氷の女帝との共闘2
「……なっ!?」
突然の介入に、女帝シャルロットさんが驚愕に目を見開いた。
「遅れて申し訳ありません。日本の探索者、神代レンです。国際探索者連盟からの援護要請を受けてやってきました」
僕は剣を構えたまま振り返らずに告げた。
直後、僕の背後からサクラさんが駆け寄り、彼女に杖を向ける。
「《エンチャント・ライト》《ヒール・オーラ》!」
黄金の光がシャルロットさんを包み込み、彼女の枯渇しかけていた魔力と体力が瞬時に全回復していく。
「……信じられない。この超密度の瘴気の中で、これほどの回復と強化を同時に……?」
シャルロットさんは自身の両手を見つめ、そして、僕の背中を見てふっと優雅な笑みを浮かべた。
「中継映像で拝見していましたよ、極東の規格外たち。……ですが、まさか自国の空をあんなに早く塞ぎ、遠路はるばる助けに来るとは。歓迎しますわ」
彼女は再び姿勢を正し、その手に美しい氷の細剣を顕現させた。
「あの魔神は、再生能力が異常です。私の氷で動きを封じても、コアからの魔力供給がある限り無限に修復してしまいます」
「了解です。……僕が火力を集中させて一撃で消し飛ばします。サクラさんはシャルロットさんに合わせて防壁の管理を! シャルロットさんは、僕が魔法を放つための『的』を固定できますか?」
「……私に指示を出すとは、いい度胸ですわね」
シャルロットさんは不敵に微笑んだ。
「ですが、悪くない提案です。……合わせなさい、極東の少年!」
【古代龍バハムート】:ほう、氷の女帝と組むか。
【雷神トール】:属性の相性は最悪だが……レンの『並列思考』なら、味方の魔法に干渉せずに合わせられるはずだ!
【賢神ソフィア】:いけ、英雄たちよ! 国境を越えた力を見せてやれ!
神々の歓声が脳内に響く中、シャルロットさんが舞うように地を蹴った。
「《氷華・絶対領域》!」
彼女の細剣から放たれた冷気が、冥骸王の足元から一気に凍結を始め、その巨大な四肢を分厚い氷の枷で床に縫い付ける。
『GIIIIIIIIIIIIIッ!』
冥骸王が瘴気を放ち、氷を破壊しようと暴れ狂う。
「させません! 《ホーリー・バインド》!」
サクラさんの光の鎖が冥骸王の上半身を縛り上げ、その抵抗を完全に封じ込めた。
(……ここだ!)
僕の脳内で、賢神ソフィアの『未来予測』が完璧なタイミングを弾き出す。
シャルロットさんの氷が限界を迎えるコンマ一秒前。
「――《三絶・水雷火砲》ッ!!」
僕の両手から放たれた極彩色の魔力の奔流が、空間を切り裂いて真っ直ぐに冥骸王の胸部へと突き刺さった。
シャルロットさんの氷によって超低温に冷やされていた装甲が、僕の超高熱と雷撃の急激な温度変化に耐えきれず、パリンッと甲高い音を立てて砕け散る。
『GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAッ!!』
防壁を失った冥骸王の体内へ、魔法の奔流が直接流れ込み、その巨体を内側から完全に蒸発させた。
凄まじい閃光の後、そこには跡形もなく消え去った魔神と、青く澄んだ光を取り戻したパリのダンジョンコアだけが残されていた。
《システム通知:パリ・カタコンベの異常接続が解除されました》
「……ふぅ。見事な氷でした、シャルロットさん」
僕が剣を納め、少し丁寧にお辞儀をすると、シャルロットさんは氷の細剣を消し、扇子で口元を隠しながら優雅に歩み寄ってきた。
「ええ、あなたたちの火力の高さには驚かされましたわ。……悔しいですが、フランスはあなたたちに救われました」
彼女は扇子を閉じ、僕とサクラさんに真っ直ぐに向き直った。
「フランスランキング第一位、シャルロット・ド・ラ・ヴァリエール。……世界を救うための戦い、フランスも全力で協力することを誓いますわ」
「ありがとうございます。とても心強いです」
僕が彼女と握手を交わしたその時、インカムからアリサさんと颯真さんの声が飛び込んできた。
『こちらアリサ! イギリスのアーサーたちと合流して、ロンドンのコアを奪還したわ!』
『……アメリカも終わった。こっちの筋肉バカが大暴れして、街の被害は甚大だがな』
インカム越しの報告に、僕とサクラさんは顔を見合わせて笑った。
日本、フランス、イギリス、アメリカ。
世界中の主要コアが、次々と奪還されていく。
空の亀裂は塞がり、終末の塔からの侵略は第一段階を突破されようとしていた。
三ヶ月のタイムリミットの中で、人類は決して諦めず、国境を越えて一つの巨大な力として結集し始めていたのだった。




