々としていた。
すると、金の匂いを嗅ぎつけたアンナが挙手をして発言権を求めて来た。
「はい。アンナ君」
「そんなお金にならなことは反対だわ。その絵画は歴史を覆すものなのでしょう?なら、売るべきよ。売ってお金に替えた方が為になるわよ」
さすがは金の亡者。
考えることは金のことだけだ。
今も目を輝かせながら物欲しそうにジパール教の絵画を見つめている。
「裁判長!」
「はい。ゴウ君」
「どうせ絵画を売ったところで世の中に明らかになるんだ。それなら俺達の手で明らかにする方がいい。これは名誉や名声のためじゃない。人として当然のことをしようとしているだけだ」
ゴウの全うな発言に感化されたのか一同は口を噤んで横槍を入れない。
ルミウス三世やマークニット、エレンやミゼルまで。
ただ、ひとり納得していないアンナを覗いてはだが。
「はい!はい!」
「はい。アンナ君」
「そんな格好をつけて誰が喜ぶのよ。人の正義かなんだか知らないけれど、お金より大切なことなんてないわ。売るべきよ。絶対に売るべきだわ!」
アンナは凄い剣幕で捲くし立てるがその意見に賛同する者は誰ひとりいない。
この議場にいる全ての者はゴウの意見に賛成なようだ。
「この議題には反対者もいるようです。ですから多数決で判決を下したいと思います。ゴウ君の言う通り歴史文化保存図書館へ寄贈すると言う意見に賛成の者は挙手してください」
俺の発言を受けてすみやかに挙手をして意思表示するゴウ達。
しかし、手を挙げたのはゴウとマークニットとエレンとミゼルの4人だけだった。
アンナはもちろん反対だと言うことはわかるがルミウス三世が挙手をしなかったのはいったいどう言うことか。
それはすぐに知ることとなった。
「裁判長さん!」
「はい。ルミウス三世君」
「僕はこの絵画は封印するべきだと思います。この絵画を世の中に明らかにしてもジパール教がサーメット教と繋がりを持っていたと言うことだけしかわかりません。それは歴史的に見れば大きいことかもしれませんが、サーメット教が奴隷制度を取り入れていた悲劇も明らかになるのです。それでは奴隷になっていたハウベル教の信者達が浮かばれません。だから、僕は永久に封印するべきだと思います」
ルミウス三世は堂々とかつ真っすぐな視線で全うなことを述べる。
その主張には迷いがなく人道的な立場で物事を判断しているようだった。
「裁判長!」
「はい。ゴウ君」
「ルミウス三世の言いたいことはわかるが、それならば余計に明らかにするべきだと思う。ハウベル教の信者達が虐げられていた事実を明らかにすることでハウベル教の信者達の魂を解放させてやるべきだ。隠しダンジョンにハウベル教の神殿を造るぐらい追い込まれていたんだ。真実を知った俺達がやるべきことは決まっている」
ゴウも一歩も引くことなく自身の意見を主張する。
二人の意見が全うなだけに評議員のエレン達も頭を悩ませていた。
ただひとりアンナは興味なさそうな顔で緊張感もなく欠伸をしていた。
「ここで二人の主張がされました。評議員の方々からも意見を聞きましょう。エレン君」
「お、おい。私は挙手していないぞ」
「これは裁判長の判断で発言権を与えたものです。ですから答えてください」
「そうだな……私は難しいことはわからないけれど、ゴウの意見に賛成だ」
「その理由は?」
「そんなことわかるかよ!」
俺のツッコみに明らかに不機嫌になったエレンはわかりやすいリアクションをとって黙り込む。
まあ、エレンに全うな意見を求めたところで何も返って来ないことははじめからわかっていたけれど、これはれっきとした真面目な会議なのだ。
意見を平等に求めることは必要だ。
続いて俺はミゼルに発言権を与える。
「ミゼル君はどう考えていますか?」
