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同接0人のEランク探索者ダンジョン配信、なぜか神様や魔王様が見ている件 〜コメント欄が古代龍や魔王とかなんだが〜  作者: 仁科異邦


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深淵での合流と、冒涜の機械竜


 分厚い金属の隔壁をぶち破り、レンとサクラは地下へと続く巨大なエレベーターシャフトに飛び込んだ。


 ワイヤーを伝って一気に滑り降りていく最中にも、遥か下方から凄まじい爆発音と金属が軋む音が連続して響き渡ってくる。


「……相当、派手にやってるみたいだな」

「アリサさんと颯真さんですから、やられたりはしないと思いますけど……でも、なんだか嫌な魔力を感じます」


 サクラの言う通りだった。

 下に行くにつれて、空気がビリビリと痺れるような、生物のそれとは全く異なる「無機質で高圧縮された魔力」が満ちていく。


 数分間の滑下の末、二人はシャフトの底を蹴破り、巨大な地下格納庫へと躍り出た。

 そこは、先ほどのドームが小さく思えるほどの超巨大空間。


 そして、その中央で、見慣れた二人のS級探索者が、これまでにないほど『苦戦』を強いられていた。

「チッ……! また装甲の波長を変えやがったな!」


 九条颯真が舌打ちと共に後方に跳躍する。

 彼が放った不可視の空間斬撃は、敵の巨体を覆う「六角形のエネルギーシールド」に直撃した瞬間、不自然に威力を拡散されて弾かれていた。


「颯真くん、右から来るわよ! 《風神刃ふうじんじん》!」

 アリサが神刀『天風』を振るい、巨大な真空の刃を放つ。

 だが、敵は背中に備えられた巨大なスラスターから青白い炎を噴き出し、巨体に似合わぬ異常な機動力でそれを回避した。


 その敵の姿を視界に捉え、レンは息を呑んだ。

 全長四十メートル。

 生物としての『竜』の骨格に、漆黒の超合金アーマーを強制的に接合し、関節部からは太いケーブルと魔力管が脈打っている。


 顔の半分は機械化され、四つの赤いセンサーアイが不気味に回転していた。

 ――合成機械魔獣『マキナドラゴン』。


 無名の王が、Sランクモンスターの死骸と最先端の魔力工学を悪魔合体させて生み出した、究極の防衛兵器だった。


【古代龍バハムート】:……下衆め。我が同胞の亡骸を、あのような鉄屑で汚すとは。


【戦神アレス】:バハムートが本気でキレているぞ。

だが、アレは厄介だ。純粋な魔物ではないため、通常の生物の「急所」が存在しない。


【賢神ソフィア】:その上、自己学習型のAIを搭載しているようだな。二人のS級の攻撃パターンを瞬時に解析し、防御シールドの波長を最適化している。


 神々の言う通り、颯真とアリサの額には濃い疲労の色が滲んでいた。

 ダメージを与えられないわけではない。

 だが、一度見せた攻撃は二度目には威力が半減し、三度目には完全に無効化される。相手の学習速度が異常なのだ。


「……お待たせしました!」

 レンが空中で剣を抜き、炎と雷を纏わせてマキナドラゴンの頭上へと急降下した。


『GIGIGIGI……! 異常熱源、検知』

 マキナドラゴンが機械的な唸り声を上げ、背中の砲門を上空のレンに向ける。

 だが、その砲門が火を噴くより早く、サクラの『ホーリー・バインド』の光の鎖が機竜の砲身に絡みつき、射角を強引に上へと逸らした。


 ズドォォォォンッ!!

