第4話 ヨボヨボの爺さんたちを人質にした結果、特殊部隊が全滅した
第4話 ヨボヨボの爺さんたちを人質にした結果、特殊部隊が全滅した
宇宙海賊にとって、敵艦への乗り込みは花形だ。
相手の装甲を撃ち抜き、強襲艇を接舷させ、武器を手に艦内へ突入する。
主砲で沈めてしまえば、積み荷も財宝も宇宙の塵になる。
だが白兵戦で制圧すれば、船も物資も丸ごと奪える。
俺も現役時代には、数え切れないほど敵艦へ乗り込んだ。
一人で百人を相手にしたこともある。
素手で戦闘用アンドロイドを殴り倒したこともある。
重武装兵を見ただけで降伏させたこともあった。
そんな俺が、息子のレオへ教えた白兵戦の心得は三つ。
敵より早く動け。
相手の死角へ回れ。
絶対に武器を手放すな。
レオは、そのすべてを忘れていた。
◇
《アルバトロス号》がグラベル・ベルト近郊へ帰還して、三時間後。
レオは格納庫で銃の訓練をしていた。
正確には、訓練をするよう俺に命じられていた。
「構えろ」
俺はホログラムでレオの隣に立ち、標的を指した。
二十メートル先には、人型の訓練用標的が置かれている。
「両脚を肩幅に開け。腰を落とせ。照準を胸の中央へ合わせろ」
「親父、俺には独自の射撃姿勢がある」
レオは片手で光線銃を構え、体を斜めに傾けた。
もう片方の手で髪をかき上げる。
「どうだ?」
「何がだ」
「格好いいだろ?」
「射撃姿勢に必要なのは格好よさではない!」
「いやいや、だってさ。敵が見惚れている間に撃てばいい」
「お前に見惚れる敵がいる前提で戦術を組むな!」
レオが引き金を引いた。
青い光線が標的の右側を通過し、壁に当たって跳ね返る。
反射した光線は天井へ向かい、消火装置を直撃した。
格納庫内に、大量の消火剤が噴き出す。
白い泡を頭からかぶったレオが、銃を下ろした。
「今のは警告射撃だ」
「味方へのな!」
「標的を油断させる高度な技術だ」
「標的は最初から動いていない!」
格納庫の隅では、ジン爺さんが木箱に腰を下ろし、刀の手入れをしていた。
白髪を後ろで束ねた、小柄な老人だ。
普段は杖がなければ歩けず、立ち上がるたびに膝が鳴る。
「若様」
ジン爺さんが声をかけた。
「銃は、もう少し優しく握ったほうがよろしいですぞ」
「ジン爺さんに射撃が分かるのか?」
「さあ。年を取ると、昨日の夕飯も忘れましてな」
嘘をつけ。
こいつは二十年前、敵の光線銃を奪いながら百二十七人を無傷で制圧した男だ。
もっとも、本人はその戦いを「軽い運動」と呼んでいる。
「それより、ジン爺さん」
レオが木箱に座った。
「腰は大丈夫なのか?」
「雨の日は少々痛みますな」
「宇宙船の中に雨は降らないぞ」
「なら、たぶん気のせいでしょう」
どんな診断だ。
「無理に戦わなくてもいいからな。敵が来たら、俺が守ってやる」
ジン爺さんが目を細めた。
「それは頼もしい」
俺は何も言わなかった。
たまには自分で現実を知るべきだ。
その機会は、予想より早く訪れた。
◇
『警告』
ゼロイチの声が、格納庫に響いた。
『艦内ニ未登録ノ転移反応ヲ検出』
俺は即座にメインコンピュータへ接続した。
艦内見取り図に、赤い点が次々と現れる。
機関区画。
居住区画。
貨物室。
そして艦橋付近。
その数、百五十。
「侵入者だ!」
俺は全艦へ警報を鳴らした。
赤い照明が点滅し、防壁が各区画を閉鎖する。
だが反応が遅い。
敵は《アルバトロス号》の内部構造を知っていた。
転移先は、すべて監視装置の死角。
「ゼロイチ、敵の所属は?」
『照合中』
ゼロニが侵入者の通信を傍受する。
『暗号形式ガ旧《黒キ彗星》ノモノト一致』
裏切り者たちだ。
第3話でレオの異常なワープ能力を知り、正面からの艦隊戦を避けたらしい。
船ごと奪うため、強襲部隊を送り込んできた。
判断そのものは正しい。
相手が普通の老朽艦ならば。
