スパチャは計画的に
三日目。
配信開始から十秒で全員集合した。
【古代龍バハムート】が入室しました
【魔王ゼルディア】が入室しました
【精霊王シルフィード】が入室しました
【戦神アレス】が入室しました
【死神ネクロス】が入室しました
【賢神ソフィア】が入室しました
「……全員、速くなってる」
【精霊王シルフィード】:通知来た瞬間に開いた!
【魔王ゼルディア】:暇だからな
【古代龍バハムート】:たまたまだ
【戦神アレス】:同じく
【死神ネクロス】:嘘つくな全員
【賢神ソフィア】:…否定はしない
「正直なのは賢神さんと死神さんだけですね」
◆
今日のダンジョンは地下二階の奥、まだ自分が踏み込んだことのないエリアだ。
マップには「未探索」と表示されている。
「さて。新エリアです。何が出るかわからないので慎重に行きます」
【戦神アレス】:突っ込め
【精霊王シルフィード】:慎重にね!
【魔王ゼルディア】:索敵しながら進め
【古代龍バハムート】:左通路は罠がある
「え、もう罠の情報あるんですか」
【古代龍バハムート】:ダンジョンの構造は見ればわかる
「見ればって……見えてるんですか、私のカメラ越しに」
【古代龍バハムート】:ああ
【賢神ソフィア】:石の質と湿度で大体わかる
【魔王ゼルディア】:慣れだ
(このロープレ勢、設定の解像度が高すぎる)
レンは左通路を避け、右から進んだ。
壁をよく見ると、確かに左の床に不自然な継ぎ目があった。
「……本当に罠だ」
【精霊王シルフィード】:バハムートさんすごい!
【古代龍バハムート】:当然だ
【戦神アレス】:罠など踏み抜けばいい
【死神ネクロス】:それだと仕事が増えるからヤメテ
【戦神アレス】:黙れ
「戦神さんと死神さんの相性最悪ですね」
◆
右通路を進んだ先、広めの部屋に出た。
中央に、大きめのリザードマンが一体。
「……あ」
Dランク相当のモンスターだ。
レンのランクより一つ上。
「えっと、これ私の手に負えるかな……」
【古代龍バハムート】:逃げろ
【戦神アレス】:戦え
【魔王ゼルディア】:状況次第だ
【精霊王シルフィード】:どっちどっち!?
【賢神ソフィア】:まてあのリザードマン、右足をわずかに引きずっている。負傷個体だ
「負傷してる?」
よく見ると、確かに右足の動きがぎこちない。
「……行けるかも」
【古代龍バハムート】:足元を崩せ
【賢神ソフィア】:右側から回り込めば重心が乱れる
【戦神アレス】:正面から叩き潰せ!
【精霊王シルフィード】:アレスさんはもう発言禁止! 【戦神アレス】:なぜだ
「精霊王さんのアレスさんへの当たりが強くなってきてますね」
レンは深呼吸して、右側から回り込んだ。
リザードマンが反応して振り向く。
その瞬間、右足に重心がかかり――
ぐらついた。
「今だ!」
一気に踏み込んで、剣を叩き込む。
リザードマンが床に倒れ、光の粒子になって消えた。
沈黙。
【古代龍バハムート】:やったな
【魔王ゼルディア】:負傷してたとはいえDランク討伐か
【精霊王シルフィード】:すごいすごいすごい!!! 【賢神ソフィア】:想定より速かったな
【死神ネクロス】:今日は仕事なしだな
【戦神アレス】:まあ、合格だ
「やった……! Dランク初討伐だ!」
レンは思わず声が上がった。
震える手でドロップアイテムを拾う。
「やばい、ちょっと手が震えてる」
【精霊王シルフィード】:感動した!推せる!
【古代龍バハムート】:その程度で情けない
【古代龍バハムート】:…だが悪くない
「バハムートさんのフォローが毎回ギリギリなんですよね」
◆
そのとき、画面の端に見慣れないアイコンが光った。
スーパーチャットだ。
「え?」
金額を見て、レンは固まった。
【雷神トール】¥10,000,000 「よく戦った。雷の加護を与える」
「…………」
しばらく、配信が静止した。
「いっ、いっせん、まん……?」
【精霊王シルフィード】:トールさんだ!!
【魔王ゼルディア】:気前がいいな
【古代龍バハムート】:いや、やりすぎだろう
【賢神ソフィア】:同意する
「あの、これ本物ですか……?」
画面を何度も確認する。
間違いなく一千万円と表示されている。
「え、え、ありがとうございます……? でも、なんで急に」
その瞬間。
レンの体に、ぴりっとした感覚が走った。
指先から肩にかけて、細かい電流のようなものが流れる感触。
「っ……何これ」
思わず剣を握り直すと、なんとなく手に馴染む感触が変わっていた。
なんというか、力が通りやすい。
【賢神ソフィア】:雷の適性が開いた。初期スキルを取得したようだ
【魔王ゼルディア】:まさか本当にやったのか、トール
【精霊王シルフィード】:え、え、どういうこと!?
【古代龍バハムート】:スパチャで加護を渡すな。やりすぎだ
「あの……スキル、増えてる」
ステータス画面を開くと、新しい項目が追加されていた。
【雷魔法:初級Ⅰ】
「なんで……?」
【死神ネクロス】:縁というやつだな
【精霊王シルフィード】:いいなあ!わたしも何かあげたい!
【古代龍バハムート】:順番というものがあるだろう
【精霊王シルフィード】:えー
「あの、何が起きているか全然わからないんですが」
【魔王ゼルディア】:気にするな
【賢神ソフィア】:追々わかる
【戦神アレス】:強くなれば全て解決する
「解決しないと思います」
◆
配信終了。
本日の最終視聴者数:8人(雷神トールが加わっていた)。
チャンネル登録者数:3人(本当に変動しない)。
スパチャ収益:¥10,000,000。
「……確定申告、どうしよう」
レンは一人、真剣に悩んでいた。
税理士に相談するべきか。
それとも事務所に入るべきか。そもそもこのお金は使っていいのか。
配信の内容より現実的な悩みが、頭を占領していた。
そのころ異世界では。
雷神トールが腕を組んで、どこか満足そうにしていた。
「いい反応だった」
「一千万は多すぎる」とバハムートが言う。
「細かいことを言うな。あの人間、伸びる。早めに加護をつけておいて損はない」
賢神ソフィアが静かに眉を上げた。
「トール。あなた本気で気に入ったのか」
「……まあな」
短い沈黙の後、精霊王シルフィードが手を挙げた。
「じゃあ次は私がスパチャする!」
「待て」とバハムートが制した。
「順番がある」
「えーなんで」
「競い合うな。あの人間が混乱する」
魔王ゼルディアが苦笑いした。
「既に混乱していたが」




