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同接0人のEランク探索者ダンジョン配信、なぜか神様や魔王様が見ている件 〜コメント欄が古代龍や魔王とかなんだが〜  作者: 仁科異邦


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鋼鉄の密林と、雷雨の機甲戦


 ダダダダダダダダダダッ!!!

 機械仕掛けの密林に、鼓膜をつんざくような銃撃音が鳴り響く。


 宙を舞う剃刀の銅葉を蹴散らしながら、数十体の『機甲豹パンツァー・パンサー』が木々の間を高速で駆け回り、背中のガトリング砲から無数の魔力弾を降らせてきた。


「チッ、すばしっこい鉄屑どもめ……!」

 九条が悪態をつきながら、飛来する魔力弾を刀で弾き落とす。

神速の抜刀術をもってしても、四方八方からの立体的な制圧射撃をすべて叩き落とすのは至難の業だった。


「俺の筋肉とどっちが硬えか、試してみるか!」

 レオンが戦斧を盾代わりに構えながら、強引に前へ出る。魔力弾が彼の太い腕や肩を掠め、鮮血が飛び散るが、豪腕の戦士は痛みを無視して木上の機甲豹へと跳躍した。


「《爆縮撃》ッ!」

 一撃。真鍮の枝ごと機甲豹を粉砕するが、その隙に別の三体がレオンの死角へ回り込み、砲口を向ける。

「させん! 《聖王光刃・次元断》!」


 アーサーの極細の斬撃が空間を切り裂き、レオンを狙った三体を真っ二つに両断した。

 しかし、アーサーの白銀の甲冑もすでに無数の弾痕で凹み、煤けている。


 第二十二階層の環境は、僕たちにとって最悪だった。

 サウナのような熱風と有毒ガスが立ち込める中での激しい戦闘は、ただでさえ底を尽きかけている体力を劇的なスピードで奪っていく。

「ハァ……ハァ……。熱で、氷の形成が遅れますわ……!」


 シャルロットが顔を真っ赤にして息を切らし、細剣を振るう。絶対零度の《エントロピー・ゼロ》を放っても、高熱の廃油の川と蒸気が常に空間の温度を上げているため、機甲豹の装甲を芯まで凍らせる前に魔法が減衰してしまう。


「サクラさん、大丈夫ですか!」

 僕が背後を振り返ると、サクラは額から大量の汗を流し、ふらつく足元を杖で必死に支えていた。


「だ、大丈夫です……。私が結界を解いたら、皆さんが有毒ガスで……」

 彼女の《状態異常無効》と《冷感結界》がなければ、僕たちは数分で全滅する。

 だが、その維持だけでも凄まじい魔力を消費している上に、この過酷な防衛戦だ。限界は近かった。

(……このまま消耗戦を続ければ、確実にこちらがジリ貧になる)


 僕の『並列思考』が、戦況の打破を模索する。

 機甲豹たちは単なる獣ではない。

 赤いセンサーレンズで得た情報を群れ全体で瞬時に共有する「ネットワーク」を持っている。

 一匹が死角を見つければ、即座に全体がそこへ火力を集中してくる。


「なら、そのネットワークの『目』を潰すまでだ」

 僕は剣に激流の水魔力を纏わせ、大きく深呼吸をした。

「皆さん、三秒だけ目を閉じて、息を止めてください!」

 僕の指示に、仲間たちは一切の躊躇なく従った。


 彼らが防御姿勢を取った瞬間、僕は足元を流れる『高熱の廃油の川』に向かって、ありったけの「水」を叩き込んだ。

「――《水竜破》!」


 ジュワァァァァァァァッ!!!

 数百度に熱せられた廃油と、極度に圧縮された冷水が激突した瞬間。


 水蒸気爆発(水が急激に気化することで体積が千倍以上に膨張する現象)が発生し、第二十二階層の密林全体が、一瞬にして超高密度の「白い蒸気」に包み込まれた。


『……ピィッ……センサー、視界不良……ターゲット・ロスト……』

 視界ゼロの濃霧の中、光学センサーに頼っていた機甲豹たちの動きがピタリと止まる。


【雷神トール】:おおっ! 目眩しに水蒸気爆発を使うとは! だがレンよ、それではお前たちも敵が見えまい!

【賢神ソフィア】:フン、脳筋はこれだから困る。……よく見ろトール。空間に充満した水蒸気は、最高効率の『導電体』だぞ!


 ソフィアの言う通りだった。

 僕は目を閉じたまま、剣に黄金の雷を極限まで圧縮させる。

「霧島さん、風でこの雷を密林全体に拡散させてください!」


「了解よ! やってやるわ! 《烈風陣・雷華らいか》!」

 僕が放った雷撃を、霧島さんが風の魔法で竜巻のように巻き上げ、空間に充満する水蒸気へと乗せる。


 その瞬間、第二十二階層の密林そのものが、巨大な「雷雲」と化した。

 バチバチバチィィィィィンッ!!!