『侵入者百五十名。全員、重装戦闘服ヲ装備』
ゼロイチが報告する。
『隊長ハ、元第四白兵戦部隊長、ガンツ』
俺は、その名前を知っている。
巨漢の傭兵ガンツ。
元は銀河連邦軍の特殊部隊員で、俺の配下に入ってからも数々の敵艦を制圧した。
腕は確かだ。
だが性格に問題がある。
自分より弱い者をいたぶるのが好きな男だった。
生前の俺が目を光らせていたころは、おとなしく従っていた。
俺が死んだ途端に裏切ったのも、あいつらしい。
「レオ、艦橋へ戻れ!」
俺は命じた。
「いやいや、だってさ。敵が来たなら、船長が迎え撃つべきだろ?」
「お前では三秒も持たん!」
「俺の射撃を見ただろ?」
「見たから言っている!」
格納庫の隔壁が、外側から爆破された。
爆風とともに、黒い戦闘服を着た兵士たちがなだれ込んでくる。
先頭に立つのは、頭を剃り上げた大男。
両腕に大型光線砲を装備したガンツだった。
「見つけたぞ、若船長」
ガンツが笑う。
背後には、三十人の重装兵。
全員が銃口をレオへ向けた。
「久しぶりだな、ガンツ」
レオが答える。
「俺を覚えていたか」
「もちろんだ。親父の葬式で、酒を三本持って帰った奴だろ」
「なぜ葬式の飲食物だけは正確に覚えている!」
ガンツの顔が引きつった。
「相変わらずの間抜けだな。ガルド船長の息子でなければ、誰もお前など相手にしない」
「そうか?」
「お前には船長の器などない。銃も使えず、船も操れず、戦術も知らない」
悔しいが、すべて事実だ。
「残った乗組員も、棺桶に片足を突っ込んだ老人ばかり」
ガンツは、木箱に座ったジン爺さんへ目を向けた。
「こんな老いぼれを乗せて、海賊ごっこか?」
ジン爺さんは刀を鞘へ納めた。
「最近の若者は、元気でよろしいですな」
「爺さん。長生きしたければ床に伏せろ」
「ご親切に、どうも」
ジン爺さんが立ち上がろうとした。
膝が鳴る。
腰を押さえ、もう一度座る。
ガンツの部下たちが笑った。
レオは銃を構えた。
「ジン爺さんを笑うな」
俺は少し驚いた。
「老人を馬鹿にする奴は、俺が許さない」
ガンツが鼻で笑う。
「その銃で何をする?」
「決まっている。俺が相手だ」
「レオ、やめろ!」
「親父は黙って見ていろ」
こいつはポンコツだ。
状況判断もできない。
銃もまともに撃てない。
だが仲間を侮辱されれば、自分より強い相手にも立ち向かう。
そこだけは、俺の息子だった。
レオがガンツへ照準を合わせる。
そして引き金を引いた。
光線はガンツの頭上を大きく外れ、背後の配管へ命中した。
配管が破裂。
高圧蒸気が噴き出し、侵入者たちの視界を奪う。
「また外した!」
俺は叫んだ。
「計算どおりだ!」
「嘘をつけ!」
だが、その偶然が戦いの合図となった。
◇
白い蒸気の中。
ジン爺さんの姿が消えた。
次の瞬間、金属同士がぶつかる音が連続して響く。
ガンツの左右にいた兵士二人が、同時に倒れた。
戦闘服の関節だけを刀の鞘で正確に打ち抜かれている。
「何だ!?」
兵士たちが銃を構える。
遅い。
ジン爺さんは三人目の懐へ入り、銃を持つ腕をひねり上げた。
奪った光線銃を振り返りもせず後方へ投げる。
銃は四人目の顔面に命中。
さらに足払い。
肘打ち。
鞘による一撃。
敵が一発撃つ間に、六人が床へ転がった。
先ほどまで立ち上がるのにも苦労していた老人とは思えない。
「ジン爺さん?」
レオが目を見開いた。
「腰が痛いんじゃなかったのか?」
「不思議ですな」
ジン爺さんは敵兵の拳を片手で受け止める。
「戦いが始まると、忘れてしまうのです」
「都合のいい腰痛だな!」
敵兵が一斉射撃を始めた。
ジン爺さんはレオの襟首をつかみ、床へ引き倒す。
二人の頭上を光線が通過した。
「何をする!」
「若様の射線を確保しました」
「俺はまだ撃っていないぞ」
「だから安全なのです」
的確すぎる評価だった。
格納庫の別の扉が開く。