「ルミウス三世が主張するように虐げられていたハウベル教の信者達の魂を解放させることが真実を明らかにすることだとは一概には言えない。あえて闇に伏せることも必要だからな。私はエルフだからハウベル教の信者達の気持ちがわかる。エルフもかつては人間達に虐げられて来たからな」
ミゼルの過去にどんなことがあったのかは推測できないが何か秘めているようだ。
今はそれを明らかにする時ではないので、おいおい聞いて行くことにする。
これで意見は真っ二つにわかれた。
ゴウの主張に賛成するエレンとルミウス三世の主張に賛成するミゼルとに。
後はマークニットとアンナの意見だがアンナに意見を求めても無駄だろう。
金のこと以外には全く興味を抱かない性格なのだから。
「マークニット君の意見を聞かせてください」
「俺は……」
マークニットが意見を述べようとすると一同の視線がマークニットに集中する。
ここでマークニットがどう答えるかで判決が分かれるだけに評議員の関心もひとしおなのだ。
マークニットは評議員の顔を一通り見回してからおもむろに口を開いた。
「俺はリーダーの意見に賛成です。ルミウス三世の主張もわかるけれどやっぱり真実は明らかにするべきだと思う。真実が明らかになった後、どう判断するのかはそれぞれだ。賛成があったっていい、反対があったっていい。それが今を生きる人達の本当の意見なのだから」
「貴重な意見をありがとうございます。それでは判決をします。ゴウ君の意見に賛成の者は挙手をしてお答えください」
俺が判決を迫るとゴウとエレン、マークニットの三人が手を挙げた。
ルミウス三世とミゼルは沈黙を保って答えを示す。
予想通り3対2でゴウの意見が採用決定だ。
「それでは判決です。シンポス地下神殿の宝物庫で手に入れたジパール教の絵画はハーベイ王国の歴史文化保存図書館に寄贈することに決定しました」
議場には安堵のため息と残念のため息が入り混じる。
熱烈した議論だっただけに評議員の気持ちも昂っていたのだろう。
ただひとり無関心なアンナを覗いては。
そして最後の議題に移る。
「次は本日最後の議題になります。ここ隠しダンジョンにあるハウベル教の神殿の存在を明らかにするかどうかです。すでにハウベル教の白亜の塔はセリーヌさんの手によって破壊されてしまいました。歴史的価値からみれば現存を保つことが大切なのですが、今ではそれもかないません。それを踏まえた上で考えてください」
俺の説明を聞いていたセリーヌの顔が真っ青になって行く。
居心地の悪そうにソワソワしながら残骸になり果てた白亜の塔を見つめていた。
どことなしか議事録をとっているペン先も細かに震えて文字がガタガタしている。
今頃になって自分のしでかしたことの重さを痛感しているようだった。
するとゴウが静かに手を挙げて発言権を求めて来た。
「はい。ゴウ君」
「これこそルミウス三世が言うように封印させておくべきなのではないのか。ジパール教とサーメット教の繋がりが明らかになっただけでも歴史的に見れば十分だ。ハウベル教の信者達の聖地をわざわざ汚さなくてもいいだろう」
ゴウは意外な主張をして来た。
前の議題では真実を明らかにすることに固執していただけに驚きを隠せない。
それはルミウス三世も同じだったようで驚きの顔を浮かべながらゴウを見つめていた。
「議長!」
「はい。ミゼル君」
「ゴウの主張もわかるが白亜の塔はもう崩壊しているんだ。この事実をどう説明するつもりだ?まさか私達がやったと説明するつもりじゃないよな」
ミゼルは最もな疑問を投げかけて来る。
確かにハウベル教の白亜の塔を破壊したことは大問題だ。
現存で残しておくからこそ価値があるのに今は見る影もないのだから始末が悪い。
