あるある103 「緊張感を忘れがち」
俺達を出迎えたのは黄金色に輝く財宝達。
ランプの灯かりに照らされて、夜空に輝く星々のように暗闇で輝いている。
部屋中を埋め尽すほどの数多の財宝達に俺達の胸は躍る。
「やりましたね、リーダー。財宝です」
「ああ、これだけあれば一生遊んで暮らせるな」
「もう、ブルー・アイなんてどうでもいいかも」
目の前の信じられない光景にゴウ達の口元がニタリと緩む。
それは俺も同じで目の前の財宝にすっかり心を奪われていた。
金糸の織り込まれた絹織物、繊細な彫刻がされた装飾品、金色に輝く武具類、サーメット神が描かれている金貨、それに煌びやかに輝く宝石達。
どれをとってみても目に余るほどの輝きを放っている。
すっかりと財宝に魅了された俺は空の袋を引き出してゴウ達に指示を出した。
「よし、ゴウ。片っ端から袋に詰め込むんだ。持って帰って売るぞ」
「でも、それじゃあ盗賊と何も変わらないじゃないか。俺達、ソウル・ベルは盗賊紛いなことはしないと言っただろう」
「何をカッコつけているんだよ。これだけあれば一生遊んで暮らせるんだぞ。それに、これをここに置いておいても宝の持ち腐れだ。だから、俺達が代わりに日の目を見させてやるだんだ」
俺の強引な誘いにゴウの決意も鈍りはじめる。
目の前の財宝に目をくぎ付けにさせてひどく狼狽していた。
ここは正直になるのが一番楽になれる。
わざわざここまで危険を冒して来たのもすべてこのためなのだ。
俺はさらにゴウに追い込みをかける。
「おい、ゴウ。いつまでぼさっと突っ立っているんだ。自分に正直になれ。この財宝は俺達のものなんだ。これだけ手に入れれば何だって出来るんだぞ」
「何だって……」
「そうだ。お前達の好きなお姉ちゃん遊びも毎日し放題だ。いや、店ごと買い占められる」
「店ごと……」
ゴウは生唾をゴクリと飲み込んでから空の袋を手にとり財宝をかき集める。
まるで水を得た魚のような勢いで片っ端から吸い上げるように袋へ詰め込んで行った。
袋はすぐに財宝でいっぱいになってしまう。
すると、積み上げられた袋を満足そうに見て俺は額の汗を拭った。
「全部、入りきらないから何回かに分けて運び出す必要があるな」
「だけど、これだけの量があるんじゃ馬車にも積み切れないぞ」
「問題はそれだな。馬車を借りにゴートスまで戻るのも一苦労だ。かと言って財宝をこのままにしておいたら他の冒険者達に奪われてしまう」
「この際、仕方ないんじゃないですか。持って帰る分だけでも十分ですよ」
ルミウス三世の諦めの言葉にすぐさま反応する俺は真剣な顔で、鬼のような目をしながら息を荒げてルミウス三世の提案を否定する。
「何を言っているんだ。このお宝は俺達のモノなんだぞ。置いておけるわけないだろう」
「ですがカイトさん、全部運び出せないじゃないですか。誰か見張りを残しておくとでも言うんですか?」
「それもアリだな」
俺はニタリと強欲な笑みを浮かべて顎をひと撫でする。
今の俺の目にはお宝しか映っておらず冷静な判断が出来ない。
見張りを残すと言ったって何日も置いておける訳もないのだが。
一応、トラキアの街には水はあるが食料が持たないだろう。
ゴートスの街からトラキアの街までは馬車で5日もかかる。
往復で10日もかかれば食料が持たない。
やはり、ここは残念だが持って行けるだけの分で諦めるしかないようだ。
すると、ひとり突っ立っていたマークニットが思いもかけないことを呟いた。
「カイトさん。これは偽物です」
「え?今なんて?」
「この財宝すべてが偽物なんです」
予想もしていなかったマークニットの言葉に俺達は一瞬言葉を失って黙り込む。
