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同接0人のEランク探索者ダンジョン配信、なぜか神様や魔王様が見ている件 〜コメント欄が古代龍や魔王とかなんだが〜  作者: 仁科異邦


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門番の古代龍と、最強たちの挫折


 東京湾の沖合。


 海水を真っ黒に染め上げ、天を貫くようにそびえ立つ『終末のバベル』。


 僕たち人類最強の同盟軍――日本、アメリカ、イギリス、フランスのトップランカーたちは、海上を疾走する協会特製のホバーボートに乗り、その巨大な扉へと接近していた。


「……見上げると、改めてふざけたデカさッスね……」

 操縦席で舵を握る向井さんが、引き攣った声で呟く。


 塔の壁面は、あらゆる光を吸収するような未知の黒い鉱石で覆われており、近づくだけで重力がおかしくなったような圧迫感があった。

「油断するなよ。……出迎えが来るぞ」


 舳先に立っていた九条さんが、白刃の鯉口をカチャリと鳴らした。

 直後、塔の上空を覆っていた分厚い雨雲が、凄まじい風圧によって吹き飛ばされた。

 現れたのは、巨大な翼を持つ五つの影。 


 だが、それは防衛戦で相手にしたワイバーンなどの比ではなかった。全長五十メートルを超える、鋼のような鱗と威厳に満ちた角を持つ伝説の存在。


『GYAOOOOOOOOOOOOOOOOOッ!!』

 大気を震わせる咆哮。空気がびりびりとひび割れるような錯覚に陥る。

「……古代龍エンシェント・ドラゴン。神話クラスの魔物が、五体も……!」


 霧島さんが息を呑んだ。

【古代龍バハムート】:……下衆めッ! 誇り高き我が同胞を、門番の犬として操るか!!

【賢神ソフィア】:落ち着けバハムート。あれらの瞳を見ろ。完全に赤く濁っている。無名の王によって、塔の防衛システムとして無理やり自我を書き換えられているのだ。


 神々の言葉通り、五体の古代龍の瞳は狂気に満ちた赤色に染まっていた。


「Hahaha! 塔の入り口にドラゴン五体たぁ、RPGのラストダンジョンみてえで最高じゃねえか!」

 アメリカのレオンさんが戦斧を担ぎ、豪快に笑う。

「我ら円卓の騎士が、道を開こう! 行くぞ、レオン殿、シャルロット殿!」


「ええ。野蛮なトカゲどもは、私が凍てつかせて差し上げますわ!」

 ホバーボートが塔の入り口にある巨大な桟橋に接舷した瞬間、海外のS級探索者三人が、弾かれたように古代龍の群れへと飛び出していった。


「喰らいなッ!」

 レオンさんの戦斧が、闘気を纏って一体の古代龍の頭部へと叩き込まれる。


 隕石の衝突のような轟音。だが――。

『GYURURURU!』

「なっ……!?」

 古代龍は首を僅かに揺らしただけだった。レオンさんの渾身の一撃は、鋼の鱗に弾かれ、逆に彼自身の巨体が反動で大きく吹き飛ばされてしまう。


「レオン殿!くっ、 《聖王光刃エクスカリバー》!」

 アーサーさんが飛び込み、白銀の大剣から極太の光の斬撃を放つ。


 だが、古代龍は巨大な顎を開き、アーサーさんの光刃を『咆哮の音波』だけで完全に相殺し、そのまま灼熱のブレスを吐き出した。


「くっ……《絶対盾アイギス》!」

 アーサーさんが盾を構えるが、神話級のブレスの熱量に耐えきれず、白銀の甲冑がドロドロに溶け始め、膝をつく。


「下がってなさい! 《氷獄・コキュートス》!」

 シャルロットさんが細剣を振るい、三体の古代龍をまとめて絶対零度の嵐で包み込む。


 パキパキと音を立てて巨大な身体が凍りついていくが、それも数秒の稼ぎにしかならなかった。古代龍たちが内包する異常な魔力を爆発させると、氷の結界はいとも簡単に粉砕されてしまったのだ。


「……嘘、でしょう? 私の全力が、通用しない……?」

 シャルロットさんが、絶望に目を見開く。

 圧倒的だった。


 世界を代表する三人のS級探索者が、手も足も出ない。無名の王によって強化され、操られた神話の力は、現世の『最強』という常識を容易く凌駕していた。


「九条さん、霧島さん! 援護します!」

 僕は剣を抜き、サクラさんと共に桟橋へと飛び降りた。

「サクラさん、三人の救出と防壁を!」


「はいっ! 《多重聖壁マルチ・サンクチュアリ》!」

 サクラさんの杖から放たれた黄金の結界が、吹き飛ばされたレオンさんたちを包み込み、古代龍の追撃のブレスを間一髪で弾き返す。

「遅いぞ、神代!」


 九条さんが空間そのものを足場にして跳躍し、古代龍の一体の『翼の付け根』――装甲の継ぎ目に向かって神速の抜刀術を放つ。


 ズバァァァンッ! と、空間ごと鱗が切り裂かれ、古代龍が痛みに咆哮を上げた。

「そこよッ!」


 霧島さんが『天風』で強烈な上昇気流を生み出し、古代龍の巨体を強引に上空へと打ち上げる。

(……並列思考、未来予測、起動!)

