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同接0人のEランク探索者ダンジョン配信、なぜか神様や魔王様が見ている件 〜コメント欄が古代龍や魔王とかなんだが〜  作者: 仁科異邦


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知の試練2


 月明かりだけが差し込む大聖堂を突破し、僕たちが足を踏み入れたその場所は、第一階層で見たのと同じ、不気味なほど真っ白な世界だった。


 足元には巨大なチェス盤のような白黒のタイル。正面には、星空が描かれた巨大な『石の扉』が立ち塞がっている。


 無名の王の歪な声が空間に響き渡り、僕たちが「十分の一を踏破した」ことを告げた直後。


 空間の中央に、巨大な『天秤』と『十二個の宝箱』が姿を現した。

「……また、これですか」

 僕は思わず顔をしかめ、額の汗を拭った。第十階層の『深淵の騎士』との死闘を終えたばかりの疲労が、一気に押し寄せてくる。


 隣ではサクラさんが、仲間たちの傷を癒しながら、不安げな表情で天秤を見つめていた。


「Hahaha! おいおい、冗談だろ? 俺は斧を振り回すためにここへ来たんだ、クイズを解きに来たんじゃねえぜ!」


 レオンさんが戦斧を地面にドスンと叩きつけ、暴力が通用しない階層への苛立ちを露わにする。


『暴力の宴の後は、少し頭を冷やしてもらおうか。……さあ、第二の謎解きを始めよう』

 無名の王の声が、僕たちの頭上から嘲笑うように響いた。


『目の前にあるのは、一見同じに見える十二個の宝箱だ。……だが、このうち一箱だけ、『上へ続く階段の鍵』が入っている。残りの十一箱は、開けた瞬間に全員の魔力を消滅させる呪いの偽物だ』


 「魔力消滅……ッ!」

 サクラさんが青ざめた顔で僕の袖を掴む。

『偽物の十一箱は、すべて完全に同じ重さで作られている。……本物の鍵が入った箱だけが、偽物とは【違う重さ】をしている。だが、それが偽物より『重い』のか『軽い』のかは教えない』


「違う重さ……だが、重いか軽いか分からない、だと?」

 アーサーさんが眉をひそめ、白銀の甲冑を鳴らして天秤に近づいた。

『君たちに与えられた猶予は、たったの【三回】だ』


 無名の王の声が、冷酷に告げる。

『この天秤を三回だけ使って、確実に本物の箱を一つに絞り込め。間違えれば床が抜け、魔力を失ったまま奈落へ真っ逆さまだ。……制限時間は、十分』


 それだけ言い残し、王の気配は消えた。

 暴力の届かない概念の壁。そして、極悪な難易度に跳ね上がった知の試練。


「……どういうことだ?」

 アーサーさんが顎に手を当て、深刻な顔で呟く。

「十二個の箱。三回の計測。……まずは半分、六個と六個を天秤に乗せて量れば……」


「ダメです、アーサーさん」

 僕は冷や汗を流しながら、その提案の『決定的な穴』を指摘した。


「もし六個ずつ乗せて天秤が傾いたとしても、本物が『重い』のか『軽い』のか分からない以上、下がった方の六個に本物があるのか、上がった方の六個に本物があるのか、全く絞り込めません!」


「なっ……! そ、そうか! そもそも重いか軽いか分からないのだから、単純な二分割では情報が全く得られない……!」


 アーサーさんが、自身の思考の行き止まりに気づき、顔を真っ青にして膝をついた。

「なら私の氷で宝箱を凍らせれば、中身の密度の違いで判別できるのでは?」

 シャルロットさんが細剣を構えようとするが、空間にピリッとした警告音が鳴り響く。

『警告。外部からの魔力的・物理的干渉は禁止だ』


「……チッ、つまらない男」

 シャルロットさんは舌打ちをした。力尽くでの解決は許されない。

「くそッ、俺の勘が三番と言っている! 三番の宝箱を斧でブチ破ればいいんだ!」

「レオンさん、暴力はダメですわ! アーサー殿、他に何か論理的な手は!?」


 制限時間は、刻一刻と迫っていた。

 重いか軽いか分からない十二個の箱から、たった三回の計測で一つを特定する。


 あまりにも情報が足りない。

 不可能に近い難問を前に、最強の探索者たちはパニックに陥りかけていた。

(……どうする。どうやって三回で……)


 僕が頭を抱え、必死に思考のパズルを組み立てようとした、その時だった。

【賢神ソフィア】:フハハハハハハッ!! 傑作だ!

【雷神トール】:おお、ソフィアよ! お前の出番ではないか!

