表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
二宮くんの探しもの  作者: 牧田沙有狸


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/18

夏休み終わる

<金次郎>

佳夏の鼓動が伝わった。

ボクが見た東京の空を見たいと。

時間が止まればいいのに、少しだけそう思った。

なぜだかもう、あの子と佳夏は重ならない。

佳夏だけが見えた。

 大事なことを忘れそうになる。

本当のボクは二宮金次郎の石像だ。

顔や体、声は、ニューヨークにいる少年のものだ。

佳夏が二宮と接しているのはボクじゃない。

佳夏が一緒にいたいのは、この少年なんだ。

 彼女の目はこの少年の姿を追っている。少年の声を聞いている。

 ボクを見ているわけじゃない。

 一緒にいたいのはボクじゃないんだ。

 東京の星空を一緒に見たいのはボクじゃないんだ。

二人がもっと仲良くなったら、きっとお互い悲しくなる日が来るんだろう。

佳夏の知っている二宮と佳夏は、会えなくなる日が来る。

その時、石像のボクには何ができるんだ。


生まれて初めて入ったプラネタリウムという空間は、不思議なところだった。体重をかけると後ろに倒れるイスが面白くて、少しはしゃいでしまった。

 携帯電話や時計のアラームは鳴らないように設定してくださいと場内放送が流れた。

「二宮、時計かして。アラームとかなると困るから確認しておくよ」

「ありがとう」

 確認し終わった時計を受け取る前に場内が暗くなり始めた。ボクの左側にいる佳夏は時計をはめてくれた。当たり前のように、ボクの持ち物に触れる。そのやり取りが、佳夏がボクのことを信じてくれている証のように思えた。

石像のボクだったら、一緒に花火を見ることはできる。

そう言ったら彼女はボクの所に来てくれるだろうか。

いつも、この時期、遠くの空で上がる花火を見ているから、空のどの辺に花が咲くかボクは知ってる。この星空が終わったら、石像のボクの所に来て欲しいと言ってみよう。

 

 そんなこと、言えなかった。

 夏の大三角形の話をしている途中で、なぜだかボクはそこにいられなくなった。

 いつの間にか、夕焼け小焼けは鳴っていて、帰らなければならない時間になっていたようだ。






<佳夏>

 本当は4時45分の回だけど、3時45分の回だと言って入った。

本当の上演時間は一時間だけど、二宮には四十分ぐらいだと言っておいた。

衣梨菜曰く、映画館とかこういう空間って時間感覚が分からなくなるから、ここでさらに時間をかせぐんだって。そして、ここでさらに三十分時計を遅らせる。すると花火にいい時間になるでしょうと。最初から一時間半遅らせておくより自然に感じるって。

衣梨菜は一体、どこでこういう知識をつけてるんだ。悪い世界にはまりそうで怖いわ。

お客は少なかった。入り口に近い席に座ったら、その列にはわたしと二宮以外いなかった。

場内アナウンスを聞いて、二宮の時計を外させた。アラーム設定を確認するふりをして、時計をさらに三十分遅らせた。そして、暗くなりかけたら、二宮の腕に戻した。

その一連の流れが、なんだかすごく親密でドキドキした。

なんか彼氏彼女みたいだった。

 ドーム状の天井に広がる空は、日が落ちてどんどん暗くなっていく。実際に星空が広がる場所は、すごく暗いんだろうな。

星のピントを合わせるまでの一瞬の闇の世界に、二宮とふたりでタイムスリップするような気持ちになった。星空を見つめて、一緒に旅に出る。

 あの子、ってどんな子なんだろう。

わたしに似てるって、おじさんには制服着てるアイドルはみんな同じ顔に見えるっていうのと同じだよね。きっと背丈とか、髪型とかが似てて、実際会ったら全然似てないんだと思う。そもそも、そんな子いるのかな。

だって、いたとしたらおばあちゃんでしょ。やっぱりアニメかなんかの世界の話かな。

 いつかニューヨークに帰っちゃうのかな。時間を守らなくて、怒らせて、おうちの人も怒らせることになったら、日本にいられなくなるのかな。

花火を見るための作戦だったけど、今こうしてることが楽しい。

こうして二宮のとなりにいる時間が、この夏休みのこの瞬間が、ずっと続けばいいのに。

 ガイドさんが夏の大三角形を説明してる。

これは今の東京の空でも肉眼で見える。デネブ、アルタイル、ベガを指すポインターを目で追っていると、視界の隅にいる二宮の輪郭がぼやけて見えた。

わたしは、おそるおそる確認するように右側を見た。

 え・・・・・・。

そこには誰もいなかった。

 座席には腕時計がぽつんと残されていた。わたしは薄暗い光の中、時計の時刻を確認した。3時半をさしていた。本当は5時だ。

 自分の手で二宮の腕に時計をはめたことが、マジックでトランプを確認するみたいに、なんのトリックでもありませんと証明したみたいだ。

 二宮の話は、本当だった。


 夏休みが終わった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