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暗闇恐怖症

そうこうしている内に日は沈み、一寸先すら目視出来ないほどの暗闇が一面に広がっていた。《暗視》持ちの私からすればこれといって訳ないが、私の姿すら視認できずにいるらしいケイトは不安を口にせずとも明らかに動揺していた。


声を掛けてやるにしてもさっきのことがあって気まずいし、別に助けを求められている訳でもない。それに長丁場な戦闘で気を張っていたから頭がちょっと重いのもあってこのまま眠ってしまいたいくらいだが……



【ひいぃ……真っ暗だぁ……】

【ちゃんと居ますよね?居ますよね?】

【怖いです……滅茶苦茶怖いですう……】



い や 寝 れ る か こ ん な ん 。


私が《アインベル》に進化したときからこんな感じで人の本心を読み取れるようになったのだが、その内容は大体マイナスなものばかりで聞かされているこっちは堪ったものではない。


おまけに口に出している訳でもないから咎め辛いのもあって、現状寝言みたいな呪詛に苦しめられている感じだ。聞きたくて聞いてるんじゃないからほんと勘弁してくれよ。



「はあ……。」

「っっぅうひい!!!」


こんな風にため息をついただけで驚くほど、どうやら彼も限界が近いようである。お化けか虫でも見たかのような驚き方だな全く。そんなんでよく冒険者として今までやってこれたなと逆に感心するわ。


「……驚きすぎ。私だよ。」

「なんだレンさんかぁぁぁぁぁ……」


隣にちゃんと居ることがわかって一安心したらしい彼は、張っていた気持ちが解れたのかその場にドサッと寝転ぶ。なんだとはなんだ、と言いたくなるのを抑えつつ彼が平常心を取り戻すのに付き合ってやった。


「なんだって……他に居たら怖いでしょうが。」

「あー!あー!そんなフラグ建てないで!それフラグっていうの知ってるから!」

「フラグって……。」


何処で覚えたんだか、前世で聞き覚えのある言葉にこちらも思わずビクッとなる。この世界にもフラグなんて言葉があるんだねぇと感慨深くなっていたところ、気配感知が僅かに反応した。よく凝らさないと拾えない程薄いが、確実に後ろから何かが近づいてきているようだ。



私はすぐさま振り返って[デッドレコード]さんを当てる。


《フェイススパイダー》ランクE

〈背に人の顔のような模様が描かれた蜘蛛であり、天敵に襲われた際にみせびからす事で、一瞬怯ませる効果があるとされるが大抵は意味をなさず哀れにも食される。


守りである擬態を捨てて糸を巧みに操る型と、武器である糸を捨てて擬態に全てを懸ける型に分かれており、多岐に渡る進化先を持っている。〉



《フェイススパイダー》は背中に民族的な仮面が貼り付いているのが特徴の、一メートルを超える大蜘蛛であった。色覚が働かない為色までは分からないものの、糸を伸ばしてこちらに飛び掛かろうとしているようだ。



『ジr』


その背中(こちらから見れば正面)に向けて指先で弾くように放った《ダークスピア》が命中し、蜘蛛がごくごく小さな断末魔を上げて私達の間を通り抜けていく。


「ひいいいいっ!?今なんか、今なんか鳴りませんでした!?」


「別に鳴ってない。」


「絶対鳴りましたってえええええ!やだ怖いいいいいい!」


相変わらず煩い奴だなこいつは……これまでガルゼン達もこの性格にうんざりさせられただろうと容易に想像できる。冒険者としてはあまりにも小心者すぎるし、ハッキリ言って不向きである。


実力は確かなんだがその前準備に時間が見合ってないから効率的だとは言い難く、こんな性格なせいで暗いところの依頼はとても任せられない。今回二人で行かせた理由に彼の御守というのもあったんだろうか。明らか人間性に難ありで、もう手に負えなくなったから後は宜しくって完全に見限られてないか?