そしてしばしの沈黙の後、恐る恐る俺はマークニットに尋ねてみた。
「これが全部偽物だって言うのか?」
「俺の『真美眼』の能力では偽物だと判断してます」
突きつけられた現実を素直には受け入れられない俺は両手を広げながらマークニットに詰め寄る。
だけど、マークニットの判断は変わらないようで首を横に振って応えた。
マークニットの特殊能力である『真美眼』は本物を見分ける能力だ。
どんな精巧に作られたモノでも『真美眼』の前では歯が立たない。
そのくらい『真美眼』は絶対的な判断を出来る能力なのだ。
「俺達は何のために今まで苦労をして来たんだ。これじゃああんまりじゃないか」
俺は膝から崩れ落ちその場に倒れ込んで大きく項垂れる。
俺達はここへ辿り着くまでに苦労を重ねて来たんだ。
ならば、せめてお宝でも見つけて労わないと割に合わない。
悔しいがけれど財宝が偽物って言われても素直には受け入れられない。
「カイト、諦めろ。偽物を持って帰っても笑われるだけだ」
「ちくしょう!ちくしょう!」
俺は目尻に涙を浮かべて悔しがりながら何度も何度も床を叩きつける。
それでも現実は変わることはなく虚しい俺の言葉だけが宝物庫に響き渡った。
すると、マークニットが静かに歩み出して宝物庫の奥に飾られてあった絵画に目を向ける。
何かを探るように上から下へと視線を動かして絵画を確かめると俺達に向かって叫んだ。
「リーダー。この絵画は本物です!この右下に記されているサインは当時のセレスティア国王のモノです」
「何だって!」
俺達は偽物の財宝を放り捨ててマークニットの下へ駆け寄り絵画を確かめる。
絵画にはジパール神とジパール神を崇める民衆達が描かれていて豪華な額縁に収まっている。
絵具は油絵だろうか波立てるような筆痕が刻まれ荒々しさを醸し出している。
マークニットが言うように絵画の右下には当時のセレスティア国王のサインがしてあった。
「これでジパール教とサーメット教の繋がりが証明されたな」
「ああ。お宝は残念だったけれど、これで報われたようなものだ。これを持って帰って歴史文化保存図書館へ持って行こう。きっと驚くはずだ」
ゴウが絵画に手を伸ばして壁から掛け外すと奥でカチッと音が聞えた。
「何だ?」
俺達が周りを警戒していると天上から石のずれる鈍い音が聞えはじめる。
同時に天井を覆っていた石畳みに格子状の亀裂が生じて石畳が崩れ落ちて来た。
「崩れるぞ!逃げろ!」
俺達は偽物の財宝には目もくれず慌てて出口に向かって駆け出す。
ここで瓦礫の下になっては話にもならないし、何よりもお宝よりも命の方が大切なのだ。
津波のように俺達を追い駆けながら崩れ落ちて来る石畳を寸のところでかわし、俺達は後ろを振り返ることもなく出口に向かって駆けて行った。
地下3階へ辿り着くと同時に土煙が巻き上がって辺りを覆い尽す。
俺達は転げるように床に倒れ込み土煙をやり過ごした。
「どうした、カイト!何が起こったんだ!」
「カイトさん、大丈夫ですか?」
エレンとセリーヌが血相を変えながら慌てて駆け寄って来る。
そして床に寝ころんでいる俺達と地下通路を交互に見ながら心配そうな顔を浮かべた。
「ふー。間一髪だったな」
「あと少しでも遅れていたらやばかったぞ」
「でも、お宝が瓦礫の下になっちゃいましたね」
「あれは偽物だったからいいんだ。それよりこれを見ろ」
そう言ってゴウは袋からジパール神の描かれていた絵画を取り出す。
そして得意気な様子で絵画を掲げると自慢するように俺達に見せた。
絵画にはどこにも傷が見当たらずに発見した時のままだ。
多少埃は被っているが品質に問題はないだろう。
