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大型モニターに映し出されたノイズ混じりの犯行声明が途切れると、地下訓練場は不気味なほどの静寂に包まれた。
アリサは小さく舌打ちをすると、アイテムボックスから最上級のポーションを二本取り出し、床で息も絶え絶えになっているレンとサクラに乱暴に手渡した。
「……すぐに飲んで。魔力回路の修復を急ぐわよ。こんなところで寝転がっている暇はなくなったわ」
「っ……はい」
レンがポーションを喉に流し込むと、焼け焦げるような神経の痛みが急速に引いていく。
だが、あの「強制同調」がもたらした精神的な疲労までは誤魔化せない。
隣でポーションを飲んだサクラも、顔面を蒼白にしながら必死に立ち上がろうとしていた。
「向井さん」
アリサが、血相を変えて立ち尽くすBランク探索者を振り返る。
その瞳は、先ほどの模擬戦の『指導者』のものから、世界ランキング9位の『S級探索者』の冷徹なそれに切り替わっていた。
「協会本部に連絡。セキュリティ部門のトップを叩き起こして。……国立競技場の地下に広がるダンジョンゲート、あそこの結界強度が弄られている可能性があるわ」
「わ、分かった! すぐに手配する!」
向井が弾かれたように訓練場を飛び出していく。
その間にも、レンの視界の端に浮かぶ配信コメント欄は、かつてない速度で流れていた。
【雷神トール】:ハッ! 痴れ者が。神々の代理戦争に横槍を入れようとはな!
【賢神ソフィア】:『特級魔物』の召喚……。理論上、ダンジョンコアの魔力流動を逆流させれば不可能ではないが、それを人為的に引き起こす技術など、こちらの世界でも禁忌だぞ。
【精霊王シルフィード】:許せない! レンくんと颯真のカッコいい決戦を邪魔するなんて! 燃やし尽くしちゃえ!
【古代龍バハムート】:……虫ケラどもが、我らの興を削ぐというのなら。神代レン、あの小娘の力だけでは足りぬぞ。貴様の『器』そのものを、さらに拡張する必要がある。
神々は怒っていた。
自分たちが見込んだ「候補者」たちの神聖な闘争を、正体不明のハッカー集団が「殺戮のショー」として消費しようとしていることに。
「……レンくん」
アリサが、砕けた木刀の残骸を蹴りのけて歩み寄る。
「エキシビションマッチの舞台は、数万人の一般客が入る国立競技場よ。もしそこで特級魔物が暴れ出せば、大惨事になる。
協会は間違いなく、イベントの延期か中止を検討するでしょうね」
「……中止には、させない」
レンの声は掠れていたが、その眼光は鋭かった。
「九条颯真は、僕を待ってる。……それに、逃げたら、また何か別の形で奴らは仕掛けてくるはずだ」
「同感ね」
アリサは不敵に笑い、腰に帯びた真剣――S級指定アーティファクトの柄に手をかけた。
「九条くんが『無名の王』の排除に動いているなら、私たちも遊んでいるわけにはいかない。
レンくん、サクラさん。
先ほどの『強制同調』……あの完成度を、二週間で実戦レベルまで引き上げるわよ」
「実戦レベル……」
サクラがゴクリと唾を飲み込む。
「ええ。今のままじゃ、発動と同時に二人のどちらかの精神が焼き切れる。特級魔物と、九条颯真。その両方を相手にあの技を維持するには、圧倒的に『死線』をくぐる経験が足りていない」
アリサは端末を操作し、ある座標を二人に共有した。
「明日から、渋谷ダンジョンでの特訓は中止。向かうのは『富士樹海・深層ゲート』――現在、一般探索者の立ち入りが禁止されているAランク領域よ」
Aランク領域。
それは、EランクからCランクに上がったばかりのレンたちにとって、本来なら数年は足を踏み入れるべきではない絶対の死地だった。
「本物の『死』の恐怖の中で、互いの魔力を委ね合うの。……拒否権はないわよ。二人とも、私についてきなさい」
悪魔のような宣告。
だが、レンとサクラは顔を見合わせ、同時に力強く頷いた。
「……はいっ!!」
迫り来る見えない脅威と、最強のライバル。
生き残るための、そして勝利を掴むための地獄の特訓が、幕を開けようとしていた。




