◎閑話休題 梟の野望は東の辺境から11
読んで頂きありがとうございます
気がつけば秋、ひと夏閑話休題で乙女ゲームのゲの時も出ない内容でしたが後一回で国王陛下の裸踊り待機に戻ります。
お楽しみ頂けれは幸いです
◎邯鄲の攻略②
「フロストドラゴン! 」
坊ちゃん大興奮で叫ぶ。
坊ちゃん…敵のヘイト集めないよう静かにして欲しい。
多分それは
「氷竜です」
一応訂正しておこう。
足を床に縫い付けられていて身動きが取れない私の横に護衛4が走り込んできてドラゴンに大興奮のディーオイレ坊ちゃんをラグビーボールのように抱きかかえ、そのまま安全圏まで走り込んだ。
護衛騎士1の後ろ 盾の安全圏。
全員、侍従侍女達も含め護衛騎士1の盾で大丈夫だったようだ。
ナイスだ護衛1! 後は頼む!
がくりと、坊ちゃんがいなくなった隙間の分、身体が沈む。
視界が昏くなる。
私だけがしくじった。
嫁、すまん。
暗転しかける視野。
誰かが私の名を呼んだ。
寒気と痛みで反応できない。
「超回復! 」
気を失いかけていた所で聞きなれた声で誰かが叫んだ。
護衛4! お前回復使えるのか?
いつの間にか私の横に来ていた護衛騎士4が私の足に回復魔法をかけている?
寒気と頭痛は治らないが痛みが引く。
「俺、聖女なんすよ」
私を安全圏まで引きずりながら、でへへと笑う。
とんでもないパワーワードを脳筋野郎から聞いてしまった…!
ちょっと回復魔法真似事を使えると知って護衛騎士にスカウトしたが…おい? 聞いてねえぞ?
聖女?
「たまに男でも聖人ではなく聖女と宣告されるのがいるらしいっす」
なんじゃそりゃ!
「チートか! 」
チートは羨ましいが、聖女は羨ましくない。
頭がくらくらしている。
「先輩、多分血流しすぎて貧血になってますけど俺の回復じゃ増血出来ないんで諦めて大人しくして下さい」
十分だ!
「とりあえず認識出来て目標が定められればイケる」
「は? 」
なんか反応がおかしいと、残念な眼で私を見る護衛4は、私をずりずりと安全圏まで引きずる。
「なんか戦闘ハイになってます? 」
ちげーよ!
護衛4に肩車されたまま頭が上げられない程の眩暈で項垂れている私でも出来る事はある。
「状況報告しろ」
いきなり上司である私の仕事モードにピンとする護衛4。
「ベランダ側からフロストドラゴン一頭が奇襲。」
「氷竜だ!」前世の狩りゲーのドラゴン名を使うな。
「あーと、氷塊を吐き出して護衛1が盾で阻止。
坊ちゃん方は護衛1の盾の内でケガはなし。
先輩は盾の範囲外で氷塊に被弾、足の脹脛三分の一断絶で出血多量です。
ディーオイレ坊ちゃんは怪我なし、見えてなくて状況把握してないようですが俺の超回復無かったら失血死です……」
ふと、護衛4が顔を上げた。
「あ、今盾が解けました」
盾は五分のリキャストタイムが必要。
「まずいな」
私は肩を貸してくれている護衛4の顔面をいきなりだが鷲掴みにする。
「ぶぎゃ?」
「ちょっと視界借りる」
流石抵抗してこようとする護衛4の耳元でわざと囁く。
「ちょっと視界を借りるだけだ、痛くしないから大人しくしろ!」
「ぐんんっ!」
赤い顔で眼を見開いてくる 激しく抵抗しようとするが身体能力の80%は奪取済み。
ははは無駄な抵抗だよ。
私のスキル、他人の身体能力を奪取してX20%で能力を強化する。
今回は護衛4の視力と魔力。
自分の視力が貧血のせいか、薄暗く歪んでいるので手っ取り早く借りた。
魔力は…まあ、ついでに。
「護衛2! 行けるか! 」
ホーク坊ちゃんが走りながら脇差を抜き放ち問う。
片膝ついて風魔法で盾作成のリキャストタイムを稼ごうとしている護衛1を守るよう横につく。
「行けます!」
ホーク坊ちゃんはチラリと振り返り、私との距離3メートル内の安全圏を確認する。
それは私の広域魔法の安全圏。
私の周囲三メートルは魔法が効かない安全地帯になる、が その外側にあるものは広範囲魔法の餌食だ。
そしてベランダの先、空中でホバリングする1匹の氷竜。
その背には金髪碧眼白い肌の北の国特有の民族衣装の青年が顔を歪めて嗤っていた。
今回の襲撃は氷竜一頭と使役者か。
「俺をこんなクソな異世界に転生させたクソ女神の国なんざ滅びろ! 先ずはお前らを消し炭にしてこの浮遊城の攻略への足掛かりにしてやる! 」
滅茶苦茶な事を高笑いで叫ぶ青年。
コイツ、転生者か?
