ずっと探していたもの
<金次郎>
どういうわけか、佳夏が来た。
ボクのところに来た。
石像のボクのところに。
「お父さんが区役所で働いててね、この辺に二宮金次郎の石像があるって言ってたの。再開発とか、道路を整備するとか、二宮が前に言ってたこととつながることがいっぱいあってね。・・・・・・なんて話しても、分かるのかな?」
ちゃんと、聞いてるよ。
そうだったんだ。会いに来てくれてありがとう。
信じてくれてたんだ。
「想像してたより、小さいね。もっと小学生の子供の等身大で、わたしと同じくらいかと思った。でも会えた。よかった」
それから、佳夏は何度か会いに来て、たわいもない話をして帰った。
考えてみれば、ボクは佳夏のことをあまり知らなかった。
ボクの話ばかりして佳夏のことを聞くことはなかったんだ。
何が好きか何が苦手か、友達のこと、家族のこと、将来のこと。
佳夏は石像のボクに話してくれた。
ボクは佳夏の話を聞くだけ。石像だから喋れない。会話はできない。
でも、対話をしている気持ちはある。
あの頃と一緒だ。
本当によく似ている。
もういい気がしてきた。
あの子に会えなくてもいい。
こうして、あの頃と同じような時間を過ごしてるだけで幸せだ。
これ以上のことは望めない。
この場所を離れても、悲しくない。
ありがとう佳夏。
今度、二宮として会うとき、言おう。
君に会えたから、もう充分だって。
<佳夏>
学芸会は無事終わった。
あとは、六年生だけの遠足とかで、全学年が参加する行事はもうない。
ああ。もうすぐ卒業なんだな、って気がした。
少しずつ、大人になっていくんだね。
夜、美織から電話がかかってきた。
わたしは子機を持って、自分の部屋に行った。
「佳夏、あのね、学校では言えないから電話したんだけど、絶対内緒にしてて」
「なに?」
「平山に告白された」
「えええええええ」
文化祭で告白とか、そういうやつですか。やるな平山。
「平山も受験組でしょ。塾も一緒で前からいろいろ話してて、まあ気が合うかなって」
「好きなの?」
「うん」
「へえええ」
「お互い合格したら、ちゃんと付き合おうってことになった」
深沢は振られたか。やっぱり同じ塾は強いな。
「そっか。おめでとうと言えばいいの? こういうの?」
「ありがとう。それでね、佳夏にお願いがあるんだ」
「何?」
「今度の日曜日、二人で神社に合格祈願しにいこうって話になって。全国統一テストも終わった後の週末だし、一区切りできるからって」
「ああ、デートですね」
「付き合ってないから、ほんと、神社に一緒に行くだけ」
「分かってるよ」
「ママには佳夏が一緒に行ってくれるって話になってて」
「え、もう言ってあるの」
「佳夏もほら、二宮とどこか行きなよ。私と一緒に行ったことにしていいから」
え?
