第10話 遺産
第10話 遺産
急いで着替えて、
台所に降りた。
おじいちゃんとおばあちゃんが、
テーブルに座っている。
私は冷蔵庫を開けた。
コーラを出す。
マグカップに注いで、
定位置に座った。
一口飲む。
置く。
待つ。
おじいちゃんが、
口を開いた。
「アイツが、
瑠璃を引き取ると言ってきた」
「えっ?」
私は、
おじいちゃんを見る。
「私を?」
「そうだ」
「美咲が死んだから、
親権者の自分が引き取ると言っている」
「親権者?」
「そうだ」
おじいちゃんは、
腕を組んだ。
「葬式の出席を許したら、
調子に乗って……」
「えっ……だって、
お父さんはお母さんの……」
私は口をつぐんだ。
お母さんの、
なんだ?
夫じゃない。
それは、
葬式の時に分かった。
でも。
だからって、
お父さんじゃなくなるわけじゃない。
「あんな無職に、
瑠璃が育てられるわけがない」
「育てるって……
私、十五だよ」
苦笑した。
今度は、
おばあちゃんが口を開いた。
「親の遺産を食いつぶして、
会社も辞めて、
毎日家でプラプラしてるのよ」
「そうなの?」
「そうよ」
知らなかった。
そういえば、
お父さんが仕事をしているところを、
見たことがない。
会社の話も、
聞いたことがない。
家にいることは多い。
……。
それって、
おじいちゃんと何が違うんだろう。
言わなかった。
たぶん、
怒られる。
「それにね」
おばあちゃんが、
少し声を落とした。
「美咲の遺産があるでしょ」
「遺産?」
「お母さんが残したお金」
「ああ」
そういうの、
あるんだ。
考えたことなかった。
お母さんが死んだ。
だから、
お母さんのお金が残る。
……。
なんか変。
「美咲はね、
ずっと働いてたのよ」
おばあちゃんが言った。
「朝から晩まで働いて、
瑠璃ちゃんを育てて、
ちゃんとお金も貯めてたの」
「うん」
お母さんが働いていたことは、
知っている。
でも。
どれくらいお金を持っていたのかなんて、
知らない。
聞いたこともない。
おじいちゃんが、
テーブルに手を置いた。
「あいつはな。
親の遺産相続で仕事を辞めたんだ」
「そうなの?」
「そうだ」
「それで、
ぐうたら暮らしてる」
おばあちゃんが続ける。
「美咲の遺産ね。
あの子がどれだけ頑張って貯めたと思ってるの」
「……うん」
「それを狙ってるのよ」
「え?」
おじいちゃんが言った。
「美咲が残した遺産ごと、
お前を引き取りに来たんだ」
「そんな……」
そんなこと、
するかな。
お父さんが?
でも。
しないとも言えない。
だって、
私はお父さんの仕事を知らない。
どれくらいお金を持っているのかも、
知らない。
月に一度会って。
ご飯を食べて。
映画を見て。
たまに、
欲しいものを買ってもらう。
それだけ。
「だから、
ここにいればいい」
おじいちゃんが言った。
「ここなら、
何も心配することはない」
「……」
私はコーラを飲んだ。
氷が、
カランと鳴った。
お父さんは、
私を引き取りたい。
おじいちゃんとおばあちゃんは、
お父さんを信用するなと言う。
お父さんは無職。
遺産を狙っている。
……。
本当に?
私は、
マグカップを置いた。
「そんな、
急に言われても分かんないよ」
二人が私を見る。
「お父さんとも、
話さないと」
おじいちゃんの眉が動いた。
「瑠璃」
「だって、
何がなんだか分かんないし」
誰が本当のことを言ってるのか。
そもそも、
誰かが嘘をついているのか。
それも分からない。
私は、
テーブルの上に置いたスマホを見た。
お父さんに、
聞いてみよう。




