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瑠璃色の生活  作者: カトーSOS


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6/11

第6話 葬式

挿絵(By みてみん)


第6話 葬式


通夜を適当に切り上げて、私はおばあちゃんと一緒に自宅に帰った。


翌朝


朝、起きて台所に行くと、おばあちゃんがテーブルに手をついて座っていた。


炊き立てのご飯とみそ汁の匂いがする。


「おはよう。」


「るりちゃん、たまごのご飯でいい?」


「うん」


おばあちゃんは立ち上がると、ガス台に乗った鍋の蓋を開けお玉で味噌汁をすくう。


お椀をテーブルに置くと、チラッと時計を見た。


「葬式は10時からだから、あまり時間がないよ。」

「達夫が式場泊ってくれたから、助かったわ。」


「うん」


「ちょっと着替えてくるね。」


おばあちゃんは奥の部屋に入っていった。


私はジャーからご飯をよそい、冷蔵庫から卵を一個出した。


卵を割り、ご飯にかける。


醤油をかける。


味の素をかける。


かき混ぜる。


ゆかりをチョット振りかける。


一口食べる。


そういえば、私、一人で朝食たべたの初めてだ。


ふと、そんなことを思った。


起きれば、おじいちゃんがいる


おばあちゃんがいる。


お母さんもいる


それが当たりまえ。


そうか、こういうことなんだ。


ちょっと目頭が熱くなる。


一粒涙がこぼれる。




ご飯を食べ終えた。


歯を磨く。


顔を洗う。


髪をとかす。


制服を着る。


リップを塗る。


姿見で自分を見る。


うん、かわいい。



1階に降りるとおばあちゃんがハンドバッグを持って待っていた。


瑠璃ちゃん、はい、お数珠。


コレ、どうしたの?


お母さんのよ。


瑠璃ちゃんが持ってなさい。


私は透明な数珠を受け取った。




昨日と同じ葬儀場。


昨日と同じ、

黒い服の人たち。



でも今日は、

少し違った。



知らない親戚にも、

少しだけ慣れた。





「瑠璃ちゃん」


「はい」


「昨日はよく眠れた?」


「はい」



私は笑顔を張り付けた。



昨日、

話した人だ。


誰が誰なのかは、

相変わらず分からないけど。


あとで達夫おじさんに聞きなおそう。



私はお母さんの写真を見る。



昨日と同じ写真。



笑っている。



その下に、

お母さんがいる。



私はお棺に近寄る。



ちいさな窓がある。



白いお母さんの顔が見える。



私はじっとお母さんを見ていた。



お母さんは目をつぶっている。



寝てるみたい。



これで死んでるんだ。



ここにいるのに、もういないんだ。



不思議。



ポケットの中が揺れた。



私はスマホを見る。



お父さんからLINEが来ていた。



『もう着く』



私は

入口の方を見る。



しばらくすると、

黒いスーツを着たお父さんが入ってきた。



「お父さん」



私は、

そばへ行った。



「おう」


「来た」


「来るって言っただろ」


「そうだけど」


「どうした?」


「別に」



お父さんは、

少し疲れた顔をしていた。



昨日は、

来なかった。



でも今日は来た。



それだけで、

ちょっと安心した。



「ちゃんと寝たか?」


「寝た」


「ご飯は?」


「食べた」


「そうか」



またそれ。



お父さんは、

私を見ると、

だいたい最初にご飯を聞く。



私は少し笑った。



その時。



「佐伯さん」



達夫おじさんだった。



お父さんが振り返る。



顔が、

少しだけ固くなった。



「ご無沙汰しております」



お父さんが、

深く頭を下げた。



達夫おじさんも、

頭を下げる。



少し間があった。



「……よく来られましたね」



えっ?



私は、

達夫おじさんを見た。



なんでそんな言い方するの?



お父さん、

来ちゃダメなの?



お父さんは、

何も言わなかった。



ただ、

もう一度頭を下げた。



達夫おじさんが、

私を見る。



「ああ、瑠璃ちゃんは関係ないよ」


「え?」



達夫おじさんは、

お父さんに向き直った。



「来ていただいたこと、

 感謝しています」


「ありがとうございます」


「美咲から、

 離婚してからは、

 良好な関係になったとは聞いていました」


「……はい」


「ですから」



達夫おじさんは、

少しだけ言葉を止めた。



「あなたも、

 美咲との別れに参加してください」



お父さんは、

深く頭を下げた。



「ありがとうございます」



私は二人を見ていた。



なんか変。



お父さんがお母さんの葬式に来る。



それって、

許可がいることなの?



だって。



お父さんだよ?