これもそれもセリーヌが取り乱したことが原因なのだけれど。
セリーヌは終始俯きながら俺達とは視線を合わせないようにしていた。
すると、ルミウス三世がセリーヌに助け舟を差し出して来た。
「はい。ルミウス三世君」
「はじめから壊れていたことにしたらいいのではないでしょうか。造られてからだいぶ時間が経っているようですし、自然に崩壊していてもおかしくありません」
その主張にマークニットが反論して来る。
「はい。マークニット君」
「だけど、自然に壊れたにしてはあまりに不自然じゃないですか。粉々に崩壊しているなんて明らかに人の手が入ったかのように思われるのがオチですよ」
マークニットの指摘にその場にいた誰もが反論することを諦めた。
どこからどう見てもマークニットの主張するように人が壊したとしか思えないからだ。
セリーヌは感情が高ぶって思わずやってしまったことなので今さら責任を追求するつもりはないがセリーヌは深く反省していたようで黙って評議員の発言を聞いていた。
「エレン君はどう思いますか?」
「私?そうだなまあ、そのままでいいんじゃないか。そう言うことにしておくのが一番だ」
エレンは興味なさそうな顔で投げやりな言葉を吐いて来る。
質問をした俺の判断が誤っていたようだ。
エレンに全うな答えを求めたところで何も返って来はしない。
「アンナ君はどう思いますか?」
「そうね。ここを観光地化して儲けたらいいと思うわ。隠しダンジョンにあるハウベル教の神殿なんて興味を惹くわよ」
アンナにも稼ぐことしか関心が向いていないようだ。
あくまでもこのハウベル教の神殿は自分のものだと言わんばかりの態度をしている。
確かに見つけたのは俺達だけれど造ったのはかつてのハウベル教の信者達なのだ。
ならば、所有権もハウベル教の信者達にあると言うもの。
しいてはハーベイ王国に帰属するべきものなのだ。
「裁判長!」
「はい。ゴウ君」
「冗談はその辺にしておいてくれ。俺達はまともな議論をしているのだから」
「ゴウ君から指摘がありました。エレン君もアンナ君も真面目に議論に参加してください」
俺が二人に注意をすると不服だったのかアンナもエレンも不機嫌な顔つきでゴウを睨みつけた。
この二人はしょうもないことしか考えていないから今後意見を求めるのは止めた方がいい。
議論が横道に逸れてもまとまらないだけだからな。
「それでは意見をまとめましょう。ゴウ君の主張をするようにこの神殿の存在を封印することにするのか。アンナ君の主張するように儲けることはさておいて世の中に明らかにすることにするのか。意見は真っ二つに分かれています。みなさんの考えを聞かせてください」
すぐさまゴウは挙手をして発言権を求めて来る。
その顔つきは真剣そのもの。
真面目にこの問題に望んでいることが伺える。
「はい。ゴウ君」
「俺の主張は変わらない。このハウベル教の聖地は永遠に封印する方がハウベル教の信者のためになる。それに封印すれば白亜の塔を壊したことも闇に伏せることが出来るし一石二鳥だ」
すると、アンナが呆れ顔を浮かべながらゴウの主張に反論して来た。
「はい。アンナ君」
「あんた馬鹿?これだけお金になるものがあるのにわざわざ封印を選ぶなんて私には考えられないわ。それに真実を公表する方が世の中のためになるんでしょう?今さら意見を変えないでよ」
アンナの鋭いツッコミに反論の機会を失う、ゴウ。
頭を抱えながら自分が発言した言葉に後悔をはじめる。
アンナが指摘しているようにゴウの主張には歪みがある。
ジパール教の絵画を公表することには賛成だけど、ハウベル教の神殿の公表には反対なんて矛盾でしかない。
まあ、それだけゴウがハウベル教の信者達に傾倒していることは伺えるのだが。
