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二宮くんの探しもの  作者: 牧田沙有狸


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11/18

親友だと思ってたのに

<金次郎>

 なぜ、ボクが突然消えなければならなかったのか。

 いろいろ考えると、考えたくない答えが出た。

 佳夏は、ボクのことを、二宮金次郎の石像の話を、信じていなかったんだ。

 ボクは少しだけ、一人になりたくなった。






<佳夏>

 二学期になった。

 二宮が消えたことは衣梨菜にはもちろん言えなかった。

作戦が失敗したのではなく、わたしの具合が悪くなって、プラネタリウムが終わって帰ることにしたと話した。実際、消えたショックと寝不足で早く家に帰りたい気分だった。

二宮と次に会う約束をする余裕もなかったから、学校ではその話しないでと言っておいた。まあ、衣梨菜も先輩を誘えなかったと、自分のことでいっぱいみたいだったけど。聞いてもいないことをべらべらしゃべり続けてた。

二宮の話、全部本当だったんだ。

 まさか本当に5時になったら消えちゃうなんて。

 二宮が言ってることを本当は信じてなかった。

 全部、真実で二宮はちゃんと話してたのに、アニメやラノベ好きの妄想なんだと決めつけて、自分に都合のいいように解釈してた。

 時計をわざと遅らせたことが分かったら、信じていなかったってことも、二宮に分かっちゃうんだよね。そしたら、傷つくよね。

 怒ってるかな。

 わたし、どうすればいいんだろう。

 自分でもこの状況が信じられないから、誰にも相談できない。

二宮とは、なんの連絡も取れていないまま、一週間がすぎた。



土曜の午後、リビングに置きっぱなしの二宮金次郎の本を手に取った。

返却日が記されたレシートが落ちた。

「やばっ。返すの忘れてた」

 

図書館に行くと、勉強している美織を見つけた。

「受験勉強?」

「うん。佳夏は?」

「本、返しに」

「そうなんだ」

 二学期が始まるなり、衣梨菜が機関銃のようにしゃべり続けるから、美織とゆっくり話せていない。久しぶりで、何を話せばいいか分かんなかった。なんとなく、美織もわたしと話すのが気まずい感じがした。

「喉かわいたから自販機行くけど、佳夏も行かない?」

「いいよ。行く行く」

 美織が誘ってきた。静かな図書館でいつものように話すのは、遠慮しなきゃと思っただけだろうか。


 自販機のある談話室でそれぞれジュースを買って座った。

「最近、衣梨菜と仲いいんだね」

「一方的に話してくるだけだよ」

「そう? 佳夏も、好きな人できたの?」

「なんで?」

「衣梨菜が興奮してたから。そういう話好きな子じゃん」

「ちょっと、違うかな」

「違うって、どういうふうに?」

「え、まあ、いろいろ面倒くさくて。たいしたことじゃないよ」

「そうなんだ。私には話せないか」

「え?」

 正直、話せなかった。

低学年の頃から仲良しの美織。二宮と会ったばかりは、誰よりも早く会っていろいろ言いたいことあった。でも、二宮への気持ちが日に日に自分でもよく分からなくなってきて、こんなごちゃごちゃした状況を話していいのか自信がなくなった。美織はヒマじゃないだろうし、って思うとわたしのペースで話したらいけない気がした。そういう点で衣梨菜の方が話しやすいのは確か。受験しないし、半分面白がってる感じが遠慮しないですむ。

「なんか、さみしい」

「なんで?」

「親友だと思ってたのにな。衣梨菜と佳夏だけのヒミツがあるんでしょ」

「ヒミツとか、そういうんじゃ。衣梨菜にも全部話したわけじゃないし。いろいろ勝手に盛り上がってるだけで、こっちから相談したわけでもないし」

 ウソは言ってないけど、言ってるほど衣梨菜が勝手にやったとも思ってない。なんか、つまらないことで焼きモチ焼かれているようで、イラッとした。

 佳夏は親友だから力になりたいのに言ってくれない、っていうより、この私にことわりもないのか、って言われてる気がした。

 正直、六年になってからの美織は付き合いにくかった。

 将来のこととか、受験とか、勝手にさっさっと決めて頑張ってるって。

自分は勉強で大変な思いしたからすごい学校に行くの。

え? 何、毎日働いたからお城に招待されるシンデレラか。私たちはココロの底からお祝いしてお手伝いしてくれる小鳥とかリスだとでも思ってるの? 

自分が主役の物語のわき役やらせないでよ。

わたしだって、わたしだって自分の人生の物語生きてるんだから。

そう言いたくなることが、何度かあった。

けど言わなかった。言ったらダメな気がした。

本音を言わないために、何も言わない方がいいかなと思い始めた。

私だって好きなようにする。美織にいちいち報告する義務とかない。そうやって自分に言い聞かせて、これまでの関係を壊さないようにしてた。

―――親友だと思ってたのに。

美織のこのひとことに、気を使うのも嫌になった。

なんか、イライラしてきた。

「美織の、自分ばっかり頑張ってるみたいな態度が気に入らなかったのよ」

「何が?」

「中学受験で大変。大変大変。ってどっか自分の方が偉いみたいな言い方してるんだよね」

「そんな」

「だから、世界の違う人みたいで、相談とかできなかったよ」

「そんなふうに、思われてたんだ」

 予想以上に美織は悲しそうな顔をした。

 怒るかと思ったら、逆だ。

やばい。泣かしちゃったかな。

「やっぱり、佳夏は大丈夫だよ」

「どういう意味?」

「ちゃんとしてる」

「え? 何が」

「私、今の佳夏の言葉聞いて納得したもん。自分でも分かる。頑張ってる分、偉い気分になってた。実際、大変でさ。他の子とは違うんだって思わないとやっていけない時もあるから」

