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戦争で非道を尽くしたから追放されたけど、元敵国の未亡人に溺愛されている。  作者: 巫月雪風


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02.帝国の聖女

「まさか聖女様がいらっしゃるとは……」

「喜んでいただけて光栄ですわ」


 ジークは馬車の中で、自分の対面に座る、笑顔の美女に話しかけた。

 着の身着のままでエスティリア帝国に追放されてすぐに、迎えだ、という馬車が来て、どうなっているのかと興味本位で乗ったところ、帝国の聖女がいて、さすがジークも驚いた。


 ジークの対面に座り、彼に笑いかけている彼女は、エスティリア帝国のヘルサイズ公爵家の公爵夫人、サレナ・ヘルサイズ嬢である。

 帝国の聖女とも言われている。

 男ならだれでも振り返るような美貌と美しい銀の髪を持つ、3人の子持ちとはとても思えない女性だ。

 また、この女は慈善家で知られ、帝国一の人気を誇る女性だ。

 その笑顔は、見ただけで男女問わず虜にさせるだろう。

 さらに、彼女の家、ヘルサイズ家は代々医療行為に力を入れており、世界最大級の医療施設や病気の研究所等を領地に建てている。

 彼女はそこで様々な新薬を開発している事でも有名だ。


「ところで、もう演技はしなくてもよろしいですわよ。この馬車はきちんと防音処理が施されえておりますから」

「すみません……演技とは何のことでしょうか?」

「猫を被らなくてもいいですわよ、と言っているのです。死神の長殿」


 死神の長とはエスティリア帝国でのジークのあだ名である。

 エスティリア帝国では今回の戦争での殺戮者の集団を死神と呼んでいた。

 そしてジークがそのトップ、つまりその死神の長はジークの事なのだ。


「そっか、やっぱり知っていたか」


 こう言われては仕方がない。

 とぼけても無駄だ、とジークは思い、敬語をやめた。


「それで、復讐のために殺しに来たのか?」

「ふふっ。私がその様な事で動くと思いますか?」

「いくら聖女といえど、夫やご子息を殺されれば怒るのは当然と思うが?」


 先の戦争において、エスティリア帝国の軍の指揮官はヘルサイズ公爵家の人間、つまり彼女の夫がおこなっっていた。そして、長男も共に従軍した。

 その結果として両者は戦死し、またその遺体も、アリステラ王国によって持ち去らわれ、帝国軍を罠にはめる為に利用されるという末路をたどっている。

 そしてその策を講じたのはもちろんジークだった。

 さらに、もう一人の息子である次男も、ジークによって殺されている。

 屋敷にいたところを誘拐され、敵を罠にはめる餌として利用された末に殺されたのだ。

 普通の人なら、憎く、会いたくもない相手だ。

 少なくとも、笑顔で会う相手ではない。


「確かにあなたは憎むべき相手ですが、あなたは祖国に尽くしながらも捨てられた身です。それを救いたいと思うのは、聖女として、当然の事だと思いますが?」

「そうですか。さすが聖女様です。元とはいえ、自国の民を殺しまくった相手に慈悲をくださるとは」

「ええ。困った方に手を差し伸べるのは人として当然、まして私は聖女と言われる身。理不尽な目にあっているあなたを救わない理由はないかと思いますが?」

「フーン。いや、さすが聖女様だ」


 そういって鼻で笑うと、彼女は気にせず続けた。


「困っている方に慈悲を。私たちが違うのは違う旗の下で戦った、それだけの事なのですよ。戦いが終わっても復讐という戦いを続ければ、それは地獄です。どこかで断ち切らねばいけません」

「ご立派な事ですね」

「これも民を思えばこそ、です。私はもとよりこの戦争に反対の立場でした。戦争が起これば必ず憎しみが起こるものですから」

「そうですか……」


 そうジークが言い、喋るのを止めると、サレナもまた、喋るのを止めた。

 そして、二人の間に沈黙が流れた。


 しばらくして、


「もういいかげん、お芝居はやめたらどうですか?」


 サレナがそういったとたん、周囲の空気が変わった。

 一見するとこの女は何も変わっていない。

 美しい顔で、笑顔のままだ。


「くだらないやりとりはやめましょう。あなたが本当の私の事を知らないとは言わせませんよ」

「……」


 ジークは思った。逃げられない、と。

 この女の纏う空気は、もはや聖女と呼ばれる慈悲深いものではなかった。


「わかりましたよ。深謀の魔女殿」

 お楽しみいただけましたでしょうか?


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