「はい。ルミウス三世君」
「僕はリーダーの意見に賛成です。やっぱり封印すべきものは封印するのがいいんです。これ以上、ハウベル教の信者達の魂を汚さないためにもこの神殿は封印するべきです」
ルミウス三世の主張ははじめから変わらない。
あくまでハウベル教の信者の魂を救うための主張を繰り返している。
一貫して意見を曲げないところはさすがだと言える。
その意見に同意したのかマークニットも重ねて主張して来た。
「はい。マークニット君」
「俺もリーダーの意見に賛同するよ。リーダーの言うこともルミウス三世が言うことも最もだからな」
ソウル・ベルの一同はお互いの主張を認め合って一致団結する。
こうなると民主主義と言うものは凄い力を発揮する。
ただ、民主主義であるからこそ少数派の意見も尊重しなければならない。
俺は公平性を保ちながらエレンとミゼルに意見を求めた。
「エレン君は今ままでの議論を聞いてどう思いましたか?」
「ゴウの意見に賛成しとくよ。それよりさっさと終わらせていっぱいやろうぜ。アルコールが切れて落ち着かない」
エレンは青い顔をしながら手足をブルブルと震わせている。
アルコールが切れたために発生した禁断症状だろうか気分も落ちているようだ。
俺は次いでミゼルに意見を求める。
「ミゼル君はどう思いましたか?」
「私もゴウの意見に賛成だ。世の中には明らかにすべきこととそうでないことがあるものだ。ハウベル教の信者達が手に汗を流して建造したこの神殿の存在は伏せるべきものだと考える。私達エルフ一族も森に集結することで人間達の迫害から逃れて来た過去があるからな」
これで全ての評議員の者達の意見は出された。
後は民主主義に乗っ取って多数決で判決するだけ。
まあ、今更、多数決をしなくても結果がわかっていることだが議事録に残すためにあえてする。
「それでは判決です。ゴウ君の主張に賛成の者は挙手をしてお答えください」
ゴウがまず手を挙げて釣られるようにルミウス三世達も挙手をする。
ただひとりアンナだけは沈黙で答えていた。
「5対1によりゴウ君の主張であるこのハウベル教の存在は永遠に封印することに決まりました」
判決を受けてゴウ達はスタンディングオベーションをして喜びを分かち合う。
それはまるで死刑宣告から逃れた囚人のような喜びようだ。
そんな中でひとりふて腐れているアンナは不服そうにブー垂れていた。
「それでは今後の指針をまとめましょう。ブルー・アイは売却して取り分をカイト軍団とソウル・ベルで分けること。ジパール教の絵画はハーベイ王国の王都にある歴史文化保存図書館に寄贈すること。そしてこのハウベル教の神殿は永遠に封印することとします」
こうして俺達の今後の方針は決まったのだった。
チームであるからこそリーダーの独断で方針を決めるのではなく、みんなで話し合うことがチームを強くする唯一の方法なのだ。
議事録にはちゃんと残しておいたし、後で調べられても何も問題はない。
これまでにない議論が出来たことにとても満足をした俺だった。
隠しダンジョンにあるハウベル教の神殿を後にして俺達はトラキアの街までやって来た。
途中、シンポス地下神殿の祭壇にあった隠しダンジョンの入口はアンナの土魔法で入口を塞いだことは忘れていない。
数十メートルも土砂で埋めたからちょっとやそっとのことじゃ掘れないだろう。
シンポス地下神殿の構造図はルミウス三世の特殊能力で明らかにしたしクエストもこなすことが出来た。
後はジパール教の絵画を王都のデギオンにある歴史文化保存図書館へ寄贈してからブルー・アイを売却すればいいだけだ。
王都デギオンはトラキアの街から北東へ進んだレアース山脈の麓にある。
既に陽が落ちていたので俺達はトラキアの街で一泊することにした。