杖をついたグラン爺さんが入ってきた。
「騒がしいのう。昼寝もできん」
その肩には、携帯式の小型砲。
通常なら屈強な兵士二人で運ぶ兵器だ。
「グラン爺さん、それを撃てるのか?」
レオが尋ねる。
「説明書をなくしましてな」
また嘘だ。
グラン爺さんは照準器を見ることなく、砲口を天井へ向けた。
発射。
砲弾は天井へ命中する直前に分裂し、十六個の小弾頭へ変わった。
小弾頭は壁や床を跳ね返り、敵兵たちの銃だけを正確に破壊する。
一発で十六人。
人間には傷一つない。
「偶然じゃ」
グラン爺さんは笑った。
「十六回連続の偶然があるか!」
通信装置から、メッケル爺さんの声が届いた。
『こちら通信室。敵の戦闘服を乗っ取ったぞい』
侵入者たちの装甲が、突然硬直した。
関節が固定され、身動きが取れなくなる。
『最近の装備は便利じゃのう。遠隔操作で全部止まる』
「そんな簡単にできるのか?」
レオが尋ねる。
『説明書に書いてあった』
「どの説明書だ?」
『敵が持ってきた暗号通信の中じゃ』
通信を解析して、軍用戦闘服の制御権を奪ったらしい。
メッケル爺さんにとっては、敵の最高機密も説明書と同じだった。
そのとき、別区画から爆発音が響いた。
『機関室前、敵兵四十名ヲ確認』
ゼロイチが報告する。
『防衛ニ向カッタノハ、ボル氏デス』
レオの顔色が変わった。
「ボル爺さん一人なのか? 早く援護を――」
艦内映像が表示された。
ボル爺さんは機関室前の椅子に座り、目を閉じている。
耳には補聴器。
膝には毛布。
見た目だけなら、完全に居眠り中の老人だった。
四十人の敵兵が廊下の角から飛び出す。
ボル爺さんは目を開けない。
「右に十二。左の通気口に三。天井裏に五。後方待機が二十」
小さく呟く。
「呼吸が荒い。緊張しすぎじゃ」
ボル爺さんが杖で床を三回叩いた。
一回目。
右側の隔壁が閉じ、十二人を分断。
二回目。
通気口の消火装置が作動し、三人を外へ押し出す。
三回目。
床の重力制御が反転。
残る二十五人が天井へ叩きつけられた。
「全部見えていたのか?」
レオが驚く。
『目では見ておらん』
ボル爺さんの声が通信から返ってくる。
『足音と呼吸、それから床の振動で分かる』
「補聴器が必要なのに?」
『これは補聴器ではない。多次元音響解析装置じゃ』
「最初から言え!」
『聞かれなかったからのう』
老人たちは、そろって説明が足りない。
医務室へ侵入した敵兵二十人は、老師ホウが担当していた。
医療区画の映像を開く。
老師ホウは手術着姿で、注射器を持っていた。
その手が震えている。
「わしは注射が苦手でのう」
「医者だろ!」
「針を見ると怖くなる」
敵兵たちが笑う。
だが老師ホウは、震える手で注射器を投げた。
針は敵兵の戦闘服、その首元にあるわずか二ミリの隙間へ刺さる。
一人目が倒れる。
続けて二本。
三本。
十本。
注射器が放たれるたび、敵兵が眠りに落ちていく。
最後の一人は銃を向けたまま動けずにいた。
「老人を甘く見るな!」
敵兵が引き金を引こうとする。
老師ホウは震えながら、最後の注射器を投げた。
針は銃の発射装置へ刺さり、内部回路を破壊する。
「怖かったわい」
老師ホウは胸をなで下ろした。
「怖いのは相手のほうだ!」
残る敵兵は貨物室へ侵入していた。
そこにいたのは、マリアと大量の食材。
敵兵たちはマリアを人質に取ろうとした。
それが最大の間違いだった。
もっとも、マリア自身が戦う必要はなかった。
貨物室へ踏み込んだ瞬間、敵兵全員の戦闘服が停止。
ヘルメットの画面に、赤い文字が表示された。
《マリア・ユニバーサルグループ製品》
《利用規約違反を検出》
《会長への敵対行為により、製品保証を永久停止します》
敵兵たちは床へ倒れた。
マリアが企業端末を操作しただけだ。
「敵の装備までマリアの会社の商品なのか?」