「おい、ゴウ。いつの間に持ちだしたんだ?」
「逃げる時にだよ。こんなお宝をほっておいて逃げられる訳ないからな」
自然と笑いが込み上げて来る。
俺達は肩を震わせながら込み上げる笑いを堪える。
それでも喜びは治まらずに笑いを連れて来た。
これで俺達の苦労も報われたようなもの。
歴史的、大発見を果たしたのだから仕方ない。
この絵画を歴史文化保存図書館に持ち込めば歴史は覆される。
これで俺達も時の人だ。
「おい、お前ら。気でも狂ったのか?」
「これが笑わずにいられるかよ。ハハハ」
「変な奴ら」
エレンは膝を挫かれたようにスンと黙り込む。
そして呆れた顔でドカリと長椅子に腰を下ろした。
心配をして損をしたような表情だ。
それはセリーヌも同じだったようでガックリと肩を落としながら大きなため息を吐いていた。
「で、ゴウが手に持っているモノは何だ?」
「ジパール神が描かれた絵画だ。これがジパール教とサーメット教を繋ぐ証拠だ」
「そんなくだらないものを見つけるために危険を冒したのか?しょうもない」
すっかり呆れ顔のエレンはまったく興味のなさそうな表情で追い払うように手を振る。
その一方でセリーヌは怪訝そうな顔をしながら絵画をじっくりと眺めていた。
「セリーヌにはわかるだろう。この大発見を」
「このサインは間違いなく当時のセレスティア国王のものですね。だけどジパール教だなんてあまり気分がよくありませんわ」
「セリーヌはジパール教じゃないのか?」
「私はどこの宗教にも属していません。宗教を信仰していなくても普通に生活できますから」
セリーヌは少しムッとしながら強く否定して来た。
それはジパール教はレオナルドが信仰していた宗教だからのようだ。
プシュムル家は昔からセレスティア王国に仕えて来たから自然とジパール教を信仰していた。
プシュムル家だけではない、セレスティア王国の関係者達はみんなジパール教の信者だ。
国を挙げてジパール教を推奨しているだけに信者達も多い。
ただ階級制度があるので一般の庶民達は仕方なくジパール教を信仰しているのが現状だ。
「まあ、神を信じるのも信じないのも人の勝手だからな。ちなみに俺も無宗教だ」
「カイトさんは神様よりも女性のおっぱいの方が好きでしょうから無宗教でも驚きませんわ」
わかっているじゃないか、セリーヌ。
おっぱいは神様よりも神聖で神秘的なものなのだ。
そのマシュマロのように柔らかな感触に触れたら天国まで逝ってしまう。
おっぱい好きな俺としてはおっぱい教を信仰している純粋な信者なのだ。
「また、セリーヌの胸を見て鼻の下を伸ばしているな、カイト。どれだけスケベなんだお前は?」
「この世界がひっくり返るくらいだよ」
俺とエレンがくだらないやり取りをしているとゴウ達は祭壇の中央に集まっていた。
さきほどの宝物庫の崩壊で出来たのか祭壇の中央の壁は崩れ落ちて大きな穴が開いてる。
ゴウはランプを掲げながら穴の先を照らすともわっとした生温かい風が吹いて来た。
「おい、カイト!どうやらここが隠しダンジョンの入口らしいぞ!」
「本当か?」
「間違いないだろう。奥はだいぶ深いようだ」
隠しダンジョンの岩肌は荒れていてただ土を掘り出した後の状態のままだ。
自然に出来た空洞を利用しているのでほとんど人の手が入っていない。
ランプの灯かりは荒い岩肌にぶつかって散乱しながら辺りを照らす。
吹いて来る風は僅かで肌を撫でる程度の風量だ。
「風が吹いて来るってことはどこかに出口があると言うことだ。ここからが本番だ。気を引き締めてかかれよ」
俺達はランプを持っているゴウを先頭に団子状になりながら隠しダンジョンの奥へと進んで行く。