お母さんと、

あんなに普通に話してたじゃん。



あんなに仲良かったじゃん。



私には、

全然分からなかった。



   



葬式が始まった。



「瑠璃ちゃん、こっち」



おばあちゃんに言われて、

私は一番前の席に座った。



隣に、

おじいちゃん。



その隣に、

おばあちゃん。



そして達夫おじさん。



親族の席らしい。



私は何となく、

後ろを見る。



お父さんを探した。



いない。



もう少し後ろ。



まだいない。



もっと後ろ。



いた。



一番後ろ。



「……」



私は前を向いた。



なんで、

あんなところにいるんだろう。



私のお父さんなのに。



お経が始まった。



昨日も聞いた。



相変わらず、

何を言っているのか分からない。



鐘が鳴る。



チーン。



線香の匂いがする。



私は、

お母さんの写真を見た。



でも。



後ろが気になる。



お父さんは、

一番後ろ。



私は、

一番前。



遠い。



昨日まで、

そんなこと考えたこともなかった。



お父さんとお母さんは、

離婚している。



知ってる。



もちろん知ってる。



私はお母さんと暮らしていて、

お父さんとは別に暮らしていた。



面会交流。



月に何度か会う。



お父さんの家に泊まる。



三人でご飯を食べる。



お父さんとお母さんは、

二人だけでも会っていた。



仲が良かった。



私は、

二人が嫌い合って別れたとは、

思っていなかった。



だから。



いつかまた、

三人で暮らすかもしれない。



なんとなく、

そう思っていた。



でも。



私は一番前。



お父さんは一番後ろ。



お父さんは、

私のお父さん。



でも。



お母さんの夫じゃない。



……。



そうか。



離婚したんだから、

当たり前だ。



当たり前なのに。



今まで、

ちゃんと分かってなかった。



私は、

少しだけ後ろを見た。



お父さんは、

静かに座っていた。



泣いていない。



少なくとも、

私にはそう見えた。



なんで泣かないんだろう。



お母さん、

死んじゃったのに。



そう思ってから、



違う。



と思った。



お父さんが悲しいかどうかなんて、

私には分からない。



私だって、

病院では泣かなかった。



今、私は泣いていない。



私は前を向いた。



お母さんの写真が、

笑っている。



   



順番に焼香をした。



昨日もやったので、

今日は少しだけ分かる。



粉をつまむ。



煙が出てるところにかける。



手を合わせる。



お母さんを見る。



「……」



何を言えばいいんだろう。



ありがとう?



さようなら?



どっちも、

なんか違う。



私は何も言わず、

手を合わせた。



席に戻った。



隣ではおばあちゃんが泣いている。



また、

お経が続く。



長い。



だんだん足が痛くなってきた。



少しだけ座り直す。



おばあちゃんが小さくいった。



「足を少し崩しなさい。」



私は足をちょっと横にして、スカートで隠した。



お父さんが私の横を通り過ぎる。



粉をつまむ。


一回、二回。


数珠を持ちながら手を合わせる。


そのままの姿勢で止まる。


身動き一つしない。


私はその姿をじっと見つめていた。



 



葬式が終わった。



大人たちは、

また頭を下げている。



私も、

大人の真似をして頭を下げた。



何回、

頭を下げたか分からない。



人が少しずつ帰っていく。



私は、

椅子に座ったままぼーっとしていた。



「瑠璃」



顔を上げる。



お父さんだった。



「お父さん」


「大丈夫か?」


「……分かんない」



お父さんは、

少しだけうなずいた。



「そうか」



それだけ。



「お父さんは?」


「ん?」


「大丈夫?」


「まあな」



私は、

お父さんの顔を見た。



大丈夫には、

見えなかった。



でも、

何も言わなかった。



「じゃあ、

 また連絡する」


「え?」


「ん?」


「帰るの?」


「ああ」


「一緒じゃないの?」



お父さんは、

少し黙った。



それから、

おじいちゃんとおばあちゃんを見る。



「今日は、

 おじいちゃんたちと帰りな」


「……うん」



そうなんだ。



私は、

なんとなく。



お父さんも一緒に来るものだと思っていた。



どこへ?



私の家へ。



お母さんの家へ。



でも。



お父さんは、

そこには帰らない。



お父さんには、

お父さんの家がある。



「じゃあな」


「うん」



お父さんが、

私の頭を軽く撫でた。



「またな」


「またね」



お父さんは歩いていった。



私は、

その後ろ姿を見る。



一番前にいた私。



一番後ろにいたお父さん。



そして今。



私たちは、

別々の家へ帰る。



お父さんは、

私のお父さんだ。



それは何も変わらない。



でも。



お母さんの夫ではない。



お父さんとお母さんは、



もう夫婦じゃなかった。



そんなこと。



ずっと前から知っていたはずなのに。



私は今日、



初めて知った気がした。



挿絵(By みてみん)

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