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同接0人のEランク探索者ダンジョン配信、なぜか神様や魔王様が見ている件 〜コメント欄が古代龍や魔王とかなんだが〜  作者: 仁科異邦


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まだまだ増える新規さん


「えー、配信始まってますでしょうか。今日も無職のEランク、神代レンのダンジョン探索です」

 翌日。

 渋谷第三ダンジョンの地下一階で、レンが配信をスタートさせた。

 すると、開始からわずか十秒で立て続けに通知が鳴った。


【古代龍バハムート】が入室しました

【魔王ゼルディア】が入室しました

【精霊王シルフィード】が入室しました

【戦神アレス】が入室しました

「……えっ、もう皆さん揃ったんですか?」

 現在の視聴者数『4』。昨日と同じメンバーだ。


【精霊王シルフィード】:待ってたよー!!

【魔王ゼルディア】:昨日より十秒遅かったぞ。

【戦神アレス】:計っていたのか貴様。

【魔王ゼルディア】:暇だからな。


「ゼルディアさん、本当に暇なんですね……」

 レンは苦笑しながら剣を抜いた。


「今日は地下二階の奥、魔物の密集地帯をマッピングしに行きます。


無職のステータスだと少し厳しいエリアですが、慎重に行きますね」

【戦神アレス】:昨日より強くなれ。正面から叩き潰せ。

【精霊王シルフィード】:アレスさんはちょっと黙ってて!死んじゃうから!


 相変わらず賑やかなコメント欄(神々)に見守られながら、レンは地下二階へと足を踏み入れた。



 地下二階の奥は、昨日よりも明らかに魔物の気配が濃かった。

「……前方にゴブリンが五体。通路を塞いでますね」

 Eランク・無職のレンにとって、一対五は明確な「死」を意味する。

 ステータス補正がないため、一撃でも重い攻撃を食らえば致命傷だ。


【魔王ゼルディア】:五体か。少し面倒だな。

【戦神アレス】:だから正面突破だと言っている。

【古代龍バハムート】:右の柱の陰に隠れ、手前の二体だけを音を立てずに引き離せ。


「バハムートさんが一番まともなこと言ってくれる……」


【戦神アレス】:私の戦術は正しい

【精霊王シルフィード】:アレスさんは相変わらず脳筋だもん

【戦神アレス】:あ?脳筋とは何だ?


 レンは足音を完全に殺し、壁沿いに滑るように移動した。


 柱の陰から小石を投げ、手前のゴブリン二体の注意を逸らす。

 ――スッ。

 振り返ったゴブリンの視界から外れるようにしゃがみ込み、死角から両足の腱を正確に斬り裂いた。


 体勢を崩したところを、喉元へ追撃。

 流れるような動きで二体を無力化する。

 だが、その血の匂いで残りの三体が気づいた。


「チッ……来ますね」

 三体が同時に得物を振り上げて飛びかかってくる。

(ステータスで負けてるなら、相手の力を利用するだけだ)


 レンは焦らなかった。

 先頭の一体の攻撃を剣の腹でいなし、その反動を利用して横へステップ。

同士討ちを誘うように、二体目の軌道へゴブリンを突き飛ばす。


 そのまま三体目の首を刎ね、混乱している残り二体も的確に急所を突いて処理した。

 討伐時間、わずか数十秒。


 無駄を削ぎ落とした、あまりにも静かな殲滅劇だった。

【古代龍バハムート】:……ほう。

【魔王ゼルディア】:相変わらず、ステータスと動きが全く噛み合っていないな。

【精霊王シルフィード】:やったーー!!かっこいい!!


「ふぅ……なんとか。でも、最後の一体に少し服を掠られました。まだまだですね」

 レンが反省していると、見慣れない通知が鳴った。


【死神ネクロス】が入室しました

【死神ネクロス】:ほう。ヒヤリとする案件かと思えば、つまらん。

【精霊王シルフィード】:やだ、ネクロスさんきた!

