地下三階、初潜入
翌日。
協会から正式に「隠し通路の探索許可」が下りた。
発見者として記録もされた。
報酬は三万円だった。
「三万円……」
【精霊王シルフィード】:えっ、少なくない!?
【魔王ゼルディア】:隠し通路の発見報酬としては相場だろう
【賢神ソフィア】:低ランク帯のダンジョンはそんなものだ
【古代龍バハムート】:先日のスパチャの三百分の一だな
「バハムートさん、比べないでください」
【古代龍バハムート】:事実を言った
【戦神アレス】:三万でも稼ぎは稼ぎだ。誇れ
【死神ネクロス】:珍しくまともなことを言うね
【戦神アレス】:‥うるさい。
「今日は地下三階に初めて行きます。未知のエリアなので、慎重に」
【精霊王シルフィード】:気をつけてね!!
【古代龍バハムート】:当然だ
【雷神トール】:昨日教えた雷魔法、今日こそ使え
「練習します」
◆
隠し通路を抜けると、地下三階への階段があった。
昨日と同じ場所だが、今日は照明用の魔石を多めに持ってきた。
階段を一段一段確認しながら降りる。
「足元、湿ってますね。地下水が近いのかな」
【賢神ソフィア】:地下三階は水脈が通っているダンジョンが多い。スライム系が増える可能性がある
【古代龍バハムート】:火は使うな。湿気で魔力が散る
【雷神トール】:逆に雷は水気があると通りやすい
【雷神トール】:今日こそ使え
「トールさん、すごく使わせたいんですね」
【雷神トール】:当然だ。せっかく与えたのに
【精霊王シルフィード】:トールさん親心みたい!
【雷神トール】:違う
【魔王ゼルディア】:そう見える
【雷神トール】:違うと言っている
階段を降りきると、広い空間に出た。
地下二階より天井が高い。壁の色も少し違う。
「おお……広い」
レンはゆっくりと周囲を確認した。
通路が三方向に分かれている。魔物の気配は今のところない。
「どっちから行きますか」
【古代龍バハムート】:中央だ。左は湿気が強い、右は何か気配がある
【戦神アレス】:右に気配があるなら右だ、行け!
【精霊王シルフィード】:中央!
【魔王ゼルディア】:中央が無難だろう
【死神ネクロス】:右は私が少し忙しくなりそうな気配だ
「死神さんに忙しくなりそうって言われたら右には行けないですよ」
【死神ネクロス】:正しい判断だ
【戦神アレス】:はっ、腑抜けが
【死神ネクロス】:生きてこそだろう
【戦神アレス】:……それもそうだな
「戦神さんが珍しく納得してる」
レンは中央通路を進んだ。
◆
五分ほど歩いたところで、前方に魔物が見えた。
大型のウォータースライムが二体、通路をふさぐように浮いている。
「うわ、でかい」
地下二階のスライムの三倍はある。核も見えにくい。
「これ、どうやって倒せばいいんですか」
【賢神ソフィア】:水属性のスライムは物理攻撃を通しにくい。属性攻撃が有効だ
【雷神トール】:レン
「はい」
【雷神トール】:今だ
「え」
【雷神トール】:右手に意識を集中しろ。昨日から体に馴染んでいるはずだ
レンは立ち止まって、右手を見た。
言われてみれば、昨日から指先にときどきぴりっとした感覚がある。
意識を集中する。
じわっと、何かが手の中に集まる感触。
「……あ」
指先に、小さな青白い光が灯った。
【精霊王シルフィード】:出た!!!
【古代龍バハムート】:ほう
【魔王ゼルディア】:発現させるか
【雷神トール】:そのまま前に向けて押し出せ
レンはスライムに向かって、手を伸ばした。
押し出す、というよりは、流す、という感覚で。
ばちっ、と音がして、細い雷が走った。
ウォータースライムに直撃した瞬間、内側から弾けるように消滅した。
もう一体が怯んだところで、すかさず剣で核を砕く。
二体、撃破。
沈黙。
「……できた」
【雷神トール】:よし
【精霊王シルフィード】:やったーー!!かっこよかった!!
【古代龍バハムート】:上出来だ
【賢神ソフィア】:習得が早い。筋がいい
【魔王ゼルディア】:面白いな
【戦神アレス】:それでいい
【死神ネクロス】:今日も仕事なしだ、良かった
「トールさん、ありがとうございます。なんか、うまくいきました」
【雷神トール】:当然だ。私の加護だからな
【精霊王シルフィード】:やっぱり親心じゃないですか
【雷神トール】:だから違う
「でも嬉しそうですよね、トールさん」
【雷神トール】:…………
【魔王ゼルディア】:図星だな
【雷神トール】:黙れ
◆
その頃、分析室。
ユイは仕事をしながら配信を流していた。
さっきの雷魔法の場面で、思わず手が止まった。
「……雷魔法、発現させた?」
巻き戻して確認する。
コメントで指示を受けてから発現まで、十秒もかかっていない。
ユイはデータベースを開いた。
雷魔法の初期習得者の平均発現時間を検索する。
結果:平均四十三日。
「……」
ユイはメモに書き込んだ。
【雷魔法・初期発現:習得当日。平均値との乖離:約四十二日】
偶然かもしれない。
でも偶然にしては、ちょっと数字が離れすぎている。
ユイは配信画面に目を戻した。
レンが通路の奥へ進んでいく。慎重に、でも迷わずに。
(この子、本当に何者なんだろう)
昨日と同じことを思った。
◆
地下三階の探索を終えてダンジョンを出ると、空は夕暮れになっていた。
本日の成果。
未探索エリア踏破、ウォータースライム系を七体討伐、雷魔法初使用、ドロップアイテム四つ。
「今日は充実してた」
【精霊王シルフィード】:充実してたね!
【古代龍バハムート】:まあな
【魔王ゼルディア】:悪くない一日だ
「みなさんのおかげです。いつもありがとうございます」
【古代龍バハムート】:……気にするな
【精霊王シルフィード】:また来るね!!
【雷神トール】:精進しろ
【賢神ソフィア】:また教える
【戦神アレス】:次は正面突破もできるようになれ
【死神ネクロス】:今日も仕事がなくて何よりだ
【魔王ゼルディア】:また明日
「また明日。ありがとうございました」
配信終了。
本日の視聴者数:11人。
チャンネル登録者数:5人(初めて増えた)。
レンはログを確認して、小さく笑った。
「登録者、増えた」
二人だけど、確実に増えた。
(ちゃんと続けよう)
そう思いながら、帰路についた。
異世界のどこか。
雷神トールは一人、今日の配信ログを見返していた。
雷魔法が発現した瞬間のところで、何度か止めた。
「……すぐに出すか」
それが出来るのは普通の人間ではない。
それは分かっていた。
でも今日、確信に変わった。
トールは静かに呟いた。
「次は何を与えようか」




