↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
瑠璃色の生活  作者: カトーSOS


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/11

第3話 病院

挿絵(By みてみん)


第3話 病院



数学の時間だった。


放物線と直線の交点と原点を結ぶ三角形の面積を求めよ、という訳の分からない問題を、若山先生が黒板を使って説明していた。


黒板には放物線と斜めの直線。

その横には数式が並んでいる。


なんでこれで三角形の面積が出るんだろう。


そんなことを考えながら、私はノートに黒板を写していた。



突然、教室の扉が開いた。



三浦先生だった。



「若山先生、ちょっとすいません」



若山先生が説明を止める。


三浦先生は教室の中を見た。



「黒川さん」


「はい」


「荷物をまとめて来てください」


「えっ?」



なんだろう。



私は言われたとおり、机の中の教科書とノート、筆記用具を鞄の中に詰めた。


途中だった数学のノートを閉じる。


椅子を戻して立ち上がった。


クラスのみんなが私を見ている。



私は三浦先生のあとをついて、教室を出た。



   



職員室へ行くと、


そこにお父さんがいた。



「えっ。どうして?」



お父さんは私を見ると、



「いくぞ」



それだけ言った。



お父さんのこんな声、

聞いたことない。



「う、うん」



私はお父さんに連れられて、学校を出た。



駐車場には、

黒のステップワゴンが停まっていた。



私はいつものように助手席に乗る。



シートベルトを締める。



お父さんが車を出した。



いつもなら流れているTRFの音楽が、

今日はかかっていなかった。



車の中が静かだった。



「どこ行くの?」



お父さんは答えない。



「……」



「……」



しばらくして、



「病院」



と言った。



「えっ?」



病院?



「おじいちゃん?

 おばあちゃん?」



今朝の二人の顔を思い出した。



おじいちゃんも、

おばあちゃんも、

いつもと変わらなかった。



普通に私を送り出してくれた。



「ちょっと悪い」



お父さんは前を見たまま言った。



「運転に集中したい」



「……うん」



お父さんの横顔を見る。



真剣な顔をしていた。



私は黙った。



   



病院に着いた。



お父さんは早足で歩いていく。



私はそのあとをついていった。



受付を通り過ぎる。



さらに奥へ。



奥へ。



どこまで行くんだろう。



廊下に、

おじいちゃんとおばあちゃんがいた。



二人とも椅子に座っていた。



いる。



おじいちゃんも、

おばあちゃんもいる。



じゃあ……。



その近くに、

警察官が二人いた。



警察?



私とお父さんは、

ある部屋の扉の前に立った。



小さな表札がある。



――慰霊室。



お父さんが扉を開けた。



何もない部屋だった。



部屋の中央に、

小さな車輪のついた台がある。



その上に、

人が寝ていた。



白い布に覆われている。



お父さんが近づいた。



顔のところにかけられていた、

小さな布を取る。



お母さんの顔があった。



「えっ……」



声が出ない。



息が吸えない。



動けない。



なんで。



なんでお母さん、

こんなところで寝ている?



「交通事故……」



お父さんが口を開いた。



「横断歩道を渡っていたら、

 赤信号で突っ込んできたオートバイにはねられたそうだ」



わからない。



お父さんが何を言っているのか、

わからない。



「そこから逃げたそうだけど……」



逃げた?



「もう捕まってるらしい」



だから。



なんでお母さんは、

ここで寝ているの?



それとお母さん、

何か関係あるの?



そう言おうとした。



でも、

口が動かなかった。



「うっ……」



変な音が出た。



「グッ……」



何これ。



しゃべれない。



声が出ない。



動かない私を見つめて、

お父さんは警察の方へ行った。



私は、

お母さんを見る。



何もない部屋。



台の上のお母さん。



慰霊室。



交通事故。



警察。



急にわかった。





お母さん、死んじゃった?





人って、

そんなに簡単に死ぬんだ。





朝、


いつものように慌ただしく朝食作って。





お化粧して。





「いってきます」





って言ったお母さん。





今日、


なんにも話してないよ。





あれ、


ちがうか……。





「おはよう」





は、


言ったかな?





ふふふ。





あれ。





お母さん、


なんでここにいるの?





ここは。





あれ?





お母さん。





後ろでは、

警察官の声が聞こえる。



「少年」



「無免許」



「赤信号」



「そのまま逃走」



そんな声が聞こえた。



でも、


何を話しているのか、

よく分からなかった。



   



しばらくして、

警察官が帰った。



私は廊下に出て、

長椅子に座った。



お父さんと、

おじいちゃんと、

おばあちゃん。



三人とも、

私を見ていた。



「瑠璃ちゃん……」



おばあちゃんが声をかけた。



私は顔を上げた。



おばあちゃんの目が、

真っ赤だった。



私は少し微笑んだ。



それから、

また下を向いた。



大人三人で、

何か話をしている。



私は聞いていなかった。



どのくらい経ったんだろう。



廊下の向こうから、

黒いスーツを着た二人の男性が歩いてきた。



私たちの前で立ち止まる。



二人は一礼した。



「この度は……」



お父さんに声をかける。



お父さんは立ち上がった。



慰霊室の扉を開ける。



黒いスーツの二人が、

中へ入っていった。



私も廊下から見ていた。



二人の男が、

お母さんの前に立つ。



手を合わせる。



そして。



台に手をかけた。





連れて行かれる!!





そう思った。





「ダメッ!」





廊下に、

私の大声が響き渡った。



みんなが私を見る。



私は立ち上がった。





私がお母さんを守る。





私は慰霊室の中へ入ろうとした。



お父さんが、

私を抱きとめる。



「お母さん、

 連れていかれちゃうよ!」



自分でもびっくりするぐらい、

大きな声が出た。



「お母さん!

 お母さん、連れていかれちゃう!」



私を抱きしめたお父さんの腕に、

力が入る。



「瑠璃、大丈夫だから」


「だって、だって……」


「大丈夫だから……」



お父さんの腕の中で、

私の力が急に抜けた。



立っていられない。



お父さんに身体を預ける。



黒いスーツの男の人が、

動きを止めていた。



しばらくして、



「よろしいでしょうか?」



ひとこと言った。



お父さんが、

小さくうなずいた。



男の人たちは、

もう一度台に手をかけた。



車輪が動く。



お母さんが、

慰霊室から出てくる。



私の横を通り過ぎる。



「……お母さん」








私は、


その姿を目で追うしかなかった。




挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。