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第48話 受賞

 TCA《東京クリエイティブアクティヴ》の漫画制作の教室に慌てて入った長鳴実門《ながなきみかど》は、前列に座った。いつも隣に座る赤羽龍姫《あかはねたつひめ》は熱心に少女雑誌を読んでいる。

 椅子に座るとネームを下描きにするため、トレース台に電源を入れる。右にいる龍姫が意味ありげに雑誌をこちらに寄せてきた。嬉しそうな顔でこちらを見ている。何か面白い新連載でも始まったのかな? と実門は訝《いぶか》しがった。


「これ今日発売のかしら、読んでもいい?」

「ミカ先輩ー、早く読んでください!」


 実門は新人賞のページを探し、龍姫の名前を見つけると目を丸くした。


「これ!? ペンネーム、赤龍姫《せきりゅうき》(十八)って、龍姫ちゃんじゃない!」

「獲っちゃいましたー」


 龍姫は興奮しているのか小鼻が膨らんでいる。目に涙を溜めて、嬉しそうに担当が付いたことを報告してきた。

 初心者って言っていたのは嘘だったのかと思ったが、ページ数が十六と少なかった。これなら、頑張れば描き上げられるだろう。


「やったじゃない! 凄いわ。専門学校に入ってすぐに賞を獲るなんて。しかも、『努力賞』ってことは一万円。副賞に電話打ち合わせ……だって」

「もう、電話しちゃいました! しかも実際に会って、打ち合わせもしたんですー」

「羨ましいわ。あたしなんて『魔女ソフィーの助手』がアクティで落選したから、三十一連敗よ。担当からも連絡がないし、生命線は途切れるし、恋愛線は薄いし……」

「落ち込むなんてミカ先輩らしくないですよー。元気出して下さい。賞金も入ったし、帰りにスタバにでも寄りませんか? 私の奢りです」

「そうね。たまには外で遊ぶのも楽しいかもしれないわ」


 受賞で先を越されたうえに、歳下に奢られるなんて情けないと思いつつも、後輩の成功に実門は嬉しくて思わず踊りたくなった。教室が狭いので諦めたが、頑張れば報われるという現実を体感して背筋が伸びた。

 それにしても十八歳で賞を獲るなんて早い。その頃、自分は大学一年生。漫画も描かずにデザインの勉強ばかりしていた。もちろん、漫画も描いていたけど落選続きで形にならなかった。

 今描いている『ルームシェア×ショウブフェア』では入選を狙いたい。

 授業が始まり、今回の二ページ漫画のテーマがホワイトボードに描かれていた。今回は『偶然』だった。偶然を題材に二ページの漫画を描く。何が良いだろう。

 しばらくするとLINEが鳴った。既読スルーの担当、榊原《さかきばら》の奴だ。この野郎、と思いつつも内容を確認する。

『今日発売の月刊少女トライの受賞ページを確認してください』。

 龍姫が努力賞を獲ったことが載っている雑誌だ。龍姫に借りて、よく隅々まで見ると、努力賞のページの続きが裏にあった。期待賞という賞だ。

『魔女ソフィーの助手 火乃鳥《ひのとり》実門(二十六)』

 そこに実門が載っていたのだ。嘘っ? 作品はアクティに出したはずなのに!

『アクティで落選が確定したんで、編集会議にねじ込んだら評価取れました。良かったっすね』

 あの日、榊原さんの指示で原稿のコピーを教務室へ提出したのは、このためだったのだ。最近、全然LINEの返事がないから、腹が立っていたが全て許せる気がした。この男、有能かも。


「龍姫ちゃん、今LINEで、担当から賞獲ったって報告あった。あたしも受賞したの!」

「ホントですか!? どこの雑誌ですか? アクティですか?」

「同じとこ。ここ。少女トライよ」

「えー?」


 龍姫はページを捲ると、期待賞の『火乃鳥実門』の名前を発見した。


「凄ーい。同時に賞を獲るなんて偶然過ぎます! 今日は記念日ですね。

 だって、三十一作目で初めて賞を獲ったなんて」


 思わず実門は立ち上がると、黄瀬《きせ》先生に報告しに走った。遅れて、龍姫も付いてきた。


「先生。あたしたち、少女トライで賞獲りましたわ」


 雑誌を広げると名前が載っているページを勢いよく開いた。


「赤羽さんが努力賞。そして、長鳴さんが期待賞。名前は小さいけど、ここに載っていない全ての応募者が羨ましがる結果を二人は成し遂げた」

「はい!」


 実門はふと、その小さく書かれた自分のペンネームと作品のタイトルを額に入れて飾ろうかと考えた。喜ぶ実門の隣で龍姫は先生の反応を覗っている。実門は嬉しくて胸を弾ませる。


「結果が出たのは素晴らしいこと。特に長鳴さんは何十作も描いて初めての受賞だから嬉しいでしょう。ですが、あなたたちはプロを目指しているのです。トライの賞の階段はまだまだあります」


 黄瀬先生はホワイトボードに賞の一覧を書いた。


『もう一歩賞・期待賞・努力賞・奨励賞・佳作・準入選・入選・デビュー賞・準大賞・大賞候補・大賞』


「簡単に喜ぶのは早いわよ。雑誌に掲載されるデビュー賞以上を獲ってからにして下さい」

「はい」


 気持ち良く飛んでいたのに、打ち落とされた気分になった。でも、これが今の実力なのだ。期待賞の下には『もう一歩賞』しかない。つまり、実門の期待賞は下から二番目の賞なのだ。しかも、まだ若い龍姫の評価の方が高い。こんなことで有頂天になっていた自分が急に恥ずかしくなった。龍姫と席に戻ると課題の制作に取り組む。

 このことは一番に絵馬《えま》に報告しないと。LINEで写真を送った。

 スタバも良いけど、今日はカラオケの気分になった。あぁ、叫びたい。

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