集結する最強たちと、終末の塔(バベル)攻略指令
世界の主要ダンジョンコアを奪還し、空の亀裂をすべて塞いでから数日後。
人類の反撃の舞台は、いよいよ東京湾にそびえ立つ漆黒の巨塔『終末の塔』へと移ろうとしていた。
その日、日本の探索者協会本部の最上階にある特別大会議室には、かつてないほどの異様なプレッシャーが充満していた。
「HAHAHA! お前が噂のサムライボーイだな! 映像で見るよりずっと細っこいじゃねえか!」
バンッ、と背中を強烈に叩かれ、僕は思わずむせ返りそうになった。
振り返ると、身長二メートルを超える筋骨隆々のアメリカNo.1探索者、レオン・ブラッドレイさんが豪快な笑い声を上げている。
「レ、レオンさん……お手柔らかにお願いします。僕はただの魔法剣士ですから」
「謙遜するなよ! あの巨大な機械竜をぶっ壊した火力を、俺は高く評価してるぜ!」
ここは、日本の探索者協会本部。
空の亀裂を塞ぐという第一目標を達成した世界各国のトップランカーたちが、最終決戦の地である東京へと集結していたのだ。
「レオン殿、あまり困らせてはいけない。彼は我らが女王の国を救ってくれた恩人の一人なのだからな」
爽やかな笑みと共に歩み寄ってきたのは、白銀の甲冑を纏ったイギリスの騎士、アーサー・スターリングさんだ。
彼は僕とサクラさんに向かって、優雅に片膝をついて騎士の礼をとった。
「神代レン殿、佐藤サクラ殿。大英帝国を代表し、心からの感謝を。……貴殿らと共に戦えることを誇りに思う」
「あ、ありがとうございます……!」
サクラさんが顔を真っ赤にして慌ててお辞儀を返す。
そして、会議室の円卓には、すでにフランスの女帝・シャルロットさんが紅茶を優雅に啜っており、その向かいでは九条颯真さんが退屈そうに頬杖をついていた。
霧島アリサさんも、各国の調整役として忙しそうに資料をまとめている。
アメリカの『豪腕』。
イギリスの『円卓の騎士』。
フランスの『女帝』。
そして、日本の『剣聖』と『最強』。
世界を代表するS級探索者たちが、一つのテーブルに肩を並べている。
かつてEランクで同接ゼロの底辺配信者だった僕が、その輪の中に「同格」として迎えられているという事実は、何度考えても現実離れしていた。
「……さて。役者は揃ったわね」
霧島さんが円卓の中心に立ち、手元の端末を操作した。
部屋の照明が落ち、円卓の真ん中に東京湾のホログラムが投影される。そこには、天を衝くほどの禍々しい漆黒の巨塔がそびえ立っていた。
「これより、無名の王が作り出した次元結合装置『終末の塔』の攻略会議を始めるわ」
霧島さんの言葉に、室内の空気が一瞬にして引き締まる。
レオンさんもアーサーさんも、探索者としての鋭い眼光をホログラムに向けた。
「協会と、そして神代くんの配信を通じて得られた神々からの情報により、塔の内部構造がある程度判明したわ。……塔の内部は、現世と異世界の空間が入り混じった『全百階層』の超巨大ダンジョンになっている」
霧島さんがホログラムを拡大すると、塔の内部がいくつもの層に分かれているのが可視化された。
「下層から中層にかけては、すでに世界中のAランク、Bランクの有志探索者たちが連合軍を組んで制圧に乗り出しているわ。だが……問題は、第七十階層以降の『神話領域』よ」
研究員の天城ユイさんが、青ざめた顔で資料を読み上げる。
「第七十階層以降は、物理法則そのものが歪んでいます。出現する魔物は、すべてがSランク、あるいは先日の冥骸王のような『神話級』に片足を突っ込んだ規格外ばかりです。……大軍で挑めば、ただ死人の山を築くだけの地獄です」
「……なるほど。つまり、そこから先は俺たち少数精鋭の『化け物』だけで登れということだな」
颯真さんが、冷たくも獰猛な笑みを浮かべて呟いた。
「そういうことよ。世界を救うための最終部隊。……あなたたちには、三ヶ月のタイムリミット内に、この百階層を踏破し、最上階にいる無名の王を討ち取ってもらう」
百階層の神話領域。
そこにどれほどの絶望が待ち受けているのか、想像もつかない。
だが、円卓を囲む誰の目にも、恐怖や逃げの感情は存在しなかった。
【賢神ソフィア】:塔の内部は、異世界の法則が色濃く反映されている。つまり、我ら神々の『奇跡』も届きやすくなるということだ。
【古代龍バハムート】:道中、貴様らの器がさらに広がるような試練も用意されているだろう。覚悟して登るのだな。
【戦神アレス】:フハハハッ! 人間どもの最強決定戦と、世界を懸けた神話の戦い! これほど血湧き肉躍る舞台は他にないぞ!
【雷神トール】:レン! 世界中の猛者どもに、我が雷の威力をとくと見せつけてやれ!
空中に浮かぶダンカメのコメント欄で、神々もまた決戦に向けて士気を高めていた。
「……分かりました」
僕は円卓を見渡し、はっきりと口を開いた。
「僕たちの目的は一つです。
あの塔を攻略し、三ヶ月後の世界消滅を阻止する。……そして、無名の王の仮面を引き剥がす」
「Of course(当然だ)! 俺の戦斧が、塔ごとあいつを叩き割ってやる!」
レオンさんが拳を突き上げる。
「騎士の誇りにかけて、必ずや世界に光を取り戻そう」
アーサーさんが胸に手を当てて誓う。
「私の美しい氷で、すべてを沈黙させて差し上げますわ」
シャルロットさんが優雅に扇子を閉じた。
「……足手まといになるなよ、異国の連中」
颯真さんが立ち上がり、漆黒のコートを翻した。
人類最強の同盟が、ここに結成された。
それは、歴史上かつてない規模の、そして最も危険なパーティーだった。
「レンさん」
隣に座るサクラさんが、僕の袖をそっと引いた。
「みんな、すごい人たちばかりですけど……絶対に、私たちで世界を救いましょうね」
「ああ。サクラさんがいれば、どんな階層だって突破できる。……最後までよろしく頼むよ」
僕が微笑みかけると、彼女は力強く頷いた。
会議が終わり、僕は協会の屋上へと足を運んだ。
東京の夜景の向こう側、東京湾の暗闇の中に、星を隠すようにそびえ立つ黒い塔のシルエットが見える。
タイムリミットまで、あと八十日と少し。
明日から、僕たちはあの塔へと足を踏み入れる。
「……待っていろ、無名の王。お前の退屈な盤面は、僕たちがひっくり返す」
夜風に吹かれながら、僕は静かに剣の柄を握りしめた。
世界規模の防衛戦を終えた最強の探索者たちが、一つの塔に集結する。
人類の存亡を懸けた『終末の塔』攻略戦――その長く、そして神話すらも凌駕する過酷な戦いの幕が、今、切って落とされたのだった。