さすがにシンポス地下神殿とは違って人の手が入っていないので道は凸凹している。
慎重に足を進めないと躓いてしまいそうなくらい荒れている。
道幅も2メートルと狭い通路で高さもそれほどない。
俺達は気持ち前屈みになりならがゆっくりと歩みを進めて行った。
「狭い通路だな。これじゃあ頭をぶつけてしまいそうだよ」
「マークニットは背が高いから大変ですね。僕はちょうどいい高さですよ」
マークニットはゴウの175センチを追い越して180センチぐらいある長身だ。
普通に歩いていても頭をぶつけてしまいそうなくらい天井が迫っている。
一方で160センチと小柄なルミウス三世にはちょうどいいくらいの高さだ。
背筋を伸ばしても両手を伸ばしても届かないくらい余裕がある。
ルミウス三世は身長が低いことを気にしていたが今は低くて良かったと思っているようだった。
そんな狭い通路をどれだけ歩いたのかはわからない。
しばらく道なりに進んで行くとひときわ大きい空洞に出た。
空洞には地下水が染み出していて所々に水たまりを造っている。
ランプで照らすと水が青く光って神秘的な光景を創り出した。
どうやら水の底に光を反射する物質がこびりついているようだ。
「きれいですわね。まるでブルーダイヤのようですわ」
「これが自然が創り出す神秘さ」
「ロマンチックなことを言うんですね、カイトさん。惚れ直しましたわ」
静かに身を寄せて来るセリーヌの頬は赤く染まっている。
恥かしいのか演出なのかはわからないが照れているようだ。
俺は素っ気ない態度をとりながらセリーヌを押し返す。
すると、ムキになったセリーヌが俺の腕を掴んで強引に引き寄せた。
「カイトさん。こう言う時はそっと抱きしめるものですわよ。それが殿方のすることですわ」
「みんなのいる前で出来る訳ないだろう。それにここはモンスターのいる隠しダンジョンなんだ。もっと緊張感を持て」
「モンスターに緊張するくらいなら私を見て緊張してください」
セリーヌは唇をとんがらせて俺の唇にキスをしようとする。
「お、おい。セリーヌ。血迷ったのか?」
「私はいつでも本気ですわ」
セリーヌのピンク色の柔らかな唇が俺の唇に触れそうになった時、ゴウが呆れたようにツッコミを入れた。
「おい、お前ら。イチャつくのは後にしろ。俺達は今ダンジョンを攻略している途中なんだ。もっと気を引き締めろ」
「あーあ。あいつにツッコミを入れられるようではリーダー失格だな、カイト。また、チャンスを作ってやるから今は我慢しろ」
エレンは俺の肩に手を回して冷やかすように言葉を浴びせる。
ゴウにツッコまれるよりもエレンに上げ足を捉えれた方がショックだ。
俺はけっしてキスがしたかった訳じゃない。
ひとりで盛り上がっていたセリーヌが強引にキスをしようとして来ただけのこと。
俺に責任はないのだ。
気を取り直して俺達は大きな空洞を壁伝いに進んで行く。
中央にある水たまりを避けるように壁側に移動したのだ。
向かって左側の壁にもギリギリまで水たまりが迫っていて歩けそうになかったのでこちらを選んだのだ。
まあ、迷路を攻略する時には壁伝いに進めば迷わないから、この方法は理に適っている。
ただ先へ進むとそれを惑わせるかのように7つの通路が目に飛び込んで来た。
「どっちに行けばいいんだ?」
ゴウがランプを翳して壁側を照らすと7つの通路が姿を現した。
この通路に限っては人の手が加えられているようで穴を掘ったであろう痕が見て取れた。
大きさは3メートル四方と大きな通路ではない。
ただ真っすぐに伸びていて奥まで通じていた。
ゴウはその場にしゃがみ込むとランプの器を外して炎をむき出しにする。