領主館をゲームのダンジョンと勘違いしてやがるのか!
どいつもこいつも! そりゃ先生も物申したくなるよな。
お前ら、お客様じゃねえぞ!
大体ここは城主館、ダンジョンじゃねぇし、浮いてねーよ 崖に張り付いているだけだよ。
侍従にはがいじめにされたディーオイレ坊ちゃんが叫んでいる。
「ふっざけんなよ! 此処は領主館でダンジョンじゃねぇぞ! 間違えて人ん家襲撃すんな! コソ泥が お前のやってんのはダンジョン攻略じゃなくて器物破損に家宅侵入だよ、コソ泥! 」
コソ泥というより強盗ですな。
コソ泥顔真っ赤です。
「何だとガキが!」
「ばーか! 勘違い野朗! お前の母ちゃんでーべーそ!」
「馬鹿って言う奴がばーか!」
「馬鹿、ばーか! ガキ!」
竜を従える襲撃犯と低俗な子供の言い合いになってしまっている…。
竜、戸惑ってホバリング中。
ディーオイレ坊ちゃんが煽って気を逸せているうちにコチラも仕掛ける。
指向性を持たせた細かい氷と風魔法の掛け合わせで雷魔法を発動。
氷竜の周りにパチパチと爆ぜるような発雷が発生する。
氷竜とその搭乗者はまだ気付かない。
「カウントダウン」ホーク坊ちゃんにだけ分かるように護衛4の身体を乗っ取ったまま合図を送る。
「5」
今の私では魔力で声を通せないので、若い護衛4の魔力を借りて呟く。
護衛4、自分の意図しない行動にめちゃ挙動不審になる。
一瞬振り返り坊ちゃんが続ける。
「4」
坊ちゃんの声は魔法で私にだけ届いた。
繋がった。
大掛かりな魔法は発動までの時間がかかるのが難点。
「3」
「2」
竜が何か気づいたのか部屋に突っ込んでくる為か、一瞬ホバリングを止め翼を大きく羽ばたかせようとする、が ピタリと動きを止めてホーク坊ちゃんを見る。
「1」
「トカゲ野郎、怖気付いたか?」
ホーク坊ちゃん、にやりと悪い顔で挑発する。
ホーク坊ちゃん、10歳(笑)
自分の竜まで煽られて、ムッとする搭乗者。
そして多分、搭乗者が思うよりホーク坊ちゃんの威圧に竜が過剰反応している。
「ガキが! 切り割かれてしまえ! 」
青年の命令で氷竜が魔法を発動させようとしているのか、坊ちゃんの方に口を開けて威嚇する。
それより先、小さな発雷が集まって氷竜の周りを輪になって囲んでブレス発動を阻害している。
環が二重、三重に増殖し氷竜に迫る。
氷竜が氷塊の魔法に方向性を出すためか首を高く上げた所で発雷の環が竜の身体を等間隔で覆う。
流石に異変に気が付いた搭乗者が引こうとするが既に氷竜は身動きがとれない。
「0」
大きな音と共に落雷が氷竜を貫く。
空中で棒立ちになる氷竜、落雷で失神状態の搭乗者を滑り落とした。
川から大きな水しぶきが立ち上がる。
搭乗者が落ちたらしい下の川はかなりの深さがあるが、上手く落ちれば生きているだろう。
流石生命力が強い竜、全身に雷を受けると顕れる雷撃傷の模様が出ているのに関わらずまだ動いている。
筋肉や内臓、神経に致死に近いダメージを受けつつも怒りで眼を赤に変え、直もホーク坊ちゃんに愚直に一直線に突っ込んでこようとする。
待ち構えてのホーク坊ちゃんの脇差による一閃。
避けた坊ちゃんを通り越してベランダに首を突っ込んだ状態で竜の首が飛んだ。
いや、小型の氷竜とはいえ細身の日本刀のそれもサイズの小さい脇差で竜の首を一閃しても落とせる訳がないと…、その光景を疑う人間はミネルバ家にいなかった。
ひょいと竜をよける護衛1とホーク坊ちゃん。
坊ちゃん何者?
竜は首のないまま勢いよく部屋に飛び込んで来て壁に激突して止まった。
スリングショットで壊れた壁処ではないダメージ。
部屋の三分の二を竜の死体が占め、壁、床に勢いよく血を振りまいていた。
ぱらぱらと落ちて来る天井の欠片。
埃ではなく崩れかけた壁や天井の破片が煙の様に舞う。
坊ちゃん達、侍従、侍女達は丁度リキャストタイムの終わった護衛1の盾のおかげで大丈夫だったが戦闘をしかけた本人達、護衛1と4、ホーク坊ちゃん、私は頭から竜の血を被って真っ赤だった。
髪の毛の血を絞るようにこそげ落とす護衛4。
「うへぇ」
頭を濡れた犬の様にフリフリするな! 私にかかる!
長時間は人の身体を支配できないので魔法が成功した段階で身体は返却している。
眼が空いてられない、誰かタオルくれ!
