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同接0人のEランク探索者ダンジョン配信、なぜか神様や魔王様が見ている件 〜コメント欄が古代龍や魔王とかなんだが〜  作者: 仁科異邦


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同接増えてきた!


 レンが配信を開始すると、いつも通り常連たちが集まった。


【古代龍バハムート】が入室しました

【魔王ゼルディア】が入室しました

【精霊王シルフィード】が入室しました

【戦神アレス】が入室しました

【死神ネクロス】が入室しました

【賢神ソフィア】が入室しました

【雷神トール】が入室しました


 そこまではいつも通りだった。

 いつもと違ったのは、その後だ。


【dungeon_watch】が入室しました

【探索者志望くん】が入室しました

【渋谷民】が入室しました


「あ、今日も新しい方が来てくれた。いらっしゃいませ」


【dungeon_watch】:ここって毎日配信してるの?

【探索者志望くん】:渋谷第三ってEランク帯ですよね

【渋谷民】:コメント欄のロールプレイ勢はなんか有名な人たちですか?


【古代龍バハムート】:有名ではない

【精霊王シルフィード】:いやいや有名だよ!

【古代龍バハムート】:余計なことを言うな

【渋谷民】:え、本人たちがいた

【探索者志望くん】:毎回いるんですかこの人たち

【魔王ゼルディア】:毎回いる

【探索者志望くん】:なんで

【魔王ゼルディア】:暇だからだ

【渋谷民】:正直すぎる


「毎日来てくれてる常連さんたちです。よくしてもらってます」


【dungeon_watch】:登録者何人?


「今日時点で五人です」


【dungeon_watch】:え、少な

【探索者志望くん】:なのにコメント欄がこんなに賑やかなの不思議すぎる

【精霊王シルフィード】:私たちがいるから!

【渋谷民】:なんかいい配信だな


 レンは少し照れながら、ダンジョンへ向かった。



 今日の目標は地下三階の中層エリア。

 前回確認できなかった右の通路だ。死神ネクロスに「忙しくなりそう」と言われたところを、一応改めて確認しに来た。

「右通路です。昨日より魔力感知を意識してみます」


【賢神ソフィア】:いい心がけだ

【古代龍バハムート】:気配に集中しろ。足音より先に魔力の乱れがある

【探索者志望くん】:魔力感知って訓練でできるようになるんですか

【賢神ソフィア】:素質と訓練次第だ

【探索者志望くん】:ロールプレイ勢なのに解説が丁寧すぎる

【魔王ゼルディア】:ロールプレイではない

【探索者志望くん】:え

【魔王ゼルディア】:……冗談だ

【探索者志望くん】:びっくりした


「ゼルディアさん、たまにそういうこと言いますよね」


【魔王ゼルディア】:つい本当のことを言いそうになる

【魔王ゼルディア】:冗談だ

【渋谷民】:二回言った


 レンは苦笑いしながら通路を進んだ。



 右通路の奥に出た途端、空気が変わった。

 ひやりとした、重い気配。

「……なんか、いますね」


【古代龍バハムート】:止まれ

【賢神ソフィア】:前方二十メートル。大型だ

【死神ネクロス】:ああ、これか

【戦神アレス】:来たな

【探索者志望くん】:え、え、何がいるの

【dungeon_watch】:ドキドキしてきた


 レンは足を止め、魔石のライトを絞った。

 暗闇に目を凝らす。

 通路の奥に、大きな影が見えた。

 四足歩行。体長二メートル以上。

「……あれ、何ですか」


【賢神ソフィア】:アイアンウルフだ。Dランク上位の個体だな

【戦神アレス】:いい獲物だ

【古代龍バハムート】:お前には早い。退け

【雷神トール】:いや、やれる

【古代龍バハムート】:根拠は

【雷神トール】:もちろん勘だ

【古代龍バハムート】:根拠になっていないではないか


「お二人が珍しく意見割れてる」


【精霊王シルフィード】:どっちどっち!?

【魔王ゼルディア】:状況次第だろう

【死神ネクロス】:私は今日忙しくなりたくない

【探索者志望くん】:死神さんの発言が毎回怖い


 レンはアイアンウルフを観察した。

 大きい。速そうだ。正直、勝てるかどうかわからない。

 でも。

「……逃げ道、確認してから少し近づいてみます。やばかったら即退散」


【古代龍バハムート】:慎重にしろ

【雷神トール】:その判断でいい

【戦神アレス】:弱気だが、まあよし

【精霊王シルフィード】:無理しないでね!!

