◎閑話休題 梟の野望は東の辺境から②
読んで頂きありがとうございます
流血、暴力行為多めのお話ですので、その様な話に忌避感や嫌悪感がある方は読み飛ばすことをおすすめします。
乙女ゲームの設定がずれ始める分岐のミネルバ辺境伯家長男の誘拐事件のお話でございます。
本編では出番のないゲームのゲの字も関係ない転生者視点での語りをお楽しみ下さい。
◎事件
「…立ったままよだれ垂らして寝てなかったか? 」
現実逃避はしていましたが、寝てません!
凄い訝しむ眼で私を見ているのはホーク坊ちゃん。
そうだ、まだ闘技場でホーク坊ちゃんの護衛をしていたんだ(笑)
冷えたビールを夢想して忘れていた。
侍女がついていない坊ちゃんの着替えを手伝わなければ。
この試合の前、兄と弟が川遊びに行くとシャツに短パンの庶民スタイルで会いに来ていた。
何匹釣れるか長兄と競争すると言っていたな。
終わって時間があったら兄ちゃんも合流しようとディーオイレ坊ちゃんは言っていたが、この時間では釣りは無理だ。
ホーク坊ちゃんが平民風衣装なのは元々川遊びに行く為だったのに西の騎士団の団長の我がままで闘技場での試合となった。
めっちゃ恨んでます。
待ってるよ、と 楽し気に小躍りしながら川に向かうお調子者の4男の後ろ姿を眺めながら ちくしょー川魚!と、羨ましく地団駄踏む坊ちゃん。
仕方ないですよー よしよし。
「お前、子供扱いするなよ」
いやいや、そのぶーたれる姿を見たら〈よしよし〉したくなりますよ、坊ちゃん。
可愛いなあ 私達夫婦で騎士の仕事をしているが、子供がいたらこんな感じなのだろうか。
前世では今位の年齢だとで中学生の娘がいた。
あの子は幸せな人生を送れたと思う…。
建築家の旦那と上手くやっているようだった。
孫もやんちゃで可愛らしかった。
老後は面倒かけてすまなかった……。
ふと、気になることを思い出した。
俺、ボケて夢見てるんじゃないよな?
死んだ記憶はないが寝たきりだったし老衰でぽっくり逝った筈…。
坊ちゃんにちょっとお金のある平民風の服を着替えさせる。
領主館までは大してかからず歩いて帰れる。
せめてちょっとお金持っている子供風で屋台ひやかす位の楽しみは欲しいよな。
出店を冷やかすホーク坊ちゃんに付き添いながら汗をぬぐう。
今日も空は青く、夏の匂いがする。
前世の季節と同じ四季があり、それぞれの季節の楽しみがある世界。
春は花見。
夏はバーベキューにエール。
秋は秋の味覚。
冬は雪見酒。
飲み食いの楽しみばかりだ(笑)
まあ、それも東域辺境域ならではの話。
つい、前を行く坊ちゃんの後ろ姿に前世の孫や子供の面影を見てしまう。
…夏は…苦手です 詮無い前世の思い出ばかりを思い出して少し混乱する。
また教会いって記憶の整理をしようか…。
「帰ったらお土産に魚があるだろうから夕飯はお魚ですよー」。
と、出店の焼肉屋で買い食いしようとする坊ちゃんに注意する。
「あれは川で焼いて焼き立てを食べるから旨いんだよ」
親父か! 坊ちゃんは。
馴染みの串焼き屋台のオヤジが苦笑している。
オヤジがサービスだと串から離した肉をひと切れぼっちゃんの口に入れてくれる。
…本当はこういうのダメなんだけどな…。
慣れたように口に肉を入れて貰ってもぎゅもぎゅしながら屋台のおっちゃんにお礼のかわりに手をふって領主館に向かう こんな所は年相応の子供。
「帰ったら焼き魚」
ちょっとテンションあがってる。
天才だとか鬼才だとか言われてもやっぱり
子供。
と苦笑していたが。
その夜、長兄と4男坊は帰ってこなかった。