レオが尋ねる。
「昔、安売りしていたからね」
「雑貨屋は戦闘服まで売るのか」
「最近は品ぞろえが大事なんだよ」
レオは今回も疑わなかった。
◇
侵入から四分十二秒。
百五十人の強襲部隊は、全員が無力化された。
こちらの損害は、消火装置から噴き出した泡と、割れた配管一本。
負傷者は一人。
最初の射撃で転び、尻を打ったレオだけだった。
ガンツは格納庫の中央で、ジン爺さんと向かい合っていた。
部下は全滅。
両腕の光線砲も、グラン爺さんに破壊されている。
「貴様……何者だ?」
ガンツが呻く。
ジン爺さんは杖を拾った。
「ただの引退間近の年寄りじゃよ」
「ただの老人が、俺の部下を百人以上倒せるか!」
「わし一人ではない。皆で分けたからのう」
分ければいいという問題ではない。
ガンツは腰から短剣を抜いた。
「まだ終わっていない!」
ジン爺さんへ突進する。
だが、その進路上にレオがいた。
「どけ、小僧!」
ガンツがレオを突き飛ばそうと腕を伸ばす。
その瞬間、レオは床に落ちていた消火剤で足を滑らせた。
「うわっ!」
レオの体が偶然沈む。
ガンツの腕が頭上を通過。
レオは転びながら、反射的に両手を前へ出した。
その手がガンツの足へ絡む。
巨体が宙を舞った。
顔面から床へ激突。
ガンツは気を失った。
艦内が静まり返った。
レオは床に座り、自分の両手を見た。
「今のは……」
「ただ転んだだけだ」
俺は即座に言った。
「いやいや、だってさ」
レオはゆっくりと立ち上がる。
「敵の勢いを利用した、見事な投げ技だっただろ?」
「消火剤で滑っただけだ!」
「結果として、敵の隊長を俺が倒した」
「お前を倒したのも床だ!」
ジン爺さんが笑顔で拍手した。
「さすが若様。見事な技ですな」
「ジン! 甘やかすな!」
「若者には自信が必要ですからのう」
こいつら全員、俺と同じことをしている。
レオは倒れたガンツを見下ろし、腕を組んだ。
「俺の作戦どおりだったな」
「どのあたりがだ?」
「最初にわざと射撃を外し、蒸気で敵の視界を奪った」
「本気で外した!」
「次に老人たちを弱く見せ、敵を油断させた」
「お前も弱いと思っていただろ!」
「最後は俺が敵の隊長を直接倒し、戦いを終わらせた」
「転んだだけだ!」
レオは満足そうにうなずいた。
「船長として、また一つ成長したな」
こいつの自信だけは、ワープレベル七で成長している。
◇
捕虜となったガンツは、艦橋へ連行された。
老師ホウの薬で意識を取り戻したものの、全身を拘束されている。
レオは船長席に座り、尋問を始めた。
「誰の命令だ?」
「言うと思うか?」
「言わないなら、マリアおばちゃんのニンジン料理を食べさせる」
マリアがレオの頭をおたまで叩いた。
「食べ物を拷問に使うんじゃないよ」
「俺には十分効いたぞ」
「次はピーマンも入れるよ」
「すみませんでした」
ガンツは、そのやり取りを呆然と見ていた。
自分たちが、こんな船長の船に全滅させられたという現実を受け入れられないらしい。
俺にも、その気持ちは分かる。
「ドラクだろう?」
俺が尋ねる。
ガンツの目がわずかに動いた。
当たりだ。
「目的は《アルバトロス号》の奪取。違うか?」
沈黙。
「船体を傷つけず、超高速エンジンの秘密を手に入れる。そのために白兵戦部隊を送り込んだ」
ガンツの額に汗が浮かぶ。
「お前たちは、次にどこへ集まる?」
「……」
レオが立ち上がった。
「親父。尋問は俺に任せろ」
「何をする気だ?」
レオはガンツの前へしゃがみ込んだ。
「おい、ガンツ」
「何だ」
「ドラクに伝えろ」
「……何をだ?」
「俺が直接会いに行くとな」
俺は耳を疑った。
「待て。居場所を聞き出す前に解放するつもりか?」
「いやいや、だってさ。敵に案内してもらえばいいだろ?」
馬鹿か。
いや、馬鹿だった。
ガンツは低く笑った。
