外の世界で見た ある夢
ある晩
鬼灯の様な明かりが幾つも灯る中で 子を産み落とす夢を見た。
辺り一面葛が生い茂る。
痛みに耐え兼ねて葛を握りつけ 引っこ抜こうとする。
地を這っている葛が
ひっくり返り一斉に白い葉裏を見せる。突き出てる腹はへこまない。
広げられた両足は震えてる。どんなに力を込めても腹に軸が定まらない。
頸動脈だけが込めた力を受け止める。膨れ上がる血管が脈を強く打つ。
上半身を起しながら腹を見る。
痛みは蜷局を巻くように腹中心へ向かう。
広げられた両足の間から太い円形のものが突き出ているのが見えた。
草色をしたそれは思う以上に太い。
何だ あれは
腹ん中へ向かって突き刺さっている。見れば見るほど奇妙だ。起こした半身の力が抜ける。
「ああああ」
喉の奥に溜まった声が散る。あまりの苦しみに頭を幾度も振りつける。
出ねえ
出せねえ
この赤ん坊は 生まれてこない
生まれてくる気がしねえ
この赤ん坊は
生まれたがってない
外へ
出ねえでやがる
出せないと急く自分と
出る気がないと赤子を責める自分が 渦巻く痛みと結託する。
腹の中に在るものが 正しい場所に位置していない。
感情さえも正しいものが場所を失っている。
産み落とすか
腹ん中のものと腹ん外のもの
どっちも生から引きずり落とされるのか
共倒れ
頭の中に浮かび上がる。
だからと言って
助けてくれ
どうにかしてくれ
なんて
天に助けなんて求めるつもりはない。こびへつらうつもりもない。
再び上半身を起す。
刺さっている筒状のものが 今度は良く見えた。
竹筒だ。腹に突き刺さっているのは間違いなく竹筒だった。
腹に込められる力と共に 緑色したそれはくるくると回ってみせた。
この肉体に
何が起きているのか
子を産んでいるのではなかったのか
あり得ないような不安を抱いた瞬間
ずるりと 両足の間から生暖かいものが流れ始めた。
ずるりずるりと
滑り落ちてくるのを感じる。
竹筒の先から赤黒い液体が滴り始める。
流れ出る物の中に固形物が幾つか目につく。
私は恐る恐るもそれを見ていた。
嘘の様に腹の痛みは引いていた。
竹筒はかたかたと小さく揺れていた。
そして
私の見ている前で
私の身体から
大きな塊が出てきた。
その塊は私から 押し出されたんじゃなかった。
四つん這いで
私の腹ん中から 竹筒から
自ら這い出てきた。
竹筒の外へ出ると
それは
身体を一つ振るった。勢いよく四方にどす黒い液体が飛んだ。
黄と乳白と墨色がねじれたものが だらんと地べたに落ちている。
そして それは 私を見た。
それは
自分を産み落とした お母 を見た。
真っ赤に染まった白い生き物だった。
尻尾は狐 身体は細長い獺のようだった。
私は両足を広げたまま 竹筒を突き刺したまま その場を動けなった。
動けない私を それは じっと見つめた。
これが
赤ん坊か?
疑問を口に出すことは無かった。動かない私を後目に それは
器用に竹筒を口に加えると私から抜き取った。
そして
黄と乳白色と墨色の管のものを噛み始めた。
螺旋状の管はどうやら それと私の腹の中を繋げているようだった。
この化け物みたいなのは
一体
なんなんだ
私の中に得体のしれない恐怖が上がる。
その生き物は一心不乱に螺旋状のものを噛んでいる。そして嚙み切ると
竹筒を放り投げた。
とんでもねえもんを 出しちまった
認識が自覚に突き刺さる。
私とそれは完全に分離した。
睨み合いが続く。
私は今這い出た 赤ん坊 と対面を果たしている。
目を逸らしちゃならない
私の中で何かが忠告する。その忠告を守るように私は一瞬たりとも
目を逸らさなかった。瞬き一つ完全には行わない。
赤ん坊も同じだ。
どれくらい睨み合いが続いたか。
目の前に居るそれのしっぽが左へと揺れた。
瞬間 私はその動きを追ってしまった。
しまった
そう思った時は遅かった。腹から出てきたそれは 落ちている竹筒を口にくわえ込むと
私の口の中へ 突き刺した。
叫びにならない声があがる。
喉の奥まで突き刺さる。開いていた両足は地を力の限り ばたばたと叩く。
両手は冷たい竹筒を抜こう 抜こうと 惨めにも爪をたてる。
ぐっと
更に奥へと押し込まれる。
赤ん坊は 尾っぽを右へ左へと優雅に揺らし 竹筒の中を覗き込んだ。
そして
頭を一度出し 天を見上げると
勢いよく竹筒の中へ潜り込んだ。
今腹ん中から出た
そいつは
今
私の腹ん中に 帰っていった。
鬼灯の明かりは揺らいだ。
葛は一斉に笑った。