 僕の脳内で、賢神ソフィアの加護がフル回転する。

 五体の古代龍の動き、ブレスのタイミング、九条さんと霧島さんの攻撃軌道。すべてを計算し、たった一つの『死角』を導き出す。


「――《三絶・水雷火砲トライ・エレメント・ブラスター》ッ!!」

 僕は空中に浮かび上がった古代龍の無防備な腹部へ向けて、三属性を融合させた魔法の奔流を叩き込んだ。


『GYAAAAAAAAAAAAAAッ!?』

 硬い鱗の隙間から体内へと侵入した超高熱と雷撃が、古代龍の巨体を内側から完全に破壊する。

 光の粒子となって消滅する一体。


「よし、このまま押し切ります……!」

 僕が残る四体へと剣を向けようとした、その時だった。

『……警告。侵入者の魔力レベルが想定値をオーバー。防衛システム、一時後退』


 塔の内部から無機質なアナウンスが響くと、残った四体の古代龍はピタリと動きを止め、塔の巨大な扉の奥へとゆっくりと撤退していった。


 追撃するには、扉の奥の闇が深すぎる。僕たちは武器を構えたまま、その場に留まるしかなかった。


「……助かったよ、極東のボーイ」

 静寂が戻った桟橋で、レオンさんが血を吐きながら立ち上がった。


 アーサーさんは甲冑を焦がし、シャルロットさんは肩で荒い息を吐いている。三人の世界最強たちは、かつてないほどの『挫折』の表情を浮かべていた。

「レオンさん、アーサーさん、シャルロットさん……大丈夫ですか?」


 僕が駆け寄ると、アーサーさんは首を横に振り、自身の剣を強く握りしめた。

「無事だ。だが……我々は、とんでもない思い上がりをしていたようだな」


「ええ。たかが入り口の門番に、手も足も出ないなんて……。もしあのまま塔の内部(100階層)に突入していたら、私たち三人は、確実にあなたたちの『足手まとい』になっていましたわ」

 シャルロットさんが、悔しそうに唇を噛む。


「……チッ。気にするな。相手は神話級だ。俺たちだって、あの富士樹海での死闘がなければ、さっきのトカゲの餌になっていた」


 九条さんが刀を鞘に納めながら、珍しくフォローのような言葉を口にした。

 レオンさんは天を仰ぎ、そして、何かを決意したように僕と九条さん、霧島さんに向き直った。


「頼む、レン。それにソーマ、アリサ」

 二メートルを超えるアメリカの巨漢が、僕たちに向かって深々と頭を下げた。アーサーさんとシャルロットさんも、それに続く。


「このままじゃ、俺たちは世界を救うどころか、お前たちの背中を見る事すらできねえ。……俺たちを、鍛え直してくれないか」


「特訓……ですか?」

 僕が目を丸くすると、アーサーさんが真剣な眼差しで頷いた。

「ああ。君たちは『神話』と戦う術を知っている。我々も、その領域に到達しなければ、この塔は絶対に踏破できない」


「プライドなど、とうの昔に捨てましたわ。……どうか、私たちに『最強の先』を教えてくださいな」

 世界ランキングのトップたちが、年下の僕たちに教えを乞うている。


 その真摯な覚悟に、僕は背筋が伸びる思いだった。

【戦神アレス】:フハハハッ! 良いぞ! 己の弱さを認めることこそ、真の強者への第一歩だ!


【雷神トール】:よしレン! 三ヶ月のタイムリミットのうち、少しだけ時間を使ってやれ! 最高の地獄ブートキャンプの始まりだ!


【賢神ソフィア】:塔の入り口にキャンプを張り、周囲の魔力環境を利用して彼らの『器』を拡張させるのが良かろう。


 神々もまた、コメント欄で特訓の申し出を大いに歓迎していた。

「……分かりました」

 僕はレオンさんたちに真っ直ぐに向き直り、一つ頷いた。


「僕たちの知っていることなら、すべて教えます。……でも、相当厳しいですよ。僕たちが富士樹海で経験した地獄を、短期間で圧縮してやってもらうことになりますから」


「Hahaha! 望むところだぜ!」

 レオンさんがニヤリと笑う。九条さんと霧島さんも、悪い顔をして腕を組んでいた。


 タイムリミットまで、残り八十日。

 終末の塔の目前で、人類最強の同盟軍による、神話の領域へ至るための『決死の特訓ブートキャンプ』が、今始まろうとしていた。


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