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同接0人のEランク探索者ダンジョン配信、なぜか神様や魔王様が見ている件 〜コメント欄が古代龍や魔王とかなんだが〜  作者: 仁科異邦


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探索者協会にて

 探索者協会、渋谷支部。


 受付カウンターの奥、モニターが並ぶ管理室では、職員たちが今日も探索者の配信ログをチェックしていた。

 危険地域の監視が主な仕事だ。

 といっても渋谷第三ダンジョンは低ランク帯のエリアで、普段は特に何も起きない。


 渋谷支部の管理担当、田中係長(四十二歳、眼鏡、コーヒー依存症)は今日も画面と向き合いながら欠伸をしていた。

「係長、渋谷第三の配信ログ確認お願いします」

「はいよ」

 後輩の佐藤が差し出したタブレットを受け取り、流し見する。

 異常なし、異常なし、異常なし。


「問題ないな」

「ただ、一点だけ気になるのがあって」

「ん?」

 佐藤が別のウィンドウを開いた。

「このEランクの子、スパチャに一千万入ってます」

「…………」

 田中係長はコーヒーを置いた。


「誰から」

「雷神トール、というアカウントです。本人確認済みの正規決済で、不正の痕跡なし」

「雷神トール」

「はい」

 田中係長はコメント欄も開いた。


 古代龍バハムート、魔王ゼルディア、精霊王シルフィード、戦神アレス、死神ネクロス、賢神ソフィア、雷神トール。

「……ロープレ勢の軍団か」

「しかも全員やけに的確なアドバイスしてるんですよね。配信見てると」

「まあロープレ勢はガチ勢多いからな」

 田中係長は欠伸をもう一回した。


「一千万が不正じゃないなら協会としては問題ない。本人が確定申告するかどうかの話だ」

「そうですね」

「一応ログは残しておけ。それだけでいい」

「了解です」

 佐藤はタブレットを引き取り、自席に戻った。


 田中係長はコーヒーを飲み直す。

 モニターの中でレンが今日も慎重に通路を歩いていた。

(真面目そうな子だな)

 それだけ思って、次の画面に切り替えた。

 同じ頃、協会の別フロア。

 分析室。


 天城ユイ(二十四歳、研究員、白衣)は今日も山積みのデータと格闘していた。

 ユイの仕事はダンジョン行動分析。探索者の動きと生存率の相関を数値化する研究だ。

 地味だが重要な仕事で、本人も気に入っている。

 今日の解析対象はAランク探索者の戦闘データ、百件。


「うーん……この回避パターン、前回と矛盾してるな」

 グラフを三つ並べて見比べる。

 集中していたら、隣の席の先輩研究員、木村さんが声をかけてきた。

「ユイちゃん、昨日の渋谷第三のログ流しといたけど確認した?」

「渋谷第三って低ランク帯ですよね。何かあったんですか」

「特には何もないんだけど、面白い配信やってる子がいてさ」

「面白い?」

「コメント欄がカオスなんだよ。見てみ」

 ユイは手を止めて、送られてきたログを開いた。


 コメント欄を流し見する。

 神々の名前を騙ったロープレ勢が入れ替わり立ち替わりアドバイスを送っていて、それに対して配信者が真面目にツッコんでいる。

「……なんですかこれ」

「面白いでしょ」

「コメント欄がお祭りになってる」

「しかもアドバイスが割と的確なんだよね。ロープレ勢なのにガチ勢っていうか」


 ユイはしばらく流し見して、戦闘部分で手を止めた。

 データを見る癖が出た。

(動き方、変わってる……?)

