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同接0人のEランク探索者ダンジョン配信、なぜか神様や魔王様が見ている件 〜コメント欄が古代龍や魔王とかなんだが〜  作者: 仁科異邦


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世界を救った後の日常と祝勝会


 神話の化身が国立競技場に出現し、そして二人の探索者によって消滅させられたあの日から、三日が経過していた。


 日本、いや世界中のメディアが、あの一日の出来事を狂ったように報道し続けていた。

 『世界を救った一秒の奇跡』。


 『S級・九条颯真と並び立つ、未知のEランク探索者』。

 ネットを開けば、レンとサクラ、そして颯真の姿が映っていない画面を探す方が難しいほどだった。


「……なんか、とんでもないことになっちゃったな」

 都内某所。ひっそりとした路地裏にある隠れ家的なカフェのテラス席で、レンは深く被ったキャップのツバを下げながら、自身のスマートフォンを見つめていた。


 画面に表示されているのは、自身のダンジョン配信チャンネルのステータス画面。

 【チャンネル登録者数:8,540,000人】

 三日前まで七万人程度だった数字が、文字通り桁違いのバグのような勢いで跳ね上がっている。

同接視聴者数に至っては、配信をしていない「オフライン状態」の待機所であるにもかかわらず、常に数万人がチャット欄で盛り上がっていた。


【雷神トール】:おお! レンが端末を開いたぞ! 今日は配信しないのか!?

【精霊王シルフィード】:レンくんお疲れ様! まだゆっくり休んでてね!

【古代龍バハムート】:……フン。人間どもが騒ぎ立てるのも無理はない。あの神話級の一撃を凌いだのだからな。


【賢神ソフィア】:少年よ、街を歩く時は気をつけろ。お前は今や、世界で最も注目されている『規格外』なのだからな。


「……分かってるよ。だからこんな目立たない場所で隠れてるんじゃないか」

 レンは小さくため息をつきながら、アイスコーヒーのストローを咥えた。


 三日前の無茶な魔力行使による全身の筋肉痛と魔力回路の軋みは、サクラの回復魔法と最高級ポーションのおかげで、ようやく日常生活に支障がないレベルにまで回復していた。


「お待たせしました、レンさん!」

 カラン、とカフェのドアベルが鳴り、私服姿のサクラが小走りでやってきた。


 普段の探索用装備とは違う、ふんわりとした白いワンピースに薄手のカーディガン。その可憐な姿に、レンは少しだけ目を奪われそうになった。


「サクラさん。体調はもう平気なのか?」

「はい! たっぷり寝たので、魔力もすっかり元通りです。……でも、駅前からここまで来るだけで、三回もテレビのインタビューに囲まれそうになって大変だったんですよ」


 サクラは向かいの席に座るなり、ぷくっと頬を膨らませた。

 無理もない。

 あの日、十万人の観客を『大聖域』で守り抜いた彼女は、今や世界中から「奇跡の聖女」として崇め立てられているのだ。

「悪い、俺が迎えに行けばよかったな」

「ふふっ、冗談です。それよりレンさん、早く行かないと遅刻しちゃいますよ? アリサさん、今日は貸し切りで凄いお店を予約してくれてるみたいですし」


 今日は、エキシビションの激闘を労うための『祝勝会』が予定されていた。

 二人はカフェを出ると、人目を避けるように路地裏を抜け、指定された六本木の超高級ホテルへと向かった。



「乾杯っ!!」


 ホテルの最上階。夜景を一望できる貸し切りのVIPルームで、アリサの明るい声が響き渡った。


 テーブルには、Aランク魔物『ゴールデン・ボア』の極上ステーキや、深層の清流でしか獲れない幻の魚のカルパッチョなど、探索者協会持ちの規格外な高級料理がズラリと並んでいる。


