5話
日没前に葵は小学校の体育館に入ることができた。髪の毛は家を出る前までタオルドライをしていたが、まだ少し湿っているため、お団子にしていた。体育館内には、20人ほど避難している人がいた。葵は窓から遠い、やや入り口寄りの真ん中辺りで眠る事にした。薄明かりの中、タオルケットを膝に掛けて、モバイルバッテリー付きの手回し充電器を動かしていると、避難している人々の話し声が聞こえてきた。
「お隣の奥さん、ニュースを見てから心配で通学路前で立っていたら、2年生の娘ちゃんが兵士に連れて行かれるところを見ちゃったらしいわよ。怖いわねぇ」
「えっ、追いかけなかったの?」
「ロボットに乗せられて、飛んで行っちゃったらしいのよ」
「やだー、怖すぎる」
ラジオを聞こうと操作している人もいた。かすかにノイズ音が聞こえてくる。
「そろそろ灯りを全て消さないと、カーテンを全て閉じていても目立つんじゃないか?夜もロボットが来たら逃げられないぞ」
「消しましょうっ」
「そうね、怖すぎるもの」
70代くらいの人の声を聞いて、数人が立ち上がろうとした、その瞬間。
ガシャーン!
窓ガラスが割れて、小型のロボットが複数入ってきた。子どもの両手に乗るくらいの大きさで、素早く、5機くらいが等間隔に固まって、ハチのように動いている。
明かり目掛けて、容赦無く乱射してきた。
悲鳴と、逃げ惑う人々。上から落ちてくる照明の破片。
葵はトートバッグを頭に被って、タオルケットをその上から被り、その場に伏せることしか出来なかった。
段々と悲鳴が小さくなっていく。うめき声、すすり泣く声がする。
「おいっ!こっちだ、ボケロボットどもが!」
男性の怒声と走る音、空気を切る音が聞こえたかと思うと、辺りは静かになった。
「おい、お嬢ちゃん。大丈夫か?怪我は無さそうだが」
頬をペチペチ叩かれた葵が目を覚ますと、30代くらいの野性味あふれた外見の男性が目の前にいた。
「ロボットは……?」
「懐中電灯を外に投げたら出てったよ」
(良かった…)
「お嬢ちゃん、ちゃんと頭を守ってたな。偉いぞ!中学生くらいか?」
「……すみません、成人してます」
葵が蚊の鳴くような声で答えると、気まずげな表情になった。
「そうか、すまんかった」
「いえ、こんな服装ですし。メイクしてないとよく間違われるので」
周囲を見回すと、包帯を頭や体に巻いた人が何人かいた。先程より人は少ない。
「あの、さっきまでいた方々は?」
「切り傷が結構深くてな。応急処置はしたものの、保健室のベッドに寝かせてるよ。ベッドはもう埋まってるから、軽傷者や無傷の人間はここで待機だ」
「お兄さんは、医療関係者の方なんですか?」
「俺?今は消防士をしてるよ。応急処置は昔自衛隊にいた時に覚えたがな」
(お兄さんがいてくれて良かった。避難所の人達も安心できるよね)
「外はもう暗い。街灯も壊されてる。朝になるまで、ここにいた方がいい」
「分かりました。声をかけてくれてありがとうございます」
「おお。……日が出たら、俺は他の無傷な人と協力して怪我人達を病院に連れて行く。だから朝から別行動になる。無事でいろよ」
「はい。精一杯やります」
(今日はもう眠ってしまおう。お兄さんがいるから安心だし)




