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同接0人のEランク探索者ダンジョン配信、なぜか神様や魔王様が見ている件 〜コメント欄が古代龍や魔王とかなんだが〜  作者: 仁科異邦


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知ると言う事

 カフェを出て、レンとサクラは並んで歩いた。

 しばらく無言だった。

 先に口を開いたのはサクラだった。


「怖くないんですか、本当に」

「怖くない、というより」

 レンは少し空を見た。


「まだ遠い話な気がして。今日やることは今日あるので」

「颯真さんと戦うことになるかもしれないのに」

「なるかもしれないですけど、今日じゃないので」

 サクラはため息をついた。


「レンさんって、本当に変わってますね」

「そうですか」

「変わってますよ。でも」

 サクラは少し前を向いた。


「それがいいと思います、私は」

「ありがとうございます」

「私、離れないですよ。そういうことになっても」

 レンは少し横を向いた。


「離れなくていいです。来てもらえると助かるので」

「助かるって何ですか」とサクラが苦笑いした。

「後衛がいないと死角が増えるので」


「それだけですか?」

「それだけじゃないですけど、うまく言えないので」

 サクラはしばらく黙ってから、小さく笑った。

「まあ、いいです」



 家に帰ってから、レンはスマホを開いた。

 コメ欄を開いて、少し考えてから打った。

「バハムートさん、今日話を聞きました。候補者のこと」

 しばらく待つと、返信が来た。


【古代龍バハムート】:そうか


「知っていましたか?」


【古代龍バハムート】:…知っていた


「え、いつからなんですか?!」


【古代龍バハムート】:最初からだ


 レンはその返事を見た。

 最初から。

(最初から知っていて、ずっと一緒にいてくれた)

「なんで言わなかったんですか」


【古代龍バハムート】:まだその時ではなかった

【古代龍バハムート】:お前が自分で気づく方がいいと思っていた


「そうですか」


【古代龍バハムート】:怒っているか?


「怒ってないです。なんとなく、そういう理由だと思ってたので」


【古代龍バハムート】:……そうか


「一つだけ聞いていいですか」


【古代龍バハムート】:ああ


「バハムートさんたちが僕を選んだのはなぜですか」

 長い沈黙があった。

 レンはスマホを持ったまま待った。

 しばらくして、返信が来た。


【古代龍バハムート】:それは今言えない。

【古代龍バハムート】:ただ一つだけ言う


「はい」


【古代龍バハムート】:後悔していない。お前を選んだことを


 レンはその返事を読んで、少し間があってから返信した。

「ありがとうございます」


【古代龍バハムート】:礼はいらない

【古代龍バハムート】:ただ、これからも今日と同じようにやれ


「今日と同じように、というのは」


【古代龍バハムート】:知っても、変わらずに探索に行け。強くなるんだ。


 レンはスマホを置いた。

 窓の外に夜の空が見えた。

 星がいくつか出ている。

(候補者。代行者。制度。颯真と戦うことになるかもしれない)


 全部を頭に入れてみた。

 重いか、と言われれば重い気もする。

 でも不思議と、潰される感じはなかった。

(バハムートさんたちがいる。サクラさんがいる。アリサさんとユイさんがいる。向井さんもいる)


 一人じゃない。

 それだけで、今夜は十分だった。



 颯真はその違いをどう整理すればいいか、まだ分からなかった。


【冥王ハデス】:今日、あの人間に何かを話したのか


「話していない。今日は向こうに動きがあったので観察していました」


【冥王ハデス】:どんな動きだ?


「候補者の話が、人間側に伝わり始めた」

【冥王ハデス】:……そうか

【冥王ハデス】:厄介だな


「そうですね」

 颯真は少し間を置いてから言った。

「神代とは戦う前に話した方が良いでしょうか」


【冥王ハデス】:いや話す必要はない。候補者として向き合えばいい


「‥分かりました」


【冥王ハデス】:颯真


「はい」


【冥王ハデス】:揺れているか


 颯真は少し考えた。

「揺れてはいないです。ただ」


【冥王ハデス】:ただ?


「整理中です」


【冥王ハデス】:……そうか


 ハデスがそれ以上追ってこなかった。

 颯真はスマホを置いて、配信ログに戻った。

 画面の中でレンが「なんとなく感じてたので」と言っている。

(候補者の話を聞いても、なんとなく感じてたで済ます)


 颯真には、それが本当に不思議だった。

 自分なら、もっと怒る。もっと混乱する。もっと計算する。


 でもレンは「今日と同じようにやります」という顔をしていた。

(本当に変わらないんだな、あいつは)


 颯真は少し目を細めた。

 その表情が、怒りなのか、呆れなのか、それとも別の何かなのか、颯真自身にも分からなかった。



 異世界のどこか。

「レンが聞いてきた」とバハムートが言った。

「候補者のことか」とゼルディアが返す。

「ああ。なぜ選んだのかと聞いてきた」

「答えたのか」

「今日は答えなかった。ただ「後悔していない」とだけ言った」

 シルフィードが少し目を潤ませた。


「バハムートさん、それ優しいですね」

「優しくはない。事実を言っただけだ」

「でも優しいです」

「うるさい」


 ソフィアが静かに言った。

「レンは受け取り方も自然だった。怒りも混乱もなく、ただ受け取った」

「そうだ」

「颯真とは対照的だ。颯真はまだ整理しようとしている」

「整理できるものではないのにな」とゼルディアが言った。

「それが颯真の性質だ。整理できないものに直面したとき、初めて本当に揺れる」

「そのときが来るか」

「来るだろう」とバハムートが静かに言った。

「そのとき、颯真の隣に誰もいなければ」

「誰もいない」とソフィアが続けた。「ハデスは颯真を支えるつもりはない。役割を果たさせるだけだ」

「レンとは違う」とシルフィードが言った。

「そうだ」とバハムートが答えた。

「颯真さんが可哀想」


「可哀想かどうかは、これからの話だ」

 シルフィードが少し黙った。

「バハムートさん、颯真さんのことも心配してますよね」

「していない」

「してます」


「していない」

「してます!」

 バハムートは何も言わなかった。


 でも否定しなかった。

 それが答えだと、全員が分かっていたから。


26/4/19 誤字修正致しました。ご指摘ありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
レンは本当に飄々としてるな…これまでどんな人生送ってたのか気になりすぎますわ。 ところで 【古代龍バハムート】:あた ここって「ああ」の誤字かな?ちょっと判断つきかねたので。
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