10話
E国が首都圏へ侵攻してきた、翌朝。
バーコード銃で、額にバーコードを刻まれた葵は、女性兵士に連れられて建物の中に入った。
「個人番号とバーコードの識別表示をリンクさせる。この画面に顔を近づけろ」
端末に顔を近づけると、顔認証が完了した。
「株式会社〇〇 国際業務部勤務、タチバナ アオイ?」
「はい、そうです」
その後兵士が何かを入力していた。
(なんでそこまで知ってるんだろう。E国にハッキングされてたのかな)
「あの、質問なんですが。バーコードの近くが肌荒れとか怪我したら、薬とか塗っても良いんですか?治るまでは、また新しい場所に刻まなきゃいけませんか?」
「その時は妊婦や幼児用の腕輪で対応する。腕輪をつけてから手当てすれば、バーコードが包帯などで隠れていても問題ない」
「治ったら外しても良いんですよね?」
「バーコードの不具合でロボットに誤射されたくなければ、腕輪は必ず兵士の前で外して渡せ。技術者がよく言っていた。我々兵士もバーコードの不具合が無いか確認する事は可能だ」
兵士は近くにいた男性の質問にも回答していた。彼は目を細めたまま、隣の人に支えられている。
「すみません、バーコードがあればメガネをかけていても良いですか?段差が見えづらくて……」
「ああ、構わない」
「良かった…!」
(もうここは、生きるためにはバーコードが必要な場所になってしまった…)
「そのバーコードには、位置情報の把握効果もある。後々ロボットがE国民用端末を渡しに行くから、リンクが終わった者から解散しろ」
集まっていた人々は少しずつ解散していった。
(まだこれだけの人が生きていた…。嬉しい)
(家に帰って、片付けしなくちゃ。1人になって心を落ち着けたい)
誰かがスマホでニュースを聞いているようだ。音声が葵の耳に入った。
『我々は今朝の時点で東京都・埼玉県・神奈川県を占領し、千葉県と群馬県へ侵攻中だ』
『我々の戦闘ロボットは、145センチ以下の者は子どもとして、攻撃対象外に設定している。光り物を持つ者は145センチを越えていれば、年齢に関係なく排除対象となる。ロボットの銃撃を防ぐには、兵士からバーコードを刻印されることのみ。前線の兵士にはバーコード銃の使用許可を出している。降伏の意思があるバーコード未登録者は、兵士の到着までは外していて欲しい』
「え!?この司令官のマント……。裏地に大臣があげた反物を使ってる!」
司令官のマントの外側は何かの皮で出来ているが、内側には手土産の反物が使われていた。
「ふざけんな!民間人殺しまくっといて、今更かよ!?」
『ホルモン値ノ急上昇ヲ確認。暴力ハ鎮静剤デ制圧シマス』
憤慨して大声を上げた壮年の男性の背後に、注射器を持った2メートルくらいのロボットが降り立った。
プスリ
その男性は、地面に倒れ伏し、周囲から悲鳴が上がった。
「ひっ……!」
葵は思わず後ずさるが、恐怖に足がもつれて転倒してしまった。さっきまで怒りを露わにしていた男性が目を開けたまま涎を垂らし、糸が切れた操り人形のように倒れている。周囲の群衆は蜘蛛の子を散らすように距離を取り、現場には異様な静けさと、ロボットの駆動音だけが響いていた。
『鎮静完了。対象ノ生命活動、維持モード』
無機質な機械音声が響く。死んではいない――
女性兵士は、その琥珀色の瞳をすがめて男性を一瞥すると、ロボットに回収させた。ロボットは男性を中に収納するとどこかへ飛び去った。
(治安維持のためにも1/5に希釈してからE国民の半量を使用しろと命令されていたが、現地人の脆さは予想以上だ。これでは、E国の薬品は現地人には利用不可だと共有しなければ……)
「みんな、分かったな?治安を悪化させるような真似はダメ。これは我が国でも日常的に行われている。凶悪犯罪を起こさない、実績のあるものだ」
彼女の背中には〈E123J〉の文字が縫い付けられていた。




