好きって気持ち
<金次郎>
佳夏は、ボクによじ登って時計を着けていった。
まったく、ほんとにあの子そっくりだ。
あの子を見つけたって、どういうことだ。
<佳夏>
美織と平山は11時に駅で待合わせをして出かけるらしい。なので、わたしもそれに合わせて家を出た。そして、駅から離れてショッピングモールに行って、早めの昼ご飯を食べておくことにした。二宮はご飯食べないから食べておかないと。
昼代とICカードチャージ分をいくらかもらったけど、二宮の切符代もあるから昼代を節約。地下のスーパーで安いお弁当買ってフードコートで食べる。
ナミばあちゃんは午後の問診があるから、3時に面会ってことでお母さんが連絡しておいてくれた。まあ、帰りは二宮が消えちゃって一人で帰ってもいいから、ナミばあちゃんとゆっくり会わせてあげよう。細かい帰りの時間は、電話して美織と時間合わせる。ケータイの充電もOK。完ペキだわ。
二宮は、エスカレーターが初めてだったんだから、電車なんか乗ったことないんだよね。体だけは乗ったことあるのかな。でも、すごい大冒険に出かける気分だ。
って、
来るかな。
伝わってるか分からないのに、石像に話してきた。
石像に約束して、ちゃんと来るのかな。
来なかったら、とりあえず、一人でナミばあちゃんの所に行こう。
わたしは、エスカレーター近くのベンチに向かった。
来るか来ないか分からないドキドキで座っていられそうにないから、時間ギリギリに行った。
二宮がもういた。
遠くからでも分かる。
冬服になってた。ニューヨークの少年も衣替えしたのかな。
「二宮」
「佳夏」
ただ、名前を呼ばれただけで泣きそうになった。
「良かった、伝わってたんだね。ちゃんと来てくれた」
「うん。全部、聞いてたよ。学芸会のことも、テストのことも、給食のことも、お母さんのことも、友達のことも、面白かったよ」
「良かった」
「うん。本当に本当に、嬉しかったよ。だから、あの子が見つかったって言ってたけど、もうそれはいいよ。ボクは佳夏に会えた。石像の所に来てくれたことでもう満足だ。この少年の体とはいつか離れなきゃいけないから、その、ボクの願いなんてもういい。佳夏が少年と一緒にいたいなら、それで佳夏が楽しいならその時間を大事にした方が」
「違うの」
「え?」
「わたしのために、二宮の願いを叶えるの。そうじゃないと、これから先何もできない気がするの。意味分からないけど、分からないから、とりあえず、会いに行くの」
「でも、会いに行くって」
わたしは、ナミばあちゃんの写真を見せた。
「これは・・・・・・」
「その子だよね。探してる子。二宮も一緒に映ってる」
「佳夏?」
「わたしのひいおばあちゃん。今年八十七歳。ナミって言うの」
「ナミ」
二宮の表情が変わった。記憶の糸が反応したのかな。
「これから電車に乗って会いに行くの。それに、わたしが楽しいと思う時間を優先してくれるなら、これはデートだよ。ね」
「わかった」
<金次郎>
佳夏に写真を見せられて、あの子との日々が頭の中によみがえった。
呼ばれているような気がした。
あの子に会いに行くために、二人で出かける。
それにすごい意味があるような気がしてきた。
<佳夏>
二宮との電車旅は、想像以上にハチャメチャで面白かった。
二宮は、いるだけで目立つから見つけやすいけど、さすがに乗換駅は人がすごく多いので、はぐれそうで怖い。二宮はエスカレーター苦手だし。
「二宮、次の駅で降りるから、はぐれないでよ」
「分かった」
そう言って、わたしのリュックのひもをつかんだ。なんかこっちが放っておくとどこかにいっちゃう犬みたい。
「え、そこ、持つ?」
「何かつかんでおかないと」
電車が止まった。わたしは二宮の左手をつかんだ。
「えっ」
「降りるよ」
わたしは恥ずかしいから顔を見ないで言った。
「うん」
二宮がつなぎ返す。
ドアが開き、たくさんの人が同時に降りて、同じくらの人がホームから乗り込んでくる。その流れに乗り遅れないように手をつないでホームを歩いた。
たくさんいる人たちの中で、わたし達二人はつながっている。
それが、すごく特別な気がして。
暖かくて。
ああ、これはなんなんだろう。
離れるのが分かっていて、どんどん近づいてしまう。
こんな時間が続かないと思うと、胸が痛くてたまらない。
だけど、一緒にいたい。
こんなの初めて。
これが、好きっていう気持ちなのかな。




