幸福の王子みたいに
<金次郎>
ここ何日か、ゲリラ豪雨に襲われた。
去年、近くの道に穴が開いて、区の人が土のうを何袋も持ってきて、応急処置として埋めていた。今回の雨で、そこがあふれ出したらしい。また区の人がいろいろやっていた。ボクやボクの周辺を写真に撮っていたので、ここから出て行けと言われるのも時間の問題かも知れない。
ボクは佳夏が学校に行っている時間、人間になって一人でいろいろ出かけたりした。またあの図書館に行ってこの地域の資料を見たりした。
佳夏に出会わなかったら、こうして一人であてもなく探すしかなかったのだから、これが本来の姿なんだ。管理人が与えてくれたチャンスは、そもそもこれだけなんだ。
なのに、あの子を探そうと思わなくなってしまった。
もっと会いたい人と、これから先どうすればいいか分からない。
<佳夏>
十月末にある学芸会の準備が始まった。学芸会と作品展が交互にあるけど、今年は学芸会の年。六年生はいろいろとやることが多くて準備の時間があまり取れないので、先生達で相談して演目を決めたらしい。低学年の時みたいに、なんでもいいから全員舞台に出る必要はないみたいだ。声だけの出演や、裏方の仕事を分担して、さすが六年生という作品を作ろうということになった。
演目は「幸福の王子」
ある街に「幸福の王子」という銅像が建っている。その銅像は若くして死んでしまっ
た王子の魂が宿っていて、王子は街の人たちを見ている。
街の人たちの悲しみや嘆きを知った王子は、銅像の足元にきたツバメに頼んで、自分に埋め込まれている宝石を貧しい人たちにあげて欲しいと頼む・・・・・・
セリフのある役は二十人くらい。二クラスなので一組二組ごちゃまぜにして、ダブルキャスト。土曜組と日曜組に分かれた。照明や音響は、放送委員の人たちを中心に、そういうのが得意な奴らが立候補してた。
音読の上手い美織は、推薦されてナレーターで日曜組。
わたしと衣梨菜は、子供役で土曜組。
今日は、いつもだったら体育の授業をしてる時間が学芸会の練習になった。
日曜組と土曜組それぞれの教室に別れた。土曜組はウチの教室で、日曜組は隣に移動。
日曜組の人たちと美織が教室を出て行くところを見ながら、衣梨菜がまゆ毛に力を入れてつぶやいた。
「みんな美織がいいって言うよね」
「みんなって?」
「男子」
「衣梨菜、クラスの男子なんか興味なかったんじゃないの?」
「そうだけど、みんな美織がいいって聞くとさー。この間、聞いちゃったんだよね。平山と深沢が話してるの・・・・・・」
衣梨菜が回りの視線を気にしながら声のボリュームを落とした。
「何?」
「二人とも美織が好きで、いつ告白するかって」
「へえ」
「でも二人が、でしょ、みんなじゃないじゃん」
わたしは、目だけで教室を見渡した。その二人はいない。
平山も深沢も美織と一緒の日曜組だ。
「うちのクラスでまあまあイケてるのがあの二人じゃん。その二人が、美織がいいって言ったら、それ以下も美織がいいに決まってるよ」
「そうかな」
二宮級のイケメンを知ってるせいか、平山も深沢も、衣梨菜の憧れの先輩もわたしにはみんな同じだ。それ以下に入れられた人たちもあんまり変わらない。
「ああいう、女の子って感じの子に最後は持って行かれるんだろうね」
「最後ってなんの最後よ。まだ小六でしょ」
ママと一緒に見てたドラマにでも出てきたセリフ? 結婚を逃したOLみたい。
「生まれ持った可愛さには、どんなに化粧盛ったってかなわないよね」
「だから、衣梨菜いくつよ」
「あああ、かわいくて、頭も良くて、育ち良さそうなオーラ全開で、それなのに佳夏と仲良しってところで気取ったところがなくて、まあ、運動は私の方ができるかもしれないけど、ああいう女子がいるから、私みたいなのが、むくわれないのね」
「なんか、さりげなく、ひどいこと言ったね」
「言わせてよ。もおお。この間、先輩がね、一緒に歩いてる女子がいてね。まあ、同じ中学っぽいんだけど、それがさ、美織みたいなタイプなんだよね」
「ああ、彼女できたんだ」
「まだ、彼女かどうかは分かんない」
「そっか、そっか」
結局、その話をしたかっただけか。
「じゃあ、美織は関係ないじゃん」
「そうだけどさ、かわいい子ってズルいって思っちゃうよね。しかも、本人は何も悪くない。かわいく生まれてきただけだから。文句言えば、こっちのブス度が増すだけ」
「まあね」
「美織のママからして違うもんね。美人の血なんだろうね。やっぱ遺伝か。ウチのママなんか、すっぴんマジやばいよ。寝起き別人だから」
「あはは。そうなんだ」
確かに美織はかわいい。
わたしより背も高くて胸もちょっとふくらんで見た目はお姉さんだけど、赤ちゃんみたいな可愛さっていうか、ふわふわしてて、なんかいい匂いがする。女の子っぽいっていうのかな。男の人はこういう子を守りたいって思うんだろうなってわたしでさえ思う。
正直、隣に並びたくない。同じ髪型して、おそろいのヘアゴムつけようとか言われたけど嫌だった。わざと忘れて合わせなかったりしたことある。大人から見れば、小学生女子がおそろいで二人ともかわいいって思うのかも知れないけど、わたしが引き立て役になる気がして嫌だった。
衣梨菜の面白くない気持ち、分からなくはない。
けど、見た目ほど、ふわふわしてないって事はわたしが一番よく知ってる。
台本をもちながら劇の練習が始まった。劇だから銅像を人間が演じるけど、本当に銅像がこんなふうに思ってるのかな、とか考えてしまう。
銅像の言葉は人間には直接届かないかもしれないけど、いろんな形で語りかけてくれてるのかな。そして、こちらが言ったことは聞こえてて、悲しいことも嬉しいことも見ていてくれてるのかな。
二宮の存在を重ねずにはいられなかった。
石像の二宮に話しかけたら、ちゃんと届くのかな。
やってみようかな。
確かに、イケメンの二宮はとっても魅力的だけど、わたしといるだけで嬉しいと言ってくれた二宮は、石像の二宮だもん。
石像の二宮とまた話がしたい。
石像の二宮にも会いたい。
わたしは、家に帰ってランドセルを下ろすなり防災マップを広げた。
場所を確かめて石像のところへ行くことにした。




