4話
1年前。日本とハワイの間に突如現れた、E国。面積はアルジェリアほどで、上空から見るとひょうたんに似た形をしていた。
最初の数ヶ月は、各国は様子をうかがうのみだった。E国の外交官は複数の言語を使って交流を試みたところ、かつて食糧や穀物を輸入していた隣国の1つと、日本語の発音が似通っていることに気づいた。
新たな国と、友好を築けるかもしれない――。
外交を任された大臣は、少年時代に冒険小説を好んでいた。期待を胸に膨らませながら、反物や伝統工芸品を手土産に、E国へ向かった。
それが全ての始まりだった。
カナがロボットに連れて行かれてから、葵はしばらくその場でへたり込んでいた。
(動かなきゃ、移動しなくちゃ…)
耳を澄ませながら周囲を警戒して店の外に出た。着替えたばかりのジャージの上は、天井からの粉塵でほぼ白く染まっていた。
(家まではあと3駅だし、頑張って歩こう。夕飯は残業用に持ってきてたげんこつおにぎりと、お茶の残りで済ませるとして。何か保存食が欲しい)
葵は家の方角に向かって早歩きしながらも、考える事を止められずにいた。
それから、約1時間後。
スーパーで照明の破片が散乱する店内から、鯖缶5個、リンゴ3個、ペットボトル飲料3本とカセットボンベ、割り箸を数本トートバッグに入れて、お金をレジの近くに置いてきた葵が自宅の前に着くと。
窓ガラスが全て割れていた。近所の家やマンションも同様だった。
ジャージの粉塵をなるべく叩き落としてから家に入る。ガラスが怖くてあえてスニーカーは履いたまま、葵は家の中を確認していった。どうやら威嚇射撃をされただけのようだ。荒らされた跡は無かった。
(壁や床に銃弾がめり込んでる……。日没までに全部は片付けられそうにない)
「水は、出る。ガスと電気は怖いから触らずにいよう」
葵は暗くなる前に、粉塵のついた服や体を水でどうにか洗った。季節が冬ではないことに、内心で感謝する。風呂の窓は割れていたが、カーテンのおかげか、ガラスは風呂釜にだけ落ちていた。念のため風呂釜を掃除したあと、葵はカーテンをガムテープで固定した。
葵や家族の部屋は、窓の近くにベッドが置かれていたためにガラス片が布団やシーツに散乱し、眠れそうになかった。学生時代の体操服とジャージに着替えた彼女は、困り果てた末にスマホを取り出して家族に自宅の被害状況を送信した。
(向こうで難民申請、受け入れてもらえたらいいんだけどな……)
(今夜はクローゼットに入れてたタオルケットを持って、災害時避難先の小学校で眠ろう)
葵は冷蔵庫に残っていたトマト1個とヨーグルトを取り出し、持ち帰ったげんこつおにぎりといっしょに食べた。
(冷蔵庫はまだ冷えてるけど、いつ止まるかわからない。なるべく早く食べきった方がいいのかな……)
それから歯磨きをして、避難準備を始めた。
「明日片付けに戻るんだし、飲み物とタオルケットとスマホと鍵くらいでいいかな。それまでに必要無いものは全部家に置いておこう。日没までに行かなきゃ」
不安を紛らわせるために何かしていたい。眠れるまで手を動かそうと、モバイルバッテリー付き手回し充電器も念の為トートバッグに入れて、彼女は走り出した。