 逸れたレーザーブレスが天井を穿つ中、レンの『雷火の剣』がマキナドラゴンの頭部に叩き込まれる。


 激しいスパークが散り、機竜が大きくよろめいた。

「レンくん! サクラさん!」

 アリサが安堵の声を上げる。颯真も、少しだけ口角を上げた。


「……遅いぞ。こっちの鉄屑は、随分と硬くて賢いらしい」

「分断されたのはそっちも同じだろ。……サクラさん、二人の支援をお願い!」


「はいっ! 《エンチャント・ライト・デュアル》!」

 合流したサクラの杖から、颯真とアリサの武器に光のエンチャントが付与される。


「よし、反撃開始よ!」

 四人が一斉にマキナドラゴンへと襲いかかった。

 だが――それでも、戦況は劇的には覆らなかった。


『分析完了。新規魔力パターン、対応カウンタープロトコル起動』

 マキナドラゴンの赤いセンサーアイが不気味に明滅した。


 瞬間、機竜の全身から『アンチ・マジック・フィールド』と呼ばれる魔力阻害の霧が噴出される。

「っ、魔力の通りが……!」


 レンが顔をしかめる。賢神ソフィアの『並列思考』をもってしても、展開しようとする魔法の術式が霧によって強制的にバグを起こされ、不発に終わってしまうのだ。


 サクラの支援魔法も霧に阻まれ、出力がガクンと落ちる。

『GIIIIIIIIIIッ!!』

 マキナドラゴンが、鋼鉄の巨尾を薙ぎ払う。

 音速を超えたその一撃を、颯真が白刃で真正面から受け止めた。


「ぐ、うぉぉぉっ……!」

 無敵のS級探索者である颯真の足が、金属の床を削りながら後退させられる。単純な物理的な『力』においても、巨大な機械竜のスペックは常軌を逸していた。


「颯真くん! 《風神刃・乱れ桜》!」

 アリサが加勢に入り、無数の真空の刃で機竜の関節部を狙うが、自己修復機能を持つナノマシン装甲が傷を瞬時に塞いでいく。


 強い。

 富士樹海で戦った腐死竜ゾンビ・ドラゴンの暴力とも、アザトースの影の絶望とも違う。

 一切の感情を持たず、ただ冷徹に『最適解』でこちらをすり潰そうとしてくる、完全な殺戮システム。


「……息が、合ってないわね」

 アリサが荒い息を吐きながら後退し、四人は一度距離を取った。


「相手の処理速度が速すぎる。個別の攻撃じゃ、一瞬でシールドの波長を合わされて無効化されるぞ」

 颯真が忌々しそうに刀を構え直す。


 どうする。

 相手は魔法を阻害し、物理攻撃を学習し、自動で装甲を修復する化け物だ。

(……考えろ。相手が処理しきれない『バグ』を押し付けるには……)


 レンの脳内で『並列思考』が超高速で演算を繰り返す。

 そして、一つの答えに辿り着いた。

「……オーバーフローだ」

 レンが呟いた。


「四人の属性と攻撃タイミングを、完全に『ゼロコンマ一秒』の誤差なく同時着弾させる。……相手の学習AIがシールドの波長を切り替えるその隙間を突いて、処理能力の限界オーバーフローを引き起こすんだ」


 それは、口で言うほど簡単なことではない。

 S級の神速の剣、S級の風魔法、そしてレンの三属性融合魔法。

 これらを完璧に同調させるなど、長年連れ添ったパーティーでも不可能に近い。


 だが。

「……やれるわね?」

 アリサが、不敵に笑った。


「俺を誰だと思っている。……お前らこそ、遅れるなよ」

 颯真が白刃を下げ、低い前傾姿勢を取る。

「レンさん。……私が、皆さんの魔力タイミングを繋ぎます!」


 サクラが杖を両手で握り締め、戦神アレスの『不屈の魂』を極限まで駆動させた。

 ぶっつけ本番。

 だが、最強の四人に言葉は不要だった。


『対象の無力化を推奨。広域殲滅モード、移行』

 マキナドラゴンが、胸部の巨大な装甲を開き、最終兵器である『主砲』のチャージを開始した。地下格納庫そのものを吹き飛ばすつもりのようだ。


「――行くぞッ!!」

 レンの合図と共に、四人が同時に散開した。

 サクラが光の魔力で三人の位置とタイミングを同期させる『戦術リンク』を構築する。


 先陣を切ったのは、アリサと颯真だった。

「「ハァァァァァァァァッ!!」」

 右からアリサの風が、左から颯真の空間斬撃が、マキナドラゴンの両翼のセンサーを同時に破壊する。


『エラー検知。シールド波長、物理・風属性へ再計算――』

 機竜のAIが、二人のS級の攻撃を防ぐために全処理能力を防御シールドへと回した。


 ――その瞬間。

 真正面の完全な死角から、レンが跳躍した。

「《三絶・水雷火砲トライ・エレメント・ブラスター》ッ!!」

 炎、雷、水。相反する三つの属性に、サクラの『光』が加わった四属性の奔流。


 それが、マキナドラゴンがシールドの波長を切り替えようとした『ゼロコンマ一秒の隙間』に、寸分の狂いもなく叩き込まれた。


『致命的エラー発生。防御シールド、計算不能オーバーフロー。装甲融解――』


 機竜のAIが処理限界を迎え、全身から火花を吹いて動きを完全に停止した。

 無防備に開かれた胸部の装甲。その奥にある、人工の巨大な魔力コアが露出する。


「これで……スクラップだぁぁぁッ!!」

 ガガガガガガガガガッ……


 レンの放った魔法の奔流が、マキナドラゴンの胸部コアを完全に貫通した。

 

 格納庫を揺るがす大爆発。

 漆黒の装甲が飴細工のように溶け、機械竜の巨体が、内側から崩壊していく。


 凄まじい爆風を、サクラが咄嗟に展開した光の壁が四人を守り抜いた。


 土煙が晴れた。

 そこには、跡形もなくスクラップと化したマキナドラゴンの残骸だけが転がっていた。


「……ふぅ。まったく、可愛げのないトカゲだったわね」

 アリサが神刀を鞘に納め、額の汗を拭う。


「チッ。俺の刀が刃こぼれした。……あの仮面野郎、絶対に許さん」


 颯真が舌打ちしながらも、その顔にはどこか達成感の笑みが浮かんでいた。


「お疲れ様です、皆さん!」

 サクラが小走りで三人の元へ駆け寄り、ホッと胸を撫で下ろす。

 四人の最強の探索者たちは、無傷とは言えないまでも、決定的な危機を完璧な連携で乗り越えたのだ。


 レンは残骸を一瞥した後、格納庫の最奥に鎮座する、ひときわ重厚な『最後の扉』を見据えた。


「……合流できてよかった。次は、いよいよ大ボスだ」

 その扉の向こうに、全てを裏で操っていた『無名の王』の本体がいる。


 四人は無言で頷き合い、決戦の地へと続く重い扉のロックに手をかけたのだった。

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