「美織、ごめん」

「ううん。あやまることじゃないよ。むしろやる気出てきた。ありがとう」

「え? なんで?」

「私の行きたい中学はね、自立した女性になるための勉強がいっぱいあるんだ」

「自立した女性?」

「うん。男の人と競争するんじゃなくて、女の人だからできることを見つけていくの。それも、昔ながらの女の役割みたいなのにしばられない、広い目でいろんな仕事ができるように」

「仕事?」

「うん。ママの時代は誰でも出来るような事務仕事がいっぱいあって、ちょっとパソコンできればなんとかなったって。でも、これからの時代、そんな誰でも出来る仕事は機械が全部やってくれるから、自分にしか出来ない、これっていうもの持ってる人が強いんだって」

「それは、うちのお母さんもしょっちゅう言ってる。ロボットに負けるよって」

「でしょ。だから、好きなこと、その人にしかできない仕事ができるようになれたら幸せだって。うちのママ、好きを仕事にした佳夏のママが羨ましいって言ってた」

「え、そんなかっこいい感じじゃないよ。描いてもたいしたお金もらえないから趣味と変わらないって思われてるよねって、文句ばっかり言ってるし」

「そんなことないよ。文句言ってても楽しそうでしょ」

「楽しそうだなとは思う」

「だから、ママは私には、もっと若いうちに、子供の頃から、やりたいと思うこと、できること、見つけられるようになって欲しいって」

「やりたいと思うこと、できること?」

「うん。自分のやりたいこと、女の人だからできることを勉強するために受験するの。もちろん、公立でも見つけられるよ。佳夏のママみたいに大人になってから頑張れる人もいるし、そういう人はどんな学校行ったってできる。だから佳夏は大丈夫だと思う。でも、私は、うちは、誰かにいろいろ教えてもらわないと見つけられない気がするの。うちのママは、女が下に見られてることに不満を感じてても、パパがいなきゃダメなタイプだから」

そんなふうに思われてたんだ。

自分やうちのお母さんのことまで、冷静すぎる分析にびっくりした。

やっぱり受験する気で塾行ってる子は違うのかな。

美織の方がずっとちゃんとしてるじゃん。

 わたし、ぜんぜん大丈夫じゃないのに。

 どこもちゃんとしてないのに。

 美織が中学受験するって言い出したのは、四年生のころ。

自分の実力知ってみようって感覚で塾の無料テストを受けたら、説明会を聞いたお母さんがものすごいやる気になっちゃったって。でも、実際その学校に見学に行ったら、母娘して憧れちゃって、一緒にがんばろって。お母さんが自分に一生懸命になってくれるのも嬉しくて頑張ってたって。

その話聞いて、大変だな。私は嫌だなって思った。可愛い制服とキレイな学校、頭のいいところに行っているっていう、ちょっと自慢したい気持ちだけで無理してるように見えたから。

 でも、その中には、ものすごく自分の将来のことを考えた答えが入ってたんだ。そして、そう思わせたのが、もしかしたらわたしの存在なのかもって、思えてきた。

知らない間に比べられて、頑張ってたんだ。美織も美織のママも。

 何もないわたしに負けないように頑張ってたんだ。

 今のわたしに、これってものは何もない。お母さんみたいに絵が描けるわけでもない。おしゃれと恋愛大好きな衣梨菜もママの影響だけど、うちはそういうのも全然ない。

 そもそも、そんなこと考えたこともなかった。

小学校卒業して、中学に入って、部活、勉強、新しい友達、何かあるかな。

やりたいって思えること、あるかな。

頑張らないとロボットに負けちゃう。

 自分には何ができるんだろう。何から始めればいいんだろう。

自立した女性とか、仕事とか、そんな言葉が美織から出てきて、びっくりした。

 自分だけがまだまだ小学生で、みんないつの間にか大人になってしまう。

美織だけが違う世界の人になるんじゃなくて、わたし一人だけ置いてけぼりにされてしまうんじゃないかって、怖くなる。

 見た目だけじゃなくて、自分が本当に子供っぽく見えてくる。

美織にわたしの話が通じなくなる日が来るんじゃないかって気がしてくる。

わたしの言葉、わたしの話、さっきみたいに納得してくれるのだろうか。

―――親友だと思ってたのに。

このままじゃ、いつかわたしも、そんなこと言ってしまうかもしれない。

美織は何も悪くなくて、自分が子供のままなだけなのに。

「美織、すごいね」

「そんなことないよ」

そうだ。いつも美織は、そうやって遠慮がちに言う。

自分の方が偉いなんて態度、本当はしてない。

さっさと先に行っちゃうのが、本当は嫌だっただけ。

つまらない焼きモチ焼いてるのは、わたしの方だ。

そんなすごい目標を持ってる美織が好きだ。

やっぱり、美織と話したい。

美織に聞いて欲しい。

二宮のこと。

「美織、あのね。わたしの気になる人の話聞いてくれる?」

「もちろん」

 美織は、予想以上に嬉しそうな顔をした。

「ややこしくて、話長くなるけどいい?」

「うわ。楽しそう」

ずっと前から知ってる美織の顔だ。

 わたしは、二宮のことを美織に全部話した。

 そして、美織は全部信じてくれた。



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