同接増えてきた!
レンが配信を開始すると、いつも通り常連たちが集まった。
【古代龍バハムート】が入室しました
【魔王ゼルディア】が入室しました
【精霊王シルフィード】が入室しました
【戦神アレス】が入室しました
【死神ネクロス】が入室しました
【賢神ソフィア】が入室しました
【雷神トール】が入室しました
そこまではいつも通りだった。
いつもと違ったのは、その後だ。
【dungeon_watch】が入室しました
【探索者志望くん】が入室しました
【渋谷民】が入室しました
「あ、今日も新しい方が来てくれた。いらっしゃいませ」
【dungeon_watch】:ここって毎日配信してるの?
【探索者志望くん】:渋谷第三ってEランク帯ですよね
【渋谷民】:コメント欄のロールプレイ勢はなんか有名な人たちですか?
【古代龍バハムート】:有名ではない
【精霊王シルフィード】:いやいや有名だよ!
【古代龍バハムート】:余計なことを言うな
【渋谷民】:え、本人たちがいた
【探索者志望くん】:毎回いるんですかこの人たち
【魔王ゼルディア】:毎回いる
【探索者志望くん】:なんで
【魔王ゼルディア】:暇だからだ
【渋谷民】:正直すぎる
「毎日来てくれてる常連さんたちです。よくしてもらってます」
【dungeon_watch】:登録者何人?
「今日時点で五人です」
【dungeon_watch】:え、少な
【探索者志望くん】:なのにコメント欄がこんなに賑やかなの不思議すぎる
【精霊王シルフィード】:私たちがいるから!
【渋谷民】:なんかいい配信だな
レンは少し照れながら、ダンジョンへ向かった。
◆
今日の目標は地下三階の中層エリア。
前回確認できなかった右の通路だ。死神ネクロスに「忙しくなりそう」と言われたところを、一応改めて確認しに来た。
「右通路です。昨日より魔力感知を意識してみます」
【賢神ソフィア】:いい心がけだ
【古代龍バハムート】:気配に集中しろ。足音より先に魔力の乱れがある
【探索者志望くん】:魔力感知って訓練でできるようになるんですか
【賢神ソフィア】:素質と訓練次第だ
【探索者志望くん】:ロールプレイ勢なのに解説が丁寧すぎる
【魔王ゼルディア】:ロールプレイではない
【探索者志望くん】:え
【魔王ゼルディア】:……冗談だ
【探索者志望くん】:びっくりした
「ゼルディアさん、たまにそういうこと言いますよね」
【魔王ゼルディア】:つい本当のことを言いそうになる
【魔王ゼルディア】:冗談だ
【渋谷民】:二回言った
レンは苦笑いしながら通路を進んだ。
◆
右通路の奥に出た途端、空気が変わった。
ひやりとした、重い気配。
「……なんか、いますね」
【古代龍バハムート】:止まれ
【賢神ソフィア】:前方二十メートル。大型だ
【死神ネクロス】:ああ、これか
【戦神アレス】:来たな
【探索者志望くん】:え、え、何がいるの
【dungeon_watch】:ドキドキしてきた
レンは足を止め、魔石のライトを絞った。
暗闇に目を凝らす。
通路の奥に、大きな影が見えた。
四足歩行。体長二メートル以上。
「……あれ、何ですか」
【賢神ソフィア】:アイアンウルフだ。Dランク上位の個体だな
【戦神アレス】:いい獲物だ
【古代龍バハムート】:お前には早い。退け
【雷神トール】:いや、やれる
【古代龍バハムート】:根拠は
【雷神トール】:もちろん勘だ
【古代龍バハムート】:根拠になっていないではないか
「お二人が珍しく意見割れてる」
【精霊王シルフィード】:どっちどっち!?
【魔王ゼルディア】:状況次第だろう
【死神ネクロス】:私は今日忙しくなりたくない
【探索者志望くん】:死神さんの発言が毎回怖い
レンはアイアンウルフを観察した。
大きい。速そうだ。正直、勝てるかどうかわからない。
でも。
「……逃げ道、確認してから少し近づいてみます。やばかったら即退散」
【古代龍バハムート】:慎重にしろ
【雷神トール】:その判断でいい
【戦神アレス】:弱気だが、まあよし
【精霊王シルフィード】:無理しないでね!!
