第8話 登校
第8話 登校
翌朝。
台所に降りると、
おばあちゃんが台所に立っていた。
せっせと何かをしている。
「おばあちゃん、おはよう」
「おはよう」
私は食器棚からお椀を取った。
鍋にかかっているお玉を取って、
みそ汁をすくう。
ちらっと、
おばあちゃんの手元を見た。
私のお弁当箱だ。
「おばあちゃんが作ってるの?」
「他に誰が作るの?」
おばあちゃんは笑った。
「美咲のお弁当作る以来だよ」
「そうなんだ」
ジャーを開ける。
炊きたてのご飯の湯気が、
顔に当たった。
お茶碗にご飯をよそって、
テーブルに置く。
冷蔵庫を開けて、
卵を出す。
「あ、おばあちゃん。卵これで最後」
冷蔵庫に、
磁石で留めてあるメモがある。
『ネギ』
『牛乳』
『マヨネーズ』
私はその下に、
『卵』
と書き加えた。
卵をご飯に割る。
醤油をかけて、
箸で混ぜる。
韓国のりを一枚取る。
卵かけご飯をのせて、
巻いて食べる。
「そんなんばかり食べて……」
おばあちゃんが冷蔵庫を開けた。
きゅうりの浅漬けを出して、
私の前に置く。
「はい。野菜」
「漬物は野菜って言わないよ」
私は笑った。
きゅうりを一つ食べる。
ポリポリする。
「おじいちゃんは?」
「モーニングに行った」
「ふーん」
おばあちゃんは、
お弁当箱をナフキンで包んで、
私に渡した。
「はい」
「ありがとう」
受け取って、
そのままテーブルに置く。
卵かけご飯を食べる。
みそ汁を飲む。
熱い。
おばあちゃんのみそ汁は、
いつも熱い。
食べ終わると、
食器をシンクの中に入れた。
洗面所に行く。
歯を磨く。
顔を洗う。
髪をとかす。
二階に上がる。
部屋着を脱ぐ。
下着をつける。
制服を着る。
リップをつける。
姿見を見る。
「うん、オッケー」
ナップサックを持って、
一階に降りる。
玄関で靴を履く。
「いってきまーす」
「瑠璃ちゃん、弁当忘れてる」
「あ」
おばあちゃんが、
弁当を持ってきた。
「ゴメン」
片手で拝む。
「そんなところは、お母さんに似なくていいの」
おばあちゃんは笑った。
私も笑った。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
学校に着いた。
昇降口で傘を閉じる。
水を切る。
傘立てに入れる。
靴を脱いで、
上履きに履き替える。
靴下がちょっと濡れている。
気持ち悪い。
廊下を歩く。
教室の前まで来た。
止まった。
扉を見る。
早退してから、
二日休んだ。
クラスに入るのが、
ちょっと恥ずかしい。
私は取っ手に手をかけた。
扉を開ける。
教室に入った。
まだ、
半分くらいしか来ていない。
ゆみちゃんがいた。
私を見つけて、
手を振っている。
私も手を振りながら、
自分の席にナップサックを置いた。
ゆみちゃんが近づいてきた。
「大丈夫?」
「うん、平気」
笑顔をつくった。
「よかった」
ゆみちゃんも笑顔になった。
私は椅子を引いて座る。
ゆみちゃんも、
前の席に座った。
「YOASOBIの新曲知ってる?」
私は首を横に振る。
「知らない」
ゆみちゃんは、
私にイヤホンを片方渡した。
もう片方を、
自分の耳に入れる。
前奏が流れる。
ikuraの可愛い声。
いい。
私は気に入った。
イヤホンを取る。
「昨日の100円娯楽見た?」
「ううん」
「キンブルだった」
「あそこ、お菓子しか買うものないし……」
二人で笑った。
前の席の坂元くんが来た。
ゆみちゃんが、
立ち上がろうとする。
坂元くんは荷物を置きながら、
「いいよ。大丈夫」
と言って、
三上くんのところへ行った。
ゆみちゃんが、
小声で言った。
「坂元って、ちょっといいよね」
「そうだね。優しいし」
「キャー」
とはしゃいでみた。
だんだん、
クラスメートが教室に入ってくる。
「おはよー」
「おはよう」
いつもの声。
予鈴が鳴った。
みんな席に戻る。
三浦先生が入ってきた。
出席の確認をする。
名前が順番に呼ばれる。
「黒川」
「はい」
三浦先生と、
一瞬目が合った。
私はちょっと頷いた。
先生も、
少し頷いた。
それだけ。
プリントを、
列の一番前に渡す。
前からプリントが届く。
一枚取る。
残りを後ろに回す。
紙を見る。
いつもの連絡。
三浦先生が教室を出た。
チャイムが鳴る。
一時間目は、
公民だ。




