9話
E国首脳邸の広間で開催された晩餐会。
複数の長テーブルには、地球各国からの料理の品々が並んでいた。各国議員の席には水の入ったグラスと、パンと少量の果物が載った小皿が置いてあった。
酒井議員は何種類か料理を取り、席に着いた。
『お願いします、酒井議員。絶対に絶対に果物だけは口にしないでください!まだ解析が完了しそうにありません。私達がクビになっても構いません。果物だけは、食べないでください!!』
小皿を見ると、土下座しながらひたすらにE国産果物を口にしないでくれと懇願してきた研究員たちの姿を思い出す。
(だが、E国産の食べ物に何も手を付けないのは、失礼にあたるのではないか?)
(……パンを頂こう。焼いてあるし、生ものよりは安全だろうから)
酒井議員は他国の肉料理を完食してからE国産のパンを手に取った。周囲の議員は料理を口にしながら、彼に注目していた。パンを一口サイズにちぎると、ほわりと甘い酒精の香りが漂った。
E国上層部は、地球各国の料理を口にしながら微笑んでいた。だが。
(素材本来の、味というのか……。少し穏やかすぎる気もするな。まるで離乳食のようだ)
その後キムチチゲや火鍋に口を付けた途端に、その印象を一気に崩された。
「辛い……!?だが、手が止まらないっ」
「旨味と辛味がガツンと来ますね」
E国上層部は、香辛料を効かせた料理が好みだったようだ。何人かの議員がグリーンカレーやバクテーなどを勧めに、通訳と共に彼らの席へ向かって行った。
酒井議員は、周囲を安心させるような表情でパンを食べ進めていた。周囲の議員たちも彼に倣って、にこやかに食べていたが……。だんだんと噛むスピードが落ちていく。
半分以上食べたところで、彼らの表情が突然抜け落ちた。そして震えながらナプキンを口に当てて席を立ちだした。歩く時に、膝がガクガク震えている議員もいる。
一部の酒に強い国々の議員はパンを完食しても体調を崩すこと無く、ほんのり赤らんだ顔をして困惑していた。気が緩んだのか、その中に果物を口にしてしまった議員がいた……。
口に含んだ瞬間、顔色が蒼白になる。すぐさま吐き出して、その場に倒れ伏した。周囲の叫び声を聞いて、別室に待機していた各国の医療チームが駆けつけた。彼らは何があったのか通訳に尋ねた後、すぐさま倒れた議員を横向きにして、口内洗浄にとりかかった。その他の医療チームはパンを食べた議員達の処置に取り掛かった。
「どうして倒れるような食品を晩餐会に出すんですか!?」
「この果物は、我が国では1/3の濃度に薄めて幼児用ジュースとして飲ませています。1歳から飲めます。
そのままではすぐにお腹がいっぱいになって、ごはんが進まなくなってしまうので…。便秘の幼児に数切れほど食べさせることはありますが……」
「成人でも食欲のない朝、朝食代わりに食べる人もいますよ」
E国上層部は無事だった議員たちに詰め寄られて困惑していた。
「パンでも体調不良になった方もいるんですよ!?」
「我が国ではあのパンは、離乳食にも使われます。歯が生え始めの子にもパンがゆとしてあげています」
結局、晩餐会はその場でお開きとなった。
体調を崩した議員たちは医療チームによる応急処置後、すぐに自国の病院へと搬送された。パンを食べた議員は数日で体調が戻ったものの、果物を口にした議員は病室で3週間もの間、2日酔いのような症状に苦しめられた。
E国民の間にも衝撃は走っていた。
ーー地球人の体質は、我が国の赤子並みである、とーー