私の奥さん、事件です 帰れません。
奥さんも同じ東域辺境伯家の騎士なので同じ状況でしょう、たぶん。
「護衛が1人殺されたと? 」
空気が固まる。
夜の領主館の庭には煌々と松明が燃えていた。
松明に照らされるアヅチ城のシルエットと相まって戦国の世の出陣前の異様さを醸し出す城の前庭に居並ぶは西洋甲冑を簡略化した異世界の、東域辺境伯家の騎士、兵士がひしめいていた。
護衛2人と兵士、侍女1人づつを連れて川遊びに行った兄弟は今も帰還してない。
川はいつもの場所、4男は釣りの穴場だから秘密だと自慢していたが、いつも護衛が付いているので穴場も何もないなと、いつも行く場所には血だまりと散らばった釣り道具があるだけで兄弟、護衛達の姿はなかった。
釣りのために作ったいけすにも魚がいなかったことから釣りに来た直後に誘拐されたらしい。
今期のミネルバ辺境伯家は家族仲も良く、平穏な治世だと思っていた。
が、八人もいる兄弟皆殺しにしてでもその地位を簒奪したい奴はいるらしい。
捜索隊が出されたのは帰還予定時間よりも大分前、護衛の兵士の一人が4男のシャツを持って帰って来て事件が発覚した。
襟から背中に流血の跡、血塗れのシャツ。
子供に見せるもんじゃないだろ!
と思うが領主と惣領がいないこの期間での荒事処理のトップはホーク坊ちゃんになる。
普段ならそれで問題はないが、兄弟の血塗れのシャツを見せられた坊ちゃんの血の気が引いている。
そのシャツ、確かに4男が着ていたのを闘技場前で俺も見た。
ボロボロになった兵士は長男と四男の護衛騎士の補佐で侍女と御供に出た衛兵で〈魔獣化し巨大化したマンティアゴに兄弟が襲われた〉との報告。
4男は襲われて重傷、長男と護衛騎士、侍女は逃げた時に別れて行方不明…。
まてよ?
マンティアゴは山猫のような魔獣だ、通常はでっかい犬サイズの猫。
進化して巨大化するとランクBの危険獣。
子猫は可愛い猫のような容姿で良く子供が勘違いして近づくと親猫に襲われると注意喚起されているが…。
「おかしい」
他の領では角ウサギと同じ位メジャーな魔獣だが、ウチの領地では出ないはず。
私と坊ちゃんは渋い顔でひざまづいて報告する騎士を見た。
その場にいた全員がおかしいと思ったのだろう。
思っていないのは報告に来たこの兵だけ。
「お前、何処の領の兵士だ? 」
今度は兵士が渋い顔で俺を見る。
えっという顔をしても遅い。
「お、俺は東域辺境伯の……」
ホーク坊ちゃんは東域辺境伯家の兵士だと名乗る男の、言葉を綴ろうとする口元に剣を向ける。
「んなワケねえよな?」
にんまり悪い顔で嗤うホーク坊ちゃん。
ぼっちゃん? ぼっちゃんそれはご家族に見せられない顔ですよ?
こういう顔が出来るからか本来の年より4つ位上に見られる。
10歳なのに…。
「ウチの領地は魔虫が多い」
坊ちゃんひざまづかせた騎士の顎を剣の柄でくいと上げる。
「山猫型マンティアゴは他の領では普通に出る魔獣だが」
一拍呼吸を置いた。
「魔虫が出る東域辺境領では珍しいんだ」
俺は男が一瞬ハッとするのを見逃さなかった。
かかったな?
「なんでか知っているか? 」
剣の柄を顎クイから首元へ、少しキツめに押す。
何故動物型の魔獣が少ないのか。
「マンティアゴの成体は通常冒険者ギルドの指定だと危険指定のBランクだが」
「ブロッサムマンティスはギルド指定の危険度Aランクなんだ」
俺は男の口の端に剣の柄を寄せてにやりと笑った。
「? 」男は不思議そうな顔をする わかってないな。
ぼっちゃん、尋問の方法なんて何処で仕込んで来たんですか?
