☆私たちの家族2
「ライラ様とお話できるなんて、嬉しいですね」
「あちらで、あなたの大好きなお嫁さんとかわいい子供たちが遊んでいると思うんだけど。無理してこっちに来なくてもいいわよ」
少し距離を置いて、シーナがカムラとの子供たちと一緒に同じくボール遊びをしている。
地面に描いた円に、ピッタリとボールを蹴って入れる遊び。曲芸のように真上にいくつもボール蹴りあげ、目を瞑ってキャッチする遊び。それを見ながら笑顔で褒めている。
おかしいわよね……。
まだ一応、幼児よね……。
きっと、この世界の設定だ。カムラの血筋はそうなるようにできているのだろう。
「私は仕事でこちらに来ていますから」
「私たちがいいよって言っているのに」
「オフの時間はきちんともらっています。今は、お二人の側にいますよ」
「そう? 無理していないのなら、いいけど」
「はい、全く」
まさか予想だにしなかったわよね……。次から次へとシーナが、カムラとの子供を産んでいくなんて。
とんでもない身体能力を持つ子供たちに、私のお父様も喜んでいる。公爵家が要塞だな、と。気配の察知も尋常ではないので、侵入者も入りようがない。
王家からも教育費としてかなりの資金を出している。こにいる子供たちを将来の護衛として当てにしているからだ。特殊訓練場も公爵家の庭に設けられた。
「カムラ……今、幸せ?」
幸せになる資格はありませんと、はっきり私に言った彼を思い出す。
「はい、とても。お二人のお陰です」
母に向けるような、くすぐったそうな顔をしてカムラが答えてくれる。
「そこは、シーナのお陰も入れてほしいわね」
「あはは。そうですね」
照れているわね。こんな顔は、シーナのことを話す時にしか見せない。
ちゃんとシーナ自身には言っているのかな……好きだとか愛しているとか。全然想像がつかないけど。
「あなたの子供たちも、愛でてこようかしら」
そう言ってロンとレオの側へ行こうとすると、二人ともピタッと動きが止まった。
聞こえているわよね……どう見ても。
「ロン、レオ、さすがね。二人とも自慢の子供たちよ。とってもすごいわ」
さっと寄ってきた彼らの頭をよしよしとなでて、額にキスをする。
「はい、侵入者は全て僕たちが潰すのでご安心ください!」
「ちゃんと、情報も聞き出しますよ!」
キラッキラした瞳で怖いことを言うわね……どうなっているのかしら。
でも、子供は無邪気な残酷さも持っている。私も前世ではナメクジに塩をかけてしまったこともある。むしろこれから丸くなるのだと信じよう。
他にもメイとマイという名前の女の子がいるけれど、まだ小さいので今は屋敷内の別邸で他のメイドが対応してくれている。もう少ししたら、シーナも授乳のために戻らなければならない。
「あら、とっても頼りになるわね。ここに住んでいる間は公爵家を頼むわ。あなたたちがいてくれるのなら、とても安心よ。実はスフレを持ってきたの。よかったら食べて」
「え、それ僕たちにだったんですね!」
「嬉しいです! ライラ様!」
うん、出来がよすぎる子たちよね……。それによく見ている。カムラからは血が薄まっていると聞いた。それだけが救いね。
濃くなってしまったら……生き辛すぎる。
「ええ。二人とも、とってもいい子たちだもの。でも……いい子でいようと思うと疲れてしまうわ。我儘を言いたい時はちゃんと言って、ママに甘えるのよ。私が来たら私でもいいわ。誰かを困らせてしまうのも、子供の仕事よ」
「はい、ライラ様!」
ぎゅーっと彼らが抱きついてくれる。
まだ身体は小さくてふわふわだ。どうしてあんなに恐ろしい身体能力があるのか、さっぱり分からない。
「ライラ様、ありがとうございます」
彼らから離れると、シーナが照れくさそうに私の横に来た。カムラはやっと自分の息子の相手をする気になったらしい。目にも止まらない豪速球をシュンシュンと投げ合っている。