「ぴっ!!?」

「落ち着きなよ。」


左手で彼の肩をぽんと叩き、なんとかこちら側へと意識を戻させる。相変わらず煩い奴ではあるが、手の主が私であることを認識したのか、不必要に喚くことはしなかった。


なんとか話せる状態にまで戻って来てくれたのを確認して、座っている彼の右側に自らのポジションを変えた。


「前に何か遭ったなら聞くよ。」


彼の尋常では無い怯えようからして、過去に体験した何かによってトラウマを植え付けられたと見た。今私が出来ることは、彼の胸の内を吐き出させてやることだけだ。

そこから頼まれ事が生まれた時は私の方でその是非を決めればいいだけだし、要するに聞くだけタダってやつだ。


「やっぱり見透かされますか……。」

「そりゃ明らかに様子がおかしかったからね。」


当の本人は驚いていたが、あの状況で何もない方がおかしな話であり、わざとやってるんだとしたら一発ぶん殴ったとしても誰も咎めはしないだろう。


でもそうなる事は多分ない、彼の言動から過去に何かあったことは確定だ。



「そんな大した事ではないのですが……小さい頃に住んでいた街に来た魔法使いとの一件のせいなんです。」



ケイトは観念したような項垂れた状態で話始める。自分で大した事はないと切り出す辺り、聞かれれば笑われてしまうと不安に感じているようでもある。



「冒険者として活動する魔法使いが開くショーのようなものを見せられた時に、なんらかのタイミングで《シャドウ》という視界を真っ暗にする魔法を受けてしまったんです。」


なるほど、小さいときに盲目の魔法を受けてしまったことで暗闇がダメになってしまったということか。しかしその魔法使いとやら、子供に対してかなり惨い事をするな……。


「それから、灯りの無い真っ暗闇が駄目になってしまって……両親を含めた皆はショーに釘付けで中々助けてくれなくて……。」


まあそりゃトラウマにもなるわな。目が見えない状況で誰も助けてくれないとなれば暗闇を怖がってしまっても無理はない。でもそれだと瞼を閉じるのも億劫になるんじゃないかなとちょっと疑問に思った。


「暗いのが駄目になってからは、いつもトーチランタンの火を灯してから寝るようにしてるんです。ここまで依頼が長引くとも思ってなくて持ってきてないんですけど……。」


トーチランタン……要するに手元用の灯りか。確かに暗いのが苦手な子が寝付くまで枕元のライトを着けておくなんて話はあるけど、まさしくそれだ。だが問題はそこじゃなく、それよりも灯りがないと一歩も動けないことなのだ。


「ごめんなさい。こんな理由でずっとガルゼンさん達にも迷惑掛けてしまっていて……。」

「……。」


ガルゼンのパーティで彼が今一つ活躍出来ていない理由、それは実力等では無く暗闇に対する過剰なまでのトラウマだった。ビクビクしているだけならまだしも先程のような叫び声は煩いだけでは止まらずモンスターを呼び寄せてしまうこともあり得る。


寧ろそんな足手まとい同然な彼をパーティメンバーに入れ続けきたのは彼の実力や才能に目を見張るものがあるからだと考える方が自然だった。


自分の背中を任せられる冒険者になってくれるとガルゼンもマリーナさんも信じて待ち続けているのだろう。


「ずっと待たせてしまっていることはわかっているんです……。でもそれは自分の実力不足だって、頑張りが足りないって僕は……。」


でも一人じゃ中々踏み切れないところもあったのだろう。一流のパーティに居る手前、誰かに頼ることも出来なかっただろうし、あのガルゼンさんに「暗闇が怖い」とは中々言えないだろうな。暗い部屋にぶちこまれて強引に慣れろと脳筋理論を押し付けられる姿が容易に想像できる。


「打ち明けてくれてありがと。慣れろとしか言えないけど、肩くらいなら貸してやるからさ。」


「え……?」


私はそう返し、ケイトの隣についてポンポンと左手で肩を叩いてやる。今の私じゃ彼の隣に寄り添う事しかできないけれど、彼は【暗闇が怖い】のと同時に【誰も助けてくれない】事にトラウマを感じている。前者はどうにもならないけれど、後者は声掛けやボディタッチである程度緩和できるはずだ。


【嗤われるのかと思った……。】


私の反応の何処がおかしかったのか、ぽかんと口を開けて呆気にとられているケイト。トラウマや恐怖症なんてごまんとあるし、多感な子供時代の恐怖体験は大人になっても思い出す人がいるくらいだから何にもおかしい話じゃない。



「……じゃあ肩貸してください。」

「おっけ、ゆっくり休みな。」


ケイトはそう言うと、頭を私の左肩に乗せてゆっくりと力を抜いて身体を預けてきた。ステータスの影響か、そこまで重さは感じない。私は彼が寝付くまでの間、街に置いてきたエニーやフィル達がどうしているのかを考えていた。

ブクマ100ありがとうございます!(。≧ω≦。)

次で100話と考えると相当時間と話数がかかった気もしますが、読んでくれる皆様には感謝しかないですありがとうございますぅ!!

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