01.追放
「貴様を追放する。理由はわかるだろう?」
ジークフリード、通称ジーク(18歳)は、アリステラ王国の王宮の庭で行われているパーティで、いきなりこう言われた。
このパーティ、というよりも、大規模なお茶会は、先日無事和平協定が終わったお祝いパーティを翌日に控えた、簡単なものである。
ジークは貴族ではないが、自身の雇い主である公爵に明日のパーティに出席しろ、とに言われ、先程着いたばかりだった。
一緒に来た雇い主の娘、そして護衛対象である公爵家の三女レナは、国王陛下に謁見しにいき、彼は与えられた部屋で疲れを癒そうとした所、このパーティに参加するよう王宮のメイドに言われ、参加したのだった。
参加しているのはこの国、この国の未来を担うであろう貴族子弟の中でも、上位貴族ばかりだ。
無論、公爵家の次男次女もいる。三女のレナは居ないが。
しかも、ここにいる全員が、この国の王太子であるカナン王太子の取り巻き連中でもある。
そして、今追放を宣言したのは、そのカナン王太子だ。
ある者はニヤニヤしながら、そしてある者は化け物をみるような顔で、ジークを見ていた。
「いや、理由はわかりますが……」
「ふん、卑しい身分でもそのくらいの脳みそはあるらしいな。」
確かにジークはもともと身寄りもない、はっきり言って平民以下の存在だ。
物心ついてすぐ犯罪組織に売られ、その組織から脱走した後は傭兵稼業をしていた。
当時からろくに食事してなかったせいで、並の女性以下の背丈しかない。
しかもこの国にはいない、黒目黒髪といった風貌だった。
傭兵時の依頼人であった公爵令嬢であるメネア様に気に入られ、シャロン公爵家に雇われた。
で、今回の戦争だ。
相手国であるエスティリア帝国は、こちらの十倍以上の国力を持っており、正直、いつ攻め入ってきてもおかしくない状況だった。
そしてアリステラ王国のカナン王太子がこともあろうにエスティリア帝国の高位貴族に無礼を働いたため、ついに戦争が起こってしまったのだ。
正直、馬鹿としか言いようがない。
こうしてエスティリア帝国から宣戦布告を受けたアリステラ王国だが、とてもじゃないが勝てる見込みは無い。
国力だけじゃない、兵士の数や練度も、段違いなのだ。
ほとんどの貴族は、対応に困り、何もしなかった。
いや、敗北を確信し、どうエスティリア帝国に寝返ろうか考えていた貴族もいた。
王族も何もできなかった。
だが、せめて一矢、と立ち上がった家があった。
それがジークの所属していた、シャロン公爵家だった。
司令官は長男が行ったが、作戦立案はジークが行っていた。
長男は優秀だったが、戦術などはからっきしだったからだ。
もっとも内容はそんなに難しいものではなかった。
あらかじめ罠を張ったり、籠城するための拠点の準備を行ったり、といったものだった。
そして、肝心の追放される理由は、ジークが行った事にある。
簡単に言うと、敵国を恐怖で埋めつくすことだった。
ジークは犯罪組織から一緒に脱走した仲間に声をかけ、様々な事を行った。
彼らは全員が幼いころから犯罪組織のエリート教育を受けてきた連中だ。
戦闘技術や暗殺技術は高いし、どんな恐ろしいことでも平気でできるよう訓練されている。
また、犯罪組織の元締めが帝国だったことから、復讐の意図もあった。
殺戮、虐殺、特にエスティリア帝国貴族で今回の戦争に肯定的だった貴族に対しては、徹底的に行った。
領地の一般市民の虐殺から始まり、兵士が市民の防衛に力を向けるようになると、今度は貴族を殺戮した。
それも、一族郎党皆殺しにした。
前線に出ている貴族には、家族の死体を送り付けるなどした。
自身の妻子の変わり果てた姿に激高した貴族は、怒りのまま進軍し、あらかじめ仕掛けておいた罠にあっさりはまって壊滅的被害を負った。
無論、そういった残虐行為は、エスティリア帝国に住むただの一般市民に向けても行われた。
エスティリア帝国はジークの想定通り、恐怖で埋め尽くされた。
当然の事だろう。
いつ殺し屋が来るかわからない。
寝る前には、このまま目を閉じれば殺されてしまうのではないか、と恐怖する。
朝起きれば生きていることに安堵し、恐怖におびえた一日を過ごす。
そして、アリステラ王国が思っていたよりも粘って戦争が長引いたため、和平交渉を行うことなった。
だが、当然アリステラ王国の上位貴族はジークの行った事は知っている。
そんな恐ろしいことをする奴を追放したくなる気も分からなくはない。
「貴様の非道な行いは、決して許すことはできない!追放だけで感謝するのだな!」
「了解しました。ではすぐに出ていきます」
「ほう……随分と聞き分けがいいのだな」
「こうなると思っていましたから」
この貴族子弟が集まるパーティに呼ばれた時点で、ジークはこうなる事はわかっていた。
最近のこの国の貴族師弟の多くに、選民思想が蔓延っているのは前からわかっていたし、自身が疎まれている事も承知していたからだ。
それに、ジークがした行いを罰しないと、他の国々に非道な国、と思われる可能性もある。
これらを総合し、貴族がこういった行いをする事は想像できていたのだ。
もっとも、本当にするとは、という思いもジークにはあった。
なにせ、和平条約を結んだばかりなのだ。
しかも、アリステラ王国とエスティリア帝国の国力差は未だに大きい。
これから訪れる平和が、仮初めの物だというのは、明らかだ。
そして、エスティリア帝国もジークの存在に気付いている可能性が高いのだ。
和平交渉を言い出した一番の理由は、ジークの存在を恐れてだろう。
そして、和平期間中に、ジークの暗殺を行えば、いつでも戦争を再開できると思っている可能性が極めて高い。
ジークは最初からそれを狙い、主人である公爵に進言していた。
つまり、ジークを追放する事は、エスティリア帝国への切り札を捨てるという事に他ならない。
ジークは思った
こいつらは本当に、馬鹿としか言いようがない。
こんな選民思想のクズ&馬鹿がこの国の未来を背負うと思うとうんざりする。
大恩ある公爵家にしたって、拾ってくれた長女のメネア様は流行病で亡くなっているし、今回の戦争の立役者に仕立てた事で、恩は返しただろう。
沈む船から向こうから追い出してくれたとので、むしろ幸運だ。
そう思ったが、心残りが一つあった。
それは、公爵家三女レナの事だった。
ジークはメネアから、「レナをよろしくね」という遺言を受けていた。
だがジークがこの国にいると、レナにも迷惑がかかるのは容易に想像できた。
それに、ジークがメネアに拾われた恩はもう十分に返した、というのが彼の考えだった。
さらに、
ジークはそう考えると、兵士に連れられて、アリステラ王国から追放された。
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他の長編は、一話完結型ですが、そうではない形での長編は初めてなので、頑張って1、2週間で投稿したいな、と思っております・
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