美織がそんなこと言うと思わなかった。
ふわふわしてる女の子。衣梨菜の恋愛話にも興味示さなくて、まだ恋なんか分かんないよねって言ってた美織。
妄想というステップをふまずにリアルな恋愛を始めてる。
女子同士でアリバイ作って親に内緒でデート。
また、美織が遠くに行ってしまったような気がした。
「ほんと。ありがとう。じゃあ、誘ってみる。時間とかハッキリ分かったら合わせよう」
よく分からない対抗心が芽生えた。
今までの美織だったら、本当に平山が好きだったとしても、受験があるからと即答しなそう。わたしが二宮の話をしたから、デートまで約束してるんじゃないかと思えてしまう。美織が「わたしだって男の子と出かけたりします」と、わざわざ報告してるように聞こえた。だから、また二宮に会える保証はなかったけど、どうにかできる自信もないけど、美織と同じような事してやりたくなった。
衣梨菜じゃないけど、美織ばっかりズルいみたいな気持ちがあった。
子機を戻しにリビングに戻った。
「何、発狂してたの?」
お母さんに聞こえるほど大きな声で驚いてたか、わたし。
「別に、ああ、今度の日曜日に美織と出かけていい? 受験前に遊べるのこれが最後かもって言ってたから」
「どうぞ。いってらっしゃい」
美織と出かけることに関しては、なんの詮索もされない。
二宮と会えなくても、この日は出かけないとなあ。
「そうだ佳夏、ナミばあちゃんが面白いもの送って来たよ」
お母さんが、白黒の古い写真を見せてきた。
「何、これ」
「子供の頃のナミばあちゃん」
わたしそっくりなモンペ姿の子が写っていた。背景は小学校の校庭。
似すぎてて、わたしの写真をわざと古い写真風に加工したみたい。
「そっくり」
「でしょ。だから、佳夏にあげるって。ナミばあちゃんの宝物」
「いいの? 宝物なのに」
「形見にしてほしいんじゃん」
「形見?」
「最近、調子よくないんだって」
「そうなの」
「まあ、涼しくなって、だいぶ落ち着いたみたいだけど。この間電話で佳夏のこと話して、二宮金次郎に興味持ってるって言ったら、送ってくれたのよ」
「二宮金次郎?」
わたしは写真をもう一度見た。隅っこの方に、それらしいき像が写っていた。
白黒でよく分からないけど、二宮だ。
二宮の二宮金次郎像だ。
「ナミばあちゃん、小学校にいた二宮金次郎像が初恋の人なんだって。かわいいよね。ずっと大事に持ってたんだってよ」
「金次郎像が初恋の人?」
「いいんじゃん。お母さんの友達に、初恋の人は天草四郎の蝋人形って人いるから」
「それはあまり参考にならないけど。けど、すごい・・・・・・」
すごいことが起きている。
写真を持つ手が思わずふるえる。
お母さんにバレないようにソファに座った。
二宮の探してる、あの子がナミばあちゃん。
そしてナミばあちゃんの初恋の人が、二宮!
うわあああああ。
もうまた叫びたい気分。
年齢的に「あの子」はひいおばあちゃん世代だとは思った。それでわたしに似てるって、単純に考えたらナミばあちゃんだったり! って思ったことあったけど。
けど、二宮の話信じてなかったから、きちんと考えもしなかった。
でも、ナミばあちゃん側からそんな話聞くと信じたくなってきた。
もしかして、ナミばあちゃんが、二宮を呼んだのかな?
最期にもう一度会いたいって。
だから、わたしと二宮が出会えたのかも。
だって、こんな偶然って。
わたしに課せられた使命みたい。
ドキドキしてきた。
雷に打たれたみたいに、わたしの中に電気が走った。
これだ。
なんだか、よく分からないけど、見つけた気がする。
ずっと探してたもの。
わたしにできること。
わたしにしかできないこと。
よく分からない新しい感情に、よく分からないままでもいいから、何かをはじめられるのは人間だけだ。石像の気持ちが分かるなんて言えるのは、機械より人間だ。
ロボットに負けない。
自分の夢を見つけるために、
まず、二宮の願いを叶える。
「お母さん、日曜日、ナミばあちゃんの所にも行ってきていい? 美織が行きたいって行ってる神社、同じ路線にあった気がするから」
「いいよ。じゃあ、連絡しておくよ」
わたしは次の日、二宮の時計を持って石像の所へ行った。
「二宮、あの子を見つけたの。一緒に会いに行こう。次の日曜日、二人が出会ったショッピングモールで待ってる。エスカレーター、動く階段の近くのベンチで待ってるから。時間は、ちょっと別件でいろいろあるから、12時集合ね」
わたしは、石像によじ登って、本を持ってる方の手首に時計をはめた。
もちろん、1秒たりとも遅れないように時間を合わせて。
「日曜日まで雨は降らなそうだし、ツバメに取られないようにね」
伝わらなかったら、諦める。
伝わったら、信じ抜く。




