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同接0人のEランク探索者ダンジョン配信、なぜか神様や魔王様が見ている件 〜コメント欄が古代龍や魔王とかなんだが〜  作者: 仁科異邦


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十万の命と、並び立つ二つの規格外


 国立競技場は、文字通りの地獄と化していた。

 アリーナの中央に顕現した『星喰いの魔神・アザトースの影』。

 その赤黒い、泥のような巨大な異形が「そこに存在している」というだけで、致死性の瘴気がスタジアム全体を覆い尽くしていく。


「あ、ぁ……っ」

「助け……」

 悲鳴すら、まともに上がらなかった。

 最前列の観客から順に、首を締められたように白目を剥き、次々と座席に倒れ伏していく。


探索者ではない一般人の肉体など、神話級の放つプレッシャーの前にあっては紙切れと同義だった。

 宙に浮くダンカメが映し出すコメント欄は、常連リスナーである神々の悲痛な叫びで埋め尽くされていた。

【賢神ソフィア】:レン! サクラ! 逃げろ!! お前たちの命だけでも繋ぐんだ!!


【古代龍バハムート】:無駄だ。アレは世界を喰らう『概念』の影。今の人間どもがどうにかできる次元の存在ではない!

【冥王ハデス】:九条颯真! 貴様ほどの才があれば逃げ切れるはずだ! ここで無駄死にするな!!


【雷神トール】:クソッ……! なぜ我らが直接干渉できんのだ!!

 神々ですら匙を投げる、絶対的な死の象徴。

 だが。

「……サクラさん」

 レンは剣から手を離さず、背後の少女に声をかけた。


「観客席……いけるか?」

 その問いの意味を、サクラはすぐに理解した。

 逃げ道を探すのではない。この十万人の命を、自分たちで守り抜くという意思確認。

「……もちろんです」

 サクラは杖を天高く掲げた。

 戦神アレスから授かった『不屈の魂』。あらゆる状態異常と精神負荷を弾き返すその加護の力を、彼女は自身の防衛ではなく、周囲の空間そのものへと強引に拡張オーバーライドさせた。