「水はあるけど食料が少ないから節約するんだぞ」
「私は酒だけあれば十分だ」
エレンは1メートルほどある酒樽を抱えながらひとり酒を煽っている。
アンナがコップを差し出して酒を催促するがエレンは押し返して受け付けない。
すると、アンナの機嫌がすぐに悪くなりエレンの胸ぐらを掴みあげた。
「ちょっとエレン。そのお酒はみんなのものでしょ。独り占めしないでよ!」
「酒はあと少ししかないんだ。お前達は水でも飲んでろ」
アンナの手を振り払いエレンは見せびらかせるように酒を煽る。
すでにほろ酔い気分になっていて赤ら顔で気持ちよさそうな顔をしていた。
「カイト。あなたリーダーなんでしょう。何とかしてよ!」
「みんなで仲良く分けろ」
「それじゃあ解決になってないじゃない!」
「あー。煩い奴らだ。おい、エレン。酒を分けないと一生禁酒にするぞ」
凄い剣幕で詰め寄って来るアンナに押されて俺はおもむろに立ち上がるとエレンに忠告をした。
けれど酔っ払っているエレンの耳には届いていなかったようでエレンは酒を飲む手を止めない。
エレンがこうなってしまえば後の祭りだ。
何を言っても右の耳から左の耳に通り抜けるだけ。
ここはアンナに我慢をしてもらうしかないようだ。
「アンナ。酒は王都デギオンまで我慢してくれ」
「不公平よ。エレンだけ特別扱い?」
「仕方ないだろう。こうなったら誰も手が付けられないんだから」
「カイトはエレンに甘いわね。もしかして気でもあるの?」
アンナの思いもかけない言葉にピクリと反応するセリーヌの顔色が急に悪くなりはじめる。
血の気の引いたような青い顔をしたかと思えば急に真っ赤になり青筋が浮かび上がる。
どことなしかニンジンを切っている包丁の音がけたたましく鳴り響きはじめた。
「誰がエレンを好きになるんだよ。あんな飲兵衛を好きになる男はそうそういないさ」
「怪しいわね。カイトはスケベだから酔っ払ったエレンに夜這いをかけようと算段しているのかと思ったわ」
「誰がそんなことするか!」
冗談も顔だけにしてもらいたい。
確かにエレンはエロい体をしているが。
たわわな胸とくびれたウエスト、大きな尻を持っているが。
張りのある肌は年齢を感じさせない魅力に溢れているが。
抱きたいとは思わない。
せいぜいエレンに需要があるのはスケベおやじだけだ。
若者である俺を魅了するほどの女ではないのだ。
「まあ、セリーヌの前ではそんなこと出来ないわね。もし、夜這いでもしようものならセリーヌの怒りをかってあそこを切り落とされるかもね」
アンナの怖すぎる脅しにやられて俺はあそこを手で覆い隠す。
男だったら冗談でも受け入れられない非情な言葉だ。
今のセリーヌだったらやりかねないかもしれない。
ジャガイモを切る包丁の音が尋常ではないくらい激しくなっていた。
全ての怒りをジャガイモにぶつけているかのよう。
ぶつ切りにするジャガイモがみじん切りになっている。
「怖いことを言うんじゃない。ゴウ達だって怯えているだろう」
ゴウ達も俺と同じようにあそこを手で隠しながら青い顔をしていた。
「この話はもう止めだ。飯にするぞ」
「それはいいがセリーヌが作っているのは何の料理だ?」
カレーをお願いしたはずだったが野菜は全てみじん切りにされていて具なしのスープカレーが煮込まれていた。
スープカレーはグツグツと沸き立ちながら白い湯気を立ち昇らせている。
見た目はまるで地獄鍋のような姿をしているが匂いは美味そうだ。
「はい。カレーが出来ましたわ。みんなでいただきましょう」
そう言うセリーヌの顔は笑っておらず額に青筋が立たせている。
さっきの俺とアンナとの会話をまだ気にしているようだ。
その夜の食事は通夜のようにしんみりと行われたのだった。