 僕のダンカメから、知恵を司る賢神ソフィアさんの、心底愉快そうなコメントが流れた。


【賢神ソフィア】:レンよ、指示通りに動け! 二分割など愚の骨頂! 最初は【四個・四個・四個】の三つのグループに分けるのだ!


「ソフィアさん! 解法が分かるんですか!?」

【賢神ソフィア】:愚問! 我を知恵の神と心得るか! まずは1番から4番を左に、5番から8番を右に乗せろ!


 僕はソフィアさんの言葉を信じ、急いで宝箱を天秤に乗せた。

 左に【1、2、3、4】。右に【5、6、7、8】。残されたのは【9、10、11、12】。


「……行きます。一回目の計測!」

 天秤のストッパーを外す。


 天秤は僅かに揺れ……そして、ピタリと水平に『釣り合った』。

「釣り合った……!? つまり、ここに乗せた八個はすべて同じ重さ、全部【偽物】だ!」


 僕が叫ぶと、アーサーさんがハッと顔を上げた。

「なるほど! 最初から天秤に乗せないグループを作ることで、釣り合った場合に一気に八個の容疑を晴らせるのか! つまり本物は残りの【9、10、11、12】のどれか!」


「だが待てよ、ボーイ!」

 レオンさんが焦ったように言う。

「残りの計測は【二回】だぜ! 四つの箱から二回で一つを見つけるなんて……しかも、まだ本物が重いか軽いか分かってねえんだぞ!」


【賢神ソフィア】:フン、脳筋どもめ。ここからがこのパズルの美しいところよ。レン、先ほど「偽物だと確定した箱」を覚えているな? それを基準の重りとして使うのだ!


「……! そうか!!」

 僕の脳内で、パズルがカチリと音を立てて繋がった。

「二回目の計測です! 左に、本物かもしれない【9、10、11】を乗せます! そして右には、先ほど偽物だと確定した【1、2、3】を乗せます!」

 僕は急いで箱を入れ替え、二回目のストッパーを外した。

 ――ガコンッ!


 今度は釣り合わない。天秤は、左(9、10、11)が『下がった』。

「天秤が左に傾いた……! 右に乗せたのは確実な偽物。つまり、本物は【9、10、11】の中にあり、かつ偽物よりも【重い】ことが確定した!!」


「「「おおおおおッ!!」」」

 その完璧な論理の帰結に、アーサーさんたちから感嘆の声が上がる。


「本物が重いと分かれば、あとは簡単だ! 残り一回の計測! 左に【9】、右に【10】を乗せる!」

 僕は三回目の計測を行った。


 ――ガコンッ!

 左に乗せた【9】が下がった。

「本物は重いんだから、下がった方が正解だ! 扉を開け! 鍵は【9番の箱】だ!!」

 僕が石の扉に向かって叫んだ瞬間。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ……!!

 見えない概念の力場が消え去り、星空の描かれた重厚な石の扉が、ゆっくりと奥へ向かって開いていった。


 第十二階層へと続く、広大な大階段が姿を現す。

「……オオオオオオオオッ!! レン、お前マジで天才かよ!!」


 レオンさんが僕を抱き上げ、肋骨が折れるほどの力で締め付けた。

「ぐえっ! レ、レオンさん、痛い、痛いです……!」

「見事だ神代殿! 三回の計測で、未知の重さの十二個から一つを特定するとは……!」

 アーサーさんが、本気の尊敬の眼差しで僕を見てくる。


「本当に助かりましたわ。……暴力だけの男たちとは違いますわね」

 シャルロットさんも優雅に微笑みながら、アーサーさんとレオンさんをチラリと見て扇子で口元を隠した。


「……フン、悪知恵の働くガキだ」

 ずっと扉を斬ろうと構えていた九条さんも、少しだけ感心したように刀を鞘に納めた。


「あ、あはは……まあ、ちょっとした閃きですよ……」

 僕は引き攣った笑いを浮かべながら、内心でソフィアさんに両手を合わせて拝んでいた。

(……神々の配信チートがあって、本当に良かった……!!)


【戦神アレス】:ガッハッハ! 良いぞ! これで第十一階層はクリアだ!

【賢神ソフィア】:フン、造作もない。いかなる知の試練が来ようと、我が叡智の前では赤子も同然よ!


 こうして、僕たちは神々の『知恵チート』を借りることで、無名の王が用意した極悪な論理パズルを、見事に完全論破してのけたのだ。


 暴力の届かない知の試練と、神話級の魔物が跋扈する暴力の階層。


 十分の一を駆け上がった最強のパーティーは、さらに上へと続く大階段を、力強く駆け上がっていく。

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