 Eランク帯の探索者にしては、無駄な動きが少ない。慎重すぎるくらい慎重で、でも要所では迷いなく踏み込んでいる。


 まあ、慎重な性格の子なんだろう。

「登録者三人なんだよね、この子」

「三人……」

「なのにコメント欄だけ異様に賑やかっていう」

 ユイは小さく笑った。


「確かに面白いですね」

「でしょ。暇なとき流しとくと楽しいよ」

 木村さんはそれだけ言って、自分の仕事に戻った。

 ユイも手を止めかけたが、もう少しだけ配信ログをスクロールした。


 何かが引っかかっていたが、うまく言語化できない。

(……気のせいかな)

 ユイはAランクの戦闘データに戻った。



 その日の夕方。

 レンは協会の一階ロビーに来ていた。

「すみません、確定申告って探索者は自分でやるんでしたっけ」

 受付の女性が顔を上げた。


「基本は自分でやっていただく形ですね。事務所に所属していれば代理でやってもらえますが」

「そうか……一千万入ったんですよ、スパチャで」

「…………」

 受付の女性が固まった。

「配信中に急に来て、どう処理したらいいのかと思って」

「え、あ……少々お待ちください」

 内線電話を取る。


「田中係長、神代レンさんという方が……はい……はい、スパチャで一千万です……はい」

 しばらくして、眼鏡をかけた中年男性がロビーに下りてきた。

「神代くんだな。ちょっと話を聞かせてもらえるか」

「あ、はい。係長さん、ですか」

「そうだ。まあ座れ」

 ロビーのソファに向かい合って座る。


 田中係長はレンを見た。

 素直そうな顔をしている。特別強そうにも見えない。普通の十七歳だ。

「スパチャは雷神トールからだったな」

「はい。なんかいきなり来て、びっくりして」

「ロープレ勢の常連か」

「そうだと思います。毎日来てくれてるんですよ、七人くらい。みんな神様とか魔王とかの名前で」

 田中係長はメモを取った。


「配信どのくらいやってる」

「三日です」

「登録者は」

「三人です」

 田中係長はメモを取る手を止めた。

「……三日で一千万か」

「はい」

「そのロープレ勢、太いな」

「そうですね……」

 二人はしばらく沈黙した。


「確定申告は、とりあえず税務署に相談しに行け。探索者向けの窓口がある。協会でも紹介状は出せる」

「ありがとうございます。あと、一千万って使っていいんですか」

「正規の決済だから法的には問題ない。ただ税金は引かれる」

「なるほど」

「まあ、普通に使え。稼いだお金だ」

「稼いだというか、もらったというか……」

 レンはどこか困り顔だった。


 田中係長は少し笑った。

(変わった子だな)

 一千万もらって喜ぶより先に確定申告を心配する十七歳というのは、あまり見ない。


「他に何かあるか」

「えーと、今日Dランクの個体を倒したんですけど、報告は必要ですか」

「ランク外討伐は報告義務ないが、申告してくれると管理データに助かる。強かったか?」

「負傷個体だったので、ちゃんとした個体だったら難しかったと思います」

「正直だな」

「いや、本当のことなので」

 田中係長はメモに書き足した。


 特別に優秀というわけではない。ただ真面目で、自分の実力をよく分かっている子だ。

「分かった。ログに残しておく。他には?」

「大丈夫です。ありがとうございました」

 レンは頭を下げて立ち上がった。

 田中係長はその背中を見送りながら、コーヒーを飲んだ。

(まあ、普通の子だな)


 特に気にするほどのことでもない。

 そのはずだった。



 分析室に戻ったユイは、さっきの引っかかりをまだ引きずっていた。

 Aランクのデータを処理しながら、もう一度渋谷第三のログを横に開く。

 戦闘シーンだけ抜き出して、動きを数値化してみた。

「……」

 (Eランク相応のステータス、Eランク相応のスキル。

 なのに回避率と判断速度の数値が、微妙にズレている)


 大きなズレではない。誤差の範囲と言えなくもない。

 でも、ユイは誤差が気になる性格だった。

(偶然かな)

 ファイルに一行だけ書き込んだ。

【渋谷第三・神代レン:行動データ、要経過観察】

 大したことではないと思いながら、保存した。


 異世界では今日も集まっていた。

「協会が動いた、というほどでもないな」とバハムートが言う。

「まあそんなもんだろう」と魔王ゼルディアが肩をすくめた。

「でも係長さん、いい人そうだった!」と精霊王シルフィードが言う。

「そうだな。レンの周りは良い人間が多い」

 賢神ソフィアが静かに続けた。


「……引き寄せているのかもしれないが」

 誰も答えなかった。


 ただ全員が、明日の配信通知をオンにしたまま、それぞれの場所に戻っていった。

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