奇跡の証明
光が、すべてを塗り潰していた。
天界から降り注いだ『奇跡』の柱。
それは、神々が己の存在領域を削ってまで現世に介入した、絶対的な神力の奔流だった。
サクラの展開した『大聖域』は、十万人の観客を赤黒い瘴気から完全に隔絶する、不可侵の要塞へと変貌していた。
そして、アリーナの中央。
神代レンと九条颯真の全身からは、星の核すらも凌駕するほどの圧倒的な魔力が立ち上っていた。
「……三分、ね」
颯真が、白く輝く刀身を軽く振った。ただそれだけで、周囲の空間がガラスのようにひび割れた。
「神様たちも随分とケチだ。だが……この泥人形を塵にするには、一秒あれば十分だ」
「同感だ。……サクラさん、結界の維持だけお願い!」
レンの脳内で、限界を超えていたはずの『並列思考』が、かつてないほどの静寂と冴えを見せていた。
バハムートの竜気、トールの雷、ソフィアの叡智、アレスの闘気。
神々から与えられた膨大な力が、レンの三属性(炎・雷・水)と完全に融合し、一本の『光の剣』として収束していった。
『GU、GYOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOッ!?』
星喰いの魔神・アザトースの影が、初めて「恐怖」に似た叫びを上げた。
世界を喰らうはずの概念が、目の前に立つ二人の『人間』から放たれるプレッシャーに完全に圧倒されていた。
生存本能のままに、アザトースの影は数千の触手を一本の巨大な槍へと編み上げ、スタジアムごと二人を串刺しにしようと振り下ろした。
神話級の、全魔力を込めた一撃。
それが二人の頭上に届く、そのコンマ一秒前。
「――《神雷・絶極》」
「――《次元断・天照》」
二人の声が、静かに重なった。
レンの身体が、極彩色の流星となった。
颯真の身体が、不可視の神速となった。
交差する二つの絶対的な力。
レンの剣が、降り下ろされる触手の巨槍を根元から完全に蒸発させた。
そして颯真の刃が、無防備になったアザトースの影の『概念の中心』を、空間そのものごと十字に切り裂いた。
音すらも、遅れてやってきた。
ピタ、と時間が止まったかのような錯覚だった。
次の瞬間、アザトースの影の巨体が、内側から膨張する極光に飲み込まれた。
カッ!!!!
スタジアムの上空に、二つ目の太陽が生まれたかのような大爆発が起きた。
だが、その強烈な衝撃波はサクラの『大聖域』によって完全に遮断され、観客たちには暖かな風となって降り注いだだけだった。
光が収まる。
そこには、赤黒い瘴気も、神話級の魔物も、塵一つ残っていなかった。
ただ、大きく抉れたアリーナの中央に、剣を下ろしたレンと、刀を鞘に納める颯真の二人だけが、静かに立ち尽くしていた。
『……ば、馬鹿な』
空中に浮かぶ大型モニターから、無名の王の震える声が響いた。
『神話級だぞ!? 世界を終わらせる存在だぞ!? それを、たった一撃で……物理法則も、魔力限界も、すべて無視して……君たちは、一体……!?』
「うるさいな」
颯真が冷たい視線をモニターに向け、軽く指を弾いた。
見えない斬撃が走り、無名の王を映し出していたモニターが真っ二つに割れて沈黙した。
《システム通知:神の奇跡が終了しました》
そのアナウンスと共に、二人を包んでいた神力と、サクラの『大聖域』がふっと消え去った。
三分のタイムリミットを待たずしての、完全決着だった。
「……終わった、か」
レンは小さく息を吐き、そのまま仰向けに大の字になって倒れ込んだ。神力が抜けた途端、激しい疲労が全身を襲ったが、心は不思議なほど晴れやかだった。
「レンさん!」
結界を解いたサクラが、涙と笑顔が入り混じった顔で駆け寄ってきた。
颯真は倒れ込んだレンを見下ろし、フッと笑った。
「……驚いたな。最後の一撃、お前の火力の方が僅かに上だったぞ」
「九条さんが、空間ごと敵の防御を消し飛ばしてくれたおかげだろ……」
静寂に包まれていたスタジアム。
十万人の観客たちは、目の前で起きた『神話の終焉』を理解するまでに数秒の時間を要した。
そして。
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!』
『すげええええええええっ!!! なんだよ今の!!!!』
『レン! サクラちゃん! 颯真!!』
地鳴りのような、爆発的な大歓声が巻き起こった。
観客たちは総立ちになり、命を救ってくれた三人の英雄に向かって、割れんばかりの拍手と声援を送っていた。
【古代龍バハムート】:……フッ。見事だ。神の奇跡に頼ったとはいえ、あの神話級を文字通り一撃で粉砕するとはな。
【賢神ソフィア】:まったく、心臓に悪い時間だったぞ! だが……素晴らしい一撃だった。
【戦神アレス】:よくやった!! 最高の戦いだったぞ、お前たち!!
【冥王ハデス】:……フン。泥人形相手に手間取ったな。だが、まあ……褒めてやろう。
【ダンジョンオタク_ケイ】:やばい、かっこよすぎて語彙力消えた。最強すぎる!!!
【mukai_b_rank】:これ、もうエキシビションどころの騒ぎじゃねえぞ……伝説だろ。
コメント欄もまた、神々と人間の垣根を越えた熱狂の渦に飲まれていた。
「……さて。邪魔者は消えた」
大歓声の中、颯真が再び刀に手をかけた。
「エキシビションの続き、と行きたいところだが……」
「……無理、です。指一本動かない」
レンが苦笑しながら答えると、颯真もまた、小さく肩をすくめた。
「そうだろうな。俺もだ。反動がデカすぎる。……勝負は、お預けだな」
「ああ。次は、万全の状態で」
二人の最強の探索者は言葉を交わし、互いの実力を認め合うように静かに拳を合わせた。
この日。
登録者数ゼロから始まった無職の少年は、名実ともに「世界最強」の領域へと到達したのだった。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
新作書きましたので告知を。
「適性ゼロでリストラされた元協会事務員、やけくそでダンジョンに素手特攻したら強スキル【存在強奪】に目覚めました~ポンコツAIと一緒に底辺からすべてを奪い尽くして成り上がる~」
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