【魔王ゼルディア】:不吉な奴が来たな。


【死神ネクロス】:失礼な。魂の回収に来てやったのに、この小僧、まったく死ぬ気配がないではないか。


「あの、新規さんですよね? 魂の回収って……縁起でもないこと言わないでください」

 レンは新しいリスナー(?)の重めなキャラ設定に苦笑した。



 その後もマッピングを続けながら、レンはふと疑問に思っていたことを口にした。

「あの、常連の皆さんに聞いてもいいですか?」

「どうして僕の配信を見てるんですか? 無職のEランクなんて、一番見栄えがしない底辺ですよ」


 しばらく、コメント欄がピタリと止まった。

【魔王ゼルディア】:……さあな。

【古代龍バハムート】:暇だからだ。

【死神ネクロス】:縁というやつだろう。死線の淵を踊るようなお前の動きは、見ていて飽きん。


【戦神アレス】:強くなろうとする意志があるからだ。

【精霊王シルフィード】:なんか、放っておけないの!

「……みなさん、設定はバラバラですけど、良い人たちですね。ありがとうございます」

 なんだか心が温かくなり、レンは小さく頭を下げた。



 帰路につく道中。

 安全地帯に近い通路で、低級魔物のスライムが這いずっていた。

「あ、スライムですね。さくっと倒して帰ります」

 レンが剣を構えた、その時だった。


【賢神ソフィア】が入室しました

【賢神ソフィア】:少し待て、少年。

「えっ? また新規さん?」

【賢神ソフィア】:そのスライム、魔力核の位置が通常と違う。中心ではなく、やや左に偏っている。正面から斬れば分裂して面倒なことになるぞ。

「え?」


 レンは目を細めてスライムの体内を観察した。

 言われてみれば、ゼリー状の身体の中で、ほんのわずかに左側だけ光の屈折が違う。


「本当だ……。じゃあ、右斜め四十五度から剣を入れれば、核を直撃できますか?」

【賢神ソフィア】:……ほう。その通りだ。


 レンは踏み込み、右斜め四十五度から一閃。

 スライムは分裂することなく、一撃で光の粒子となって消滅した。

「すごい! 賢神さん、なんで分かったんですか?」

【賢神ソフィア】:知識は蓄積するものだ。一万年も生きていれば嫌でも覚える。

【古代龍バハムート】:知識の神か。久しぶりだな。

【精霊王シルフィード】:また増えたー!!


「一万年……さすが設定が作り込まれてる……」

 レンは感心しながら、本日の配信を終えるボタンを押した。


 本日の最終視聴者数:7人。

 チャンネル登録者数:3人(変動なし)。

 コメント数:134件(全員同じ人たち)。

(今日も誰も来なかったけど、楽しかったからいいか)

 レンは満足げにダンジョンを後にした。



 一方、神域では。

「……なぁ、バハムート」

 魔界を統べる魔王ゼルディアが、玉座から身を乗り出して言った。

「最後のスライム。お前も気づいていたか?」

「ああ」

 古代龍バハムートは、鼻から短く息を吐いた。


「ソフィアが指摘するより『前』に、あの小僧、すでに右斜め四十五度へ踏み込む予備動作に入っていた」

 神々の中に、静かな衝撃が走る。


「おいおい……じゃあ、あの人間は」

「意識してはいないようだがな。魔物の微細な重心のブレ、魔力核の偏り……それらを無意識に『視て』、体が勝手に最適解を弾き出している」


 賢神ソフィアが、静かに眼鏡を押し上げた。

「『無職ノービス』という何もない器だからこそ、純粋な戦闘センスだけが異常に研ぎ澄まされている……ということか」


「最弱にして、最高の原石……!」

 戦神アレスが武者震いするように腕を組んだ。

 誰もが、次の配信を待ちわびていた。


 ――彼らはまだ知らない。

 この「同接数人の底辺配信」が、やがて人間界の常識を根底から覆すことになるとは。


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