「いやぁ、本当に生きた心地がしなかったッスよ! スタジアムの結界が破られそうになった時は、俺も死を覚悟したからね!」


 Bランク探索者の向井が、高級ワインを煽りながら大声で笑う。

「本当に、お二人が無事で何よりです。……あんな神話級の化け物のデータ、協会のデータベースのどこを探しても存在しませんでしたから」


 研究員のユイも、安堵の表情でジュースのグラスを傾けていた。田中係長は感極まってハンカチで目頭を押さえている。


 そして、部屋の隅のソファー席。

 そこには、普段の漆黒のコートではなく、ラフな黒のシャツを着崩した九条颯真が、黙々と『ゴールデン・ボア』のステーキを平らげていた。


「九条さんも、よくこんな集まりに来てくれましたね」

 レンが苦笑しながら話しかけると、颯真はフォークを止めてチラリとこちらを見た。


「……俺はただ、協会が奢るタダ飯を食いに来ただけだ。それに、あの大舞台を台無しにされた借りは、まだお前に返していないからな」


「ははっ、そうですね」

 殺気のない、純粋なライバルとしての会話。

 エキシビションでは殺し合うはずだった二人が、今こうして肩を並べて酒(未成年のレンとサクラはジュースだが)を飲んでいる状況は、不思議だが心地の良いものだった。


【戦神アレス】:むうっ! ズルいぞ! なぜ我ら神々は現世の飯を食えんのだ! その肉、すこぶる美味そうではないか!!


【魔王ゼルディア】:おいガキ共、画面の前にその肉を近づけろ。匂いだけでも魔界に転送してみせる。


【精霊王シルフィード】:いいなーいいなー! サクラちゃん、そのケーキ美味しい!?


【死神ネクロス】:……平和なことだ。だが、この平穏もいつまで続くやらな。


 空中に浮かぶダンカメのコメント欄は、美味そうな料理を前に阿鼻叫喚の騒ぎになっていた。レンはこっそりステーキの一切れをカメラの前に近づけてやり、神々のチャットをさらに加速させる。


「レンくん、サクラさん。改めて、本当にお疲れ様」

 宴もたけなわとなった頃、アリサがグラスを置いて二人の前に歩み寄った。


「協会の上層部は、君たちを特例でSランクに昇格させるべきだって大騒ぎしているわ。……まあ、色々と手続きが面倒だから、しばらくは保留にしてもらったけどね」


「助かります。俺たちはまだ、そんな器じゃないですから」

 レンが謙遜すると、アリサは「どの口が言うのよ」と呆れたように笑った。


 だが、その直後。

 アリサの表情から、ふっと柔らかい笑みが消え、S級探索者としての鋭い眼光が戻った。


 部屋の空気が、ピンと張り詰める。

 肉を頬張っていた颯真も、フォークを置いて静かに目を細めた。


「……さて。祝勝会はここまでよ。ここからは、次のお仕事ミッションの話」

 アリサの言葉に、ユイが手元のタブレットを操作し、空中にホログラムの地図を投影した。


「神話級を呼び出したテロリスト集団『無名の王』。……彼らの使用していた通信プロトコルと、ダンジョンコアへのハッキング経路を、協会の総力を挙げて逆探知しました」


 ユイの指が、ホログラムの地図の一点を指し示す。

 そこは、日本の遥か南。海上にポツンと存在する、巨大な無人島だった。


「『硫黄島・超深層ゲート』。……かつて、S級探索者パーティーが全滅し、以来、協会の管轄から外れて完全封鎖されていた『開かずのダンジョン』。……奴らの本体サーバーは、この地下にあります」


 無名の王。

 十万人の命を玩具にし、神話の化け物を召喚した元凶。


 エキシビションで討ち漏らしたその「本隊」が、ついに尻尾を出したのだ。


「……当然、行くんだろ?」

 颯真が、口元に獰猛な笑みを浮かべて立ち上がった。

「ええ。協会からの正式な特命よ。ターゲットは無名の王のリーダーの確保、およびアジトの完全制圧。……作戦の決行は、明日の夜明け」


 アリサがレンとサクラを真っ直ぐに見据える。

「神代レン、佐藤サクラ。そして九条颯真。……日本最強のメンバーで、奴らの根城を潰しに行くわよ」


 レンはサクラと顔を見合わせ、力強く頷いた。

 平和な日常は、ほんの一瞬の休息に過ぎなかった。


 だが、今の彼らにもう迷いはない。神々の奇跡を宿し、最強のライバルと並び立った彼らに、恐れるものなど何もなかった。


「……了解だ。派手に暴れに行こうぜ」

 レンの瞳に、再び闘志の炎が宿った。

 未踏の超深層ダンジョンを舞台にした、新たな戦いの幕が今、切って落とされようとしていた。

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