そしてベランダの向かいの壁にも大きなヒビが入り、壁は崩れていなかったが部屋の調度品や小物は竜が入ってきた勢いで飛ばされ破壊され、竜の血塗れになり戦場で爆撃魔法を撃ち込まれたような惨状を呈している。
そして。
「俺のモンスターコレクションがぁ! 」
慟哭するディーオイレ坊ちゃん。
「限定品、凄く頑張って手に入れたのに!」
あれか、さっき潜っていた魔獣のぬいぐるみの山が竜の血を浴びたり風圧で裂けたり屍累々と化していた。
「また買いなおせよ」
無責任なホーク坊ちゃん。
脇差の血をベッドのシーツの無事な部分でついっとふき取ると鞘に納める。
あれ、手入れが大変そうだ…。
ていうかぴょん、ぬいぐるみが限定品とかいう情報があるということは、ディーオイレ坊ちゃんの記憶があるんだ?
『俺はさ、そろそろディーオイレと同化して消えるよ』
そう、私に言ったディーオイレ坊ちゃんの言を思い出して坊ちゃんを疑視する。
貧血の目眩で護衛4と共に崩れ落ちそうになる。
「先輩?」
「誰か川に落ちた襲撃犯の回収を頼む」
ホーク坊ちゃんの命令以下、部屋にいた侍従と侍女の二人がコクンと頷くとベランダまで走り抜け、そのまま飛び出し空へ舞い上がった。
「スゲー、飛行魔法!」
侍従のスワローテイルコートの尻尾や侍女の白いエプロンのリボンが綺麗にたなびく。
眼をキラキラさせたディーオイレ坊ちゃんが興奮気味に飛行する使用人達を見つめる。
ぬいぐるみから魔法に興味が移ったか。
飛行魔法が使える使用人は領主館内でも片手に数えられる程度だという。
子供らしい表情を浮かべているが有無をいわせぬ侍女達にガシッと連行、……風呂場にドナドナされていくディーオイレ坊ちゃん。
血塗れ……。
今回は本当に自分の傷ではないのでまだ救いがある。
でも感染症の観点から風呂は大事だよ坊ちゃん。
ジタバタしても屈強な侍女からは逃れられまい。
…俺も風呂に行かなければ…と愚考した所で意識が落ちた。
いろいろと確認したかったが、第二陣や伏兵が襲ってくる様子はなさそうだ。
長男四男誘拐襲撃でこの国での手札をかなり使ったのだろうか。
油断はならないが。
氷竜の少年は無事川から回収されたと、目覚めてから聞いた。
今は地下牢。
氷竜は…スタッフ一同、領主様ご一家ともども美味しく頂きました(笑)。
動物の素材はこの領では貴重。
ドラゴンのお肉は秀逸。
バラされて骨まで出汁とられていた…哀れ。
でも、ドラゴンのドラ骨白湯ラーメン美味しゅうございました。
ラーメンあるんだ…。
じゅるり…チャーシューまでドラゴン(笑)
眼が覚めた少年に氷竜は美味しく頂きました ラーメンで、と告げたら号泣しておりました。
自分も食べたかったと…いや、自分の子飼いの氷竜でしょう?
他の騎士達にも事件を報告、情報の共有をする。
目覚めすぐ、休む暇もない位忙しい。
医務室のベッド脇サイドテーブルに書類を山と積まれた。
勘弁して欲しい。
それぞれ明日の事情聴取のため、先生や俺も領主館に部屋を用意され、報告がてら今晩は止まり込むこととなる。
どうも今回の〈お部屋で犯人一網打尽囮作戦〉は領主の許可を取っての行動ではなかったようだ。
おい…!
誘拐犯が来るなら壁修理の人間に紛れて来ると踏んでいたのに結果は窓からの侵入だったということで。
惜しい! とか次男坊が呟いていたとかいないとか。
首謀者は長男か次男坊…。
お前ら…
事と次第を後から知った領主様はため息をつき、今日は疲れただろうから次の日の朝に話を聞こうと、朝食の席で首謀者の兄弟たちを締め上げる為に待っていた。
領主様の話では本当に壁修理の職人たちの中に誘拐犯が紛れていたそうだが、出入口の身体検査で引っかかって一網打尽にされていたそうだ。
そうだよな、この領のトップの領主様がそんなこと見逃して子供部屋まで侵入者を許すわけないんだよな、と愚考します。
今回の事件はドラゴンの突入という事件を最後に全て片付いた。
ようにみえたが。
ディーオイレ坊ちゃんはその朝 目を覚まさなかった。
ご存知でしょうか、護衛騎士4、ぴょんとは馬が合って上手いことしてますが、本来のディーオイレ坊ちゃんと対面した事ありません。
「え? 嘘! 」
次回、閑話休題ラストで本編に戻ります。
「マジ、待って! 」
本編に戻るとディーオイレ坊ちゃん大人で第一王子の護衛騎士になってます。
「俺、ディーオイレ坊ちゃんと対面しないまま? 」
お後がよろしいようですね。
「宜しくない!」