そしてひとつひとつの通路の前に持って行って風の通り道を探した。
「ゴウ。そんなことでわかるのか?」
「ダンジョンではこの方法が有効なんだよ。風が吹けば炎は揺れる。そこが出口へ繋がる唯一のルートだ」
ゴウの調査の結果、風の吹いて来た通路は2つ。
一番右端の通路と真ん中の通路だった。
後はどちらを進むか決めるだけだ。
「カイト、あれをやってくれ」
「いいのか。それで?」
「どちらに進んでも出口はあるんだ。なら、運を天に任せようじゃないか」
ゴウは俺の棒倒しに全てを賭けるようだ。
まあ、俺は運が良い方だと思うから正解を引き当てるだろう。
俺は小剣を引き抜いて切っ先を地面につけて真っすぐに立てる。
そしてバランスを保つと静かに手を離して小剣が指し示す方向を見定めた。
小剣はフラフラと揺らいで運命の道を指し示す。
「右だ」
「よし、右の通路を進むぞ」
ゴウの決定に誰も文句を言う者はいなかった。
いずれにせよ出口に辿り着けるのならば問題ないと考えたからだ。
それにこれまでの道筋はルミウス三世の『空間認識』によって明らかになっている。
だから余計に警戒する者はいなかった。
右の道は少し傾斜が掛かっていて上へ向かうように通路が伸びている。
しかも一本道ではなく所々に横に逸れる通路が顔を覗かせていた。
俺達はその通路をひとつずつランプの炎を翳して風の通り道を探して道を選んだ。
そのおかげなのか30分ほど歩くと大きな空洞に出られた。
「何とか迷路を抜けたようだな」
「だが、この空洞には何かいるようだぞ」
暗がりで姿は捕らえられなかったが何かがいる気配だけは伝わって来た。
それは淀んでいる空気をかき乱すかのように気流の流れが出来ていて通路の出口へと向かって流れている。
その風の流れに混じって感じる匂いは銅が錆び付いたような鼻を突く匂いだった。
「ゴウ。警戒をしろ」
「ああ、わかっている」
ゴウはランプの油を布に染み込ませて炎の玉を作ると空洞の先へ向かった放り投げた。
炎の玉は綺麗な円弧を描いて飛んで行くとひと際大きい岩にぶつかって転げ落ちる。
そして真っ暗だった辺りを炎の灯かりで照らし出した。
その炎に照らし出されたのは10メートルをほこる巨大なブロンズゴーレムだった。
体にはいびつに赤銅石が塊で埋め込まれていて装甲の強さを物語っている。
「おい、エレン。お前の出番だぞ」
「ようやくモンスターのお出ましか。腕が鳴るぜ」
エレンは手をポキポキと鳴らしながら豪快に大剣を肩に担いでみせる。
そしてブロンズゴーレムを睨みつけながら戦闘体制に入った。
ブロンズゴーレムは全長10メートルをほこる赤銅石のゴーレム。
体を覆い尽くす赤銅石の装甲は非常に硬く、生半可な武器では歯が立たない。
気性は荒く、ひとたび暴れると手をつけられないほどの状態に陥る。
弱点はなく、倒すと高い確率で赤銅石を入手できるモンスターだ。
「それじゃあ行かせてもらうぜ」
エレンは一歩踏み出して地面を蹴り上げると一気にブロンズゴーレムの目の前まで駆け寄る。
そして勢いのまま高く飛び上がるとブロンズゴーレムの頭上で狙いを定める。
エレンの斬撃は綺麗な円弧を描きブロンズゴーレムの頭を縦に割るように振り下ろされた。
しかし、ブロンズゴーレムはすぐさま反応して左腕で斬撃を受け止めると右腕を大きく振り払いエレン横腹に打撃を加える。
「甘い!」
エレンは大剣の腹でブロンズゴーレムの打撃を受け止めるがブロンズゴーレムのパワーに押されて、そのまま地面に叩きつけられた。
「大丈夫か、エレン!」
「ああ、これくらいなんともない。しかし、随分、硬い装甲だ。傷一つ着いていない」