「《大聖域グランド・サンクチュアリ》――――ッ!!」

 サクラの全身から、眩い黄金の光が爆発的に広がる。

 光は瞬く間に巨大なドーム状の結界となり、スタジアムの観客席すべてをすっぽりと覆い隠した。

赤黒い瘴気が結界に触れてジュワジュワと蒸発していく。

 倒れていた観客たちが、荒い息を吐きながら次々と意識を取り戻し始めた。

「よし……っ!」

 だが、安堵したのも束の間。サクラの鼻筋から、ツーッと一筋の赤い血が垂れた。


 十万人の命を、たった一人のヒーラーの魔力で守り抜く。

それは彼女自身の生命力(HP)を削って結界の強度に変換する、文字通りの『自殺行為』だった。

「……狂ってるな」

 その光景を見て、九条颯真が口角を上げて笑った。


「Eクラスの小娘が十万人を背負い、Eクラスのガキが神話級の足止めか。……協会トップが腰を抜かすわけだ」


 颯真は漆黒のコートを翻し、レンの隣へと並び立った。

「あんたこそ、逃げなくていいのか」

 レンが前を見据えたまま問うと、颯真は白刃を肩に担ぎ、楽しそうに目を細めた。


「俺は日本最強の探索者だ。俺の背後で人間が死ぬのは、俺の敗北を意味する。……それに」

 颯真の全身から、先ほどレンと打ち合っていた時とは比較にならない、研ぎ澄まされた尋常ではない剣気が立ち上る。


「エキシビションの邪魔をされたんだ。この苛立ちは、あのバケモノを八つ裂きにして晴らすしかないだろう」

 最高峰のライバル同士が、かつてない絶望を前にして、初めて互いの背中を預け合った。

『GIURURURURURURURURURURUッ!!!』

 アザトースの影が、耳障りな不協和音の咆哮を上げた。


 獲物である十万人を光の結界で隠されたことに激怒したのか、その背中から無数の黒い触手が伸び、雨霰のようにスタジアムへと降り注ぐ。

 一本一本が、先日の腐死竜の一撃に匹敵する質量と速度。


「……来るぞ、異常者イレギュラー

「指示は要らない。……全部、叩き落とす!」

 レンの脳内で、賢神ソフィアの『並列思考』が限界を超えて駆動する。


 網膜に投影される『未来予測』の光の線。降り注ぐ数千の触手の軌道をすべて演算し、サクラの結界に直撃する致命的な一撃だけを瞬時に弾き出す。


「《水雷咆ハイドロ・ボルト》! 炎展開、起爆ッ!!」

 レンの両手から放たれた三属性融合魔法が、空中で複雑な軌道を描きながら触手の群れに直撃し、次々と爆散させていく。

「遅いな。俺の獲物を横取りするなよ」

 颯真が地を蹴った。


 『縮地・境界テリトリー』。

 彼が空間を一歩移動するたびに、目に見えない無数の斬撃の嵐が巻き起こり、レンの魔法から漏れた巨大な触手をすべて細切れの肉片に変えていく。


 スタジアムの中央で繰り広げられる、二人の規格外による決死の防衛戦。

 神話級の暴力を前に一歩も引かないその姿に、意識を取り戻した観客たちが、震えながらも祈るように手を握りしめていた。


 しかし。

『――無駄な足掻きだ。君たちの魔力と、神話級の魔力。底の深さが違いすぎる』

 スタジアムのスピーカーから、無名の王の嘲笑が響く。

 その言葉通りだった。

 斬っても、燃やしても、アザトースの影の触手は無限に再生し続ける。


 対して、十万人を守り続けるサクラの限界は、とうの昔に超えていた。彼女の目から、鼻から、耳から、とめどなく血が流れ落ちている。

「サクラさんッ!!」


 レンが叫ぶが、サクラは「前を向いて!」と血塗れの顔で笑い、結界の出力をさらに上げた。

 膝が折れ、地面に崩れ落ちそうになるサクラ。


 結界に巨大なヒビが入り、絶望が再びスタジアムを覆い尽くそうとした、まさにその瞬間だった。


【古代龍バハムート】:……ええい、忌々しい! 我ら神々が、人間の子供に後れを取ってどうする!!


【冥王ハデス】:ルールなど知らん。天界の掟など、後で私が叩き潰してやる!


【戦神アレス】:よく言ったハデス! さあ、総員出力を全開にしろ!! あのふざけた影のバケモノに、神々の本気を見せつけてやれ!!


 ――ピロリンッ。

 ――ピロリンッ。

 ――ピロリンッ。

 ダンカメから、かつて聞いたことのない、スタジアムの空気を震わせるほどのけたたましい「電子音」が連続して鳴り響いた。


《システム通知:『古代龍バハムート』が【神の奇跡】を送信しました》

《システム通知:『賢神ソフィア』が【神の奇跡】を送信しました》

《システム通知:『死神ネクロス』が【神の奇跡】を送信しました》

《システム通知:『雷神トール』が【神の奇跡】を送信しました》

《システム通知:『精霊王シルフィード』が【神の奇跡】を送信しました》

《システム通知:『戦神アレス』が【神の奇跡】を送信しました》

《システム通知:『魔王ゼルディア』が【魔王の奇跡】を送信しました》


 配信画面が、黄金と漆黒、そして極彩色の光で完全に埋め尽くされる。

 それは単なるスパチャではない。


 天界に座す神々が、自らの存在意義リソースを削って現世に直接干渉する、禁忌の『領域拡張』。


 天から降り注いだ七色の光の柱が、限界を迎えていたサクラ、そして前衛で満身創痍となっていたレンと颯真の身体を包み込んだ。


「……なんだ、これは」

 颯真が自身の両手を見て、驚愕に目を見開く。

 疲労が完全に消え去り、それどころか、自身の内側から『星を砕けるほどの』圧倒的な力が無限に湧き上がってくるのだ。


「レンさん……っ、痛くない! 魔力が、溢れてきます……!」

 血塗れだったサクラの傷が瞬時に癒え、十万人を覆う光の結界が、絶対不可侵の『神域』へと昇華した。


【賢神ソフィア】:三分だ。我らが現世の法則を捻じ曲げてリミッターを外せるのは、たったの三分間。

【古代龍バハムート】:神代レン。九条颯真。……その三分間で、貴様らのすべてをその剣に乗せろ!


【魔王ゼルディア】:派手にやれ、ガキ共! 舞台は俺たちが支えてやる!!

 神々の声が、スタジアムにいる全員の脳内に直接響き渡った。


「……三分もいらないだろ、九条颯真」

 レンは、黄金の雷と紅蓮の炎、そして深淵の水を極限まで圧縮した剣を構え、隣のライバルに笑いかけた。

「フッ……。当然だ」

 颯真もまた、神力によって白く輝く刃を正眼に構え、アザトースの影を見据える。


「一秒で終わらせるぞ、異常者」

 神々の奇跡を身に宿した、二人の規格外。


 絶望の化身たる神話級を打ち砕くための、神話をも超える最後の一撃が、今放たれようとしていた。


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― 新着の感想 ―
まぁ相手が神話級ならこっちも神でバランスは取れている(白目
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