見てる方がハラハラします。
男は大量の汗をかき始める。
夏場とはいえ、今は夜なのに。
「この領にいるブロッサムマンティスはマンティアゴを好んで苗床にするんだ」
剣をひいて物騒な顔から子供の顔で笑うホーク坊ちゃん。
この領でいう苗床とは虫が動物の死骸に卵を産み付け、幼虫の餌にすること。
この領は虫型魔獣が特産…というか、ほぼそれしかいない。
生態系として魔獣の入る余地がない特殊な地域。
男は大汗かいている、10歳の子供の威圧と言葉に。
「だからこの領にはマンティアゴがいないんだよ」
いればブロッサムマンティス:危険度Aの餌か苗床にされる。
ブロッサムマンティス、孵化した後に毛皮潜り込んで暫くそこを巣にする ふかふかな毛皮が大好き。
ホーク坊ちゃんはおもむろに剣を引き抜き、男の足の甲に剣を突き立てた。
男の絶叫が響き渡る。
「東の辺境、舐めるなよ? 」
坊ちゃん! 恐い怖い!
「何をしても構わない 吐かせろ! 」
振り返ると集まっていた騎士、兵士たちに激を飛ばす。
「これは魔獣に襲われたと偽装しての惣領への襲撃、東域辺境への攻撃だ! 」
騎士、兵士たちが漸と立ち上がる。
「これより東域辺境、ミネルバ辺境伯家は非常事態にそなえる! 」
その場にいた全員、侍女や侍従たちまでも一斉にホーク坊ちゃんにひざまづく。
「当主、惣領がいない今、俺、ホーク ゲイガン ミネルバが指揮をとる! 」
戦闘員全てが「応! 」と答える。
私も同じ。
坊ちゃんの威圧にぞくぞくする。
すげーよ、坊ちゃん。
でもあえて言わせてもらうと。
10歳の子供が言う台詞じゃねえよ。
領主と長兄がいない分、ホーク坊ちゃんにこの領の武に関する全権がある。
政治経済に関しては領主の側近連中がいるが、荒事は彼の裁量にまかされている。
10歳なのに…。
「兄上はどんくさいから早く見つけないと マジやばい」
面倒という顔をしているが、これは心配してキレている顔。
まずいな…この兄弟キレるととんでもないことを考える。
長兄は知将とか賢者とか乗せられているが運動神経がカメケル〈魔獣:動かない、川で寝ていて溺れる。亀なのに…〉以下。
四男はサルディル〈魔獣:超早い〉並みの運動神経とサルイボ〈魔獣:超頭悪〉並みの頭脳。
四男…ディーオイレの坊ちゃんが一番やばいな。
川を中心に血の跡から追跡班が追跡、検証中以後の報告はない。
川近辺で潜伏できそうな場所。
犯人が逃亡するためのルート。
犯人から逃走するため惣領の坊ちゃんが選びそうなルート。
領主館に今いる軍事関係の人間を集めて検討中である。
はっきりいって領主館、今殺伐としている。
冗談で石を投げ入れただけで弓やら槍やらでハチの巣にされるぞ。
そんな中、捜索で護衛騎士一人の死体が発見された。
隠れオタクが同志を欲するように未登録転生者もまた、同志を欲しているのかもしれません。
護衛:踊りましょう! カポ●ラダンスを!
四:カポ…?
護衛:坊ちゃん転生者じゃなかったか…しょぼん
四:俺の考えた最強の武器!
ジャン! と、紙に書いた図面を見せる
護衛:…ド●アン…だと? 確かに臭ささは果物界最強…
四:ちげーよ! ショボーン…
※こんなやりとりがディーオイレ坊ちゃんが大人になるまで続く。
次回、ドリ●ンより強力な兵器、シュール●●レミング爆弾が…
誰ですか! 缶詰賞味期限ギリギリまで放置しているのは!
開けた缶詰は食べる! お残しは許しません!
ぎゃー!