【dungeon_watch】:お、同接14人になってる
【渋谷民】:増えてきた
【探索者志望くん】:みんな固唾を飲んで見てる
レンはゆっくりと近づいた。
十メートル。
アイアンウルフが気配を察して顔を上げた。
目が合った。
一瞬の静寂。
アイアンウルフが、低く唸った。
「来る」
飛びかかってきた瞬間、レンは横に跳んだ。
爪が風を切って空ぶる。
着地と同時に雷を右手に集める。
「っ……」
振り返ってくるアイアンウルフの鼻先に向けて、放った。
ばちっ、ではなく、今度はどかっ、という重い音がした。
アイアンウルフがよろめく。
「今だ!」
一気に踏み込んで、首元に剣を叩き込む。
アイアンウルフが床に崩れ落ちて、光の粒子になった。
静寂。
レンは荒い息をつきながら、その場に膝をついた。
「……倒せた」
【精霊王シルフィード】:すごいすごいすごいすごい!!!!
【雷神トール】:言った通りだろう
【古代龍バハムート】:……認める。上出来だ
【賢神ソフィア】:雷魔法の扱いが昨日より格段に上がっている
【戦神アレス】:よし
【死神ネクロス】:今日も仕事なしだ。よかった
【魔王ゼルディア】:面白い人間だ
【dungeon_watch】:え、EランクがDランク上位倒した?
【渋谷民】:しかも雷魔法使ってたじゃん
【探索者志望くん】:このチャンネル登録者五人なの意味わからなくなってきた
【dungeon_watch】:登録した
【渋谷民】:登録した
【探索者志望くん】:登録した
「あ、ありがとうございます……!」
画面の隅の登録者数が、ぴょんと跳ね上がった。
5人 → 8人
「増えた!」
【精霊王シルフィード】:やったね!!
【古代龍バハムート】:当然だ
【魔王ゼルディア】:遅すぎたくらいだ
レンは照れくさそうに笑いながら、ドロップアイテムを拾った。
◆
配信終了後、分析室。
ユイはメモを見つめていた。
今日の戦闘データがまとまっている。
【アイアンウルフ戦:Dランク上位個体を単独討伐。雷魔法使用】
【回避精度:Dランク上位探索者相当】
【魔法発動速度:中級探索者相当】
ユイはペンを置いた。
「おかしい」
おかしいのは分かっている。でも何がどうおかしいのか、まだ言語化できない。
ステータスはEランク。スキル構成もEランク。
なのに動きだけが、どんどんランクを追い越していく。
(まるで、体がついていけてないだけで、中身は最初から別物みたいだ)
ユイはファイルを開いて、書き込んだ。
【仮説:ステータスとスキルが実力の上限を示していない可能性。原因不明。要継続調査】
保存する。
それから、もう一度配信のアーカイブを開いた。
アイアンウルフを倒した瞬間を、もう一度見た。
派手ではない。
むしろ地味なくらい、静かな戦い方だ。
でも一つも無駄がない。
(……この子、どこで覚えたんだろう)
◆
協会管理室では、田中係長が今日のログを流し見していた。
隣の佐藤が声をかける。
「係長、神代くんの同接が今日十四人まで行ったみたいです」
「ほう」
「Dランク上位も倒してました」
「また倒したのか」
「ええ。雷魔法も使ってて」
「雷魔法……習得いつだ」
「六日前のスパチャで急に取得してます」
田中係長は眼鏡を外して、目を細めた。
「一千万スパチャで雷魔法が取得できる世界線があるのか」
「ロールプレイ勢の設定がガチすぎて、私もよくわからなくなってきてます」
「まあいい」
田中係長はコーヒーを飲んだ。
「ただの真面目なEランクが、真面目に強くなってるだけだ。今は見守るだけでいい」
「了解です」
佐藤は自席に戻った。
田中係長はもう一度画面を見た。
コメント欄の常連たち。登録者八人。同接十四人。
(なんか、じわじわ来てるな)
悪い予感ではなかった。
異世界のどこか。
「登録者が増えた」と精霊王シルフィードが言った。
「八人だがな」とバハムートが返す。
「でも増えた!」
「まあ、始まりというのはそういうものだ」
賢神ソフィアが静かに続けた。
「人間界の目が、少しずつ向き始めている」
魔王ゼルディアが窓の外を見るような仕草をした。
「さて。これからどうなるか」
「楽しみだな」と雷神トールが珍しく笑った。
バハムートは何も言わなかった。
ただ、次の配信通知をもう一度確認した。
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