ほんと、どうなっているの……。
「すごいわね、ロンとレオ。すごいとしか言いようがないわ、脱帽よ。そのうえ、いい子すぎるわ。たまには羽目を外したりとか、しているのかしら」
「はい、たまにボードゲームを一緒にやっています」
「あら、そうなの。安心したわ」
「本当にすみません、私はライラ様のメイドなのに……」
「子供たちには母親が必要だもの。私たちの子供も、いつかきっと守らせてしまう。今だけは、しっかりと甘えさせてあげてほしいわ」
「ありがとうございます」
というか、きっとこの会話も耳に入ってしまっているわよね……。
まぁいいか。それならそれで、彼らにも聞こえるように宣言するだけだ。
「彼らの笑顔が曇らない未来を築いていくわ。これからも、ずっと」
「はい」
少し涙声で、シーナが嬉しそうに頷く。
カムラと、そしてロンとレオがこちらを向いて笑った。
……こんな関係も最高よね。
「それじゃ、自分の子供たちのところへ行くわ」
「はい、ありがとうございました。スフレ、いただきますね」
私がきびすを返すと、当たり前のようにシーナがロンとレオのところへと歩きだし、カムラは私の後ろをついてくる。
「もういいの? カムラ」
「はい」
ヘンリーは、ボール遊びに飽きたらしい。今は木の実探しに夢中だ。木の実は、使用人がこっそりとヘンリーの行きそうな場所に置いてくれている。
至れり尽くせりね……。
「ライラ様」
「なに?」
「私たちの全てで、お二人の全てをお守りします。これからも、ずっと」
私の真似をして、ずっと――と言ってくれる。
本来ならヘンリーに王太子としての自覚が芽生えたらカムラを譲るのが慣例ではあるけれど……無理かもしれないわね。
「ありがとう」
私たちの全てで……。カムラにも、そうやって言える相手ができた。それがとても嬉しい。
「お、やっと戻ってきたよ、ママが」
「ママずるい。カムラと二人で」
「あら。レイラは、大好きなパパと二人だったじゃない」
「ママはパパとベタベタするのがお仕事でしょう。交代よ、ママ」
……なんでよ。
女の子はませているわよね。娘を育てるのは初めてだ。私の感覚では二人目の子育てなのに、新鮮な発見の連続だった。
「カムラ、お庭で一番綺麗なお花を探しましょう」
そう言って、レイラがカムラの手を握る。
「おかしいよね、ライラ。振られたんだけど。自分の娘に」
「そんなものよ。愛されている自信があるからこそ、他に目を向けることができるわ。あなたは最高のパパよ」
木の実を見つけては自分の手の中に握りしめているヘンリーの前にしゃがみ込んで、手を広げる。
「ヘンリー、ママに好き好きして」
好き好きは、魔法の言葉だ。
何をしていてもそうお願いすれば、必ず腕の中に走ってきてくれる。
「ママ、好き好きー!!!」
かわいいかわいい、子供たち。
――この国の、この世界の全ての子供たちに、どうか幸せな未来を。
〈私たちの家族 完〉
ここまで読んでいただき、ありがとうございました!
今回の番外編はコミックス5巻の発売記念に書きました。紙版は2026.2.26、電子版は2026.2.22、つまり本日発売です!
完結巻ですっ……!!!
あの森での本音のぶつけ合い、もうネーム段階で泣きました。読むたびに泣きました。どれだけ泣いたことか。あんなに素晴らしい漫画にしていただいて、フィナーレまで飾っていただいて、人は幸せを感じてここまで泣けるんだなと……!
イチャイチャラブラブな二人の姿も見られて、感無量です。関わっていただいた全ての方、読者の方に感謝感謝、大感謝です!
私のありったけの思いを込めた分身のような本作の、コミカライズの最終巻!ぜひぜひお手にとっていただけたら幸いです。
それでは皆様、また会う日まで!