【dungeon_watch】:お、同接14人になってる

【渋谷民】:増えてきた

【探索者志望くん】:みんな固唾を飲んで見てる


 レンはゆっくりと近づいた。

 十メートル。

 アイアンウルフが気配を察して顔を上げた。

 目が合った。

 一瞬の静寂。

 アイアンウルフが、低く唸った。

「来る」

 飛びかかってきた瞬間、レンは横に跳んだ。

 爪が風を切って空ぶる。

 着地と同時に雷を右手に集める。

「っ……」

 振り返ってくるアイアンウルフの鼻先に向けて、放った。

 ばちっ、ではなく、今度はどかっ、という重い音がした。

 アイアンウルフがよろめく。

「今だ!」

 一気に踏み込んで、首元に剣を叩き込む。

 アイアンウルフが床に崩れ落ちて、光の粒子になった。

 静寂。

 レンは荒い息をつきながら、その場に膝をついた。

「……倒せた」


【精霊王シルフィード】:すごいすごいすごいすごい!!!!

【雷神トール】:言った通りだろう

【古代龍バハムート】:……認める。上出来だ

【賢神ソフィア】:雷魔法の扱いが昨日より格段に上がっている

【戦神アレス】:よし

【死神ネクロス】:今日も仕事なしだ。よかった

【魔王ゼルディア】:面白い人間だ



【dungeon_watch】:え、EランクがDランク上位倒した?

【渋谷民】:しかも雷魔法使ってたじゃん

【探索者志望くん】:このチャンネル登録者五人なの意味わからなくなってきた

【dungeon_watch】:登録した

【渋谷民】:登録した

【探索者志望くん】:登録した


「あ、ありがとうございます……!」

 画面の隅の登録者数が、ぴょんと跳ね上がった。

 5人 → 8人

「増えた!」


【精霊王シルフィード】:やったね!!

【古代龍バハムート】:当然だ

【魔王ゼルディア】:遅すぎたくらいだ


 レンは照れくさそうに笑いながら、ドロップアイテムを拾った。

 配信終了後、分析室。

 ユイはメモを見つめていた。

 今日の戦闘データがまとまっている。

【アイアンウルフ戦:Dランク上位個体を単独討伐。雷魔法使用】

【回避精度:Dランク上位探索者相当】

【魔法発動速度:中級探索者相当】

 ユイはペンを置いた。

「おかしい」


 おかしいのは分かっている。でも何がどうおかしいのか、まだ言語化できない。

 ステータスはEランク。スキル構成もEランク。

 なのに動きだけが、どんどんランクを追い越していく。

(まるで、体がついていけてないだけで、中身は最初から別物みたいだ)


 ユイはファイルを開いて、書き込んだ。

【仮説:ステータスとスキルが実力の上限を示していない可能性。原因不明。要継続調査】

 保存する。

 それから、もう一度配信のアーカイブを開いた。

 アイアンウルフを倒した瞬間を、もう一度見た。

 派手ではない。


 むしろ地味なくらい、静かな戦い方だ。

 でも一つも無駄がない。

(……この子、どこで覚えたんだろう)



 協会管理室では、田中係長が今日のログを流し見していた。

 隣の佐藤が声をかける。

「係長、神代くんの同接が今日十四人まで行ったみたいです」

「ほう」

「Dランク上位も倒してました」

「また倒したのか」

「ええ。雷魔法も使ってて」

「雷魔法……習得いつだ」


「六日前のスパチャで急に取得してます」

 田中係長は眼鏡を外して、目を細めた。

「一千万スパチャで雷魔法が取得できる世界線があるのか」

「ロールプレイ勢の設定がガチすぎて、私もよくわからなくなってきてます」

「まあいい」

 田中係長はコーヒーを飲んだ。

「ただの真面目なEランクが、真面目に強くなってるだけだ。今は見守るだけでいい」


「了解です」

 佐藤は自席に戻った。

 田中係長はもう一度画面を見た。

 コメント欄の常連たち。登録者八人。同接十四人。

(なんか、じわじわ来てるな)

 悪い予感ではなかった。


 異世界のどこか。

「登録者が増えた」と精霊王シルフィードが言った。

「八人だがな」とバハムートが返す。


「でも増えた!」

「まあ、始まりというのはそういうものだ」

 賢神ソフィアが静かに続けた。

「人間界の目が、少しずつ向き始めている」

 魔王ゼルディアが窓の外を見るような仕草をした。

「さて。これからどうなるか」

「楽しみだな」と雷神トールが珍しく笑った。


 バハムートは何も言わなかった。

 ただ、次の配信通知をもう一度確認した。

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― 新着の感想 ―
面白い(=^▽^=)!神様達の中に人間が入るとなまなましくてリアル
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