「いいだろう。そこまで死にたいなら教えてやる」
裏切り者たちの集結地点。
グラベル・ベルト第九宙域に浮かぶ、大型宇宙要塞。
旧《黒き彗星》海賊団が所有していた補給拠点の一つ。
今はドラクが奪い、主力艦隊を集めているらしい。
「艦艇五十隻。戦闘員四千。要塞砲百二十門」
ガンツが笑う。
「お前のような小僧が、老朽艦一隻で近づける場所ではない」
レオも笑った。
「五十隻か」
「怖くなったか?」
「三百隻より少ないな」
ガンツの笑顔が消えた。
当然だ。
本人は何もしていないが、三百隻の機械艦隊が二・八秒で全滅したことだけは事実である。
「ドラクへ伝えろ」
レオはガンツの拘束を外させた。
「奪った船と財産を返し、全員で俺に謝れ。今なら、親父の葬式で酒を盗んだことも許してやる」
そこが一番重要なのか。
「断れば?」
「俺が取り返しに行く」
ガンツは立ち上がり、レオを睨んだ。
「後悔するぞ」
「それは俺の台詞だ」
珍しく格好がついた。
その直後、レオの足が消火剤で再び滑った。
「うわっ!」
船長席へ頭から突っ込む。
ガンツは無言になった。
「今のは演技だ」
「誰を油断させる演技だ!」
◇
ガンツを小型艇で解放したあと、《アルバトロス号》は宇宙要塞へ針路を取った。
ドラクはそこにいる。
父親が死んだ途端に裏切り、艦隊も財産も奪った男。
レオを無能と決めつけ、何も残さず追い出した元副船長。
いずれ対峙しなければならない相手だった。
だが、予定より早い。
《アルバトロス号》の真の戦闘機能は、まだ完全には解放されていない。
ドッキングステーションとの合体も必要だ。
俺は航路を確認しながら、レオへ尋ねた。
「本当に行くつもりか?」
「もちろんだ」
「敵は五十隻。要塞砲もある」
「こちらには、歴戦の爺さんが五人いる」
「さっきまでポンコツ老人だと思っていただろ」
「人を見る目も、船長に必要な才能だ」
「今知ったくせに!」
レオは艦橋を見回した。
砲撃席で新聞を読むグラン爺さん。
刀を枕に眠るジン爺さん。
多次元音響解析装置を補聴器だと言い張るボル爺さん。
通信卓で盆栽の世話をするメッケル爺さん。
医務室で注射器を見て震える老師ホウ。
「まあ、少しくらいは役に立つだろう」
五人の老人が、同時に顔を上げた。
俺はレオへ忠告した。
「寝ている間に宇宙へ放り出されても知らんぞ」
「そのときは親父が助けてくれ」
「俺はホログラムだ!」
「相変わらず役に立たないな」
「一番役に立っていない奴が言うな!」
《アルバトロス号》は加速した。
目指すは、裏切り者たちが待つ宇宙要塞。
だが俺たちは知らなかった。
解放したガンツが、ドラクへ正確な報告をしなかったことを。
《アルバトロス号》の老人たちに自分の精鋭部隊が全滅させられたなど、恥ずかしくて言えなかったのだ。
ガンツが伝えたのは、たった一言。
《レオ・レイヴンは、卑怯な罠を使った》
その結果。
ドラクと裏切り者たちは、俺たちの戦力を完全に見誤ったままだった。
奴らはボロボロの駆逐艦を見て笑うだろう。
ヨボヨボの老人たちを見て侮るだろう。
レオを見て、ポンコツな二代目だと見下すだろう。
最後の評価だけは、正しい。
だが、それ以外はすべて間違っている。
そして三日後。
《アルバトロス号》は、ついに宇宙要塞の正面へ姿を現した。
奪われた艦隊五十隻を前に、レオは船長席から立ち上がる。
「親父。見ていろ」
「何をだ?」
「伝説の始まりを」
「嫌な予感しかしない」
「まずは、正々堂々と名乗りを上げる」
「待て。余計なことを――」
レオは全周波数で通信を開いた。
「裏切り者ども、聞け! 銀河最強の海賊船長、レオ・レイヴンが来たぞ!」
宇宙要塞から、何百人もの笑い声が返ってきた。
レオは胸を張った。
「どうやら、俺の登場を歓迎しているようだな」
「完全に馬鹿にされている!」
第5話へ続く