 空気中の水分を伝い、逃げ場のない超高圧電流が機甲豹たちを一斉に襲う。


 黒鋼の装甲は物理攻撃には強いが、内部の精密な電子回路は雷の直撃に耐えられるようにはできていない。

『ガガ……ピ、エラー……機能、停止――』

 断末魔の機械音と共に、数十体の機甲豹が次々とショートを起こし、火花を散らしてその場に崩れ落ちた。


「……ふぅ」

 蒸気が少しずつ晴れていく中、僕は剣を鞘に納めた。

 周囲には、黒焦げになった機甲豹の残骸が転がっている。


「Hahaha! さすがは俺たちの知恵袋だぜ! あの鬱陶しいハエどもが一瞬で片付いた!」

 レオンが焦げた装甲を蹴り飛ばしながら笑う。

「助かりましたわ。私の氷も、少しは休ませてもらいます」


 シャルロットも扇子で顔を仰ぎながら、安堵の息を吐いた。

 だが、息をつく暇はない。


 塔の狂気は、歩みを止めることを決して許してはくれないのだから。



 満身創痍の身体を引きずりながら、僕たちはさらに上層へと足を踏み入れていく。

 第二十三階層は『重力の坩堝るつぼ』。


 一歩進むごとに重力が地球の十倍になり、次の瞬間には無重力になるという、内臓を直接かき回されるような拷問の階層。ここでは、重力を操るスライムの群れに苦しめられながらも、アーサーの空間斬りで重力の核を破壊して強行突破した。


 第二十四階層は『無音の処刑場』。

 一定以上のデシベル(音量)を感知すると、壁の無数の穴から即死級のレーザーが乱れ飛ぶという、レオンにとっては最も相性の悪い階層。

 一切の魔法を封じられ、九条の音のない抜刀術と、僕の体術だけで、音に反応して襲い来るコウモリ型の魔物を静かに狩り尽くした。


 そして、塔への突入から十二日目。

 肉体も精神も限界まで削り取られた僕たちは、【第二十五階層】の中間地点、広大な闘技場のような場所へと辿り着いた。

「……ハァ、ハァ……。もう、一歩も、動けません……」


 サクラが膝から崩れ落ちる。彼女の魔力は完全に空っぽで、癒しの光を放つことさえできない状態だった。

 アーサーもレオンも、地面にへたり込んで荒い息を吐いている。


 だが、無情にも闘技場の中央の床が開き、巨大な影がせり上がってきた。

『――排除。排除。排除』

 現れたのは、第二十二階層の密林をそのまま人型に凝縮したような、身の丈三十メートルを超える『機巧の巨神兵グランド・ギア』だった。


 全身が分厚い真鍮の装甲で覆われ、両腕には回転する巨大なチェーンソー。胸部からは赤熱する炉心コアの光が漏れ出している。

【戦神アレス】:ほう、古代のロマン兵器ではないか。だが、今のボロボロのあやつらで勝てるか?


【冥王ハデス】:サクラの回復がない以上、一撃でも貰えば死ぬぞ。

 神々の言う通り、絶望的な状況だった。

 巨神兵がチェーンソーを振り上げ、地響きを立てて突進してくる。


「……俺が行く」

 立ち上がったのは、右腕を骨折し、全身傷だらけのレオンだった。

「レオンさん! 無理です、今の貴方の体力じゃ……!」

「ボーイ。俺はアメリカのNo.1だぜ。……この程度の鉄屑に、膝を折るわけにはいかねえんだよ」

 レオンは折れた右腕をダラリと下げたまま、左手一本で巨大な戦斧を構えた。


 巨神兵のチェーンソーが、レオンを真っ二つにしようと振り下ろされる。

「――俺の闘気は、爆発するだけじゃねえ」

 レオンの瞳に、かつてないほどの鋭い光が宿る。


 彼は戦斧を振るわなかった。代わりに、残されたすべての闘気を自身の『肉体』の極限まで圧縮し、左腕の筋肉を鋼鉄以上の硬度に引き上げた。


 ガガガガガガガッ!!!

 巨神兵のチェーンソーがレオンの左腕に直撃し、火花を散らす。

 肉が裂け、血が舞う。だが、レオンは一歩も引かず、その圧倒的な質量と回転を『左腕一本』で受け止めてみせたのだ。


「おおおおおおおッ!! 動けなくなったな、デカブツ!!」

 チェーンソーの刃がレオンの筋肉に食い込んで止まった、その完璧な硬直状態。

「アーサー!! レン!! 今だァァァッ!!」

 レオンの魂の咆哮に応え、アーサーと僕が同時に地を蹴った。


「友の血に報いる! 《聖王光刃・神域》!」

 アーサーの光の斬撃が、巨神兵の分厚い胸部装甲を十字に切り裂き、奥にある赤熱した炉心を露出させる。

「――《雷火の剣・穿うがち》ッ!!」

 僕がそこに、残された最後の魔力を叩き込んだ。


 黄金の雷の槍が炉心を正確に貫き、内部の魔力回路を完全に破壊する。

『……エ、エラー…………』

 巨神兵の目が明滅し、地響きと共に闘技場の床へと崩れ落ちた。

「……へへっ。ざまぁ、みろ……」

 レオンが血まみれの左腕を押さえながら、その場に仰向けに倒れ込む。


 僕たちはボロボロになりながらも、四分の一の到達点である第二十五階層を、人間の意地と気合だけで突破したのだった。


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