ブロンズゴーレムを見ると斬撃の痕はまったく見られずダメージを受けている素振りもない。
ただ、ブロンズゴーレムの気に触れてしまったようでブロンズゴーレムの気性が荒くなりはじめていた。
ブロンズゴーレムは拳と拳を合わせながらしきりに威嚇して来る。
それを受けてゴウが一歩前に踏み出した。
「そんな普通の攻撃じゃ無駄だ。俺の『回裂斬』で決めてやる」
ブロンズゴーレムに向けられた戦斧の切っ先は『回裂斬』の軌道をなぞるように上下に動かされる。
そして意識を集中させるとゴウの周りにただならぬオーラが漂いはじめた。
そのオーラを練り込むように戦斧に集束させながら意識を高めて行けば準備は完了だ。
『回裂斬』は自らの体を回転させて斬撃を放つ必殺技だ。
回転力が威力を増すことは間違いないが、武器の鋭さもモノを言う。
だから、オーラを武器に纏わせることで斬撃の鋭さを増幅させているのだ。
「これで決める!『回裂斬!』」
ゴウは少し身を引いて軸足に体重を移動させると一気に蹴り上げて前方に高く飛び上がる。
その勢いのまま体を高速回転させながらパワーを戦斧に蓄積させる。
ゴウの軌道は綺麗な円弧を描きながらブロンズゴーレムに向かって飛んで行く。
それはまるで空を流れる一筋の流星のような速さでブロンズゴーレムに降り注いだ。
「オラオラオラ!」
ゴウの鋭い斬撃がブロンズゴーレムの左腕を捉える。
銅を切り裂く鈍い音を立てながらブロンズゴーレムの左腕を切り裂いて行く。
半ば左腕が半分裂けたところでブロンズゴーレムは強引に左腕をスイングさせてゴウを振り払った。
「くそ、あと少しだったのに」
「やるじゃないか。だが詰めが甘いな」
ひとり悔しがっているゴウの上げ足をとるようにエレンがツッコミを入れる。
自分だったら確実にブロンズゴーレムの左腕を切り落としていたと言わんばかりの勢いで。
ただ、最初の攻撃ではエレンは傷一つつけられなかったはずだが、それには触れない。
すると、ゴウが少し声を荒げながらエレンを挑発して来た。
「お前だって傷一つつけられなかったじゃないか。俺は左腕を半分切り落としたんだぞ。お前に出来るとでも言うのか?」
「あたり前だ。あいつの攻略はすんでいるからな」
「じゃあ、見せてみろよ。お前がブロンズゴーレムの腕を切り落としたら負けを認めてやる」
「ふっ。お前ははじめから私に負けているんだよ」
エレンは捨て台詞を吐きながらゴウを押しのけて前に出る。
そして大剣の柄を握り直して切っ先をブロンズゴーレムに向けた。
「格の違いを教えてやる」
エレンはさきほどのゴウと同じように意識を集中させながらオーラを漂わせる。
そしてオーラを練り込むように大剣に集束させて行くとエレンの大剣が青白い色の神秘的な光を放ちはじめた。
エレンに漂うオーラはまるで神の後光のような荘厳な光でゴウとの格の違いを如実に表している。
その光景を目の当たりにしてゴウはひと唸りした。
「くぅ、やるじゃないか。だが、勝負はこれからだ」
負け惜しみを言うゴウを尻目にエレンは攻撃に転じる。
右足で地面を蹴り上げると前方に向かって高く飛び上がる。
そして空中で体を高速回転させながらパワーを蓄積させて行く。
エレンは綺麗な円弧を描きながらブロンズゴーレムに向かって『回裂斬』を放つ。
「沈め!『回裂斬!』」
「『回裂斬』だと!」
ゴウは驚愕な顔を浮かべながらあんぐりと口を開けたまま佇んでいる。
それは予想もしていなかった自分の必殺技をエレンが易々と真似して見せたからだ。
ただ、真似事は所詮真似事に過ぎない。
自分の『回裂斬』を越えることはないと踏んでいた。
しかし、予想は裏切られるのだった。




